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2010年1月 5日 (火)

PMサプリ200:管理メカニズムと哲学を混乱してはならない(フルバージョン)

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管理のメカニズムを、本質や哲学と混乱してはいけない(フレデリック・テイラー)

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◆テイラーの科学的管理法

PMサプリもおかげさまで、今回で200話になる。200話ということで、少し、重みのある言葉を探して、見つけたのがこれだ。フレデリック・テイラーが1911年に著した「科学的管理法」からのフレーズである。

現代では、科学的管理法の評判は決してよいものではない。もっとも批判されているところは、人間を機械として扱っているという点だ。テイラーは科学的管理法の父と呼ばれるが、マネジメントの父と呼ばれるピーター・ドラッカーは著書「マネジメント」の中でテイラーを以下のように称している。

テイラーは、労働の生産性を押し上げ、それによって労働者たちにまずまずの暮らしをさせたいと願ったわけだ

管理のメカニズムの本質とは労働の生産性の向上であり、労働によって得られる対価
を引き上げることであった。日単位の出来高払いの仕事の中で、労働者はテイラーの
科学的管理法の指導を受けて作業方法を変えることによって、生産性を向上すること
ができ、それによって従来よりははるかに多い報酬を手にすることができた。


 

◆科学的管理法も使い方次第

テイラーはさらに以下のような指摘をしている。

同じメカニズムを用いても、悲惨な結果に終わる場合もあれば、非常によい成果につ
ながる場合もある。

テイラーの哲学の中では、「労働者たちにまずまずの暮らしをさせる」という点が非
常に重要である。これは科学的管理法という管理メカニズムを導入するに当たっての
目的である。「科学的管理法」の本の中には、テイラーの行った数々の実験的プロジ
ェクトの紹介がされているのだが、共通しているのは、科学的管理法を受け入れるか
どうかは、労働者の判断にゆだねている。言い換えると、科学的管理法を適用するの
は、目的への共感を前提にしている。

この議論は非常に「微妙」な議論なのだが、この部分をとってしまうと、まさに批判
されているとおりの「人間を機械として扱う」という結果を生み出してしまう。実際、
テイラー自身、科学的管理法を著したときには、すでにこの問題に気がついていて、
警鐘を鳴らしているのだ。

また、あまり知られていないが、科学的管理法の中には、労使の対立の問題も論じら
れている。生産性が上がれば労働者の取り分が多くなるが、極論すれば市場価格が下
がり、経営者からすれば必ずしも好結果だけではない面がある。この問題に対するテ
イラーの答えは「消費者の利益」を重視すべきだというものである。これもテイラー
が残した哲学だと言える。この哲学が忘れられると科学的管理法はうまく機能しない
とも指摘している。


◆プロジェクトマネジメントにはテイラーが取り込まれている

プロジェクトマネジメントも一つの科学的管理メカニズムであり、テイラーの科学的
管理法の多くの要素を取り込んだメカニズムになっている。参考までに科学的管理法
の構成要素を列記しておく。
・時間研究
・部門の職長制
・ルーツ類、および各作業に伴う動作の標準化
・プラニングルーム、あるいは、プラニング部門の意義
・例外原則に沿ったマネジメント
・計算尺ほか、時間を制約するためのツールの利用
・働き手への指示を書いた指示カード
・課題を活かすマネジメント
・差別的出来高賃金制
・製品やツールを分類するための記憶法
・工程管理
・近代的なコスト・システム
といったものである。興味深いことに、それぞれについて、プロジェクトマネジメン
トで該当するものがある。言い換えると、テイラーの考えた科学的管理法の本質や哲
学と、プロジェクトマネジメントのそれはそんなに大きく変わっていないということ
だろう。


◆プロジェクトマネジメントの本質や哲学とは

では、プロジェクトマネジメントの本質や哲学とはなんだろうか?この問題は、ずっ
と考え続けている問で、まだ答えがでているわけではないのだが、テイラーの科学的
管理法を改めて読み直してみると、ワークライフバランスの実現ではないかと思えて
くる。ドラッカーのテイラー評を紹介したように、科学的管理法の本質は、「労働者
たちにまずまずの暮らしをさせる」という意味でのワークライフバランスの実現であ
った。

100年前と比べて異なる点は、単に時間の管理だけではなく、ワークスタイルの変
化が生じていることだ。100年前は労働者は貧しく、故に経済的に豊かになること
が重要であった。もっといえば、労働者は工場や現地で働いていたので、労働時間と
賃金のバランスだけが重要であった。知識労働者が増えた現在に「まずまずの暮らし
をさせる」には、これに加えて、どこで働くか、いつ働くか、どれだけ働くかといっ
た視点が必要である。これらの問題に対して、多様性のあるソリューションを与えな
いと、生産性を極限まで高める管理メカニズムにならない。

それを可能にするのが、プロジェクトマネジメントという管理メカニズムである。


◆プロジェクトマネジメントの本質は、ワークライフバランスにある

上に述べたように、メカニズムの要素はテイラーの科学的管理法と変わっていないが、
新たに追加された要素に、「労働時間、場所のプラニング」という要素が加わってい
るのが、プロジェクトマネジメントというメカニズムである。つまり、スケジュール
だけではなく、コミュニケーションの計画、ファシリティの計画、調達の計画など、
従来、固定的だった労働時間、場所を流動化するためのメカニズムがある。このよう
なメカニズムをうまく活用することによってワークライフバランスの実現ができる。

たとえば、子供の世話や親の介護を抱えて働く人がいる。これに対して、従来の管理
メカニズムで対応することは難しかった。しかし、プロジェクトマネジメントの管理
メカニズムをうまく利用すれば可能である。


◆哲学を理解せずにメカニズムを導入すると、、、

にも関わらず、プロジェクトマネジメントを一様な管理の実現のために使っている組
織が少なくない。かつて、テイラーの科学的管理法を、その哲学を理解せずに企業の
収益の追求のためだけに活用し、非人間的な管理とおとしめた人たちがいたように、
プロジェクトマネジメントの哲学なき利用は、悲惨な結果をもたらすだろう。

その兆候はすでにある。メンタルヘルスの問題である。多様性への対応のために、プ
ロジェクトマネジメントは自律的な働き方を容認する。その代わりに高い成果を求め
ることがメンバーにプレッシャーを与える。このプレッシャーとモチベーションのバ
ランスは「自律」によってとれるのだが、自律を認めずに、自己責任だけを問うプロ
ジェクトマネジメントの誤った適用は、モチベーションの低下を招き、長期間のモチ
ベーションの低下が引き起こしている問題が「メンタルヘルス」の問題である。

この問題に対して当面の対処としてカウンセリングの導入などは結構だが、哲学に立
ち返らないと本質的な解決にはならないことを認識しておくべきだろう。

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好川哲人

技術経営のコンサルタントとして、数々の新規事業開発や商品開発プロジェクトを支援、イノベーティブリーダーのトレーニングを手掛ける。「自分に適したマネジメントスタイルの確立」をコンセプトにしたサービスブランド「PMstyle」を立上げ、「本質を学ぶ」を売りにしたトレーニングの提供をしている。