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2011年8月 5日 (金)

【戦略ノート262】統合マネジメントに不可欠なコンセプチュアルスキル

Note ◆「プロジェクトのさまざまな要素」の調和を取る

PMBOKに統合マネジメントという概念がある。

プロジェクトのさまざまな要素を調和の取れた形に統合するのに必要なプロセス

と定義される。この表現は深い表現で、「プロジェクトのさまざまな要素」には、作業もあれば、ベースライン計画もある。さらには、プロジェクトの目標もあれば、プロジェクトの目的もある。多少、拡大解釈をすれば、そのプロジェクトの実行の背景になっている事業戦略や経営戦略も含まれるという解釈もできなくはない。

統合マネジメントの重要な活動の一つに統合変更管理がある。ベースライン計画を変更せざるを得なくなったときに、統合的に変更を考える。たとえば、自発的な理由でスケジュールが遅れてきたときに、スケジュールを間に合わせるように要員の追加をする。それに伴ってコストが増加する。これは統合変更管理ではない。ベースラインのレベルで考えると、スケジュール、コスト、スコープ、要員の4つの要素を総合的にみて、「調和(バランス)」をとる。これが統合変更管理である。




◆どのようにバランスをとるのか

ここで問題はバランスはどのようにして決まるのかである。一つ、圧倒的に多いのは、上位者(そのプロジェクトが関与する業績の責任者=プロジェクトスポンサー)が決めるという決め方だ。もっと具体的にいえば、プロジェクトマネジャーが変更案を作って、プロジェクトスポンサーに相談し、プロジェクトスポンサーが承認すれば、そのバランスでよいことになる。

この方法は合理的である。ただし、これを徹底している企業を見ていると、企業が成長している間はよいが、企業の成長が頭打ちになり、質的な成長を求められるようになってくるとうまく行かない。企業が自然に成長しているときには、売上げを追いかければ、あらゆる戦略要素が実現でき、うまく行く。利益率も確保できれば、人も育つ。スキルも向上する。顧客や市場との関係もよくなる。一言でいえば現場が強ければすべてが解決する。いわゆる「勢い」だが、永遠に自然な成長が続くことはまずない。


◆企業が成長しない状況でのプロジェクトスポンサーの判断

頭打ちになるとスポンサーの態度は二つに分かれる。一つは、業績を重視するタイプである。もう一つは改めて、組織の成長を考えるタイプである。この違いが統合変更管理に出てくる。

前者のタイプのスポンサーは、最小限のコストでスケジュールをリカバリーしようとする。たとえば、キャリアの浅い人を入れて、フォーメーションを見直し、対応しようする。

後者のタイプのスポンサーは、プロジェクトの目的に立ち返る。目的に達成することを重視した上で、スケジュールの問題を解決しようとする。いろいろなケースが考えられるが、スコープを縮小するかもしれないし、プロジェクト体制を強化するかもしれない。ひょっとすると、スケジュールの遅れを放っておくかもしれない。たとえば、目的実現の方法を考え直し、目的実現の程度が変わらない範囲で、スコープを縮小し、コスト増加とスケジュールの遅延のバランスを取るといったことをやるわけだ。


◆調整シロを作る

手法そのものを議論したいわけではない。重要なことは、前者と後者の違いである。前者は調整としては非常に分かり易い。人と金の調整だからだ。

後者はそこに目的という概念的な要素が入るし、また、スコープもスペックとは違ってかなり概念的な話である(SOWで定義されていても!)。

しかし、どちらの調整がうまくいくかというと、言うまでもなく、後者である。理由は明確で、調整シロが広いからだ。

前者でうまくやろうとしたら、ヒューマンスキル(ネゴシエーションやコミュニケーション)が重要である。たとえば、ITプロジェクトでは業界的に単価が下がり、理屈には辻褄が合わないような意志決定を迫られるケースが増えており、多くのプロジェクトマネジャーはヒューマンスキルの重要性を痛感している。


◆統合マネジメントにはコンセプチュアルスキルが不可欠

ある程度までは交渉レベルの話であるが、プロジェクト計画のレベルで考えていたのではいくら交渉をしようと解けないような問題を抱えることが少なくない。このような場合に必要になってくるのが、目的に返ってもう一度、計画をゼロベースで考えるようなコンセプチュアルスキルなのだ。

PMBOKに9つのマネジメントがあるが、9つのうちの統合マネジメントだけは、テクニカルスキルではできないし、そこにヒューマンスキルが加わってもうまくいかないケースが多い。その意味で、統合マネジメントにはコンセプチュアルスキルが不可欠である。

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好川哲人

技術経営のコンサルタントとして、数々の新規事業開発や商品開発プロジェクトを支援、イノベーティブリーダーのトレーニングを手掛ける。「自分に適したマネジメントスタイルの確立」をコンセプトにしたサービスブランド「PMstyle」を立上げ、「本質を学ぶ」を売りにしたトレーニングの提供をしている。