【イノベーションを生み出すマネジメント】第2話 イノベーションの原動力になる目標設定
◆思い切った目標設定をする
目標管理の中では、目標は緩やかな成長を目指すものがよいとされる。前年度より少し頑張ればできる目標を掲げ、それを達成してみんなで喜ぶことにより、次の年度の成長の動機になる。たとえば、市場成長率が5%なので、自分たちは6%の売り上げ増を目指そうといった目標設定をする。
このような目標設定は確実に成長を目指すにはよい方法だが、頑張ればできるという思いを植え付け、改善の方向に意識が向かい、画期的な商品だとか、プロセスなどは生まれにくくなる。
イノベーションを起こすには、今までの延長線上でちょっと頑張ればできるといった目標設定は有効ではなく、今までの方法ではどう考えてもできない思い切った目標を設定をすることが肝要である。
◆「3%のコストダウンは難しいが、3割ならばすぐにできる」
このような議論をすると、必ず出てくるのが松下幸之助が、カーラジオの開発の際に事業部長に語ったとされる
「3%のコストダウンは難しいが、3割ならばすぐにできる」
という言葉だ。3%をあきらめ、30%と考えてみることによって、3%では見えてこなかった方法が見つかる可能性が高くなるというものだが、まさに、イノベーションを引き起こす魔法の一言だといってよい。
人間は通常の状況では、新しい視点からものを見ることは難しい。ブレンストーミングのような思考の発散をしても、なかなか、視点が変わらない。追い込まれて初めて、初めて自分の今までのフレームを捨ててものを考え出すようになる。そのような目標を設定することが重要である。
前回、イノベーションにはマニフェストが不可欠だと述べたが、大胆な目標設定の背景には、必ずマニフェストが必要である。マニフェストがないと裏書のない小切手のようなものになってしまう。
◆イノベーションのプロセスに目標を設定する
同時に重要なのが、イノベーションの評価基準としての目標のあり方だ。よくある目標の立て方に、
「新製品による10%の増収」
といったものがある。前の期に開発した新製品を積極的に売り込むことによって、増収を図るという目標である。よく考えてみるとこの目標は、精神的な拠り所としての意味はあるかもしれないが、頑張ってどうにかなるといった類のものではない。新製品が市場にどう受け止められるかによってほとんど結果が決まってしまうからだ。このような目標の立て方は好ましくない。
イノベーションを起こしたければ、そのプロセスに目標を設定すべきだ。そして、それはゴールに対して、一人一人がどのような貢献をしているかを明確に把握できることが望ましい。たとえば、
・過去1年間に発売された製品の売り上げを50%増やす
・新製品を3種発売する
・製造プロセスに新しい手法を3つ導入する
・1人当たり5つの改善提案をし、実行に移す
といったものである。
◆経営者が重視する指標を現場に落とし込む
BCGのレポートによると、経営者が重視するイノベーションの評価指標のベスト3は
・製品化までの時間
・新製品の売り上げ
・イノベーションへの投資に対するリターン
だそうだ。さらに、
・イノベーションに投入できる要員数
・提案されたアイデア数
・個々のプロセスに要する時間と、全プロセスを完了するまでの時間
・次の段階へ移行できたアイデアの数
・発売に至った新らしい製品やサービスの数
なども重視するという。このような視点から、現場としてイノベーションの推進に意味のある評価指標を見つけることが必要である。
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