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2013年1月 3日 (木)

≪サプリHNY≫古い船で新しい海に出ていく

Fune1古い船には新しい水夫が乗り込んでいくだろう(吉田拓郎、シンガーソングライター)

◆古い船を動かせるのは、新しい水夫だ

今回のサプリは、日本のフォークソングの大御所 吉田拓郎のシングルデビュー曲「イメージの詩」の一節。1970年に発売された詩である。1970年といえば、戦後の復興からの高度成長が一段落した時期で、次の新しいものが模索された時期だ。連合赤軍のように、それまでとは違った社会体制を目指す活動も出てきた。今、思えばこの時期の乗り越え方がそのあとのバブルの崩壊から失われた20年を引き起こした原因を作っているようにも思える。

その中で、ソフトな表現の詩で変革を訴えたのが吉田拓郎というシンガーソングライターで、その代表作だといってもよいのがこの「イメージの詩」である(世の中的には、「結婚しようよ」とか、「旅の宿」ですが)。このサプリのフレーズの後に、古い船を動かせるのは古い水夫ではなく、新しい水夫だ。なぜならば、古い水夫は古い船で新しい海に出ていく怖さを知っているからだといった歌詞が続く。

今、まさにこのメッセージをかみしめたい時代になっている。


◆経験重視では乗り越えられない時代

リーマンショックのあと、経済環境が大きく変わっている。高度成長期を支えてきた人たち、あるいはその人たちの薫陶を受けた人たちが「経験」を重視する今の社会や企業を引っ張っている。

僕が会社に入ったのは80年代の前半であるが、その頃はいまほど経験が重視されていなかったような記憶がある。経験よりは、理論が重視されていた。ところが、それから30年くらいの間に、どんどん経験が重視されるようになってきているように感じる。経験は重要であるが、経験偏重に陥ると、新しい海に出ていけない古い水夫が多くなり、企業は停滞する。

失われた20年間は、古い水夫が新しい海に出ていけなくて、新しい海に出ていける新しい船を作れと騒いでいるうちに過ぎた。典型的なのは新しい技術を生みだそうとしたことだ。古い水夫は新しい技術があれば新しい海に出て行けると考えたわけだが、これは間違いだった。古い水夫は新しい技術だけでは新しい海に出ていけなかったのだ。多くの船は遭難した。


◆イノベーションの時代

今、イノベーションが求められているのは、そういった背景がある。求められているのは、新しい船だけではない。新しい水夫が古い船で新しい海に出ていくことである。その一つの例を挙げれば、このところ盛んに言われている「枯れた技術によるイノベーション」である。

ところが、ことはそう単純ではない。社会や企業においては、古い水夫は権力を持っているからだ。古い水夫は、古い船を手放さない。手放さないだけではなく、古い船で安全にいける海を探せと言っている。

イノベーションを叫びながら、一向に進展がない。そんな状況を引き起こしている原因の一つがこれである。

もう一つ、新しい船を作れというタイプの古い水夫もいる。しかし、その水夫も新しい海に出るのは怖いので、古い海で新しい船を走らせることを望む。これがイノベーションを実行しても成果が出ない理由である。


◆新しい水夫は古い船を古い水夫から奪え

新しい水夫はまず、古い船を、古い水夫から奪わなくてはならない。権限は委譲されるものでなく、委譲させるものである。古い船でどのように新しい海に出ていくかを明確に示し、古い水夫を納得させ、船を奪わなくてはならない。

そして、勇気を持って新しい海に出ていくことである。ここでも古い水夫は新しい海の怖さをいろいろというだろう。しかし、彼らは新しい海のことを本当には知らない。彼らの経験に照らしてその怖さを語っているだけだ。新しい海の怖さは、新しい海でもがいて初めて分かる。まず、出て行かないことには何も分からない。

今年は新しい海に出ていく1年でありたい。

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好川哲人

技術経営のコンサルタントとして、数々の新規事業開発や商品開発プロジェクトを支援、イノベーティブリーダーのトレーニングを手掛ける。「自分に適したマネジメントスタイルの確立」をコンセプトにしたサービスブランド「PMstyle」を立上げ、「本質を学ぶ」を売りにしたトレーニングの提供をしている。