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2010年6月 7日 (月)

【戦略ノート214】ソフトなプロジェクトマネジメント

◆ハードアプローチとソフトアプローチ

もう10年近く前になるが、PM養成マガジンで初めてセミナーを開催し、PMBOKをベースにしたプロジェクトマネジメントの話をした。そのときに、以下のような質問を受けた。

PMBOKのようなハードなアプローチ以外に、ソフトなアプローチがありますが、どう思われますか?

実は、そのときは、(マネジメント)プロセスが明確に決まっているかどうかの話だろうと思ったので、そのような視点からの回答をしたと思う。しかし、今、思えば質問の意図を取り違えていた。プロジェクトマネジメントのアプローチのハードとソフトとは

・ハードアプローチ:
  組織が決めた目的や目標を達成するためにプロジェクトを進めていく
・ソフトアプローチ:
  プロジェクトが目的や目標を決めながら、進めていく

という意味だと思われる。


◆プロジェクトとは何の「オペレーション」か

プロジェクトとは「オペレーション」である。

これは紛れもない事実であるのだが、問題は何のオペレーションかということだ。一方の極にあるのは、

・(現場の)生産や開発のオペレーション

である。他方、

・「経営(戦略)」のオペレーション

だと見ることもできる。

現実に、企業で行われているプロジェクトはこの両方が混在している。商品開発を見ると明らかである。商品開発の中には、商品ラインナップの中に1機種増やすような商品開発プロジェクトもあるし、戦略的な位置づけが明確で、戦略実行として意識して実施しているプロジェクトもある。

そして、両者の明確な違いは、プロジェクトの目的や目標があってプロジェクトを行うのか、目的や目標までをプロジェクトの中で決めるかである。


◆現場のオペレーションから、戦略オペレーションへ

いわゆるプロジェクトマネジメントのブームが起こったのは、現場のオペレーションを改善したいというニーズからである。PMBOKに注目が集まったのもそうで、「プロジェクトを正しく進める方法」として白羽の矢が立ったわけだ。

このようなニーズに対して、プロジェクトマネジメントは一定の役割を果たしてきたと思う。著者がかかわったコンサルティング案件でも、納期遅れ・予算オーバーなどのプロジェクトの失敗率が半分以下になった事例は珍しくない。

今、失敗しているプロジェクトのほとんどはスコープマネジメントの失敗である。プロジェクトに対する要求の整理に失敗し、スコープがうまくコントロールできず、プロジェクトの目標がクリアできず、目的が達成できなかったというケースだ。

そこで、スコープマネジメントの改善に取り組んでいる企業が多いのだが、このようなアプローチは本当に有効なのかという疑問が残る。プロジェクトの目的や目標が決まっていれば、スコープが大幅に変わるということはありえない。スコープは目的や目標を達成するための手段であるからだ。


◆スコープマネジメントでは問題が解決しない

スコープが変わっているケースの多くは、目的がぶれているケースだ。あるいは、目的がなく目標だけがあるケースだ。

つまり、今、失敗しているプロジェクトでは、ハードアプローチを採っていること自体に問題がある場合が多いのだ。この問題が深刻なのは、目的が決まっていないにもかかわらず、目標が決まっていたり、あるいは、目標すら決まっていないのにスコープが決まっていたりすることだ。

たとえば、こういう商品を作ろうという。実際に作り出してから、ひどい場合には完成してからどのようにその商品を売るかを考え始める。すると、スペックや上市時期の問題が出てくる。そこで、本当の目標が決まる。さらに、商品展開に当たって事業的な位置づけを考えはじめ、その商品を開発する目的が決まる。目的が決まったら、プロジェクト目標やスコープに対して注文がつく。

これは実例である。ここまでひどい例は滅多にないと思うが、原理的にはこういうことが起こっている。


◆ハードアプローチからソフトアプローチへ

このような問題に対して、考えるべきことは、スコープマネジメントの方法ではない。本質的にスコープマネジメントでは対処できない問題であり、アプローチそのものを、ハードアプローチから、ソフトアプローチに変える必要がある。

PMBOKも第2版では、ほとんどハードアプローチであったが、第3版くらいから、ソフトアプローチの要素がどんどん取り込まれている。第4版では、プログラムマネジメントやポートフォリオマネジメントと一体化されたことによって、名実ともソフトアプローチのプロジェクトマネジメント標準になっている。

これとともに、プロジェクトマネジャーの役割も変わっている。以前は工場長であることが求められてきたが、今は経営管理者であることが求められるようになってきた。カーズナー博士によると、10年前は90%のテクニカルスキルと10%の戦略スキルが必要であったが、今は90%の戦略スキルと10%のテクニカルスキルが必要だという。これはまさに、このような流れを反映した指摘だといえる。

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好川哲人

技術経営のコンサルタントとして、数々の新規事業開発や商品開発プロジェクトを支援、イノベーティブリーダーのトレーニングを手掛ける。「自分に適したマネジメントスタイルの確立」をコンセプトにしたサービスブランド「PMstyle」を立上げ、「本質を学ぶ」を売りにしたトレーニングの提供をしている。