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2006年10月 9日 (月)

言葉がマネジメントを変える

文部大臣が小学生から英語を勉強させる必要はないといって、ちょっとした騒動になった。行政の一貫性を無視した発言なので、発言そのものはどうかと思うが、考え方は与したい部分がある。

英語でコミュニケーションできることはこれまでもこれからも必須である。そして、言語中枢は10歳くらいまでにかなり出来上がってしまうので、小学生から学ばせることが望ましい。この理屈は良く分かる。

しかし、言葉というのは文化である。モノがなければ、単語はない。思考法がなければ、その思考法を具現化するレトリックはできない。典型的な例を挙げれば、否定と肯定だ。例えば、「基本的にそれでよいと思う」という言い方がある。これを英作文しろといわれれば、困る。文脈が明確な中で、合意する前提条件を明確に述べるといったことしか思いつかない。

こういう言い方はビジネスの中で論理的にものごとを進めていく際の障害になるので、歓迎されない。しかし、逆に明確にすることで問題が派生するケースがある。

例えば、顧客の要求を明確にする作業の中で、顧客が「基本的にそれでよいと思う」と言ったとすれば、「だいたい、よいと思うが、まだ自分たちにも見えない部分があるので、それを基本路線として一緒に考えてほしい」というような意味のことが多い。分からないのだから、条件として明確にかけない。しかし、書こうとするので、不完全な条件記述になる。当然、後でトラブルの元になる。こんな感じだ。

どこに問題があるかというと、言葉の背後になる行動様式の違いがあり、そもそも、それは文化に拠る部分が大きい。ソフトウエアの世界でいえば、仕様記述の問題としてワインバーグがこの問題はよく指摘しているし、ユースケースなどが使われだした理由もここにある。ユースケースは英語でも日本語でもない新しい言語ということになり、そこに新しい行動様式、思考様式を築いていこうという試みだ。

マネジメントとか、エンジニアリングでは、多くの場合、欧米から日本に概念を持ってくるので、この逆のケースがよく発生する。プロジェクトマネジメントでもそれはある。

よい意味でもっとも痛感するのがスコープ。この言葉は日本語にはない。だから外来語としてカタカタになっている。スコープという言葉を一つ導入することで、今までやってきたいろいろな工夫も説明できるので、導入に意味がある例。実際に、組織のプロジェクトマネジメントを導入すると、真っ先に普及する言葉はスコープであることが多い。今まで、もやもやしていたのが、霧が晴れたように言葉にできたのだと思う。

逆に、どうかなと思うのが、レスポンシビリティ。例えば、RAMに相当する概念は体制図だと思うが、日本的な業務運用を考えると、RAMより体制図の方が自然だし、定義する意味がある。日本的な考え方では責任とは連帯責任であり、いろいろな意味でプロジェクトを最後まで成し遂げるためにはプラスに働くことが多い。極論すれば、WBSがなくても、職務記述があれば、やってしまうのが日本の組織である。

PMBOKがこのやり方よりよいなどとは言い切れないだろう。民主党が農業政策として付加価値を全面に押し出した政策を主張しているが、工業の分野でも同じような特性がある。少なくとも、日本人は、このやり方で高い付加価値の商品を生み出してきた。これは日本人のDNAであり、文化でもある。

このような文化の中に、不用意に新しい言葉を入れると、琵琶湖の外来魚のようになってしまう可能性がある。外来魚が従来の生態系を壊したように、その言葉が文化を壊してしまう可能性がある。

技術をどんどん、欧米から導入するのは明らかにプラスである。しかし、マネジメントを不用意に入れるのは、日本人のコアコンピタンスである現場を壊してしまう可能性が高い。そろそろ、考えるべきときに来ている。

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好川哲人

技術経営のコンサルタントとして、数々の新規事業開発や商品開発プロジェクトを支援、イノベーティブリーダーのトレーニングを手掛ける。「自分に適したマネジメントスタイルの確立」をコンセプトにしたサービスブランド「PMstyle」を立上げ、「本質を学ぶ」を売りにしたトレーニングの提供をしている。