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2006年11月21日 (火)

【補助線】考古学のようなプロジェクトマネジメント

原丈人という実業家がいる。原さんは、実業家として、手始めに光ファイバーのベンチャー事業で成功し、その後、ベンチャーキャピタルを創設する。技術型のベンチャー育成投資家としては、ボーランド、ゾーラン社などの育成で名をはせている。欧米で活躍している実業家なので、日本ではあまり著名ではないが、世界トップの育成投資家の一人である。

原さんは慶応大学の法学部の卒業で、ファーストキャリアはなんと、考古学の研究者である。一度、原さんの話を聞いたことがあるが、考古学研究とベンチャー発掘育成は似たところがあるという話をされていて、なるほどと妙に感心してしまった。

そのようなものの見方をする原さんが、雑誌ウェッジに非常に面白い記事を書いていたのが目に留まった。

ビジネススクールの流儀はもはや人を幸せにできない

という過激なタイトルだ。原さん自身、スタンフォード大学経営学大学院に学んだ経験がある。この記事の内容もとても面白い。ビジネススクールの流儀の数字絶対主義の経営が米国で主流になったのは、米国がいろいろな人種が住む国であり、その中で、唯一、共通の価値観、言語になりえたのが数字だったからだという指摘をしている。その上で、もはや、そのような価値観に行き詰まりが生じ、新しいパラダイムを探しているというだ。ところが、そのような価値観にも関わらず、日本ではいまだに、数字絶対主義経営がもてはやされているのはどういうわけだという問題提起をしている。

この記事を読んで真っ先に思ったのが、この構図はプロジェクトマネジメントの構図そのものであるということ。プロジェクトマネジメントがダイバーシティを前提にしているというのは、難しい話でも何でもなく、単に現象や価値を数字に置き換え、マネジメントをしているに過ぎない。そして、グローバル企業においては、このような考え方が有効だとしている。

イラク戦争を見ても、過去の歴史をみてもそうだが、ものごとを単純化するというのはアメリカという国の特徴である。しかし、ものごとを単純化すると免疫がなくなり、純粋に体力勝負になる。国でいえば大国、企業で言えばグローバル企業だけが有利な構図だ。

プロジェクトマネジメントで重要だとされていることにリスクマネジメントがある。これは間違いないと思う。しかし、リスクマネジメントの識者の共通の見解として、

 リスクに強い組織を作るには原理原則を重視し、ものごとを単純化しないことが大切

というのがある。米国がよくやるのは

 ものごとを単純化し、単純化された世界で原理原則を大切にする

という、強者が生き延びるためのレトリックである。

米国発のPMBOKのリスクマネジメントの原理を思い出してみてほしい。まず計画と称して、現象や価値を数字化する。その上にリスクというのを定義しているのだ。かつ、数字化するから、リスクが明確になるとまで言っているし、そこでさらにリスクを数字化するという点に及んでは驚きである。

まさに、単純化しておいて、リスクを高め、リスクマネジメントは大切だというマッチポンプをやっているわけである。本当にリスクマネジメントが大切であれば、簡単に数字化すべきではない。現象をきちんと扱っていくべきである。

そして、日本には昔から、そのような知恵があった。それが、ビジネススクール流で崩れつつある。

最近、可視化というのは注目されている。これがまた危険な発想だ。可視化をする前に現場を見るべきである。数字化しておいて、現場(現実)を見えなくし、可視化するというなんとも訳の分からない話だ。これもビジネススクールの流儀だ。

奇遇にも同じウェッジにソニーの不調の話が出ていた。「ビジネス書の杜」ブログでも紹介したが、天外伺朗さんの

マネジメント革命

https://mat.lekumo.biz/books/2006/10/post_62e3.html

という本がある。

この本に書かれているのは、まさに、ものごとを単純化しない経営である。

天外伺朗さんは、実は、ソニーでNEWSワークステーションや、AIBOを開発された土井利忠さんのペンネームである。NEWSやAIBOそのものが成功したかどうかというのは微妙なところだが、土井利忠さんが実践されてきたようなマネジメントが本当の意味での現場力を生み、ソニーの反映に寄与したことは間違いないだろう。間違っても、電池の発火原因が数ヶ月経過しても分からないといったことはなかったと思う。

PMBOKを導入した。しかし、何かうまく行かない。しっくりこない。腑に落ちない。

ある人はこれをPMBOKへの理解が足らないという。PMBOKを感じていないという人すらいる。

しかし、本質的に、数字的なマネジメントがそぐわないという組織も少なくないと思う。ソフトウエアの企業で、CMMIやPMBOKを導入して、「社相」が悪くなったなと思う会社がいくつかある。クライアントであれば、だんだん、お付き合いがなくなっている。

ビジネススクールの流儀ではないプロジェクトマネジメントを考えるべきときにあるのではないかと思う。単純化して理解しあうのではなく、コミュニケーションにより相互理解を形成するグローバルマネジメントを考えるべきであろう。

まさに、原さんの言う考古学のように現実を直視し、ありのままに受け入れ、大切に扱っていくようなマネジメントである。

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好川哲人

技術経営のコンサルタントとして、数々の新規事業開発や商品開発プロジェクトを支援、イノベーティブリーダーのトレーニングを手掛ける。「自分に適したマネジメントスタイルの確立」をコンセプトにしたサービスブランド「PMstyle」を立上げ、「本質を学ぶ」を売りにしたトレーニングの提供をしている。