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2010年5月 7日 (金)

【ポジティブでいこう!】第2回 プロジェクトマネジャーというタレント

◆アンカーを下します

前回は、ポジティブであるとはどういうことかについて見解を述べた。今回からポジティブなプロジェクトマネジメントを目指して、具体的な方策を探っていきたい。その中で南九州大学の島井哲志教授の

何か問題があったとしても、それは何か自分に悪いことがあって起きるのではなく、自分自身が自分のよいところを働かせれば克服できるような問題なのかもしれないと考えていきます。つまり、自分自身の責任で、目標を持って自分を育てていくことによって成長していくという、人間の持っているポジティブな働きのモデルを考えているのです。

という考えを紹介したが、しばらくの間、この考えをアンカー(錨)として使っていきたい。つまり、この考えを中心において、あっちこちにいき、また、戻ってくるということをするつもりだ。

実は、第1回を読んでいただいた心理学の専門家から、このモデルがポジティブ心理学のすべてではないですよというコメントを頂いた。勉強しながら記事を書いているので、ポジティブ心理学という分野の全体はみえていないが、まあ、それはそうだろうと見当はつく。ただし、この連載はポジティブ心理学の解説をすることを目的としているのではなく、プロジェクトマネジメントにどのように応用するかを考えることを目的としているので、とりあえず、これで行くことにする。なにごともポジティブにいこうだ。


◆スキルとタレントの違い

さて、どこから議論に手をつけるかと考えると結構、悩むのだが、「自分自身がよいところを働かせれば、みなさんにポジティブなプロジェクトマネジメントを伝えることができる」というポジティブな発想で、人材の問題から考えていきたいと思う。

その中でも、タレント(才能)のマネジメントについて考える。

まず、才能とは何かという問題である。スキルと何が違うのか?スキルは用途限定であるが、才能は用途限定ではない。誤解されるかもしれないが、あえてこう言いたい。まれに「何をやらせてもできる人」というのがいる。このような人は、オールマイティのスキルがあるわけではない。多くの人に共通するのは、スキルの習得に長けていることだ。つまり、短期間にスキルを習得し、それを活用していく「才能」がある。

これが、スキルと才能の象徴的な違いだ。


◆プロジェクトマネジメントでは、なぜ、タレントに注目しないのか

プロジェクトマネジャーなど、本来、ビジネスタレントの最たるものである。昨年になるが、知人で大手のSI企業で金融サービス業向けのプロジェクトマネジャーをされていた方が、数百億というプロジェクトのマネジャーとして金融サービス会社に移籍された。業界の知識はあるものの、立場は180度変わる。このケースなどまさに、スキルを請われたというよりはタレントを請われたと見るべきケースだろう。こういうイメージが持ちやすい分野である。


◆タレントに注目しない3つの理由

しかし、一方で社内にタレントを育成しようという雰囲気はない。理由は3つあるように思う。

まず、真っ先に上げたいのは、組織として「タレント」という概念、つまり、一般的に考えられている「優れた才能を持つ限られた人」、つまり突出した人材を作ることに抵抗があったことである。あとに述べるが、このようなタレント観はもう時代錯誤でになりつつある。そもそも、タレントという言葉から多くの人が連想する芸能タレントさえ、そういう存在ではなくなりつつある。以前は突出したところだけを露出し、一般人とは違うのだという演出をしていたが、今では、普通の人と同じ部分もあり、その中で一芸に秀でたところがあると演出の方が売れるようだ。

二つ目は、もっと現実的な理由。一つは日本ではプロジェクトマネジメント取り組みが遅れており、プロジェクトマネジャーの育成も多くの場合底上げまでが精一杯で、プロジェクトマネジメントに必要な才能のマネジメントをするだけの時間もカネもないこと。

この2つの理由の理由から、プロジェクトマネジャーの人材育成においては、スキル習得にターゲットを絞り、一定のスキル習得が終わったら、後は本人の問題だとしている企業が多い。

そして、三つの目の理由は必要性という意味では根本的な理由で、本当の意味で戦略的な経営をしていないことである。普通に考えれば、競争を実行するには、他社にはない人材の存在は不可欠である。しかし、戦略が横ならびであると、人材に多様性は必要なく、パフォーマンスの高さだけ勝負になる。つまり、特定の方向に徹底的に個人のスキルを高め、組織のパフォーマンスを上げることが好ましい。多くの企業ではプロジェクトマネジャーもこの発想で育成されている。テーマは、失敗をしないことに対して、高いパフォーマンスを発揮することだ。


◆なぜ、タレントが必要か

しかし、戦略において競合を差別化しようとすると、パフォーマンスより、組織能力の多様性が問題になる。プロジェクトであれば、絶対にプロジェクトを失敗させないプロジェクトマネジャーも必要であるし、価値を追求することに長けたプロジェクトマネジャーも必要になることが多い。ここで問題になるのは、スキルではない。賛否はあると思うが、イノベーションを引き起こすスキルというのはない(と僕は思う)。人的な意味で、イノベーションの源泉になるのは、コミュニケーションスキルも含めた個人のタレント、資質である。

さらにいえばイノベーションといっても、プロダクトイノベーションとプロセスイノベーション、テクノロジーイノベーションでは、必要な資質は違う。が、差別化のためには、この3つのイノベーションは不可欠だろう。

さて、前置きが長くなったが、優れた戦略を策定し、実行するには、個人を、才能、個性、強みなどを持ったタレントであると考え、タレントとしてマネジメントし、最大限にそのタレントを活用していくことが不可欠である。その中で、もっとも重要なのが、戦略実行の質に大きく影響を与えるプロジェクトマネジャーというタレントである。


◆才能に注目したプロジェクトマネジャーの人材マネジメントの例

自社の事例で恐縮だが、実際に、弊社では、プロジェクトマネジャー育成において、10日間のトレーニングの中で、自分自身の強みと弱み、才能、個性を分析し、「実践性のある(プラクティカルな)強み」を活かしたプロジェクトマネジメントの「規範(ディシプリン)」を設定し、ディシプリンに基づき、日常的なプロジェクトマネジメントの活動に取り組むという試みを10年に渡り行っている。

この結果は非常に興味深いのだが、同じ企業の同じ事業部の同じ立場(例えば、主任)が30人いれば、規範のパターンとして10以上のパターンが出てくる。企業によっては、本当に30人30様というような企業もある。

さらに、興味深いのは、受講者同士の評価との関係である。10日間も研修をやっていれば、一目置かれる人が出てくる。これはだいたい、日常業務の評価と合致することが多い。つまり、職場で一目置かれる人は、研修でも一目置かれる。

一目置かれている人を観察していると、スキルがあるから一目置かれているケースは少ない。まれに、研修の開始時に、バリバリにプロジェクトマネジメントの知識や経験知を持っている人がいて、最初の内はチームを引っ張るが、必ずしも最後まで続かない。最終的に一目置かれるのは、スキルとは違う何かを持つ人だ。もちろん、そのような人はスキルも高い人が多いが、それ以外に何か才能を持っていて、それをうまく使っている。

たとえば、研修の範囲でいえば、その人が入るだけでグループワークのパフォーマンスが高くなる人がときどき、いる。スキルフルで引っ張っていくリーダータイプの人もいるが、そうではない。自然にみんなが動き、よい成果が生まれる。これはコミュニケーションの才能を持っている人だ。コミュニケーション術とか、交渉術とか、ファシリテーションとかでカバーできる範囲ではない。コミュニケーション系タレントである。

コミュニケーションがよい例だが、スキルでできる範囲と、才能と言える範囲は明らかに違う。これがスキルと才能が混同される理由でもある。コミュニケーションの才能がある人であればきっとプロジェクトをコミュニケーションだけで引っ張っていくことができる。しかし、コミュニケーションスキルしか持たない人には、助けになってもそれだけでは難しい。


◆タレントとは何かがよく分かる本。

タレントの開発に力を入れているギャラップという会社がある。ギャラップというより、マーカス・バッキンガム氏の方が有名かもしれない。

さあ、才能に目覚めよう

というほんの著者だ。この本にギャラップ社のマネジメントの原理が書いてあり、才能の体系も示されている。

ただ、この本を読むより、最近、日経BP社の谷島宣之さんが関わった本で、

ビジネスリーダーにITがマネジメントできるか

という本が出たのでこちらを読んでみることをお奨めする。この本は金融サービスの会社を舞台にしたITマネジメントのケースブックなのだが、この主人公はローンサービスのトップにいたが、CEOの決断で、CIOを任される。もちろん、ITのことは何も知らない。当然、受けるかどうかを悩む。そして、受けることを決断をする。

そして苦労を重ねながらも1年間で成果を出すのだが、この主人公の才能は、人の話をよく聞き、ものごとを柔軟に考えることだ。これもスキルだと思う人もいるだろうが、傾聴のスキル、柔軟な思考スキルだけで、ITの素人がCIOとして成功するかどうかは考えてみればすぐに分かる。才能だといえるレベルであるので、できるのだ。

このような才能というのは大抵の人は持っているものだ。この先は次回、お話する。


【参考文献】
金井 壽宏編著『「人勢塾」ポジティブ心理学が人と組織を鍛える』、小学館(2010)
島井哲志「ポジティブ心理学入門 幸せを呼ぶ生き方」星和書店(2009)

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好川哲人

技術士&MBA 技術経営のコンサルタントとして、数々の新規事業開発や商品開発プロジェクトを支援、イノベーティブリーダーのトレーニングを手掛ける。「自分に適したマネジメントスタイルの確立」をコンセプトにしたサービスブランド「PMstyle」を立上げ、「本質を学ぶ」を売りにしたトレーニングの提供をしている。