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2008年2月25日 (月)

【補助線】「ハウツープロジェクトマネジャー」から、「考えるプロジェクトマネジャー」に

◆米国大統領選にみる光景

米国の大統領選挙、それも予備選がこれだけ日本で注目されたのはおそらく初めてである。テレビで放映されるたびに思うのは、国民の政治的な関心の高さの違いというのは背景にあるとしても、インタビューに対して、米国民は非常に論理的、かつ、明確な論点で自分の意見を述べるのは驚くばかりである。ビジネスの中でもその違いは感じているが、ビジネスマンの世界のことだろうと思っていた。ところが、どんな階級の人たちに聞いても同じような雰囲気なのでびっくりしている。

一方で、「新橋日本のサラリーマン」に聞くは、夜のニュース番組の定番取材方法であるが、どんなテーマのインタビューにしろ、こういう回答は滅多に見かけない。どう思うかといわれて、いいとか悪いはいうのだが、なぜよいか、なぜ悪いかを明確に言わない。10年くらい前から、戦略経営だの、目標管理だの、論理性や議論の求められる経営手法が普及してきてそのようなトレーニングを受けているはずなのだが、結局、こんなものかと思いたくもなる。

この違いは何か?

◆新橋サラリーマンはどうか?

「新橋日本のサラリーマン」に聞く系のインタビューで、結構、米国人に近い反応をしている人たちがいる。主婦だ。憶測だが、場所からすれば、職業を持つ人か、あるいは、高等教育を受けて家庭に入った人が多いのだと思うが、自分の意見の論点も明確にするし、意見に至った経緯もきちんと話をする。

先日、著者の出身のMBAコースの教員と教員候補(大学院でアカデミックキャリアを目指す人)、および、OBで教育の在り方を議論する機会があったのだが、その会で面白い話を聞いた。日本の場合は、大学を卒業して5~10年の期間を置いてMBAのコースに戻ってくる人が多いそうだ。すると、大学のときにすばらしい発想や思考をしていた人が全然ものを考えられない人になっていることが多いそうだ。そのため、MBAプログラムの最初はアイスブレークとしてプロジェクト研究というのがある。これを通して再び考える能力を「再生」し、そこから本格的な教育が始まるという。

なぜ、こうなるかという議論もあったが、いろいろと問題がありそうなので書かない。理由は著者の経験として述べる。

◆日本企業は考えることを嫌う

まず、日本企業の組織は考えることを嫌う。人事施策から始まって、社内に考えられると困ることが山ほどある。マネジメントと管理がどう違うかというのは何度も現場の視点から述べているが、組織の視点から述べるともっと簡単だ。マネジメントの基本は情報共有と議論にあり、管理の基本は情報コントロールにある。権限は情報の格差で生まれてくるのだから、当り前の話である。これでいくと、日本の組織のマネジメント部門は例外なく、管理をしている。現場のコンサルティングに入って知りたい情報が現場にはほとんど下ろされていない。現場は現場で、それは教えてもらえないとあきらめている。この情報が権力の源泉になっていることはちょっと「考えれば」すぐわかる。

そのために、考えさせないようにしている。もっと正確にいえば、範囲を決めて考えさせるようにしているといった方がよいだろう。たとえば、現場の問題を解決するために、現場でできる範囲で考えてくださいという。

これは必ずしも悪いことではない。日本の製造業の現場が強いのは、徹底的にこれをやるからだ。現場と経営の関係は難しく、お互いに責任転嫁をする関係にある。経営の責任は現場Think(下)にするが、現場の責任を経営に転嫁させないため、現場がなんとかしようと工夫して素晴らしい競争力が生まれてたのだ。

◆考えるプロジェクトマネジャーがプロジェクトを強くする

この構図は、実は経営とプロジェクトの間でも変わっていない。プロジェクトマネジャーという経営と現場のゲートキーパーを置いているが、ゲートキーパーにはたいした権限を与えていないので、結局、現場(プロジェクト)の問題は現場で何とかせざるをえないような状況になっている。

非常に乱暴な言い方をすると、現在の状況で経営の問題を言ってみたところで始まらない。たとえば、うまくいくはずのないような条件のプロジェクトを始めて、始まった後でプロジェクトの選定が悪いと言ってみても何の問題の解決にもならない。始まってしまえば、現場で何とかするしかない。これによって、かつての製造業の現場のように強い現場、強いプロジェクトができるのだと思う。

このような対応をするキーマンはいうまでもなく、プロジェクトマネジャーである。上のような条件の厳しいプロジェクトに対してプロジェクトマネジャーは2つの選択肢を持つ。ひとつは、経営が悪いと言って開き直り、納期やコストのコントロールを放棄することだ。もうひとつは、現場と一緒になり、なんとかする工夫をすることだ。

後者になるためには、「ハウツープロジェクトマネジャー」から、「考えるプロジェクトマネジャー」になる必要がある。

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好川哲人

技術経営のコンサルタントとして、数々の新規事業開発や商品開発プロジェクトを支援、イノベーティブリーダーのトレーニングを手掛ける。「自分に適したマネジメントスタイルの確立」をコンセプトにしたサービスブランド「PMstyle」を立上げ、「本質を学ぶ」を売りにしたトレーニングの提供をしている。