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2010年3月28日 (日)

【補助線】エンジニアからマネジャーへのトランジション

エンジニアがよいプロジェクトマネジャーになること(トランジション)は意外なくらい難しい。この記事はエンジニアの仕事とプロジェクトマネジャーの仕事はどう違うのかを明確にした上で、トランジションの障壁になっているものを整理し、どうすれば変わることができるのかを、著者のコンサルティング経験に基づき、整理したい。


【1】仕事の違い

プロジェクトは課題を設定し、解決する活動である。この中でプロジェクトマネジャーの仕事とプロジェクトで働くエンジニアの仕事は本質的に異質なものである。エンジニアの仕事は課題解決の仕事であり、自分自身の力で成果を上げる仕事である。これはチームを率いるチームリーダーの場合も、変わらない。自らが中心になり、チームメンバーを指示しながら課題を解決し、成果を上げる。

これに対して、プロジェクトマネジャーの仕事は、チームメンバーを通じて成果を上げることである。そのために、プロジェクトマネジャーは、課題解決ではなく、メンバーの行う課題解決が経営的な成果につながるような課題の「設定」を求められる。課題解決自体はメンバーが行う。このように、似ているようで全く異なる仕事である。


【2】なぜ、変われないのか

エンジニアからプロジェクトマネジャーへのトランジションの最大の阻害要因になっているのは、課題設定の仕事ではなく、課題解決の仕事をしていることにある(これは、エンジニアとプロジェクトマネジャーの違いを認識できないという問題でもある)。この阻害要因は、仕事の評価の考え方など、組織や制度の問題に起因する部分も少なくないが、プロジェクトマネジャー個人の問題として捉えると、3つの大きな問題により起こっている。「決めれない」こと、「任せられない」こと、そして、「動けない」ことである。

これらの問題の根本原因は、「言われたこと」をやるというプロジェクトマネジャー自身の受け身のスタンスにある。つまり、「プロジェクトは自らが何かを実現したいために行うものだ」と考えず、「プロジェクトとは与えられた課題を実現するものだ」と「考えている」、あるいは「考えておきたい」というプロジェクトマネジャーのスタンスにある。

「考えている」プロジェクトマネジャーの問題は思考停止に陥っていることである。「考えておきたい」プロジェクトマネジャーの問題は、責任をとりたくないとか、失敗をしたくないといった心理を持っていることである。いずれにしても、自ら課題を「決める」ことができず、上位組織や顧客から与えられた課題をそのままプロジェクトに受け流している。

課題を決めることができないと、メンバーと同じ土俵、つまり課題解決としてものごとを考えようとする。特に顧客相手の課題解決に注意がいく。課題解決は経験がものをいう仕事であるので、当然、メンバーよりプロジェクトマネジャーの方が能力が高い。そこで、自然とメンバーのパフォーマンスに不満をもち、失敗しないように「指導」をする。つまり、失敗を恐れて任せることができないので、メンバーが育たず、いつまでも指導は完結しない。また、メンバーにも言われたことしかやらない風潮がはびこる。結果としていつまでも「任せることができない」という悪循環に陥る。

さらに、任せることがでいないと、時間的余裕がなくなり、「考えられない」、「動けない」という状況が生じる。ここにもう一つ、「決めれない」ことに起因する問題が絡んでくる。仕事の優先順位づけが定義できないことだ。課題を明確に決めることができないので、仕事の優先順位を決める基準がない。このため、時間がない中で、不適切な優先順位により仕事をしていき、「アクティブノンアクション」=一生懸命仕事をしているのに成果が出ないという状況に陥る。もちろん、プロジェクトも、アクティブノンアクションになる。


【3】どうすれば変われるか

このような問題を乗り越え、エンジニアがプロジェクトマネジャーに変わっていくためには、適切なトランジションプロセスが必要である。ウィリアム・ブリッジズという経営学者が、トランジションのステップとして

第一段階:何かが終わる時
第二段階:ニュートラル・ゾーン
第三段階:何かが始まる時

の3つの段階からなるステップを提唱した。これは、おそらくトランジションの明確なステップを示した唯一の理論である。

この理論を応用して、エンジニアからプロジェクトマネジャーへのトランジションプロセスを考えてみよう。これまでのコンサルティングの経験から、そのプロセスとしては、

第一段階:エンジニアとしてのキャリアを終える
第二段階:マネジャーとしてのキャリアに必要なものを、プロジェクトマネジメントの活動の中で探していく
第三段階:プロジェクトマネジャーとしてのキャリアを始める

が有効である。

多くのプロジェクトマネジャーは、第一段階を経ないで第二段階に進んでいこうとし、上のような苦労している。もう一度、第一ステップを踏む、つまり、エンジニアとしてのキャリアを明確に終了することが重要である。このためには、エンジニアとしての考え方、発想を捨てることだ。たとえば、著者のキャリアコンサルティングの経験では

・すべてを自分の手の内に入れるという発想を捨てる
・ものごとは計算通りに行くという発想を捨てる
・問題を技術的に解決するという選択肢を捨てる
・時間と成果は比例するという発想を捨てる
・品質がすべてに優先するという考え方を捨てる
・顧客がすべてに優先するという考え方を捨てる
・100%やらないと意味がないという考え方を捨てる

などを捨てることが有効である。エンジニアであったことを過去とする。これができない限り、プロジェクトマネジャーとしての新しいやりかたを身につけることはできない。
その上で、第二段階では今、行っているようなトレーニングや経験をしていく。この中では、実際にプロジェクトマネジメントを経験してみて、何が必要であるかを自分自身で考えることが求められる。同時に、上に述べた「決める」、「任せる」、「動く」という基本スキルを身につける必要がある。そして、タイミングを計って、プロジェクトマネジャーとしてのキャリアを始めることをお奨めしたい。

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好川哲人

技術士&MBA 技術経営のコンサルタントとして、数々の新規事業開発や商品開発プロジェクトを支援、イノベーティブリーダーのトレーニングを手掛ける。「自分に適したマネジメントスタイルの確立」をコンセプトにしたサービスブランド「PMstyle」を立上げ、「本質を学ぶ」を売りにしたトレーニングの提供をしている。