【イノベーションを生み出すマネジメント】第12話 模倣によるイノベーション
イノベーションの実行においてもっとも重要なのはいうまでもなく、アイデアを実現する方法である(これもアイデアである)。イノベーション自体のアイデアにおいても、最近注目されているのが、「模倣」である。
最近、「コピーキャット」(東洋経済社、2013)という本が出版された。この本は10か国で翻訳されている話題書でアップル、IBM、ウォルマート、サウスウエスト航空、グラミン銀行といったそうそうたるイノベータ企業を取り上げ、これらの企業が行っている「クリエイティブ」な模倣は素晴らしいビジネスモデルがであると指摘している。
その理由は、模倣はイノベーションよりも早く安く商品ができるうえ、低リスクで収益性が高い。企業の資金や時間といったリソースを他社製品のサービスや市場の研究に当て、クリエイティブな模倣に集中でき、少ない労力で大きな利益をあげることができるというものだ。
にも関わらず、多くの企業はイノベーションを主軸としたゼロからのオリジナルのヒット開発に莫大なリソースを投じていると指摘している。
◆自然に学ぶ
特に、イノベーションの実行における模倣は重要である。模倣というと、すぐに競合企業の製品をとなる。もちろん、それも一つの方法であるが、それ以外のものに学ぶという方法もある。
模 倣によるイノベーションの中で誰でも知っている一つは、注射器だろう。注射器では、「蚊」を模倣した。蚊は注射の大嫌いな子供でも気づかないうちに針を人 体に入れてしまう。これをなんとか実現できないかといろいろと工夫されて生まれたのが痛みのない注射器で、このアイデアを独自の絞りの技術でクオリティを 高めたのが岡野製作所である。
もっと古い例でいえば、グラハムベルは人間の耳の仕組みを学び、模倣することによって電話を発明した。
◆企業に学ぶ
このように自然に学んだイノベーションは極めて多いが、他の企業に学ぶにはどうすればよいのだろうか。思いつくままにいくつか挙げておく。
・同じような製品を分析する
・他の業界を雑誌やインターネットで調べる
・先進的な顧客にアイデアを求める
・取引業者にアイデアを求める
・外国の競合企業を観察する
これらの方法はいずれも、古くから模倣の方法として利用されてきたものである。このほか、ブレーンストーミングの回で紹介したが、
・ブレーンストーミングで課題を他のものに例えてみる
という方法も模倣をする方法だ。たとえば、上に述べた注射器の例は、注射と同じ現象は何かとテーマでブレーンストーミングを行い、蚊という答えに達した。
◆イノベーションプロセスの模倣
模倣で意外と重要なのは、イノベーションのプロセス自体の模倣だ。これはサービスや製品と違って外部からは分かりにくいので、社内情報となる。社内で成功したイノベーションはどのようにしてアイデアを生み出し、どのようにして実現したかという情報が意外と役立つ。
問題はイノベーションのプロセス情報というのはマネジャーは出したがらないことだ。理由は2つあって、一つはプロセスを明らかにしてしまうと自分の手柄にならないこと。もう一つは失敗したときに隠せないこと。
この問題は機会があれば別途述べるが、この壁を乗り越えて、社内でプロセスを模倣できるようにしたい。
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