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2007年12月10日 (月)

【補助線】PMOとPMのレシプロシティ

前回は、PMOが作る標準というのは、その通りにやればプロジェクトマネジメントがうまくいくというものでなくてはならないということを述べた。ただし、マネジメントである以上、それは現実的に難しい。そこで、標準化のプロセスそのものを考え直す必要があることを指摘した。

◆PMOとプロジェクトマネジャーの関係の基本は「互恵関係」

今回は、少し、視点を変えて、この議論の本質を考えてみたい。この議論の本質にあるのは、「レシプロシティ」だと思う。日本語では「互恵関係」という。簡単にいえば、「よい行動には見返りが、悪い行動には報復が戻ってくる」というものだ。

ここで、多くのPMOスタッフが頭を悩ますのは、何がよい行動かということである。

たとえば、あなたが

「上位組織のマネジャーが入る定例のレビューミーティングで、プロジェクトマネジャーの進め方に賛成の態度を示す」

と、その見返りとして、プロジェクトマネジャーは

「プロジェクトであなたが提唱する標準的な手法を使って、成果を作ってくれる」

といった行動をすることを期待するだろう。このような価値の交換が生じるのはレシプロシティである。

何でもない話のようだが、これは以外と難しい。その理由は、価値であるので、決めるのは相手であり、自分である。つまりは主観である。思いつきや、自分の価値感で行ったのでは、相手はそれを評価しない。

相手に評価されないと、人間だれしも、「なんだ、あいつ」という感情が芽生える。

こんな事件があった。

◆ある事件

プロジェクトマネジャーがプロジェクト計画書をなかなか出さない。プロジェクト計画書を出さなければ建前上はプロジェクトは承認されず、作業に着手することはできない。このプロジェクト担当のPMOスタッフは時間がないので、苦労しているのだと思い、そこで、良かれと思って、代わりに計画書のたたき台を作って渡した。プロジェクトマネジャーは一応受け取った。

そこまでしてやったのだから、当然、すぐに計画書が出てくると思っていたが、依然として出てこない。後でわかったのは、このときに顧客側が経営陣の異動があり、計画がひっくり返りそうになっていた。落札はしたもののまた、入札はしていない。プロジェクトマネジャーは、まず、この問題をなんとかするのが先決だと考え、顧客の社内提案の支援をしていたのだ。この時点で、プロジェクトマネジャーは計画書を書いてもらってもありがたくもなんともかなったので、当然、ほったらかしにしていた。

一方、PMOスタッフは顧客の問題に立ち入っていくのはPMOとしては行き過ぎだと考え、できる範囲で最善を尽くしたと思っている。にも関わらず、プロジェクトマネジャーは何もしない。最初はやんわりと言っていたが、だんだん、攻撃的になってきた。計画書も出していないのに、契約前に顧客に入り込んで仕事をしているというのはどういうつもりだといったことを言い出した。

不幸にもこの企業のPMOは結構強く、最終的にこの声は通ってしまった。事業部長が出てきて、プロジェクトマネジャーに対して、顧客の内部の問題に首を突っ込むな、それよりは提案通り(内示通り)の内容という前提で社内の準備をしろという裁定をした。

どれだけの因果関係があるかは分からないが、結果としてこのプロジェクトは顧客側で中止になった。

この事件における、PMO側の問題は何だろうか?これは理屈をいうのは簡単である。たぶん、まっ先に出てくる答えは状況を理解していなかったという答えだろう。ただ、理解していなかったわけではない。プロジェクトマネジャーとも話をしていたし、顧客側の状況も知っていた。

この問題の本質は、価値観にある。PMOスタッフは、自分たちは間接部門であり、プロジェクトマネジャーが稼いでいる。プロジェクトマネジャーの仕事を助けて利益が出るということを分かっていたにも関わらず、本当にそうは思っていなかった。社内ルールを守るということと、顧客へのサービスをすることを比較したときに前者が勝っていたのだ。えてしてこんなものだ。

では、どうすればよかったのだろうか?これは次回。

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コメント

この問題でうちの会社での処理の仕方は、10人中9人のマネージャについておそらく同一見解。
「顧客視点が足りなかった、顧客第一に立ち返ろう」

結果が逆転したら
「現場・現物主義」

問題はどちらも川の対岸から石を投げている事だと思いますが。

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好川哲人

技術経営のコンサルタントとして、数々の新規事業開発や商品開発プロジェクトを支援、イノベーティブリーダーのトレーニングを手掛ける。「自分に適したマネジメントスタイルの確立」をコンセプトにしたサービスブランド「PMstyle」を立上げ、「本質を学ぶ」を売りにしたトレーニングの提供をしている。