センスのよいプロジェクトマネジャーの10の特徴~第5回(第4の特徴)「ポジティブである」
日本でプロジェクトマネジメントが注目されだしたころ、マネジメントと管理はどう違うのかという議論があった。今、どうなっているかというと、管理の色合いが強まってきて、マネジメントの色合いが褪せている。
この議論の不幸なのは、マネジメントか管理かという二項対立で考えてしまうことである。本来、管理というのはマネジメントの一つの活動であり、不可欠な活動である。二項対立で考えた瞬間に、管理があればマネジメントはいらないという話になって、マネジメントの活動はプロジェクトマネジャー個人のレベルの活動になってしまっている。
そして、プロジェクトマネジメントは多くの企業が「プロジェクト管理」と読んでいるように、文字通り、管理活動になっている企業が多い。そして、それまでに行っていた品質管理の活動に、リスクマネジメントというスパイスをかけたものになっている。
そして、プロジェクトマネジャーは、ひたすら、リスクマネジメントと品質マネジメントをやっている。
◆センスのよいプロジェクトマネジャーは
そんな中で、本当にセンスのよいプロジェクトマネジャーは、「マネジメント」を行っている。たとえば、PMBOKでも第5版から知識エリアになり、改めてその重要性が訴求されているステークホルダーマネジメント、チームマネジメント、要求マネジメントといったマネジメントを行っていることが多い。
なぜ、違いが出てくるのか。第2、第3の特徴でも述べたように、プロジェクトマネジャーのセンスの一つは、できることの見極めにある。どこまでステークホルダの要求にこたえ、どこまで安全をとるか、このトレードオフの適切さがセンスだ。
マネジメントが管理化している一つの原因は、「組織的プロジェクトマネジメント」なるものにある。目的は組織として失敗しないようにプロジェクトを進めていくことにあるのだが、徹底的にリスクを回避することに重点を置いている企業が多い。要するに、失敗しないように、リスクを徹底的に回避する、対応の見通しがつかないことはやらないという、リスクマネジメントだけでいえば、教科書的なやり方を徹底している。
ところが、こういうやり方をすると、組織と顧客や市場との板挟みになることが多い。顧客がやってくれということ、マーケッタの要求する機能に対して、組織は反対する。ここで普通のプロジェクトマネジャーは組織の期待を優先し、顧客や市場というステークホルダーの期待を二の次にする。ところがセンスのいいプロジェクトマネジャーは、うまく、両立してしまう。
◆センスの秘密はポジティブにあり
センスのいいプロジェクトマネジャーはみんな剛腕だというつもりはない。実際に剛腕とセンスは違うと思う。では、どうしてできるのか?
センスのいいプロジェクトマネジャーははっきり見通しがつかなくてもなんとかなるだろうと思う。そして、実際に何とかしている。しかし、それは剛腕だからではなく、もともとできるものだったのだ。ここにポイントがある。
管理の本質は、部下はできないという前提にある。そこで、いろいろと情報を集め、管理し、そして、場合によっては指導する。マネジメントの本質はエンパワーメントである。できると信じて任せる。そして、責任を持ってやらせる。
センスのよいプロジェクトマネジャーは、エンパワーメントをうまくやる。普通のプロジェクトマネジャーは権限移譲しかできない。権限移譲は確実にでき、もし失敗しても自分がカバーできる範囲だけを任せる。エンパワーメントはいろいろ問題は起こるかもしれないが、最終的にはなんとかなるだろうという範囲を任せる。
◆センスのよいプロジェクトマネジャーはエンパワーメントする
管理とマネジメントの関係は、権限委譲とエンパワーメントの関係だといってもよい。
問題はなぜエンパワーメントできるかだ。ポジティブだからだ。人に任せるときには、ネガティブである人と、ポジティブである人では、圧倒的にポジティブである人が任せた方がパフォーマンスが高くなる。したがって、指示している分にはできないことができてしまうのだが、確証がなくてもできると信じなくてはならない。
センスのよいプロジェクトマネジャーがこのように考えられる背景にはプロジェクトとしての品質とは何かという認識がある。プロダクトの品質はネガティブに作り上げるものだ。しかし、QCDの品質をすべてクリアしなくてはならない場合には、ネガティブな発想は何も生まない。メンバーを信じることが、唯一の実現方法である。センスのよいプロジェクトマネジャーはこのことをよく知っている。
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