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2012年3月30日 (金)

【補助線】プロジェクトにおける洞察と創造

Insight2◆あるプロジェクトの要件定義

あるプロジェクトでの話。要件定義の取りまとめに、ユーザがあまり協力的ではない。あなたがプロジェクトマネジャーなら、どういう対応をするだろうか?

このケースで問われるのは、顧客が何を考えてそのような行動をとっているかを洞察する力である。では、どうすれば洞察できるのか?

ユーザと話し合いをしてみる。ユーザはユーザ部門と取り纏めているマネジャーだ。

ベンダ:もう少し対応時間をとってほしいのですが
ユーザ:今は、四半期のラストスパートで忙しいので、難しいですね
ベンダ:それが終われば対応できますか
ユーザ:ほかにも急ぎの仕事はあるので、確約は難しいです
ベンダ:協力してもらうために、我々が何かお力になれることはありますか
ユーザ:どういう協力が必要なんですか
ベンダ:時間をとって、必要なことについて一緒に検討して貰えるとありがたいのですが
ユーザ:であれば、担当者の業務を見て貰えば分かるのではないかと思いますが。

といった感じで話がかみ合わない。どうすればよいのだろうか?



◆話があわないときには、相手の前提を洞察する

話がかみ合わないときによくある問題は、前提が一致していないことだ。顧客対応のプロジェクトでは、顧客の前提を整理して、その前提からスタートしないと前に進めない。そこに対話が必要なのだ。

対話のアプローチはいろいろ、あると思うが、たとえば、近いところから入っていく。

ベンダ:あなたの部門はどういう仕事をされているのですか?
ユーザ:電話によるセールスと顧客クレーム対応です。
ベンダ:そうですか、セールスとクレーム対応の両方ですと大変でしょう。
ユーザ:そうなんです。セールスのときに言ったことを、クレームで顧客から指摘されますからね。一応、セールスもクレーム対応も録音されてコンピュータ上で管理されているのですが、クレーム対応の際に聞くことはできませんので、後で確認して対応するようになっています。そのような対応は時間がかかり担当者の負担は大きいです。特に、四半期ごとに業績が出ますので、最後の一カ月は精一杯で、そのあとはクレームが増える傾向があります。
ベンダ:トータルで管理できれば負担は軽くなりますか?
ユーザ:そうですね。システム部門にも言ったのですが、システム部門がそんな仕組みを提供してくれれば助かります。

といった感じで会話が進んだ。


◆前提を洞察する

この会話の中から、今の状況が論理的に説明できるような前提を考えてみると

・自分たちの業務負荷は適切な仕組みがあれば軽減する
・自分たちはセールスとクレーム対応に精一杯である
・セールスとクレーム対応が関連しており、常に忙しい
・システム部門は自分たちのニーズをくみ取って、自分たちの欲しいシステムを提供してくれる

といったことがある。これを前提に考えると、ユーザ部門が要件定義に協力しないことが、論理的に説明がつく。


◆前提を合せて前に進める

ここまで前提を察することができれば、あとは進め方の問題だ。前提が違っている部分では、相手の前提を尊重しながら(つまり自分たちの前提を変えながら)、進め方を考えていく。上の例だと


・自分たちの業務負荷は適切な仕組みがあれば軽減する
→前提があっている
・自分たちはセールスとクレーム対応に精一杯である
→前提が違っている
・セールスとクレーム対応が関連しており、常に忙しい
→前提が違っている
・システム部門は自分たちのニーズをくみ取って、自分たちの欲しいシステムを提供してくれる
→前提が違っている

ということになる。

そこで、たとえば、システム部門が全面に出て、ユーザ(担当者)に開発上の負担をかけずに、業務上の負担を軽減する手立てはないかと考える。たとえば、今、録音されている内容をテキスト情報にして、電話があったときに購入履歴と一緒に検索して表示する。これによって、担当者の負担を軽減できるので、まず、この機能を部分リリースし、担当者の負担を減らし、時間を作ってあげる。うまくいけば、期待に応えたシステム部門への信頼が構築できる。

そんな進め方ができる。

このように、前提を明確にし、前提を共有し、前提を尊重しながら、進めていくことで、行き詰っていた状況を打開することができるケースは少なくない。


◆前提を尊重して、やり方を変える

前提を尊重するというのは、相手のやり方を認めるということではない。上の例だと、システムを提供するのはシステム部門の役割であるという前提は尊重する。

前提を認めたままで、別のやり方を考える。つまり、システム部門に対して自分たちも協力することを是とするような流れをつくる。上の例では、自分たちの負担が減ったことで、物理的な時間を作り、さらに、期待を持たせている。

ここにクリエイティビリティ(創造的問題解決)が必要になる。


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好川哲人

技術経営のコンサルタントとして、数々の新規事業開発や商品開発プロジェクトを支援、イノベーティブリーダーのトレーニングを手掛ける。「自分に適したマネジメントスタイルの確立」をコンセプトにしたサービスブランド「PMstyle」を立上げ、「本質を学ぶ」を売りにしたトレーニングの提供をしている。