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2012年4月 2日 (月)

【MOT入門】第2回 プロジェクトと技術

Tech1◆技術マネジメントの前に

前回、技術には、製品技術、生産技術、システム化技術の3つの種類があるという話をした。では、技術をマネジメントするというのはどういうことかを考えていきたい。一般的には、技術のマネジメントは組織的な議論であり、

技術が関わる企業経営の創造的かつ戦略的改革マネジメント

と定義される。つまり、技術を活用して経営を創造的なもの、戦略的なものに変えていくかが技術マネジメントなのだが、このような活動はプロジェクトを通じて行われる。そこで、この議論に入る前に、そもそも技術はプロジェクトに対して、どのような影響を持つのかについて考えておきたい。



◆プロジェクトと技術(1)

こんな状況を考えてみよう。ある技術を使って製品の開発をする。その技術を使うと、製品性能がよくなることが期待できるが、一方で、自社としては初めての試みで、技術の専門家はもちろんのこと、経験者もいない。このとき、プロジェクトマネジャー(スポンサー)はどのような判断をするだろうか?

まず、ポイントになるのは、製品技術は品質(スコープ)にプラスの影響を与えるが、逆にコストとスケジュールに対してはマイナスの影響を当たることだ。つまり、新しい技術の採用によって製品の価値が増加する一方で、技術の取り扱いになれていない、組織の資産がない、スキルフルな人材が十分でないといった理由によって、コストにもスケジュールにも悪い影響を与えるケースが多い。

現実的に考えると、これらの問題はリスクの問題として扱われる。製品性能の向上分に対して、リスクをとる価値があるかどうかがが評価される。もし、あるとなれば、リスクをとるかどうかを判断することになる。


◆プロジェクトと技術(2)

もうひとつ、考えてみよう。ITのプロジェクトの引き合いがあったが、見積もりベースでは、納期に間に合いそうにないし、コスト的にも危ないが、事業戦略的にはなんとか受注したい。そこで、兼ねてより検討していた開発ツールの導入を本格的に検討することになった。このとき、プロジェクトマネジャー(スポンサー)はどのような判断をするだろうか?

これらは生産技術の問題である。生産技術の問題はほぼ、コストの問題に集約される。つまり、プロジェクトコストを生産技術に割り振ることによって、トータルのコストを抑えることができるかどうかがポイントになる。

以上の議論に、技術の導入をプロジェクト単位で行うのかという違和感を感じられている人もいるだろう。あるいは、そのプロジェクトで導入したとしても、コストのすべてをそのプロジェクトで負うべきかという疑問を持たれている人もいると思う。この議論は、後で行う。


◆注目されるシステム化技術

さて、製品技術や生産技術は以上のようにトレードオフを伴うことが多い中で、注目すべきはシステム化技術である。たとえば、今、少し調子が悪いが、任天堂の成功の秘訣は枯れている技術を組み合わせてうまく使うという話がある。あるいは、アップルがiPodをつくることができたのは日本の中小企業があったからという話があって、アップルの商品は時代の最先端をいくが、技術的には最新の技術ではなく、確立された技術をうまく組み合わせたり、小型化したりすることによって実現されている。

このように製品の構成(アーキテクチャー)、ユーザインタフェース、あるいは、作り方までを含めて、商品をシステムアップする技術に投資するという選択もある。これがシステム化技術であるが、システム化技術は品質はもちろん、コストやスケジュールに対してマイナスの影響を与えないという特性がある。

ITプロジェクトでは、アナリストやアークテクトの存在に早くから焦点を当てているが、技術的にみたときに、システム化技術に重心を置いてプロジェクトの技術的な戦略を考える必要性はどんどん高まってきている。その背景にあるのが、上に述べた、システム化技術はQCDSによい影響を与える可能性が高いことである。

また、システム化技術に着目することは、一製品や技術の範囲を超えて重要になってきている。たとえば、システム化技術の一つは、ビジネスモデルをつくる技術である。この点もいずれ、議論したい。


◆技術は組織で取り扱う

さて、上に触れたように、技術コストをプロジェクトだけで見る必要があるのかという議論がある。例に挙げた製品技術の話をもう一度、考えてみよう。現実にはこういうケースが結構ある。理由は明確で、技術戦略がないからだ。技術戦略があれば、技術を中心にして製品ラインナップを構成していくことができる。従って、技術開発や導入のコストをプロジェクトに分配でき、プロジェクトコストを下げ、開発原価を低減できる。この点がもっと顕著なのが、生産技術である。

このように考えると、プロジェクトで使う技術は本来、組織として獲得し、それをできるだけ水平展開し、プロジェクトにコスト的な負担を小さくしなくてはならない。その意味で、製品技術と生産技術については、プロジェクトで開発・導入する際には別枠のコストとして考えるべきである。

そして、組織として如何に技術を取り扱うかというのが、技術マネジメントである。

これに対して、システム化技術はプロジェクトがコストを負うべき技術である。プロジェクトにおける創造とはシステム化技術にかかっているといってもよい。言い換えると、プロジェクトの投資対効果は、システム化技術への投資で決まってくるといってもよい。

たとえば、受注型のITプロジェクトで制約条件が厳しくて困ったら、システム化技術の視点から問題解決の方法を探ってみるとよいだろう。


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好川哲人

技術経営のコンサルタントとして、数々の新規事業開発や商品開発プロジェクトを支援、イノベーティブリーダーのトレーニングを手掛ける。「自分に適したマネジメントスタイルの確立」をコンセプトにしたサービスブランド「PMstyle」を立上げ、「本質を学ぶ」を売りにしたトレーニングの提供をしている。