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2008年6月16日 (月)

【補助線】橋下知事に学ぶリカバリーマネジメント

◆「取りあえず、出血を止める」というすごさ

先日、「大阪維新プログラム」が発表された。橋下大阪府知事になって100日あまり、情報公開手法もあり、常に顛末が注目された改革案が「大阪維新プログラム」だ。

大阪府はいわば、トラブルプロジェクトである。今回の維新を改革だとみる向きもあるが、もはや、改革という状況は過ぎている。橋下知事自身が公言しているように、民間企業であれば倒産しているような状況である。トラブルプロジェクトとして見たときに、橋下手法はなかなか、参考になることが多い。

まず、

「取りあえず、出血を止めるためのものだ」

という強烈なメッセージだ。

このメッセージはすごい。これで、この後の痛みを伴うシナリオを暗示するととにも、止血というメタファによって自らの施策の正当性を暗に主張している。血を止めなくては死んでしまうぞと暗に言っているわけだ。反対するステークホルダも多いようだが、彼らにとどめを刺すような言葉である。

リカバリーの際には、この出血というメタファはキーワードである。何もしないと、状況はどんどん悪くなっていく。大阪府の例でいえば、5兆円の借金があれば、年利1%で借りていても1年間で500億円借金は増えていくのだ。緊迫感が出てくる。求心力にもなる。

プロジェクトでもまったく同じだ。プロジェクトの場合にはお金より、時間だろう。何もしなければ、時間だけが過ぎていく。すると、遅延率はタクシーメーターのように上がる。これは数字上の問題ではない。事実、生き延びることは難しくなるのだ。

◆一生懸命やっていても神風は吹かない

どうも、一生懸命やっていると神風が吹くと思っている人も少なくない。戦後60年以上を過ぎてもまだ、この感覚は変わらないようだ。そういう人たちは、一攫千金を狙う。

たとえば、大阪府の例であれば、税収(法人税)を増やすことを考える。赤字を抱えて有効な産業施策など打ち出せない中では、妄想にすぎない。この傾向はプロジェクトでもよくある。プロジェクトの場合は焦りかもしれないが、止血などしている時間はないという発想になってしまう。血を流している状況で何をどうやってもベースラインを少しでも回復できるはずはないのだ。やり方を変えてやろうとすることは、ほとんど、初期計画の際に棄却したアイディアのはずだ。

しかし、今は当初とは状況が違うといって、安い人件費を大量に投入する誘惑から逃れることができない。大方のトラブルの際には状況は確かに変わっている。ただし、初期計画当初より、スキルフルな人材が大量に必要という方向にだ。

◆学ぶべき点その1~安定化

我々は止血を「安定化」といっているが、トラブルの際には、まず、止血だ。

かつ、止血に成功しても、そのあとが大変である。今度は、まさに、血のにじむような努力をしないと回復できない。「取りあえず、出血を止めるためのものだ」という言葉にはそのようなニュアンスまで含まれている。すごい言葉である。

◆学ぶべき点その2~情報を隠さない

橋下大阪府知事のやり方に学ぶべき点の第2点目はこの情報公開の手法である。

トラブルが起こったプロジェクトでは何かと隠したくなることも多いし、船頭が多くなることを恐れて、対応策を密室で議論することが多い。ところが橋下知事はこれをオープンにした。当然、住民、府職員、府下の自治体などのステークホルダからは喧々諤々の意見が出てくる。十分かどうかは別に、そこで議論させ、その結果を見ながら決断をした。これが、「大阪維新プログラム」である。当然、施策の影響のあったステークホルダは面白いはずはない。ただし、経緯を知っている。ここが大切だ。

この点もトラブル時は大いに参考にしたい。トラブルが起ると隠したくなるのは心情的に分かる。ここで隠すといっているのは子供のように報告をしないとかいう次元の話ではない。報告を多少カモフラージュするだけだ。ベースラインとのバリアンスは事実であるので隠しようがないが、そのあとどうなるかなど、所詮、あてものである。隠すつもりであれば、いくらでも作文できる。上の話と同じで、隠しているうちに神風が吹いて、つじつまが合うと信じている人も少なくない。

特に計画をきちんとしていないと、このあたりの冷静、客観的な評価は結構難しい。

しかし、隠してもいいことなど一つもないことを認識すべきだ。むしろ、隠すことによってものごとを一直線にできなくなるというデメリットがどれだけ大きいか。そう思えば、トラブルの際には情報はすべて公開し、常に本音で見通しを報告すべきである。

◆学ぶべき点その3~ステークホルダを味方にし、動かす

三番目は、ステークホルダへの働きかけである。マスコミを見ていると、聖域を作っていると批判的な評価が多いようだが、国側の法律でがんじがらめになっていて手を出せないところも多いようだ。それについては問題指摘をして、国政や国の行政に投げている。一方で、産業振興施策では既存の枠組みを無視して、地域で民間企業のボードを作って、施策を検討している。このように自分の力の及ばないところについては、自分で何かするのではなく、ステークホルダを最大限に活用して何とかしようとする姿勢は、特に、リカバリー時にはみならうべきであろう。

以上の3つの点において、プロジェクトリカバリーの活動で、橋下手法はたいへん、参考になるし、合理的なアプローチだといえよう。

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コメント

「橋本知事」でなく「橋下知事」ですよ

ども、ありがとうございます。

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好川哲人

技術経営のコンサルタントとして、数々の新規事業開発や商品開発プロジェクトを支援、イノベーティブリーダーのトレーニングを手掛ける。「自分に適したマネジメントスタイルの確立」をコンセプトにしたサービスブランド「PMstyle」を立上げ、「本質を学ぶ」を売りにしたトレーニングの提供をしている。