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2009年7月21日 (火)

【補助線】目的と手段

◆目的と手段を混同してはならない

プロジェクトの企画にしろ、戦略策定にしろ、目的と手段を混乱してはならないという話は、昔から、よく言われる話である。

たとえば、野球の投手。何とかバッターを抑えたいと思って、早い球を投げれるようになりたいと思った。とりあえず、155Kmの球を投げれるようになろうと決める。早い球を投げることに熱中するあまり、いつのまにか、155Kmの球を投げることが目的になってしまい、本来の目的であるバッターを抑えるというのは忘れてしまっている。

イメージとしてはこんな話だ。

プロジェクトでもこの種の話をよく聞く。本来、目的があって、スコープが決まるのだが、「とりあえず」スコープが決まっているケースがよくある。つまり、目的が曖昧なままでスコープを決めている。

すると何が起こるかというと、スコープを忠実に実現することが目的になってしまう。

◆プロジェクトのスコープは目的か手段か

本来、スコープというのは目的を達成するための「手段」である。PMBOKのスコープの概念は非常に良くできていて、スコープをプロジェクトスコープとプロダクトスコープに分けている。どのような目的を設定しても、この両方のスコープでほぼ、定義できるようになっている。

投手の例でいえば、必ずしも、155Kmの球を投げられるようにならなくても目的は達成できる。手段だからだ。ところが、手段を目的だと思い込んでしまうと、そうは考えない。「155Kmを投げられなければバッターを抑えることはできない」と思ってしまうことが多い。冷静に考えると不思議なのだが、それで故障してしまう選手もいるようだ。

プロジェクトの話でも同じだ。傍から見ていると非常に不思議だし、それを指摘しても当事者じゃないからそんなことが言えると噛みつかれるのがおちなのだが、なぜか、こだわる。

◆もの作りの本質は

といいたいが、実が、この話はもっと奥があるのではないかと思っている。本来の目的は目をつぶり、手段の一つ、おそらくもっとも重要な手段を目的に転嫁して、プロジェクトを動かしているのではないかと思うのだ。

だいたい、日本人というのは目的を考えない。とりあえず、やってみることを優先する。目的だと、目標だとの言い出してと、理屈っぽいと思われるという経験は一度や二度ではない。

ドラッカーの石切工の話がある。教会建設の現場で働いている石切工に「そこで何をしているのか」と聞いた。ある石切工は「生活のために働いている」といった。ある石切工は「石を切っている」といった。ある石切工は「教会を建てている」といった。マネジメントとは組織や人を3番目のようになるようにすることであるという話だ。

ところが日本人は、二番目を重視することが多い。職人気質。その石が使われるのが、教会の建物のためであろうと、城であろうと、墓であろうと、とにかく、注文通りにぴたっと切るのは、当たり前。強度を考え、石の切り出し方まで考えて、長くこの石を使った建設物が持つようにするのができる職人という価値観がある。日本のもの作りの本質はこれだ。これができるのは日本だけではないかと思う。

◆多くの人が関わるプロジェクトでは目的を明確にしてほしい

たとえば、同じ精緻なもの作りをする国でもドイツ人は全体から部分を展開した上で、部分を作る。このやり方だと合理的に精緻なものが作れる。日本人は、部分から全体を想像し、部分を作っていくことができる。非合理がある。しかし、日本人はそれを無駄とは考えない。

どちらがいいかは前提の問題である。少なくとも「プロジェクトマネジメント」と呼ばれる仕事は、このような職人を束ねて進めていくことを前提としているので、やはり、「教会を建てている」と言えるようにしたいなと思う。

つまり、スコープを目的にするのではなく、スコープの上位にある目的をしっかりと設定し、スコープはその目的達成のための手段であるべきだと思う。

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好川哲人

技術経営のコンサルタントとして、数々の新規事業開発や商品開発プロジェクトを支援、イノベーティブリーダーのトレーニングを手掛ける。「自分に適したマネジメントスタイルの確立」をコンセプトにしたサービスブランド「PMstyle」を立上げ、「本質を学ぶ」を売りにしたトレーニングの提供をしている。