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2012年6月29日 (金)

【補助線】不確実な状況における意思決定

Dm2◆リスクと不確実性

不確実性という言葉がある。リスクではない。リスクとはその事象の発生が想定されるが、本当に起こるかどうかはわからないことを言う。リスクマネジメントでは、どの程度起こりそうかを確率としてあらわす。不確実性というのは、この確率が分からないケースである。

たとえば、プロジェクトリスクとして、プロジェクトでやらなくてはならない作業は過去に経験のあるもので、計画に対してメンバーのスキルの問題で、スケジュールが遅れる可能性があったとしよう。これは、過去の経験から類似プロジェクト(あるいは、タスク)の生産性の変動が起こる確率は予測できるので、リスクである。

ところが、その作業は全く経験がないし、過去のそのようなプロジェクトは例がないとする。すると、なにかまずいことが起こるかもしれないが、それがどのくらいの確率で起こるかすらわからない。これは不確実性になる。



◆「熱さに懲りて鱠を吹く」リスクマネジメント

プロジェクトはリスクと不確実性が入り混じっている世界であるが、プロジェクトマネジメントでは、リスクへの対応を、発生確率と、影響の大きさで決めるため、発生確率が分からないと対応策が的外れなものになってしまう可能性がある。

この10年くらい、リスクマネジメントは進歩してきたが、この点で行きすぎの感もある。発生確率が分からない不確実性に対して、リスクの高い頻度として扱うようになってきた。つまり、計画の中に不確実性に対する冗長性を入れてしまう。

俗にいうところの熱さに懲りて鱠を吹くというやつだ。


◆先送りをしないためには

いずれにしても、プロジェクトには不確実性があるのだが、不確実な状況でどのような意思決定をするかはリスクとは別の問題である。

実際に多いのは、先送りだ。状況がよく分からないのでもう少しはっきりするまで様子を見ようというスタンスをとる。このところ流行語のようになっている「決めない」という決定だ。先送りというのは、有期であるプロジェクトにとっては致命的である。

先送りをしないためには、どうすればよいか。

不確実性がある原因として多いのは情報の不足である。プロジェクトの短納期化が進み、計画に時間をかけられなくなってきた。それで、ろくに計画を立てないままで、多くの不確実性を抱えながら作業に突入するというパターンだ。リーンだとか、アジャイルのような考え方の普及がそれに拍車をかけている。

不確実性の中には、実際にやってみないとわからな不確実性がある。このような不確実性に対しては、リーンやアジャイルは有効な方法であるが、単に情報不足により不確実である場合には、やみくもに進めるのは生産性を下げるだけだ。やはり、急がば回れ、しっかりと情報収集や調査、分析を行い、不確実性を解消して、せめてリスクのレベルに持ち込み、意思決定をすることが求められる。


◆意思決定のタイミング

ここで考えなくてはならないことは、先送りとは何かである。明確な目的があり、意図的に決めないことを先送りとは言わない。今、決めないことの目的がない状態を先送りという。

つまり、先送りをしないとはやみくもに決めるという話ではなく、意思決定のタイミングをコントロールするということなのだ。

不確実な状況において、意思決定のタイミングを巡って考えるべきことは2つある。

・顧客の声を最大限に反映するのはどのタイミングか
・プロジェクトの納期を守れるのはどのタイミングか

の2つだ。

※詳しくはこちらを読んでほしい。
戦略ノート148「プロジェクトにおける延期と投機

アジャイルが意思決定のタイミングを遅らせているのは、主に最初の理由によるものである。意思決定のタイミングを遅らせ、かつ、決定の際に顧客に部分リリースを確認させることによって、手戻りを減らそうとしている。

後者に関しては、一つの考え方として、納期に間に合う範囲で、できるだけ意思決定は先送りした方がよいという考え方がある。課題管理で、決定期限を決めながらプロジェクトを進めていく。その背景にあるのが、そこまでにはいろいろな情報が集まってきて、適切な意思決定ができるようになっているという「期待」である。プロジェクトが段階的詳細化をするのはそういう意味がある。


◆試行錯誤が必要な場合の対処

ここで難しいのは、試行錯誤が必要な不確実性にどのように対処していくかだ。一つの方法はリーンのようにまず実行してみて、選択肢を減らしていき、不確実性がリスクになったタイミングで意思決定をするような方法である。

ウォーターフォールであれば、フェーズを設定して、フィージビリティのフェーズで試行錯誤を行い、結論を出した上で、設計などの実作業のフェーズに入っていくという方法を取ることが多い。

もう一つの方法は、仮説思考のサイクルを回す方法がある。不確実な状況において、仮説を立てて進めていく。たとえば、上のスキルの例だと生産性を仮設定して、作業を進めながら生産性を調整していき、生産性に見合う体制に変更していくという方法である。


◆不確実性のある状況での意思決定はプロマネの最重要スキル

不確実性のある状況での意思決定は、プロジェクトマネジャーにもっとも重要なスキルだといっても過言ではない。計画を作ることそのものが不確実性のある状況での意思決定であるし、リスクは組織として対応できるが、不確実性への対応はプロジェクトマネジャーが矢面に立つことになる。

その意味で、不確実性への対処がプロジェクトマネジャーのレベルを決めるといえる。エスカレーションという行為があるが、不確実性のある状況でエスカレーションすることはある意味で正しい。ただし、不果実性の解消をエスカレーションでしようとする、つまり決めてくれというのは間違いだ。実行するものが決めるべきである。

そのような中で、一つ認識しておきたいのは、先送りは成果を大きなものにするために行うということだ。絶対にやってはならない先送りとは、成果を大きくしない先送りである。

◆関連セミナー

意思決定プロセスを学び、意思決定がプロジェクトにどのような影響を与えるかを理解し、プロジェクトの中で意思決定が必要になることの多い局面を取り上げ、どのようなプロセスで意思決定を行えばよいかを学ぶことができます。

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詳細・お申込 http://pmstyle.biz/smn/decision_analysis.htm
主催 プロジェクトマネジメントオフィス、共催:PMAJ
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【カリキュラム】
1.なぜ、意思決定がプロジェクトの成功に影響を与えるのか
2.マネジメントにおける意思決定の局面
3.意思決定と組織承認の関係
4.プロジェクトマネジメントサイクルと意思決定
5.意思決定プロセスを理解する
6.プロジェクトマネジメントで使う代表的意思決定手法
7.プロジェクトマネジメントにおける意思決定
8.まとめ~プロジェクトマネジャーの意思決定力を高める
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好川哲人

技術経営のコンサルタントとして、数々の新規事業開発や商品開発プロジェクトを支援、イノベーティブリーダーのトレーニングを手掛ける。「自分に適したマネジメントスタイルの確立」をコンセプトにしたサービスブランド「PMstyle」を立上げ、「本質を学ぶ」を売りにしたトレーニングの提供をしている。