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2011年4月11日 (月)

【戦略ノート237】ホールシステムアプローチとプロジェクトマネジメント(3)~分業 vs ホールシステム

◆理解=分ける+再構成

今回はちょっと変わった話をしてみたい。

WBSをベースにしたプロジェクトマネジメントは、分けることを前提にしている。
では何のために分けるのか?分かるためである。つまり、このプロジェクトがどういうものであるかを理解(認識)するためである。

ただし、細分化するだけでは理解に到らない。細分化されたものを再構成する作業が理解を導く。再構成の方法にはいろいろとあるわけだが、一般的にいえばシナリオに
沿って再構成する。プロジェクトではこれをスケジュールといっている。


◆メンバーからプロジェクトは理解されているのか

このように考えて見ると、WBSでワークパッケージを定義し、それを機械的に分業としてスケジュールに割り振っていくことの問題が見えてくる。プロジェクトに参加するメンバーのプロジェクトに対する理解ができない。理解ができないからプロジェクト全体に対する認識ができない。従って、何をやっているのかよくわからない。

ドラッカーの教会の建立に参加する石切工という小咄がある。知らない人もいるかもしれないので、簡単に説明しておくと、教会の建設現場で働いている石切工が、何をしているのかを聞かれて、第一の石切工は「生計をたてている」。第二の石切工は「この国で一番素晴らしい石切工の仕事をしている」。第三の石切工 は「教会を建てている」と答えた。ドラッカーの話はマネジャーだと言える石切工は誰かという話。

この話を、もう少し突っ込んで考えてみると、一番目と二番目の石切工は、何をやっているかを理解している。ところが、三番目の石切工は、本当に理解しているのかと
いう問題がある。つまり、「教会を建てる」というのはどういうことなのかを理解しているかだ。


◆目的共有を越えて

三番目がマネジャーとしてのあるべき姿であるというのは間違いないと思うが、目的(目標)として教会を建てることだと言っているのと、教会を建てるということを理解していっているのでは、全然、話は違う。プロジェクトではチームビジョンとしての目的が大切であることは言うまでもない。従って、マネジャーはそれをきちんと語ることができなければならない。

しかし、それだけでは不十分である。プロジェクトを理解する必要がある。むしろ、組織としてのプロジェクトの目的を定義するのはプロジェクトスポンサーの仕事である。プロジェクトマネジャーが求められているのは、その目的に従って、プロジェクトですべきことを決め、再構成することである。つまり、WBSでスコープを細分化し、プロジェクト(計画)として再構成することである。


◆認識を共有する

問題はこのプロセスにメンバーがどう絡むかだ。チームビルディングすることは、目的の共有だけの問題はない。上に述べてきたような意味で、プロジェクトに対して共通の理解をすることであり、認識を共有することである。

例えば、タスク間の順序関係には意味がある。成果物の組み立て手順的な順序関係はおおよそ意味が共有できていると思うが、そこに意志決定が出てくると相当怪しい。試しにプロジェクトミーティングの息抜きに、

「今、管理しているプロジェクトを担当チームに分けて、それぞれのチームごとに向こう1ヶ月の間に必要な意志決定とその時期を書き出して貰う」

というエクスサイズをやってみて欲しい。

設計と製造プロセス上の意志決定はおおよそ一致していると思うが、そのほかはどうか?項目が整合していない、タイミングがあっていない、さまざまではないかと思う。


◆コミュニケーションの問題なのか?

これをコミュニケーションの問題だと捉えることが多いが、本当にそうなのだろうか?もちろん、共通認識を作ることがコミュニケーションだと考えるとコミュニケーションの問題なのだが、プロジェクトに対する認識ができていないというもっと基本的な問題なのだ。

敢えて区別したいのは、プロジェクトコミュニケーションは「分けた」上で、問題が起こらないようにする活動である。基本的には情報配布の問題である。しかし、プロジェクトに対する認識作りは理解するための問題であり、プロジェクト全体で考えていくべき問題である。

そんなことを言っても、大規模なプロジェクトではそんなことは現実的ではないので、プロジェクトの中に階層的な組織を作り、リーダーで運営していくのだということになるだと思う。


◆形式的なコミュニケーションでは「情熱」は伝わらない

確かに、情報であればそれでいいと思う。しかし、「感情」、「情熱」、「想い」といったものはそれでは「配布」できない。それどことか、階層が入るとゆがんでしまう。

そこで、ホールシステムアプローチなのだ。分業とホールシステムアプローチは相反するものではない。共存し、シナジーのあるものだ。

 

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好川哲人

技術経営のコンサルタントとして、数々の新規事業開発や商品開発プロジェクトを支援、イノベーティブリーダーのトレーニングを手掛ける。「自分に適したマネジメントスタイルの確立」をコンセプトにしたサービスブランド「PMstyle」を立上げ、「本質を学ぶ」を売りにしたトレーニングの提供をしている。