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2010年1月 7日 (木)

【補助線】仕分けの本質

◆何故世界一じゃなければダメなんですか?

昨年、あるプロフェッショナルエンジニアの電子コミュニティに事業仕分けについてのストレートな意見を書いたら、ぼろくそに言われた。ブログに書くと収拾がつかなくなるかもしれないという不安で控えていたが、そろそろ、ほとぼりが冷めてきたので、この話題を解禁することにした。

何故世界一じゃなければダメなんですか?2位ではダメなんですか?

次世代スーパーコンピューターの開発を巡る事業仕分けでの、仕分け人の発言だ。

仕分け人は、「有識者」から、袋叩きにあった。「歴史という法廷に立つ覚悟があるのか」とまで言われた。結局、予算案では、40億円減の228億円で決着。

仕分けに対して否定的な意見を聞いていると事業仕分けがやろうとしていることに誤解があるのではないかと思う。事業仕分けでやろうとしていることは、専門的な議論ではない。マネジメントである。


◆日本人のマネジャーに位置づけ

日本人はマネジャーは専門的な議論ができなければならないと思っている。日本人の頭の中には

専門とする分野を探す(1)
→専門性を高める(2)
→専門性をリードする(3)
→専門家をマネジメントする(4)

というキャリアモデルがある。このキャリアモデルでは、専門家をマネジメントするためには、高度な専門性が必要になる。故に、事業仕分けのには専門性が必要だと考える。

これは間違いである。専門家をマネジメントするには専門性は要らない。(1)~(3)は階層性があるが、(4)は別物である。マネジャーの専門性はマネジメントである。専門性は、マネジメントの可能性を狭めることになりかねない。


◆素人のように考え、玄人として実行する

年末に本の整理をしていたときに、金出 武雄先生の

素人のように考え、玄人として実行する―問題解決のメタ技術

が出てきて、読みたくなって、作業を中断して読んだ。金出先生は、米カーネギーメロン大学で活躍する、ロボットビジョンの専門家である。この本に、こういうフレーズがある。
考えるときは素人として素直に、実行するときには玄人として緻密に

ところが、日本では一言で言うと

理系:玄人のように考え、玄人として実行する
文系:玄人のように考え、素人のように実行する

という文化しかない。

理系のアプローチは、キャッチアップを前提にしている。玄人がいるということはある意味で先進者がいるということに他ならない。研究所にいる専門家が先進者がやっていることを分析し、現場にいる専門家がそれを模倣・改良する。どちらも玄人の仕事だ。

文系のアプローチは、実績作りを目指したものである。本当に実行できるかどうかはどうでもよい。とりあえず、理論武装だけして、動かしたい。理屈の上ではできるはずだ。できないのは、実行者の能力が低いからだ。能力アップが必要だ。こうなる。

事業レベルの仕事になると、考えるのはマネジャーの仕事である。マネジャーという素人が素直に事業的に考え、専門家が緻密に実行していく。このような分担をしたい。


◆目的と実行の不整合=無駄に気づかせる

事業仕分けはマネジメントとして何をしたいのか?一種のコーチングである。無駄に気づかせ、予算計画の見直しをさせることだ。

では、無駄とは何か?以前、渋滞学で有名な西成先生の

西成 活裕「無駄学」、新潮社 (2008)

を読んでほ~と思ったのだが、無駄とは目的に対して不要なものを言う。言われてみれば当たり前だ。無駄を仕分けるとは、

計画や過去の実績が、事業目的(戦略)に整合しない活動や予算計画を削る

ことだ。担当者に説明させ、説明できなければ何かおかしいんじゃないかと気づかせることだ。仕分けでやっていることはこれだ。企業でも同じだ。いくら、この先、30年の事業基盤を作る事業ですといっても、それをきちんと説明できない限り、そんな事業は承認されないだろう。


◆自己目的化を修正する

実はもう一つある。目的そのものを考えさせることだ。

次世代スパコンの仕分け人の意見にこんな記述がある。

●10ぺタスパコンを開発することが自己目的化している。巨額の税金を投入して世界最高水準のスパコンを創る以上、大事なのはスパコンを生かして、どのような政策効果を出していくのかを、明確にできなければ、国費投入は無理である

この議論はこのコメントに尽きると思う。詳しいことは分からないが、政策目的はないと思える。事業が自己目的化すると、無駄か、無駄でないか分からなくなる。事業が自己目的化している事業に対しては、政策目的を設定してもらう。これは行政の仕事だ。

自己目的化をしているスパコン事業の担当者に

何故世界一じゃなければダメなんですか?2位ではダメなんですか?

という発言は極めて良質なマネジメントコミュニケーションだと思う。この質問に答えようとすれば、世界一以外の目的がないことに気づくはずだからだ。

仕分けはマネジメントの手段であると考えると、この手法はいろいろなところに使える。よく考えてみたい。

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好川哲人

技術経営のコンサルタントとして、数々の新規事業開発や商品開発プロジェクトを支援、イノベーティブリーダーのトレーニングを手掛ける。「自分に適したマネジメントスタイルの確立」をコンセプトにしたサービスブランド「PMstyle」を立上げ、「本質を学ぶ」を売りにしたトレーニングの提供をしている。