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2009年8月 4日 (火)

【補助線】なぜ、プロジェクトマネジメントの効果がでないのか

◆プロジェクトマネジャーの組織上の地位

プロジェクトマネジメントもその企業なりに自社の考えに合わせて調整し、定着の兆しが見えてきた。一方で、一定の効果は認める企業が多いが、戦略の実行支援手段として有効かと聞くと、首をかしげる人が多い。マーケティング(商品開発)や一品モノの生産といった「オペレーション」の品質を向上させる手段としては機能しているのだが、経営的な効果は顕著には見られないというのが、この5年くらいの総括ではないかと思う。

この問題については、いろいろな視点からの原因分析が可能であるが、ここでは、プロジェクトマネジャーのスキルという視点からもう一度、考えてみたい。

IT系の企業が典型的な例であるが、業務の大半をプロジェクトとして運営している企業においては、プロジェクトマネジャーはマネジャーの下位の職に位置づけているケースが多い。単純にいえば、

プロジェクトマネジャー 係長クラス
プロジェクトスポンサー マネジャー、シニアマネジャークラス

というパターンだ。このような担当は業務分担からすると自然であるし、また、事業実態から考えても現実的である。まず、これを頭に入れておいてほしい。

◆プロジェクトマネジメントに必要なスキル

PMBOK(R)にガイドの位置づけを示すために、「プロジェクトマネジメントチームが必要とする専門領域」という興味深い図があるのをご存じだろうか?

これは、プロジェクトマネジメントを効果的に行うために必要な専門スキルと、PMBOKの位置づけを示す非常によくできた図である。残念ながら第4版では、プログラムマネジメントやポートフォリオマネジメントを統合したために、これらのいくつかはプログラムマネジメント、ポートフォリオマネジメントのスキルになっているが、これらの上位マネジメントを導入していない場合には、この図で示されている専門スキルが必要である。

また、日本型経営組織の特性を考えた場合には、プログラム&ポートフォリオマネジメントを導入してもなお、現場のマネジメントがこれらを担当するのが妥当だと思われる。

この図によると、プロジェクトマネジメントに必要な知識やスキルは

(1)プロジェクトマネジメント知識体系
(2)適用分野の知識・標準・規制
(3)プロジェクト環境の理解
(4)一般的なマネジメントの知識・スキル
(5)人間関係のスキル

の5つである。そして、PMBOKガイドは(1)のプロジェクトマネジメント知識体系の一部をまとめたものであり、加えてそのほかの4つの専門領域の一部を含んでいる。

そして、重要なことは、(2)から(4)のほとんどは、PMBOKはもちろんのこと、(1)のプロジェクトマネジメント知識体系にも含まれない部分は多くあることだ(上に述べたように、第4版ではこれらの部分の多くはプロジェクトマネジメントのスキルから、プログラム&ポートフォリオマネジメントのスキルに格上げされている)。

◆プロジェクトマネジメントは一般的なマネジメントが前提

つまり、プロジェクトマネジメント知識体系を完璧にマスターしたとしても、プロジェクトマネジメントが効果的にできるとは言い難いということを示した図である。

この後は組織のマネジメントの問題であるが、常識的に考えて、

(3)プロジェクト環境の理解
(4)一般的なマネジメントの知識・スキル

の2つについては、係長レベルのプロジェクトマネジャーに頼るのは無理がある。

もっと極論すれば、プロジェクトマネジメントはマネジメントができるマネジャーが行うべきものであり、業務管理の経験や知識しかないグループリーダー的な立場の人に任せること自体に問題があるのかもしれない。

この図の一つのミソは、これは「プロジェクトマネジャー」が必要とするものではなく、「プロジェクトマネジメントチーム」が必要とするものであり、プロジェクトマネジメントチームの中には「プロジェクトスポンサー」が入っていることだ。

つまり、この問題を解決するには3つの方法があることになる。

(1)プロジェクトマネジャーをマネジャーやシニアマネジャーから選ぶ
(2)プロジェクトスポンサーが中心になり、プロジェクトマネジメントチームでプロジェクトマネジメントを行う
(3)若年のプロジェクトマネジャーが一般的マネジメントスキルを身につける

の3つである。

◆そもそも、一般的なマネジメントとは何か?

さて、ここまで、一般的なマネジメントが何かということをせずに議論してきたが、この辺ではっきりさせておく。

PMBOKに記されている一般的なマネジメントとは

「活動中の企業の定常業務を計画し、組織化し、要員を配置し、実行し、コントロールすること」

であり、そのためには以下のような専門性が必要だとされている。

・財務管理と会計
・購買と調達
・販売とマーケティング
・契約と商法
・製造と配送
・ロジスティックスとサプライチェーン
・戦略計画、戦術計画、要員管理、業務計画
・組織構造、組織行動、要員管理、給与、福利厚生、キャリア・パス
・健康と安全に関する実務慣行
・情報技術

これらの専門知識を係長レベルの人材が備えているというのは、教育のしっかりとしている大企業でもあまりない。これらのついて、本腰を入れた教育を施されるのは、多くの組織では階層別研修で課長昇格前から、課長昇格後に行われることが多いからだ。

◆マネジメント基礎力

では、この中で、どのような業務においても必要になる専門知識は何かと考えてみると、

・戦略計画、戦術計画、要員管理、業務計画
・組織構造、組織行動、要員管理、給与、福利厚生、キャリア・パス
・健康と安全に関する実務慣行

の3つだと思われる。これがきちんとできるかどうかで、プロジェクトマネジメントの効果は天と地ほどの差が出てくる。つまり、もし、プロジェクトマネジャーがマネジメント力をつけたいと思うのであれば、この辺りのスキル習得をすればよいことになる。

実際に、多くのプロジェクトマネジャーと接している中で、マネジャーやシニアマネジャークラスのプロジェクトマネジャーと係長クラスのプロジェクトマネジャーでは、この差が歴然としていることを感じることが多いし、係長クラスのプロジェクトマネジャーで「できる」と言われている人は、例外なく、マネジメントの基礎力がある。

その意味で、プロジェクトマネジメントのスキル習得の前にこれらのスキルを身につけることが、プロジェクトマネジメントの効果を出すことにつながってくると思われる。

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好川哲人

技術経営のコンサルタントとして、数々の新規事業開発や商品開発プロジェクトを支援、イノベーティブリーダーのトレーニングを手掛ける。「自分に適したマネジメントスタイルの確立」をコンセプトにしたサービスブランド「PMstyle」を立上げ、「本質を学ぶ」を売りにしたトレーニングの提供をしている。