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2009年1月20日 (火)

【補助線】問題と問題点

◆問題とは何か

問題という言葉は何気なく使う言葉だが、正確な定義は結構難しい。出版業界は昨年くらいから問題解決本のブームになっていて、すごい点数の書籍が出版されている。それらの本で一様に書いているのは

問題とは目標(あるべき姿)と現状(ありのままの姿)のギャップであり、解決すべき事項である

という定義である。ここまではほとんど異論はないだろう。問題はこの解釈である。実はこのステートメントは突っ込みどころ満載だ。少なくとも

・誰の目標
・誰のみた現状
・誰が解決すべき

の3つは明確が明確になっていないとこのステートメントは意味をなさない。多くの人は「ギャップ」という言葉に目を奪われるので、ふんふんと思う。あるいは、そんなのはすべて組織だろうという人もいるかもしれない。問題解決というのは行動だ。動詞で語るべきことだが、組織って主語になるのかって突っ込みもある。

このあたりの議論になってくると、山のようにある本の中でも、書ききっている本は多くない。昨年出た問題解決の本の中で、もっともきちんとこれをかけていると思うのは、コンサルタントの小宮一慶さんの

ビジネスマンのための「解決力」養成講座
ビジネスマンのための「発見力」養成講座

である(発見力は一昨年の出版)。そもそも、出版ビジネスをやっている人以外が、問題発見をスキルだと言い切ることがよくわからない。その意味でこの本は問題を解決するというのはどういうことかをきちんと考えさせる良書である。

◆問題点とは何か?

さて、問題という言葉と同時に使われる言葉に、「問題点」という言葉がある。この意味をきちんと説明できる人はどのくらいいるだろうか?

たとえば、こういう状況を思い浮かべてほしい。

ある男性が夜中にたばこを切らせてしまい、歩いて自動販売機に買いに行ったが、販売機の前でTASPOカードを忘れていることに気がつき、慌てて引き返そうと横断禁止の道路を横断しようとしたが、急カーブのセンターラインをオーバーしてきた飲酒運転の車にはねられてけがをした

たばこを買いにいった男性がけがをしたというのが問題のような気がする。これはいいと思う。誰にとっての問題か?ここはしばらく側に置こう。

ここで問題点と読んでいるものは、問題を引き起こしている原因である。上の例だと「夜中にたばこを切らせた」、「TASPOカードを忘れた」、「横断歩道のない道を横断しようとした」、「カーブで道の見通しが悪かった」、「センターラインをオーバーした」、「車の運転手が酒を飲んでいた」などいろいろと考えられる。

ある人は飲酒運転が悪いに決まっているという。また、別の人は男性の不注意だという。ひょっとすると、その道を車で通ったことのある人は、カーブが急なのは問題点ではないかというかもしれない。

どう考えたらよいのだろうか?もっとも重要なもの?すべて?いろいろな考え方がある。

ここで問題になるのが最初の指摘である。誰にとっての問題か?というので答えは変わってくる。男にとっての問題であれば、横断禁止の道路を渡ろうとしたことかもしれないし、ひょっとすると、夜中にたばこを切らせたこと、あるいはたばこを吸っていることかもしれない。

運転手にとってなら、飲酒していたことはもちろんだが、センターラインをオーバーするような運転技術しかないことが問題なのかもしれない。行政にとっては、道の構造かもしれないし、飲酒運転が絶えなことかもしれない。ひょっとするとTASPOが携帯電話のICカードに入っていればなんて問題をいう人もいるかもしれない。

また、社会的な視点ということであれば、法律に違反しているかどうかは重要な問題点の基準になる。上の例だと、酒を飲んで車を運転している、横断禁止の道を横断したという2つにである。

◆同じ問題に対しても、問題点は違う

このように同じ問題が発生しても、問題点は主語によって変わる。ここが重要なのだ。ここで、この記事で書いているように問題を列挙することはほとんど意味がない。たとえば、男性にとっては運転手が酒を飲んでいたことは問題でもなんでもない。心情的には問題だといいたいところだが、因縁に近い話になってしまう。

ここにもう一つ、問題点かどうかのポイントがある。それは解決できるかどうかというポイントだ。一般に交通事故のような社会的な問題が起こった場合には警察は何をしているんだというところに注目がいく。上のような状況だと、男が酒を飲んでいたのもはもちろん、悪い。しかし、警察はなぜ取り締まらないのかという話に必ずなる。これは、この問題に対して警察がもっとも解決する方法をたくさん持っていると思っているからだ。これが責任である。

◆問題点は当事者にとって解決可能な原因

問題点というのは、当事者にとって解決可能な原因であるということが条件になる。上の問題で男が道路が不備だの、飲酒運転が悪いだのといってみたところで、それを改善するための署名運動をすることくらいしかできない(市民運動を卑下しているわけではない。ものの喩え)。であれば、この男性にとってはたばこをすっているのが問題点だと考えた方が遙かに再発防止につながるだろう。

これが問題解決の基本的な考え方だ。ここでよく陥る罠は、この記事のように問題を評論家的にみていると、評論家的な答え、つまり、どのように考える人がもっとも多いだろうという視点から問題点を決め、できもしない解決策をやるという方向に導いてしまうことだ。

昔からいうように、まずはできることからやろうというのは全く持って正しいのだ。

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好川哲人

技術経営のコンサルタントとして、数々の新規事業開発や商品開発プロジェクトを支援、イノベーティブリーダーのトレーニングを手掛ける。「自分に適したマネジメントスタイルの確立」をコンセプトにしたサービスブランド「PMstyle」を立上げ、「本質を学ぶ」を売りにしたトレーニングの提供をしている。