【補助線】プロジェクトをチャーターする
昨日は、第1回のPMstyleプライベートセミナーを開催した。好川と峯本さんがスピーカーを務め、
「世界の標準に見るプロジェクトのマネジメントの方向性」
というテーマで行った。このセミナーは今までにPMstyleのセミナーにきていただいた方への感謝の意味を含めて、限定的に行うセミナー。当然、メルマガなどでは告知していないので、このブログの読者でもセミナーページを見られていない方もおおいだろう。
【第1回 PMstyle Private Seminar】世界の標準に見るプロジェクトマネジメントの方向性
久しぶりにメルマガの開始当時にやっていたみんなが参加するフロアディスカッションをやった。面白かったが、その話題になったのが、Integrity(インテグリティ)。
峯本さんの話に誘発されて、フロアから、プロフェッショナルにインテグリティが必要なのは分かるが、現実にそれはどう実現するのかという質問が口火になったのだ。
僕は、持論である、日本語のボキャブラリがないものを標準として導入するのは、文化を創るに等しい仕事だという立場で意見を述べたが、実はこれを一番感じているのが、チャーターである。
名詞 charter はコウビルド英英では以下のように説明されている
A charter is a formal document describing the rights, aims, or principles of an organization or group of people.
一方で、charter に当てられる日本語「憲章」を広辞苑で引くと
重要なおきて。原則的なおきて。
と説明されている。おきてとは何かも書いていないし、重要とは何かも書いていない。
PMBOKでプロジェクト憲章というツールにはじめて出会うと、「プロジェクト憲章には何を書いたらいいのだろう」という疑問を持ち、説明を読んで、「ああ、そういうものか」と納得する。
PMBOKに書かれていることはあたかも、PMBOKで決められているように思えるが、実はこれはプロジェクトチャーターというツールというレベルで決まっているというよりも、文化、「しきたり」が charter という言霊になっているような話である。
charter という動詞は、例えば、飛行機をチャーターするとかいう使われ方をする。これは、「やとう」、「特権を許す」という意味である。権限委譲よりももっと強いイメージだ。
ついでにいえば、charter という動詞には、「許可する」という意味があり、許可書を発行するという意味でもある。つまり、 charter というのは許可書なのである。英語では、project chartering という言葉がある。プロジェクトをチャーターするのである。チャーターするためには、rights, aims, or principles of an organization をはっきりしておく必要がある。明快である。
言葉からこんなことを考えてみると、なんとなく、プロジェクトというのが組織にとってどんな位置づけのものか、感じることができるのではないだろうか?
ところが、プロジェクトチャーターをプロジェクト憲章とした瞬間に、このような言葉を構成する世界はすべて消えてしまう。だいたい、この憲章って誰が作るのかといった議論すら怪しくなっている。日本にスポンサーシップが根付かないのはこのためではないかと思っている。
マネジメントには、こういう例がたくさんある。例えば、昨日のセミナーで峯本さんが紹介したレスポンシビリティ(resopnsibility)。責任概念にはレスポンシビリティとアカウンタビリティがあるが、これは、いずれも「責任」である。言葉がないのだから、この区別をしろというのは無理な話だ。レスポンシビリティという概念がないので、コミットメントという概念もできない。
アカウンタビリティもレスポンシビリティもコミットメントもないところで、マネジメントを実行しようと思えば、プロセスにするしかない。これが、日本人にPMコンピテンシーがなかなか理解されない理由であろう。
しかし、このような壁を乗り越えて、コンピテンシーを身に付けていかない限り、本当の意味で日本人がプロジェクトマネジメントを実行する日はやってこないだろう。
壁を乗り越えずに、日本は日本のやり方で、米国のやり方とインタフェースをとっていくという方法もある。欧州PM協会のICBなどがやっている方法だ。
トヨタが米国文化の象徴のひとつともいえる自動車で世界一の企業になった。単に世界一になっただけでも凄いが、もっと凄いのは自分たちのマネジメントのやり方を世界中に普及して現地生産拠点を増やし、世界一になった。これは素晴らしいことだ。
なんどかTVでその方法をみたが、非常に地道なトレーニングをしている。インストラクタ(トヨタウェイのエバンジェリスト)が公私につき、模擬のラインを作ってスキルアップを図ると同時に、その考え方を丁寧に教えていく。「私」の部分でも、「トヨタマン」としての振舞い方を教える。まさに、人材育成の部分でもコツコツとやって、今の状況を作った。
こういうやり方もある。
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