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2007年4月 4日 (水)

【補助線】完璧を前提にしない品質マネジメント

プロジェクトマネジメントの中で品質マネジメントというのが分かりにくいという人が意外なくらい多い。同時に、特にソフトウエアプロジェクトの従事者では品質マネジメントに対する誤解があるように思う。

品質マネジメントの前提は、「ライフサイクルの全期間を通じて完璧なものはできない」ということである。

ハードウエアもソフトウエアも、出荷時に完璧なものを作ること自体、困難である。

ハードウエアだと、仮に出荷時に完璧なものができたとしても、経年変化があり、その性能が保たれる保証はない。

ソフトウエアの場合には、もう少し複雑である。「モノには経年変化があるが、ソフトウエアは未来永劫、同じように動く」という話があるからだ。ソフトウエアの内容にもよるが、一般的に情報システムを使い始めて年月が経過するとデータ量が増え、状況が変わってくる。これは一種の経年変化だ。しかし、これはある程度テストでシミュレーションをしているので、未来永劫動くと考えたくなる。しかし、シミュレーションで完全にすべてのケースを押さえることはできない。例えば、限界値だけで大丈夫だとするのは不十分なことが多い。データの増え方によって性能への影響が変わってくることが多く、組み合わせの世界がでてしまう。すると、やはり、完璧なものはできないことになる。

さて、このような状況で品質計画とは何か、品質マネジメントとは何かということになる。エンジニアは二言目には品質は絶対であるという。ここで言っている絶対とは、完璧ということではない。(契約的な)瑕疵がないということに過ぎない。ここまではスコープであるので当たり前の話だ。

ただし、そうであっても、特に納期とのトレードオフは一考の余地がある。エンジニアの人に言わせれば品質が第一であるが、これはプロジェクトの目標による。プロジェクトの目標が競合より早く商品を世に出すことであれば、品質を落としてでも、早く市場に出すという考え方はありうる。

こういうと、「そんなことをしたら、顧客に品質が悪いというイメージを持たれて、結局、競争に負けてしまう」という人が多い。これが正しいのは、日本とドイツくらいだ。それ以外の先進国でそんな品質意識を持っている国はない。

むしろ、上の出荷時には完璧ではないという点も背景に問題になるのは、出荷後の品質マネジメントである。

ある会社でこの話をしていたら、薬の議論になった。薬のように人の命に関わるものはまずいのではないかという話だ。これも違う。薬の場合、認可が契約仕様だと思うが、これは人体には安全であることを保証しているに過ぎず、効能書きどおりの効果があるかどうかは確率の世界だし、ある程度の確率で効果があれば認可される。薬の場合の販売後の品質は、薬剤師による如何に症状に適応する薬を飲むかのコンサルティングで行われる。

最近、事故が目立つ飛行機もそうだ。飛行安全性に影響を与えるところは網羅的なテストがされるが、それ以外の部分は、はやり、納期と開発費との見合いの話になる。不良が出てきた場合には、如何に迅速に対応し、部品を交換し、如何に稼動時間を増やすかで行われる。クルマや原子力プラントだって同じ発想だ。

この品質の議論は、ブランドの議論である。日本にメジャーなブランドが少ないのは、結局、上市後の品質マネジメントがきちんとできている企業が少ないからだ。それどころか、中国との戦いだとかいってコスト競争に巻き込まれ、逆行している。松下電器が顕著な例だ。あんなにナショナルブランドの構築に貢献したナショナルショップを捨てた。

話がそれたが、プロジェクトにおける品質マネジメントというのは、成果物のデリバリー時に絶対的な品質とそうではない品質をきちんと整理し、そうではない部分については、フォローの体制を構築することだ。

ポイントは「期待に沿うこと」である。そして、期待に沿うというのは、予め、持っているものに適合することではない。期待を一緒に創り上げていくことである。

ここがきちんと整理できない限り、プロジェクトマネジメントは答えのない方程式を解くような仕事になる。

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好川哲人

技術経営のコンサルタントとして、数々の新規事業開発や商品開発プロジェクトを支援、イノベーティブリーダーのトレーニングを手掛ける。「自分に適したマネジメントスタイルの確立」をコンセプトにしたサービスブランド「PMstyle」を立上げ、「本質を学ぶ」を売りにしたトレーニングの提供をしている。