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2011年6月 6日 (月)

PMO2.0のためのパフォーマンスコンサルティング入門(3)~パフォーマンスコンサルティング流問題解決事例

◆顧客とのコミュニケーションが悪い!→研修をやろう!

まず、現実問題としてどのような対象をしているか。一つの事例を紹介する。

IT業界でプロジェクトマネジメントが定着し始めたころから、認識が高まってきた問題に、顧客からシステムの仕様やプロジェクトの運用に関する顧客の要望(プロジェクト要求)をうまく聞き出せず、プロジェクトの終盤になって認識が異なるという問題が発生し、プロジェクトが窮地に追い込まれるという問題がある。この問題への対処をパフォーマンスコンサルティングの観点から考えてみよう。

このような問題を抱えるある企業の事業部門は、この問題を顧客とのコミュニケーション、特に上流工程で、顧客とのコミュニケーションに問題があると考え、コミュニケーションの改善を目的とした研修を実施した。

残念ながら、この部門では問題が解決されたとは言い難い結果に終わった。研修プログラムに問題があると考え、数回改善をしたが、目立った効果もなかった。


◆パフォーマンス改善の視点

パフォーマンスコンサルティングでは、パフォーマンス改善の視点(ニーズ)を

(1)ビジネスニーズ
(2)パフォーマンスニーズ
(3)能力ニーズ
(4)環境ニーズ

の4つに分けて考える。

ビジネスニーズは、ある事業部、ある部門、ある組織が目指している状態である。上の例であれば、顧客満足を最大化することだ。

パフォーマンスニーズは、ある具体的な職務を行う上で必要となる、業務で行うべき行動要件である。上の例では、「顧客のプロジェクトやシステムに対する要件を特定し、対応すること」である。

能力ニーズはその行動をとるために「学習」しなくてはならないことだ。上の例だと、顧客の意図を聞き出す質問方法や、要求分析の方法である。

最後の環境ニーズは業務環境に関するニーズである。環境ニーズは、パフォーマンスニーズを実現するために調整すべき事項である。具体的には、「業務プロセス」、「見積もり方法」、「業務の評価方法」、「組織的プロジェクト管理の方法」などが考えられる。


◆環境ニーズがポイント

このニーズはちょっとわかりにくいかもしれないので少し、解説しておく。業務プロセスに関しては、顧客とのコミュニケーションのプロセスで、定例会議以外のプロセスを決めている例は少なく、ほとんど、プロジェクトマネジャーやメンバーの判断に任されている。これは顧客の要求はプロジェクトで解決できるものという前提に基づいているが、実際にはできないことが多い。その場合は、やはり、プロジェクトの判断でエスカレーションすることになっている。このようにプロセスが共有されておらず、コミュニケーションの阻害要因になっていることが多い。これを解決しなくては、能力ニーズが満たされても、問題は解決しない。

次の見積もり方法に関しては、この部分に対しては明確な見積もり基準がなく、見積もりが低くなりがちである。見積もりが低くなると工数が取れず、コミュニケーションが雑になる。この問題に関しては、トレーニングニーズが満たされ、コミュニケーションスキルが向上すればある程度解消するが、問題が解決したといえる状態にはならないだろう。

三番目の業務の評価方法も同じ問題である。プロジェクトに関する評価でもっとも問題になるのは、最終的なコストである。コストが評価に大きな影響を与える限り、プロジェクトスコープが膨らむと困る。そこで、自分たちの都合のよい要求に読み替える傾向がある。実際に、要求定義の場に立ちあることがあるが、顧客の質問への回答をどうすればそのように理解できるのかと思うことが少なくない。日本語の曖昧性といったよく指摘される問題もあるのだが、はやり、QCDの組織の制約を「楽に」クリアしたいという態度が目立つ。本人に尋ねると否定するが、やはり、この背景に評価の問題があるのは欠かせない。

四番目の問題も背景には評価の問題があるが、組織的プロジェクトマネジメントのルールを守り、かつ、条件をクリアするために、コミュニケーションを雑にしているケースが少なくない。


◆パフォーマンスコンサルティング流問題解決

上の事例では、チームリーダークラスから始めて、顧客との接点があるエンジニア全員にコミュニケーションの研修を行ったが、効果がなかった。それは、要求収集にかけることのできる時間の問題にあった。もともと、受注価格の低下に悩んでおり、それに加えて、要求定義が不十分で無駄なコストが発生していた。

つまり、事業ニーズを満たし、パフォーマンスニーズを満たすためにすべきことは、コミュニケーションスキルの向上ではなく、生産性の向上である。もし、コミュニケーションスキルの向上を中心に考えるのであれば、環境ニーズへの対応として受注価格の向上のための活動を行う必要がある。

結局、この会社では生産性の向上への取り組みとして、「プロジェクトの立ち上げフェーズにおける顧客の声」手法とシステムの要件分析手法の標準化から着手し、一方で、これらの実践のトレーニングを行った。また、リワークの防止による生産性向上のために、開発リーダークラスが自社の開発プロセスをトレーニングを設計し、実施した。

これらの取り組みによって、2年後には上流工程に費やす時間が20%程度増え、事業部長がコミュニケーションの問題だと言っていた問題は、ほぼ解消した。

【参考文献】
デイナ・ロビンソン、ジェームス・ロビンソン(鹿野尚登訳)「パフォーマンス・コンサルティング~人材開発部門は研修提供から成果創造にシフトする~」、ヒューマンバリュー(2007) 

 

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好川哲人

技術士&MBA 技術経営のコンサルタントとして、数々の新規事業開発や商品開発プロジェクトを支援、イノベーティブリーダーのトレーニングを手掛ける。「自分に適したマネジメントスタイルの確立」をコンセプトにしたサービスブランド「PMstyle」を立上げ、「本質を学ぶ」を売りにしたトレーニングの提供をしている。