【イノベーション・リーダーシップ】第3話 ビジョンの源泉
前回、ビジョンのチカラとイノベーティブ・リーダーにとってビジョンはどのような意味があるのかというお話をした。
イノベーティブ・リーダーがビジョンを巻き込みにつなげていくには、ビジョンを作ること自体りは、それを他の人に理解し、信じてもらうことが重要であり、もっと重要なのは「自分のこと」として考えてもらうことである。
なぜか?これは、ビジョンというものの性格に関わってくる。前回の記事では拡張されたプロジェクト目的がビジョンであると述べたが、ビジョンは一般的には
・現実から飛躍している
・実現を信じることができる
の側面を持つ構想だといえる。人によってはビジョンは実現できないからビジョンなのだと考える人もいる。これも一つの真実だといえよう。
そのようなビジョンの性格も踏まえて、ミソは、実現を「信じる」ことができるという点である。現実から飛躍しているというポイントは、ある程度の客観性がある。しかし、実現を信じるかどうかは、相当に主観的な部分があって、極論すれば人によって違う。そこで、プロジェクトビジョンを作るためには、信じてもらえるように説得することが極めて重要なファクターになる。
◆あるSIプロジェクトの事例
これは必ずしもふわっとしたプロジェクトに限らない。敢えて、ビジョンとは無縁であるようなSIプロジェクトの話をしよう。発注企業はいくつかのベンダーと下話をして、11ヶ月先の納期を設定したが、本当にほしい時期は8ヶ月後だった。引き合いが行われ、受注したのはSIベンダーのS社。S社のプロジェクトマネジャーは打ち合わせを始めるとすぐに顧客の事情に気がついた。そこで顧客と相談して、納期を8ヶ月後に設定した。このときに、
自分たちの開発するシステムの価値を最大化する
と主張し、そのために8ヶ月後を納期に設定するとした。メンバーはもちろん、上位組織も納得した。まさにビジョンである。
さて、ここでいくつかのポイントを考えてみたい。まず、彼はなぜ、こんなことを言い出したのか?彼にはキャリアの中で、「システムは使われなくては価値がない」という信念があった。彼の組織全員がそんな考えを持っていたわけではない。むしろ、現実にはそうではないが、ビジネスとして容認せざるを得ないような仕事も多かった。つまり、組織から見れば、このプロジェクトは「彼がやりたくてそのようにやっているだけだ」ということなのだ。
◆ビジョンの源泉
「プロデュース能力」の著者・佐々木直彦さんはビジョンの源泉には以下のようなものがあるといっている。
・モデルの存在
・創造への意欲
・危機感
・飛躍した発想
・社会への貢献
・体験
・出会い
・夢
・空想
・遊び
表現やプライオリティは違うが、カリスママイヤー藤巻幸夫さんは「チームリーダーの教科書―図解 フジマキ流 アツイチームをつくる」の中で、やはり、同じようなビジョンの源泉を指摘されている。
上に述べたSIプロジェクトのプロジェクトマネジャーのビジョンの源泉になっているのは、佐々木さんの言葉で言えば、社会への貢献というのがもっとも大きい。彼は、会社というのを自分が社会に貢献するための装置だと常々言っている。だからこそ、自分が開発するシステムは使われなくては意味がないとまで考えているのだ。
◆みんなが「自分のこと」と思ったときに初めてビジョンになる
では、彼はなぜ、上位組織を巻き込めたか。もちろん、彼の人間性やそれまでの実績のようなものはあるが、数億のプロジェクトだ。それだけでは動かない。彼は提案時に組織が想定した利益率にコミットしたのだ。それを計画として作って上位組織の承認を得た。
結果として、スケジュールのあやで数日の遅れがあったが、納期どおりにシステムは完成し、品質的にも問題がなかった(と、インタビューで聞いた)。なぜできたのか?という質問に対して、メンバーががんばってくれたし、組織も協力してくれたからというのが彼の答えだった。
こんな事例はめったにないと思うが、11ヶ月の見積もりの開発の納期が、「図らずも」8月になることはままある。そのようなプロジェクトを見ていると、最後までメンバーは営業が勝手に決めてきたので、できなくても責任はないという態度でプロジェクトに望んでいるケースが多い。実際に開始して、プロジェクトが佳境に差し掛かるあたりではさすがに受注経緯は忘れて自分の問題として納期に間に合わせることに懸命になっている。
言い換えると、みんなが「自分のもの」と思ったときに、プロジェクトマネジャーの想いは初めてビジョンになるといってもよいだろう。
ここで一つ気になることがある。それは、ビジョンが素晴らしく、共感できれば、みんながビジョンを自分のものとして考えてくれるのだろうか?次回は、この点について考察をしてみたい。
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