【コンセプチュアルスキル入門】第16話 専門分野の知識を別の分野に応用する
日本ではやっと終身雇用が終焉を迎えそうな気配になっています。終身雇用が終わるということは同時に年功序列が終わることを意味しており、より高い報酬を得ようとすると、キャリアで得たスキルなどをうまく活用する必要があります。
もっともシンプルな活用の方法は、自分のスキルが必要としている企業へどんどんと転職していくことです。昔の日本であれば大企業で働いていると、えられたスキルは中小企業で活用できるとか、あるいは発展途上国に行って活用できるといったキャリアパスがありましたが、今はそれも怪しくなっています。
日本が国際的に後れを取った一因でもありますが、終身雇用の大企業で使っているスキルが古いという問題があり、そこでやってきたことを発展途上国はもちろん、国内の中小企業でも活かせないケースが増えています。
たとえば、一昔前なら大手のIT企業に勤めていればIT化したい中小企業から引く手数多でしたが、今では、中小企業はシステム開発をせずにIT化をしており、あまり役に立たなくなってきています。
また、これも大企業が先行しており、中小企業からの人材の要望が多かったのが品質管理の分野ですが、こちらはISOの専業のサービスベンダーが増えて、中小企業が自社で人を抱えて取り組むような状況ではなくなってきました。
◆スキルの別分野への応用
このような状況を受けて考えなくてはならないのは、第2の方法で、自分のスキルを別の分野に応用していくことです。これをキャリアに取り入れるにはまさにコンセプチュアルスキルが必要です。
著者の知り合いで、機械設計のエンジニアをやっていた人がいます。彼は、35歳くらいのときに、社内のリストラクチャリングの影響でソフトウエアの事業の部署に担当が変わりましたが、その後2~3年でその部署でトップの一人だと評価されるようなソフトウエアエンジニアになっていました。
理由を聞いたところ、プログラミング言語は好きなので一生懸命勉強したが、それ以外は機械設計の経験が活きたということでした。もう少し、掘り下げて聞くと一番、役だったのは
「部品の機能を明確にすることによってシンプルな製品ができる」
という知見(実践知)だったそうです。この知見は、機械設計のさまざまな経験を抽象化したものになっています。この知見をソフトウエア設計に応用して
「(見えない)部品の定義を明確にし、機能の明確化をすることによって、シンプルな構成のソフトウエアができる」
と考え、これをソフトウエアを設計する際に基本的な方針にしたそうです。そして、この方針でソフトウエアを設計し、プログラムを書いていったそうです。
ソフトウエア部署に移動して数年後、マネジャーになりました。ここで、また、コンセプチュアルな応用をします。それは、
「部品の機能を明確にすることによってシンプルな製品ができる」
という知見をさらに抽象化して
「構成要素の役割を明確にすることでシステムをシンプルにできる」
という知見(知識)にします。この知見を応用して
「部門のミッションを明確にすることによって自立的な戦略実行が行われるようになる」
という方針でマネジメントを行い、組織を動かすことによって、部門の生産性を従来の1.3倍にしたそうです。
◆コンセプチュアルスキルがキャリアを成功させる
このようにコンセプチュアルスキルによって、自分の経験を抽象化し、本質を捉え、本質を応用することによって新しい業務において成功をおさめたという例です。このようにキャリアを活かして、別の分野で活躍するできることは比較的、古くからある考え方です。
例えば、経営コンサルタントにはエンジニアが多いという時代がありました。大前研一さんなど数人のエンジニア出身の経営コンサルタントが第一線で活躍していた時代ですが、大前さんのやり方を見るとエンジニアはアナロジーを感じることが多分にありました。後に、MBAブームが起こったときに、エンジニアの人は次のキャリアのためにコースに行っていた人がたくさんいました。これも大前さんたちの影響だと言ってもよいでしょう。
このようにいくつかの分野で活躍している人は少なくありませんが、共通しているのはコンセプチュアルスキルが高いことです。そして、その基本的なメカニズムは上に述べたようなものだと考えられます。これまでもコンセプチュアルスキルが高い人と低い人ではキャリアの歩み方が違いましたが、終身雇用が終わったこれからは、ますます、この傾向が強くなるように思われます。
さて、これで一応、コンセプチュアルスキル入門の話は終わりですが、この後、具体的な事例を取り上げ、コンセプチュアルスキルの高い人と低い人のイメージを示して行きたいと思います。
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