【補助線】持論について考える(前)
◆標準とは
みなさんならマネジメントにおける「標準」とは何?と聞かれたら、なんと答えるだろうか?簡単そうで、多面性があり、意外と難しい。その中の一つは、
そのとおりにやればうまく行く方法論やプロセス
というものである。
組織がプロジェクトマネジメントの標準を決めるということは、標準に従ってプロジェクトマネジメントを行って、プロジェクトがうまく行かない場合には組織が責任を持つという意味である。ただし、一足飛びにそのような標準を定めることができないので、そこで、標準を実践しながら、問題を見つけ出し、改善しながら、プロジェクトの成功の度合いを高めていく。このような活動を成熟度の向上と呼ぶ。
標準が成熟していないとき、つまり、うまくいく確率がそんなに高くない場合に、プロジェクトマネジャーはどのように対応すればよいのだろうか?プロジェクトをうまく進めるために不十分なところは、自分で決めながら進めることが必要だ。標準をこのように活用すればうまく行くという自分なりの方法を持つことが必要になる。
組織によってはプロジェクトマネジメントの標準が存在しない場合もある。そのような場合には、すべてのやり方を自分で決め、自分なりの方法を確立する必要がある。
いずれにしても、プロジェクトマネジャーは置かれた状況で、プロジェクトの進め方、あるいは、プロジェクトマネジメントの方法について、自分なりに「こうすればうまくいく」という方法論を持たなくてはならない。多くのプロジェクトマネジャーは頭の中にぼんやりとそのような考えを持っているが、それを形式化、文書化したものが持論である。
◆改めて「持論」を定義する
辞書を引くと、持論とは「かねてから主張している自分の意見・説」と書かれている。このように定義すると実践的に根拠のない説も持論だということになってしまう可能性がある。そこで、ここではもう少し、狭い意味で「持論」という言葉を使うことにする。
日本のリーダーシップ研究の第一人者である神戸大学大学院経営学研究科の金井壽宏教授は、「リーダーシップ入門」(日経文庫)の中で、リーダーシップの持論を、「実践から生まれ、実践を導いている理論」と定義されているが、この記事でも同じ意味で使う。ここでは
経験から生まれ、行動を導いている方法論
を持論と呼ぶことにする。
◆標準と持論
ここで、持論と標準の関係について触れておきたい。冒頭に述べた組織独自の標準は組織がそのようにすればうまくいくと信じている方法論で、いわば組織としての「持論」だといってもよい。
当然のことであるが、持論は標準の影響を受ける。上に述べたように、標準がある場合には、持論は標準の上に立脚する。標準が変われば持論も変わる。
逆のケースもある。個人の持論は、組織にその有効性が認知されれば、標準の中に取り込まれていく。つまり、組織の持論の昇華していくわけだ。
一つ例を考えてみよう。ある会社の標準プロセスでは、ステークホルダ分析はプロジェクトの計画を立てるときに、コミュニケーション計画を作るために行うことになっていた。プロジェクトマネジャーのAさんは、「計画を作るときには可能な限りステークホルダを巻き込んだ、裏付けのある計画を作る」という持論を持っていた。そこで、標準的なやり方では不十分だと考え、毎回、計画を作る前に重視するステークホルダを決め、コンタクトし、計画の方針を相談した。それが功を奏し、Aさんが担当するプロジェクトは毎回、問題が少なく、スムーズに進んでいた。
PMOのBさんはAさんのやり方に注目し、プロジェクト企画書の中に主要ステークホルダの欄を設け、プロジェクトマネジメントガイドラインに計画前に主要ステークホルダと計画の方針について相談することという一項目を加えた。
この標準でしばらく仕事をしているうちに、Aさんは、企画段階でのステークホルダとのプロジェクトイメージの共有の重要性に気づいた。イメージが共有できれば、ステークホルダの協力の仕方が自発的になってくる。やがて、「計画を作るときには可能な限りステークホルダを巻き込んだ、裏付けのある計画を作る」という持論は、「企画段階でステークホルダとプロジェクトのゴールやゴール達成のシナリオを共有する」というものに変わっていった。
◆持論の使い方と効用(1)~ガイドライン
次に持論はどのように使うのかという問題を考えてみよう。いうまでもなく、持論があれば、プロジェクトの構想や計画、あるいは実行の各段階でのマネジメントを自信を持って実施していくことができる。標準がある場合には、標準を効果的に活用でき、プロジェクトが成功に導かれる可能性が高くなる。標準がなければ、持論の役割は一段と大きくなる。これが最大の効用である。
著者たちは、「はじめてのプロジェクトマネジメント」は標準やプロジェクトマネジメントの教科書通りでよい。でも、2回目からは必ず、自分の考えを入れようという提案をしている。もともとはプロジェクトマネジャーの育成の取り組みで、考える習慣を付けさせる目的なのだが、ほんのちょっとでも自分の考えを入れることによって、全体的に自信を持って行動できるようになることに気が付いた。これは持論の効用だと思われる。
◆持論の使い方と効用(2)~プロジェクトマネジメントの物差しにする
二つ目は、持論があることによって、持論通りにプロジェクトマネジメントを行っているかどうかを振り返ることができ、もし、ぶれているとすれば修正をすることができる。これは、うまくプロジェクトをマネジメントしていればプロジェクトは成功するという「前提」でプロジェクトマネジメントを行っている限り、極めて重要なポイントである。
ベースラインのマネジメントはプロジェクト(マネジメント)計画に基づいてPDCAのサイクルを回し、プロジェクトが思った通りに進んでいるかどうかを判断し、問題があれば是正をする。では、ベースライン以外のマネジメント対象はどうだろうか?
たとえば、標準に従ってコミュニケーション計画を作り、計画に従ってコミュニケーションは行っているが、何か違和感があるといったケースがある。コミュニケーションが表面的になって、キチンと意思疎通できていないような場合だ。このような場合には、持論が一つの規範になる。コミュニケーションの持論通りにプロジェクトマネジメントを実施できていないから違和感が出てくると考えることができる。そこで、持論と実際の行動のずれを見つけて、マネジメント行動を修正していくことによって違和感が解消されていくだろう。
(後半に続く)
◆持論を作ってみませんか?
PM養成マガジンでは、10周年記念のイベントとして、持論を作るアクティビティを行う予定です。この記事を読んで、持論に興味を持たれた方は、ぜひ、ご参加ください!
「97のこと」を見ましたが、IT関連が主題ですね。「持論を持とう」でも、参加表明者の多くはやはりIT関連者ですか?
投稿: USIG | 2012年3月23日 (金) 08:23
はい、今のところIT関係の人が8割くらいではないかと思います。
投稿: 好川哲人 | 2012年3月23日 (金) 09:43