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2007年5月 7日 (月)

【補助線】適材適所とストレッチングゴール

適材適所という言葉をネガティブに受け取る人はほとんどいないだろう。しかし、この考え方は結構、「曲者」である。

適材適所というと、ほどんとの場合、「新しいやり方はしない」、「新しいやり方は認めない」という前提がある。ほとんどの場合と書いたのは、例外的に「何か新しいことをする」場合の適材適所というのは、新しいものを生み出せる人の配置を指すからだ。

パフォーマンスマネジメントの中にストレッチゴールと呼ばれる手法がある。これは個人に目標を与える際に、すでにその人が達成している目標よりやや高い目標を与え、その達成を「期待」することだ。

では、チームパフォーマンスをあげるにはどうするか?ひとつのやり方は、一人ひとりに対してストレッチゴールを与えることである。その積み重ねがチームのパフォーマンス向上に繋がる。確かにそうだ。これだけで十分か?

多くの人は、ここでチームワークといった「オバケ」を思い浮かべるのではないだろうか?

コンサルをしたプロジェクトでこんな経験をしたことがある。化学製品の開発プロジェクトだったのだが、プロジェクトの途中で中途採用の技術者がプロジェクトに入ってきた。とりあえず、そこの会社に慣れるためということで、まあ、勉強がてらといったところだ。

最初はメンバーの話を聞く中で、雑用係みたいなことをやっていたが、半月ほど経って、3名の実験チームの一人になり、実験の一部を担当した。ところが、他の2人と較べると常に早く終わる。最初はチームリーダーは、なれないので、やり方を間違っていると思ったらしいのだが、そうではなく、検証ロジックを組んで、並行して実験を進めていた。それで早かったのだ(といっても単なる実験計画法だが、、、)。これは前の会社で身につけた方法だった。ただし、技術スキルはもうひとつで、実験はいくつか手戻りがあった。

プロジェクトマネジャーは、仮にこの技術者がプロパーの社員であれば、その(重要プロジェクトと位置づけられた)製品開発プロジェクトには選ばれなかっただろうし、そもそも、うちの会社でエンジニアとして生き残れるかどうか怪しいとまで言っていた。にも関わらず、このプロジェクトマネジャーは、彼のやり方を自分のプロジェクトにどんどん取り込んでいった。

この例は偶発的だが、本当の意味での適材適所というのは、こういうものである。つまり、多様な視点で考え、どの視点が今一番必要かということを見極め、その視点から優れた人を割り振ることである。こうすれば、適材適所というのは失敗しないための方策ではなく、チームとしてストレッチゴールを達成するための方策になる。

冒頭に述べた曲者と書いた理由は、この視点設定ができない限り、いくら適材適所といっても非現実的だということだ。楽天の野村監督がヤクルト時代に雑誌のインタビューでこんなことを言っていた。「巨人みたいに1番が出塁し、2番がチャンスを広げ、3~5番で点を取るというような単純な野球なら、1番に足が速い人、2番にバントのうまい人、3番は足が速くて、中距離ヒッター、4番はホームランを打てる人、5番は勝負強い人と並べればいい。でも、そんな選手がいなければ、どんな野球をやるかというところから考え、その野球をできるチームを作らなくてはならない。これが王や長島には分からない監督の醍醐味」。

野村監督のどんな野球をやるかというのが視点設定である。人がいないといいながら、ステレオタイプのやり方でやって、人がいないから失敗したというのはナンセンスもいいところだ。確かに、個人の目標をストレッチしながらやっていけば、少しずつは、選手も育っていくかもしれないが、その前に監督を首になるだろう。

この議論はもうひとつ面白い含意がある。個が先か、組織が先かという議論でもある。ある視点設定でスペシャリストになると、別の視点設定をする組織では活躍できない。トルシエが中村俊介を選ばなかったのはこれだ。ここで個が先なら、自分の身につけたスキルに合う組織を捜すということになる。組織が先なら、個性を組織に併せるしか生き延びる道はない。つまり、自分のスタイルにこだわらず、組織の求めるスタイルになっていくことだ。

日本の会社は、個を活かすとかいいながら、やっぱり、組織が先で個を活かす方向を求めているだけのように見えるのはなぜだろうか?最後に、ひと言。モダンプロジェクトマネジメントというのはどう考えても個がありきの手法だな。

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好川哲人

技術経営のコンサルタントとして、数々の新規事業開発や商品開発プロジェクトを支援、イノベーティブリーダーのトレーニングを手掛ける。「自分に適したマネジメントスタイルの確立」をコンセプトにしたサービスブランド「PMstyle」を立上げ、「本質を学ぶ」を売りにしたトレーニングの提供をしている。