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2010年4月 4日 (日)

【補助線】ミドルは自利を解放せよ

◆自利利他

加護野忠男教授の書かれた「経営の精神」に、「自利」という言葉が出てきて、興味を持ち、いろいろと調べていたら、深い言葉だ。「自利利他」は最澄伝教大師の言葉で、利他を実践すればいつかは巡り巡って自分の利益になるというような考え方ではなく、「利他の実践がそのまま自分の幸せなのだ」のようだ。

辞書を引くと、宗教用語としての自利は

仏道修行によって自分によい果報をもたらすこと。自分の成仏を目的とすること

とある。同時に、「自分の利益」であり、「私利」とも書かれている。宗教用語が本来の意味だとすれば、私利と自利は逆の意味のようにも取れる。調べてみてもよく分からなかったのだが、「私」と「自」はなんとなくだが、違うようなイメージがあるからだ。ただ、私利は「私利私欲」を連想したイメージを持っているからだけかもしれない。


◆「自利」を考えて行われる行動は強い

加護野先生は「自利」を考えて行われる行動は強いをおっしゃられている。松下幸之助、稲盛和夫など、多くの経営者が利益より大切な目的があると考えて行動したが、利益を軽視しているわけではなく、むしろ、徹底的に利益にもこだわっている。その理由として、営利主義のもたらす効用に

(1)営利へのこだわりがもたらす合理的判断

と並んで

(2)自利を考えて行われる行動の強さ(本音の強さ)

があるからだとされている。さらに、この点についてこうも言っている。

自利をもとにした行動は強力なのである。仁愛は忘れれられるかもしれないが、自利が忘れられることは少ないのである(同書、57p)。

その例としてアメーバ経営について述べている。アメーバ経営では、

アメーバ間で取引が行われる。それぞれが、自分たちの採算を真剣に考えている場合にはアメーバ間の交渉は厳しくなる。その結果として売り手のアメーバは買い手の気持ちを理解し、買い手は売り手の気持ちを学べる


◆Win-Winと自利

と指摘する。この指摘を読んではっとしたことがある。Win-Winという関係には盲点があるのではないかと思う。

一般には、Win-Winという言葉は、当事者間のプラスサムを意味している。たとえば、メーカとサプライヤの取引で、メーカは部品コストを削減したいし、サプライヤは少しでも高い価格で販売をしたい。そこで、一定量の取引を前提にして、適切な取引価格に落ち着けようとする。このようなコンフリクトの解決方法は当事者間では合理性のあるものであるが、その先にある顧客との利害関係を考えると必ずしも、ベストではないかもしれない。Win-Winの関係によって、高い価格の商品を購入することになる可能性がある。

そんなことはない。メーカもベンダーも顧客のことを考えれば、そんな結論がWin-Winでないことは分かるはずだというご意見もあると思う。それはそのとおりである。

これが仁愛である。加護野先生の言葉を借りれば、「仁愛は忘れれられるかもしれない」ということだ。それであれば、自利にこだわればよい。


◆自利を解放する

日本のミドルは自利を極度に抑制されているのではないかと思える。逆に、仁愛が強調されるようになってきている。おそらく、トップと現場の間に日本的に収まるには、そのようない「態度」がよいと判断されているのだとも思えるし、現実には、否応なしに、そのような状態になっているようにも見える。

このこと自体にはいろいろな価値感や考え方もあると思う。重要なことは、「自利を考えて行われる行動の強さ」が失われていることだ。もっと深刻なのは、自利を抑制することによって、「当事者意識」が失われてしまっていることだ。

リーダーシップの教科書を読んでいると、メンバーの当事者意識は目的・目標に対するものであるとされる。ただし、目的・目標の設定には、メンバーを巻き込み、「自利」を反映させることが重要であるとされる。このようなリーダーシップが欠けるのも、自利の抑制があるにではないのかと思う。

自利を解放し、強い行動力を発揮する。ミドルマネジャーにそのような考え方が求められる時代ではないだろうか?

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好川哲人

技術経営のコンサルタントとして、数々の新規事業開発や商品開発プロジェクトを支援、イノベーティブリーダーのトレーニングを手掛ける。「自分に適したマネジメントスタイルの確立」をコンセプトにしたサービスブランド「PMstyle」を立上げ、「本質を学ぶ」を売りにしたトレーニングの提供をしている。