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2009年7月14日 (火)

プロジェクト目的の秘密(全3回)~その1 目的と目標について理解しよう

◆はじめに

プロジェクトマネジメントの研修や、ワークショップで、「このプロジェクトの目的を設定しましょう」というと、必ず出てくる答えがある。

(例1)顧客の要求を満たす○○システムを作る
(例2)収益を増加させる

このような目的はほとんどの場合、あまり適切な目的だとはいえない。第1回の目的は、なぜ、これらの例がなぜ適切でないのかを理解していただくことである。

また、第2講「プロジェクトの目的・目標の秘密」(全3回)を通しての「目的」は、どのように考えて「プロジェクトの目的や目標」を設定すれば適切な目的の設定ができるかだ。

◆目的とは

目的と目標という言葉を使い分けると、どう違うのかと思う方も少なくないと思うが、ひとまず、この問題は側におき、目的について考えていく。

目的とは、一言で言ってしまえば、プロジェクトの存在意義である。「なぜ、そのプロジェクトをやるのか」という問いの答が目的であると考えればよい。

このように定義すると、(例1)はなぜ不適切なのだという疑問を持たれる方もいらっしゃるだろう。確かに、「顧客の要求を満たす○○システムを作る」ことはプロジェクトの存在意義の一つであることは間違いない。

では、あなたがこのIT企業の社長だったとして、プロジェクトマネジャーから、「このプロジェクトは顧客の要求を満たす○○システムを作ることを目的として実施します」と言われると何か違和感と感じるのではないだろうか。

もちろん、社長としても、お客様が満足するシステムを提供することは非常に重要である。しかし、いくら満足してくれても利益を上げることができなければ、会社は経営に行き詰まり、せっかく開発したシステムの運用の支援や拡張ができなくなり、逆に顧客に迷惑をかけることになるかもしれない。会社を健全に経営していくのは社長の責任である。会社の資金と人的資源をこのプロジェクトに投入する理由を株主にきちんと説明することも必要だ。このシステムが世の中のために役立つかどうかも気になる。

などと、いろいろと思いを巡らすのではないだろうか。

◆プロジェクトの目的はチームにとっての目的だけではない

これからも分かるように、「プロジェクトの目的」といった場合には、プロジェクト「チーム」にとっての意義だけでは不十分である。プロジェクトマネジメントでは、プロジェクトへの関与者をプロジェクトチームの中と外に分けて考えることが多いので、目的というとチームの目的と考えてしまう。しかし、プロジェクトに「関わる」目的は、すべての利害関係者にある。だから、利害関係者なのだ。プロジェクトに関わる目的がない人はそのステークホルダでもない。

まず、この点を理解しておく必要がある。ここで問題は、プロジェクトマネジャー、メンバーも含めて、利害関係者の目的は異なることが多いということだ。もう一度、最初の例を見てほしい。(例1)はプロジェクトチームの目的である。(例2)はプロジェクトの上位管理者で、売上のバジェットを持っているマネジャーの目的である。この2つの目的は「提供する機能を増やせばコストが増加し、収益が減少する」という意味で、相反(コンフリクト)する。

プロジェクトの目的を設定するとは、このコンフリクトを克服するようなプロジェクトの存在意義を見出すことである。だから、全社一丸となりプロジェクトを進めていく上では極めて大切である。

◆コンフリクトの解消の方法

ここでコンフリクトの解消の方法としては代表的な方法が2つある。共通部分を切り出していく方法と、上位目的にしていく方法である。具体的な方法は第3回で述べるので、今回はイメージだけをつかんでおいてほしい。

まず、最初は共通部分の切り出し。上の例で、共通部分を切り出すとどうなるか。いくつか考えられる目的設定がある中で、もっとも単純な共通部分は「売上を増やすこと」である。顧客にはどんどん要求機能の実現を提案をしていく。その分は追加売上として確保していくという行動規範になる目的である。

次に上位目的。上位目的を見つけていくとはどういうことか。たとえば、この例だと、「顧客との長期的な取引への道をつける」という目的設定は妥当性が高いと思える。

では、どちらがよいのかというのが次の問題である。共通部分を切り出すというのは、目的そのものは具体的になり、わかりやすくなるという利点がある反面、目的として明確にされていない部分については、それぞれの判断で行うことになる。その部分は上位組織がうまくマネジメントする必要がある。

たとえば、「追加予算を出すので完成時期は今のままで行きたい」という顧客のニーズに対して、予算は取ってきたのだからといって、実行はプロジェクトに「丸投げ」するようなやり方ではうまく行かないことが多い。制約条件が厳しくなっているのだから、マネジメントサポートが体制の見直しをするなどのマネジメントサポートを行うことが不可欠である。結局のところ、上位組織の目的を達成するためには、上位マネジャー自らが調整していくしかないことが増える。

これに対して、上位目的を設定するという方法は、理想的には望ましい方法である。しかし、目的そのものが抽象的になり、プロジェクト現場がその目的を適切に理解し、行動に移せるかが問題になってくる。プロジェクトマネジャーがその目的を妥当性のある計画にできるかどうかはもちろんだが、この場合の計画は仮説の色合いが濃くなるので、メンバーにも同じ理解と行動のプラニングが不可欠になる。これはかなりハードルが高い。

◆結局、同じものが求められる

結局のところ、帯に短し襷に長しのようなところがあるのだが、突き詰めて考えれば、いずれの考え方でも、
・目的の設定や解釈に対するプロジェクトスポンサーのサポート
・プロジェクトマネジャーやメンバーの理解と行動
の2つがなくては目的を設定してプロジェクトで有効に活用していくことはできない。そう考えると、山に違うルートから上っているだけだとも言える。
その意味で、重要なのは、上位目的を設定する際の考え方である。これについては、第2回、第3回で述べることにして、ここでは、もう一つ、目標について説明しておく。

◆目標とは何か

通常は何気なく、目的、目標という言葉を同じような意味で使っているが、目的と目標は異なるものである。これまで述べたように目的はプロジェクトの存在意義であるが、これに対して目標は、目的が実現できたと言える目安であり、定量的な指標で表現することが望ましい。

たとえば、目的として、

目的:顧客との長期的な取引への道をつける

を設定したとすれば、どのような目標を設定すればよいだろうか?この目的は上位目的であり、上に述べたように抽象度の高いものなので、目標の設定に当たっては、「顧客との長期的な取引を実現していく方法」に対する仮説設定が求められる。

一つ、事例を上げると、「実装した機能をすべて使い切ると次の取引が生まれる」という仮説を設定し、機能モデルを作ってニーズの定量化をし、モデル上でのニーズの目標スコアを設定し、それを目標にするという方法を採った企業がある。

これによって、顧客の要求を当初予算の70%で実現し、スコープならぬ、予算の繰り越しを申し出たプロジェクトがある。これは自社でも、顧客企業でもでかなり問題になったが、結局、20%の予算繰り越しで自社は当初利益額をクリアし、20%の予算は次のフェーズに繰り越した次のフェーズは随意契約で受注した(数字は丸めている)。

このように、目的に基づき、目標を設定するに当たっては、仮説の質により、ずいぶんとプロジェクトの成果そのものが変わってくることがあることを認識しておく必要がある。

【次回以降の予定】

■第1回 目的と目標について理解しよう
□第2回 プロジェクトマネジメントにおける目的・目標の役割
□第3回 プロジェクトの目的の設定の考え方と方法

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好川哲人

技術経営のコンサルタントとして、数々の新規事業開発や商品開発プロジェクトを支援、イノベーティブリーダーのトレーニングを手掛ける。「自分に適したマネジメントスタイルの確立」をコンセプトにしたサービスブランド「PMstyle」を立上げ、「本質を学ぶ」を売りにしたトレーニングの提供をしている。