2006年8月 5日 (土)

仮説思考

449255555209 内田和成「仮説思考 BCG流 問題発見・解決の発想法」、東洋経済新報社(2006)

お奨め度:★★★★

BCGの内田和成氏が自分のコンサルタントとしてのノウハウの集大成として書かれたような感じがする本。それが仮説思考であることは、当然といえば、当然だが、なかなか、興味深い。

日本人と米国人の知的生産性の違いを指摘する声は多いが、仮説思考の稚拙にあるのではないかと思う。この本と読んでいるとBCGの仮説思考のプロセスは業務プロセスそのものであり、それを具体的にどのような作業で構成していくか、また、作業のポイントは何かということがかなり詳細に書かれている。

彼らにとっては、仮説の質が、利益に直結してくるのだから、ある意味では当たり前だろう。

そのようなプロフェッショナルな領域まで行かなくても、ある程度、仮説を作って進めて生きたいのだが、そうは問屋がおろさない企業がある。それは、組織が仮説というのを理解できないから。そのような組織には、仮説を立てて進めていくと、仮説が外れるとそこで失敗だと思うマネジャーが多い。

すると網羅的に進めざるを得ない。1ヶ月で済む仕事が、3ヶ月になるといったことになる。

そんな組織にとってどのくらい有効な思考法であるかは疑問だが、仮説思考の解説書としては非常に分かりやすいし、こつも抑えることができる一冊である。

続きを読む »

プロジェクトマネジメント危機脱出マニュアル

447837521601 デイビッド・ニクソン、スージー・シドンズ(中嶋秀隆訳)「プロジェクト・マネジメント 危機からの脱出マニュアル―失敗ケースで学ぶ」、ダイヤモンド社(2006)

お奨め度:★★★★1/2

さっと読んでみて、いよいよ、こんな本が出てくるようになったかという思いを持った一冊。さすが、PMに対する独自の視点と見識をもたれる中嶋秀隆さんが選んで翻訳された本という感じ。

プロジェクトの失敗をきちんと体系的に整理し、問題領域を特定し、問題領域に対してソリューションを提供している。同じ狙いで書かれた本に、伊藤健太郎さんのベストセラー

伊藤健太郎:「プロジェクトはなぜ失敗するのか―知っておきたいITプロジェクト成功の鍵

https://mat.lekumo.biz/books/2005/01/it.html

がある。この本は今でも一番売れたPM本らしい。

伊藤さんの本はプロジェクトマネジャー向けに書かれているのに対して、この本は、組織マネジャー、あるいはプログラムマネジャー向けに書かれた本である。プロジェクトマネジャーに役に立たないという意味ではないが、ソリューションがプロジェクトマネジャー一人では実行できないようなものがかなり入っているし、問題分析の視点も組織からの視点である。また、人事制度とのプロジェクト失敗の関係、PR(パブリックリレーション)との関係にまで言及されており、広範な内容をコンパクトに纏めた非常に参考になる本である。

特にプログラムマネジャーにお奨めしたい本だ。ただし、2つ注意がある。マニュアルと書かれているが、コンパクトに纏めるためか、記述の抽象度が高い。原書を読んでないのでなんともいえないが、訳は読みやすいと思うので、原書の書き方の問題だと思う。2つめは、これにもつながるが、相当、マネジメントに関する基本的な知識を持たないと読みこなせない本である。これはプロジェクトマネジャーより組織マネジャーを対象にした本だからだと思う。

久しぶりに★5つをつけようと思いとどまった。理由はエンパワーメントとガバナンスに関する踏み込んだ議論がないことだ。これらの問題に触れてないわけではなく、いろいろな側面から触れている。また、このような構成になる理由も分かる。しかし、これだけ工夫された本であるので、もう少し頑張って欲しかったなと思う。そこだけが、若干、不満であるが、それ以外、文句なし。

続きを読む »

2006年8月 3日 (木)

非連続思考法

447849051101 リュック・ド・ブラバンデール(森澤篤監訳、秋葉洋子訳)「BCG流 非連続思考法 アイデアがひらめく脳の運転技術」、ダイヤモンド社(2006)

お奨め度:★★★1/2

思い込みで失敗することは多い。これを防ぐには論理思考が有効だといわれている。しかし、もう少し、メタに考えると論理思考も思い込みである種の思い込みであることが、この本を読むと良く分かる。

物事を変えたいときは、ものの見方を変えると有効であるが、この本では、BCG流の具体的な方法や視点設定について説明している。

非連続思考法の象徴的な例として、南アフリカ共和国でアパルトヘイト(人種隔離政策)が廃止されたときに、住民のほとんどが思いついたシナリオは

 ・恩赦を与える

 ・すべてを裁判にかける

の2つしか思いつかなかった。前者は受け入れられない。後者は現実的にできない。これに対して、指導者が第3のアイディアとして

 ・許す

という発想をしたというエピソードが書かれている。とくに、二者選択の状況では、視点が狭まり、このような発想をするのは難しいものだ。このような発想がピンチを救うことは非常に多い。

コンサルタントとして活動するとき、あるいは、マネジャーとして率いるチームが停滞しているときには、ぜひ、この非連続思考法を活用したい。

447849022809この本は非連続思考について書かれた本だが、そのベースには一通りのオーソドックスな問題解決思考法がある。その解説が若干分かりにくいので、本格的にマスターしなたいなら、併せて、例えば、

齋藤嘉則「問題解決プロフェッショナル「思考と技術」」、ダイヤモンド社(1997) 

といった本と併せて読むことをお奨めしたい。

続きを読む »

2006年7月31日 (月)

なぜ、ウィスパーに羽根がはえたのか

492511277501 和田浩子「すべては、消費者のために。―P&Gのマーケティングで学んだこと。」、トランスワールドジャパン(2006)

お奨め度:★★★★

和田さんはおそらく、日本のビジネスウーマンで最も有名な方の一人だろう。P&Gのマーケティング部門で活躍。「ウィスパー」に羽根をはやしたブランド戦略の実行で一躍有名になった。ミス・ウィスパーと呼ばれていたとか。その後、2004年のフォーチューンで世界で一番パワフルなビジネスウーマン50傑に選ばれ、世界中で有名になった。

誰にでも等しくチャンスがあることを伝えるために乗っているというまっ白なポルシェでも有名。

という和田浩子さんの自伝的な書籍。マーケティングを中心に、ブランドマネジメントのノウハウをP&Gの経験を時間を追って書かれている。

P&Gは言わずと知れた高品質の経営をしている企業であるが、この本を読んでいると、製品力がブランドを作るという王道を歩んでいることが分かる。その意味で、ブランドマネジメントでありながら、製品マネジメントの色合いが濃い。また、科学的にマネジメントされている点も印象的である。

同じ日用雑貨のビジネスでも、日本のメーカとはテーストの異なるところがあり、その辺りも興味深い部分である。

マネジメントに突拍子もないものもあまりない。その意味で、1冊そのまま、ブランドマネジメントやあるいはもう少し広くマーケティングの教科書になるような本でもある。

2006年7月29日 (土)

ゲリラ流仕事術

489451234301 ジェイ・C・レビンソン 「ゲリラ流 最強の仕事術~「収入」と「時間」が増える技術と習慣」、フォレスト出版(2006)

お奨め度:★★★1/2

488497066709全世界で1400万部売れたというゲリラシリーズはあまりピンとこなかったが、この本はフィットした。

「目標の立て方」「時間の使い方」「仕事の選び方」、「情報の使い方」「お金の考え方」、「人の使い方」、「ビジネスの組み立て方」「顧客との付き合い方」、「人との付き合い方」、「人脈の作り方」、「「人間心理」、「マーケティング」、「ストレスへの対処法」などにおけるゲリラ流が述べられている。

そのようなゲリラ流を貫こうとすると、ゲリラ流のマーケティングが必要になってくるという関係になっているが、確かに、こういうロジックでこられるとゲリラ流マーケティング、ゲリラ流起業というのは一理あるかもしれない。

もう一度読んでみようか。

実践的ゲリラマーケティング―小企業のための成功する広告戦術

トリックスター

449265385601 『週刊東洋経済』村上ファンド特別取材班「トリックスター 「村上ファンド」4444億円の闇」、東洋経済新報社(2006)

お奨め度:★★★

東洋経済新報はインサイダー事件以前から、ずっと村上ファンドを追いかけて、時々、面白い記事を出していたが、その集大成。

例の逮捕前の会見から始まり、そのあと、人脈の分析がある。その後、時間を追った村上の活動の紹介、あるいは、評価をしている。

報道では分からないことがたくさんでてきるので、読む価値のある本だが、ひとつ、オリックス宮内の話が報道されている程度にしかでてこない。これはがっかり。

今まであまり興味がなかったが、非常に興味深い人物だ。どのような判決ができるかわからないが、彼のやったことの評価が社会的に定着するのは、もう10年くらいはかかるのではないかと思う。

トヨタ流「秘書」

456964984x01 石井住枝「トヨタ流 プロの仕事術」、PHP研究所(2006)

お奨め度:★★★★

石井さんといえば、

石井住枝「トヨタの役員秘書が見た トヨタのできる人の仕事ぶり」、中経出版(2005)

がベストセラーになり、注目をされているコーチだが、この本、あまり、面白いと思わなか480612205x09 ったので紹介したことがない。秘書という立場からみたときに、トヨタ流の源泉である人のコンピテンシーを解説した本である。

コンサルがクライアント企業のよいところを書いたような感じの本で、どこか他人事を感じさせる雰囲気があり、内容的に説得力がないように思えた。ただし、石井さんは秘書だけではなく、秘書の仕事を極めるために技術員に転身したというキャリアの持ち主であり、必ずしも傍から見ていただけではないのだが、本のつくりの問題だろう。

で、今回の本。この本はよい。トヨタの秘書が何をすればよいかを自分の経験に基づき、明確に書いている。何でもよいが、トヨタ流の本を読んだことのある人は、表にでていないことがあることを感じたことがあるのではないだろうか?

特に、コミュニケーションの部分。現場だけを考えれば、コミュニケーションのルールが決まっていて、それを大切にする文化があれば、ある程度の自律的なコミュニケーションは可能であるが、組織がある限り、そんなに単純なものではない。

普通の組織であれば、コミュニケーションの中に、経営とのコミュニケーションや、スタッフとのコミュニケーションなどが入ってこないとトヨタ方式は成立しないはず。

この本を読んで非常によく分かった。秘書をはじめとして、スタッフがコミュニケータの役割を果たしている。

その他、さまざまな問題で、トヨタ方式の潤滑油になっている秘書の機能を彼女なりの体系にまとめている本で、非常に参考になる。石井さんは、「秘書力」でカリスマになりつつあるらしいが、この本、秘書の方より、現業のスタッフ、つまり、生産技術とか、PMOとかの方にぜひ読んで戴きたい本だ。

続きを読む »

超トヨタ式

4876885540 村上豊「現場はもっと強くなる 超トヨタ式・チーム力最大化の技術」、幸福の科学出版(2006)

お奨め度:★★★1/2

デンソーの元工場長が書いたチーム力を引き出す技術の解説。見える化、5回のなぜ、現地現物、5Sなど、トヨタ方式を構成する有名な手法のデンソーでの実践方法の解説をかなり詳しく書いてある。

ビジネスの形態が変わり、トヨタに現場が少なくなり、本当のトヨタ方式がより有効に活用されているのはサプライヤーだという説がある。その中でも、「トヨタよりトヨタらしい」といわれているデンソーで、元工場長をしていた著者が書いた本だけに、知りたいところが随所に書いてある。「超・トヨタ」とタイトルされているが、確かに、そうかもしれないと思わせる部分も多い。

ちょっと話は変わるが、トヨタ方式を体系的にまとめた本としては、

ザ・トヨタウェイ

が著名である。残念ながら日本人が書いたトヨタ本で、科学し、体系化していると感じられるものは皆無だった。この本は、珍しく科学されている。

構成はチーム力最大化のポイントということで16ポイントを上げ、それぞれ、何をしていたかを説明しているが、例えば、このひとつに

成長サイクルと成果サイクルを同時に回せ

ということで、その方法を書いている。トヨタ方式の基本は成長と成果の両立ということだが、その具体的なサイクルを明確にしたのは初めてだと思う。

そのような書き方であるので、非常に使いやすい書き方の本である。

続きを読む »

仕事を成し遂げる技術

489361333209 デビッド・アレン(森平慶司訳)「仕事を成し遂げる技術―ストレスなく生産性を発揮する方法」、はまの出版(2001)

お奨め度:★★★★1/2

デビッド・アレンはベテランの経営コンサルタントである。そのデビッド・アレンが書いた知識労働者の仕事の仕方のバイブルともいえるような本である。

プロジェクト管理、時間管理、日常のスケジュール管理などについて鉄則を、その考え方とともに、習慣化の方法まで説いた本である。この本がすばらしいのは、習慣化を目的にしていることもあって、いろいろな切り口から繰り返し、説いていることと、「シンプル」であることだ。

説いていることはそんなに難しいことではない。目的意識を持ち、リラックスすることによって、集中し、生産性が高まり、最後までやり遂げることができるという主張。しかし、333ページにわたって書かれている内容は、本当に細かく、具体的である。

本当にこの本に書かれている通りにやると生産性があがるかどうかはやってないので分からないが、納得はできる部分が多い。

プロジェクトマネジャーをやるときには、全てのメンバーに読ませたくなるような本である。

2006年7月27日 (木)

マネジャーの正しい育て方

482224516001 ヘンリー・ミンツバーグ(池村千秋訳)「MBAが会社を滅ぼす マネジャーの正しい育て方」、日経BP社(2006)

お奨め度:★★★★1/2

ご存知、ポーターなどと並ぶマネジメントのグルであるミンツバーグのマネジャー育成論。ミンツバーグは単なる机上の理論を振りかざすタイプの学者ではなく、論理的な言論の一方で、「マネジャーの仕事」という一級のエスノグラフィーを書いているくらい、現場に精通している。そのミンツバーグのマネジャー育成論なので、非常に期待して読んだが、期待に反しなかった。

現在のMBA方式によるマネジャーについて客観的な評価をし、マネジャー育成のあるべき姿を模索している。マネジメントに必要な要素を

 ・アート

 ・サイエンス

 ・クラフト

という三角形で表し、この3つが補完することがマネジメントの成功要素だとした上で、現在のMBAの教育をクラフトが完全に抜け落ち、かつ、アートに関しては重要を認識するものの教育プログラムとして何もできていないという評価をしている。

この評価をベースにしてマネジャー育成理論を展開しているが、その中で、面白い問題提起が2つある。

一つは、マネジャーの育成のためには行動が必要なのか、行動を省察する機会が必要なのかという問題提起。ミンツバーグの答えは後者である。マネジャー育成の目的を「行動させる」ことではなく、「行動の質を高めること」だとしている。

この問題提起は面白い。MITのピーターセンゲの組織学習論以来、マネジャーの育成にはアクションラーニングが不可欠なものだと考えられるようになってきている。アクションとラーニングという2つの極めて重要な課題をこなすのは難しく、行動と学習の混同をやめにすべきかも知れないと述べている。

もう一つの注目すべき指摘は、マネジャー育成の対象者である。マネジャー育成のための教育は現役のマネジャーに限定すべきであると述べている。理由は理解レベルと、意欲なのだが、ちょっと驚くべき見解である。

そのようなことも踏まえて、新しいマネジャー教育に対して5つの定石を示している。

定石1:マネジメント教育の対象は現役マネジャーに限定すべきである

定石2:教室ではマネジャーの経験を活用すべきである

定石3:優れた理論はマネジャーが自分の経験を理解するのに役立つ

定石4:理論に照らして経験をじっくり振り返ることが学習の中核をなす

定石5:コンピテンシーの共有はマネジャーの仕事への意識を高める

定石6:教室での省察だけではなく、組織に対する影響からも学ぶべきである

定石7:以上のすべての経験に基づく省察のプロセスを折り込むべきである

定石8:カリキュラムの設計、指導は、柔軟なファシリテーション型に変える

そして、この本ではこの定石に基づき、よくできた育成プログラムの紹介と、具体的な教育の概念設計を示している。

続きを読む »

2006年7月26日 (水)

意思決定はプロセスである

490123494301 マイケル・A・ロベルト(スカイライトコンサルティング訳)「決断の本質 プロセス志向の意思決定マネジメント」、英治出版(2006)

お奨め度:★★★★1/2

英治出版のウォートンビジネススクールのシリーズ。このシリーズ、たぶん、5タイトルくらいは出ていると思う。出版されたものには、だいたい目を通しているが、一冊だけいい本だなあと思ってこのブログで紹介したことがある。

□デビッド・シロタ(スカイライトコンサルティング訳)「熱狂する社員 企業競争力を決定するモチベーションの3要素

この本より、本書の方がよりすぐれものだとと思う。

メインテーマは「意思決定の成否はどんな結論を出したかではなく、どんなプロセスで結論に至ったかで決まる」ということ。このテーマを中心に、では、どのようにプロセスをくみ上げていくか、また、そのプロセスを前提にした場合にリーダーシップはどうあるべきかという感じで、体系的にまとめられている。

本書で掲げているテーマは、仮説に過ぎないと思う。ケネディ大統領の失敗やスペースシャトルの事故、エベレスト登山隊の遭難、ノルマンディー上陸作戦などを取り上げて、仮説の妥当性を主張しているが、逆にこれらの仮説を否定する事例もたくさんあると思う。

しかし、それが仮説かどうかはどうでもよくて、この本に書かれているような意思決定プロセスを構成していくことはビジネスの中では極めて重要なことだと思う。プロセス構成の考え方にも、納得できる部分が多い。

特に8章の実行につながる決断の章は、今までの意思決定論ではあまり省みられることのなかった視点で、ここだけでも読む価値がある。

とにかく、よい本であるので、マネジャーの方は、ぜひ、手に取ってみてほしいと思う。

続きを読む »

製品マネジメントを見直そう

479732560709 吉本敦「開発力革命―技術立国から開発立国へ」、ソフトバンクパブリッシング(2004)

お奨め度:★★★★1/2

製品開発マネジメントは実証研究を中心にアカデミックな本は多いが、意外と実務家が読める本は少なく、いきなり実用書、ノウハウ本になる。

そんな中で、自社の開発した手法に基づき、しっかりとした論理と、実践的な手法をまとめた製品開発マネジメントの好書である。本としても適度に具体性があり、分かりやすいのがよい。

この本で提案されている手法は、プロセスマネジメントである。プロセスを評価し、改善することによって、製品開発力を挙げていくというプロセスであるが、評価の視点が、従来のような局所的なものではなく、全体最適の視点からの評価になっている。

著者によると、この全体最適な製品開発プロセスの欠如が日本の製品開発マネジメントの弱点であるとのことだが、この辺りは、本来、ナレッジマネジメントでカバーしてきた部分だ。そのプロセスを形式化することの是非はもう少し議論の余地があるように思うが、おおむね、この本に書いてあることには賛同できる。

続きを読む »

ベンチマーキングしよう

482011830701 高梨智弘「ベンチマーキング入門(新版ベンチマーキングとは何か)―ベストプラクティスの追求とナレッジマネジメントの実現」、生産性出版(2006)

お奨め度:★★★1/2

日本では非常に珍しいベンチマーキングについて、ナレッジマネジメントの大家である高梨氏が解説した本。1995年に「ベンチマーキングとは何か」という本としてかかれたものを大幅に改定し、作られた本である。

内容的には高梨氏の提案するベンチマーキングのプロセスと、ベンチマーキングの活用方法について詳細に解説された本である。また、ベンチマーキング実施のノウハウについてもかなり突っ込んで書かれている。

高梨氏の提案するベンチーマーキングプロセスは

 S(Strategy)

 P(Plan)

 D(Do)

 L(Learning)

 I(Innovation)

というサイクルで、15のステップからなるプロセスである。

また、最後に1章を割いて、ケーススタディをしている。ケーススタディは、ゼロックス、ソレクトロン、リッツカールトン、アームストロング、サウスウエスト、トーラスなど。

日本ではベンチマーキングというマネジメント手法はあまりなじまない手法である。徹底的に隠す多くの企業と、あけっぴろげな少数企業といった感じだ。少なくとも20年前まではプロセスという概念がなかったのだから、このようになるのはある意味で当たり前である。

ただ、次第に状況が変わってきた。プロセスという考え方が確立され、競争するプロセスと、競争のインフラとなるプロセスで、インフラプロセスでは積極的にベンチマーキングが行われるようになってきた。

実際に経営品質などの考え方にはベンチマークに応じられることが重要な要件になっている。

そんな状況を受けて、10年ぶりに改定された本書は10年前とは比べ物にならなくくらい、価値のある本になっている(内容も充実している)。プロセスマネジメントや、経営企画に関わる人はぜひ読んでおきたい一冊だ。

続きを読む »

2006年7月25日 (火)

相手に正しく伝わらなければ問題は解決しない

490324103301 出口知史「論理思考の「壁」を破る」、ファーストプレス(2006)

お奨め度:★★★★

問題が発生した場合には、正しい結論を出したからといって、相手に伝わらなければ問題は解決しない。

効果的に相手に伝えるためには、相手の理解度、それまでの議論の経緯、過去の経緯を含めて総合的に判断し、論理を構成する必要がある。これが、本書の主張である。

この本ではまず、論理思考の方法を一通り解説している。その上で、論理思考の落とし穴を指摘している。その中で、ロジックの共有の重要性を説き、それが実現されないゆえの伝わらない3パターンとして

・結論押し付け

・思考停止

・視野狭窄

の3つを挙げている。

戦略マネジメント・戦略思考の普及により、論理的思考は当然の思考法になってきた。しかし、この本のように論理思考の使い方に一歩踏み込んだ実践的な本は珍しい。経営戦略の策定をするだけであればあまりこのような発想は必要ないかもしれないが、マネジャーとして現場で戦略を実行する立場にある人は、ぜひ、読んでおきたい一冊である。

続きを読む »

2006年7月23日 (日)

マネジメントに直感を活かす

Tensaibookmid 児玉光雄「天才社員の育て方」、日本経営合理化協会出版局(2006)

お奨め度:★★★★1/2

1万5千円とちょっと高い本だが、ひょっとすると、それだけの価値があるかもしれない。著者の児玉光雄氏はトッププロスポーツ選手から指導依頼が殺到するスポーツ心理学の第一人者。その児玉氏が20年以上の研究を経て開発した独自の 「右脳開発メソッド」を、ビジネスリーダー向けに体系化した本。

このメソッドは、ガンガン“自分から働く人材”になる、「持続力」「没頭力」「創造・ 発想力」「人間力」…の4大能力を、無理なく、自然と習得させることができるそうだ。

この本では、さらに、天才育成を社内に「仕組み化」するために、社長としてどう 手を打つかの「戦略記入シート」も各タスク毎に収録されており、これらのシートを使うことによって、すぐに取り組むことができる。

「右脳開発メソッド」自体はもう少し、購入しやすい本がある。

489451230001_1 児玉光雄「直感力 「上手に決断できる人」になる脳力トレーニング」、フォレスト出版(2006)

この本では、直観力をアップするための方法として右脳開発メソッドを説明している。

マネジメントの理論の中では、意思決定の際に、合理的(論理的)な意思決定と直感をうまく統合することがポイントだといわれることが多いが、では、実際に、それをどのように統合するかは難しい。そのヒントというより、方法そのものを示してくれるこの本の1万5千円は高いか、安いか?

価値観の問題だろう。

続きを読む »

メンタルケアのあり方を考える

416320900x09奥田英朗「イン・ザ・プール」、文藝春秋(2002)

416322870509 奥田英朗「空中ブランコ」、文藝春秋(2004)

416324780701奥田英朗「町長選挙」、文藝春秋(2006)

お奨め度:★★★★

でっぷり体型、患者おちょくりアホ発言連発、笑えば歯茎丸出しの注射フェチの精神科医伊良部一郎が、くわえタバコで、斜にかまえ、ミニミニ白衣の胸の谷間で患者を惑わす相棒の看護師のマユミちゃんと軽度の精神病患者を次々と癒していく短編。

B0009ulboa01

最初のインザプールが仰天ものだったが、映画化までされた。

そして、第2作の空中ブランコは直木賞受賞。とにかく面白い。何よりも設定がありそうなナンセンスで興味深い。24時間勃起しっぱなしという病に冒された営業マン、家のガス、電気、鍵をしめたか気になって、何度も確認のために帰宅してしまう強迫神経症のルポライターなどがやってくるが、意図的な、無意識か、興味本位でいい加減な対応がどんどん、患者の問題を解決していく。

そして、第3作になる「町長選挙」では少し作風が変わった作品がある。明らかに、実在のモデルをデフォルメして描いている作品がいくつかある。ホリエモン、ナベツネなど。

メンタルヘルスはマネジメントの中でも重要性が高まってきている。カウンセラーや専門家に任せて、マネジメントとしてたタッチしないというのが一般的であるが、それでは問題は解決しないのではないかと思う。仕事の問題は、仕事の中でしか解決しない。それを解決するためには、同じ目線で行動レベルで入り込んで解決していくしかないだろう。

そんなことを思わせる伊良部の奮戦記である。

==========

banner_04人気ランキング投票! → クリック!

2006年7月21日 (金)

マネジャーは何を行うのか

490324122x01 D・クイン・ミルズ(アークコミュニケーションズ監修、スコフィールド・素子訳)「ハーバード流マネジメント「入門」 」、ファーストプレス(2006)

お奨め度:★★★★1/2

以前、ミルズの「ハーバード流リーダーシップ「入門」」を紹介したが、同じ著者のマネジメントの原理をかいた本。

この本では、経営学などのマネジメントの体系にとらわれず、マネジメントの原理を追及しようとしている。この本でマネジャーの役割としているのは

 組織の方針を定める

 計画を立て、予算を作成する

 戦略を立てる

 部下の業務を編成する

 採用と人事配置を行い、インセンティブを与える

 トレーニングと能力開発を行う

 懲戒と解雇を行う

 方針を定め、さまざまなプログラムを管理する

 計画通りに予測可能な結果を出すように努力する

 部下のモチベーションを高めて事業目標と達成する

 予算を管理する

 問題を解決する

といったことである。これらの項目に対して、事例やケースを交えながら、分かりやすく解説した本だ。非常に読みやすいし、役に立つ。

新任のマネジャー、プロジェクトマネジャーなどの専門職マネジャーなどには最適のマネジメント入門書である。

この本と一緒に読んでみたい

ヘンリー・ミンツバーグ(奥村哲史、須貝栄訳)「マネジャーの仕事

==========

banner_04人気ランキング投票! → クリック!

続きを読む »

2006年7月18日 (火)

プロジェクトマネージャ育成法

481719186401 佐藤達男、伊藤英雄「プロジェクトマネージャ育成法―ITプロジェクトを成功させる人材育成」、日科技連出版社(2006)

お奨め度:★★★★

非常によく考えて書かれた本であるし、読み易く、また、自動車教習所のメタファも主張したいことを分かりやすくしている。

闇雲にプロジェクトマネジャーの育成をするのではなく、自社に必要なプロジェクトマネジャー像を明確にして、戦略的に育成していく必要性をといている。その中で、壁を

・組織の壁

・育成手法に関する壁

に分けて、整理している。その上で、これらの壁を破って育成するために必要なものを

・環境

・資質

・仕事

の3つに分けて議論している。

プロジェクトマネジャーの育成に携わる人、必読の一冊である。ただし、書かれていることを実行するのは難しい。そこに踏み込むのは読者の責任である。

==========

banner_04人気ランキング投票! → クリック!

続きを読む »

2006年7月13日 (木)

2006年上半期ランキング

2006年上半期売り上げランキングです。

1位がPMBOKはいいとして、ベスト5までは、プロジェクトマネジメント関係のよい本が売れているという感じです。

その中で、第3位にランキングされているスマントラ・ゴシャールの「意志力革命」は本当によい本です。シニアマネジャー、プログラムマネジャー、プロダクトマネジャーは必読ですね!

今まで100人くらいのシニアマネジャーに直接紹介をしましたが、多くの人から「熱い!」メッセージを戴いています!

あとは、リーダーシップ系の本が目立ちますね。6位、7位、10位と3件入っています。

【1位】
A Guide To The Project Management Body Of Knowledge: Official Japanese Translation

【2位】
世界一わかりやすいプロジェクト・マネジメント

【3位】
プロジェクトマネージャーが成功する法則―プロジェクトを牽引できるリーダーの心得とスキル

【4位】
意志力革命~目的達成への行動プログラム

【5位】
先制型プロジェクト・マネジメント―なぜ、あなたのプロジェクトは失敗するのか

【6位】
ケースで鍛える 人間力リーダーシップ

【7位】
実践リーダーシップ「リーダーは君だ!」―リーダーシップ実践のための12ステップ

【8位】
プロジェクトマネジメント・オフィス・ツールキット

【9位】
使う力

【10位】
最強トヨタの7つの習慣―なぜ「すごい工夫」が「普通」にできるのか

統率力。

==========

banner_04人気ランキング投票! → クリック!

2006年7月11日 (火)

規律と自由

026597870000 是本信義「組織のネジを締め直す鉄壁の「報・連・相」」、技術評論社(2006)

お奨め度:★★★1/2

軍隊の運用をマネジメントの参考にした本は少なくないが、この本は、コミュニケーションに的を絞って論じている。

この本の主張によると、報・連・相は軍隊の動脈であり、

 ・作戦思想の統一

 ・意思決定と命令

 ・作戦のフォロー

 ・参加部隊の協働連携

の4つの役割を持つとしている。この4つについて各論を展開している。まさに、これはプロジェクトにおけるコミュニケーションの機能であり、その運用はコミュニケーションマネジメントである。

コミュニケーションの重要性は口々に言われる。しかし、突き詰めて考えていくと、なぜ、コミュニケーションが必要かということを実感として感じられる人は多くないように思う。これがコミュニケーションが重要だとされながら、うまく行かない原因になっていることが多い。

この問題を解決するために、軍隊の仕組みを例に引くことは分かりやすい。コミュニケーションがうまくできないと、それは敗北につながり、死につながる。本書ではさらっと書いているが、そのように考えながら読んでみるとよいのではないかと思う本である。

この本を読んで、痛感したことがある。それは情報共有、組織のフラット化、意思決定の迅速さの名の下に、あまりよく考えられていない情報開示が行われているということである。このような現象が生じている原因は責任の回避であるが、混乱を引き起こし、アジリティを失う結果になっているケースが少なくない。この本のタイトルどおり、もう一度、ネジを締め直す必要がある。

その視点を得るために、すばらしい本である。

==========

banner_04人気ランキング投票! → クリック!

PMstyle 2025年11月~2026年2月Zoom公開セミナー(★:開催決定)

アクセスランキング

カテゴリ

Powered by Six Apart

Powered by Google

  • スポンサーリンク
  • サイト内検索
    Google