【補助線】コストが品質に与える影響
◆あるエクスサイズ
なかなか、貴重な体験をした。PMstyleのコミュニケーションマネジメントのセミナーを受講された方は記憶にあると思うが、X-podというレゴブロックを使って、プロジェクトマネジャーの指示で40部品くらいのロボットを組み立てるグループエクスサイズがある。
プロジェクトマネジャーが完成図や組み立て図を別の場所で見てきて、メンバーに指示を出して設計図通りのロボットを完成させるというエクスサイズで、コミュニケーションの難しさを体感すると同時に、コミュニケーションスキルを磨くことを目的に行うエクスサイズである。
エクスサイズでは、最初は何もせずに、とりあえず、取り組んでみる。すると、まず、完成できるチームはない。過去に実施した回数は三桁だが、1回目で完成したチームは一桁にとどまっている。1回目での成功理由は、「プロジェクトマネジャーが絵を描くのが早く、うまい」、「レゴフリークがたまたまチームにいた」の2つで100%である。
2回目は1回目の経験を振り返り、コミュニケーションのルールを決めたり、あるいは、チーム内のメンバーの連携の方法を決めたりして望む。すると、4グループあれば、だいたい、2~3グループは完成することができる。
先日事情があって、このエクスサイズをあるIT企業でルール変更して行った。プロジェクトマネジャーが完成図や組み立て図を見ている時間をコストに見立てて行い、途中でインストラクターが予算カットを指示するというルールを追加した。すると、おもしろいことに、2回目も1チームも完成できなかった。
4チームのうちの3チームはほぼ、完成しているのだが、微妙なところで間違っていた。振り返りで、間違った理由を聞くと、3チームとも「コストが気になって、きちんと最後の確認できなかった」ということだった。
◆なぜ、コストを意識すると品質が下がるのか
コストを下げて品質を上げるのがエクセレントなプロジェクトマネジメントであるというのが僕の信念なので、なぜ、こういう現象が起こるかということを少し考えてみた。
結論はコントロールできていないから。コストを制約条件として認識する気持ちはとても強い。その意味でコスト意識はある。しかし、それは単にコストを超えてはならないという意識であって、コストを思ったようにコントロールしていこうという意識ではない。もちろん、それではコントロールもできない。
著者は以前より、プロジェクトをコントロールできるか、プロジェクトに振り回されるかという違いが、一人前のプロジェクトマネジャーといえるかどうかの違いだと言い続けている。メルマガなどでもこれは書いていて、結構、誤解されているケースが多いのだが、コントロールできるということと、コストオーバーしないことは別問題だ。これは、PMBOKの基本思想でもある。
コストオーバーするかどうかは結果に過ぎない。重要なのはコントロールするというプロセスである。コストでいえば、コストを最小限に抑えると言うことなのだが、具体的なプロセスでいえば、常に計画が最初コストで進んでいくように見直しをされ、その計画に基づいて作業を進める努力が行われている状態である。
当然のことながら、このように進めていくと、計画にどのようなリスクがあるかもわかるし、また、先の見通しもついている状態である。
◆マネジメントするのはコストであって、予算ではない
さて、この問題を議論するときに気になるのは、予算とコストの区別がついていないプロジェクトマネジャーがいることだ。かつ、プロジェクトマネジメントは予算管理ではなく、コストマネジメントだということをきちんと理解できていない人も意外と多い。
このような人たちは、コスト計画(原価計画)を作らず、予算計画を作る。そして、予算計画をコスト計画だと言っている。具体的にいえば、プロダクトスコープに対する営業見積もりだけでプロジェクト予算計画を作っているようなケースがこれに該当する。
このような状況で実績コストが嵩んでくるとどうなるか?コストに目がいかないので、予算が足らないという話になる。つまり、コスト削減ではなく、予算アップの努力をすることになる。言い換えると、コストのマネジメントではなく、予算のマネジメントに走る。ここが最大の分岐点である。
コストをコントロールするというのは、予算内に納めることではなく、コストマネジメント計画を作り、コストを最小化することである。このようなコストコントロールができて、初めてコストを意識することによって品質を上げることができるようになるだろう。
コメント