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2009年10月 7日 (水)

【補助線】トランジション~引き算のキャリアマネジメント

◆一冊の本との遭遇

15年くらい前に、経営大学院に行き、新しいキャリアステージに入ろうとしたときに、ゼミの課題でこの本を読んだ。

ウィリアム・ブリッジズ(倉光 修、小林 哲郎訳)「トランジション―人生の転機」、創元社(1994)

トランジションのブリッジズという名前がしゃれている。

この本自体は、大学のテキストにするくらいなので、抽象的で、論文に近いものであるが、書かれていること自体はそんなに複雑なことではない。

◆トランジションの過程

まず、トランジションは年齢に関係ないこと。仕事の範囲での話ではない。キャリアの節目だけでもない。学生から社会人になるのもトランジションなら、独身が結婚するのもトランジションだ。今まで技術者だった人が営業マンになるのもトランジション。定年して活動の場を企業社会から地域社会に変えるのもトランジション。

そして、トランジションは

第一段階:何かが終わる時
第二段階:ニュートラル・ゾーン
第三段階:何かが始まる時

の3つのステップを経て起こる。

うまくトランジションするには、第一段階で、きちんと終わらせること、第二段階で新しいものをうまく見つけることが重要だということ。今、思えばこの本で学んだことはきわめて貴重だった。特に第一段階の終わらせるということを強く意識したのは、自分のキャリアにとってとてもよかったと思う。

◆捨てられないマネジャーたち

大学院を終えたのちは、マネジメントのコンサルティングを専門とし、多くのマネジャーやリーダーと会った。特に、プロジェクトマネジメントのコンサルティングの中で、千人を超える「エンジニア出身」のプロジェクトマネジャーと会い、痛感したのが「終わっていない」ことだ。

プロジェクトマネジャーというのは、実務者からマネジャーへのトランジションのキャリアになっている。

たとえばエンジニアの場合であれば

第一段階:何かが終わる時(エンジニアとしてのキャリアが終わる)
第二段階:ニュートラル・ゾーン
     (マネジャーとしてのキャリアに必要なものを、プロジェクトマネジメントの活動の中で探していく)
第三段階:何かが始まる時(マネジャーとしてのキャリアが始まる)

というトランジションを念頭においたキャリア制度になっていることが多い。

ところがマネジャーの中には、エンジニアを終わっていないマネジャーがいる。かなりの割合でいるのではないかと思う。これはプロジェクトマネジャーの時期の仕事の仕方に問題があったのではないかと推測される。

エンジニアにとって、プロジェクトマネジャーという仕事は、一見、新しいことを加える仕事に見える。金勘定をする、人を指導する、レスポンシビリティだけではなく、アカウンタビリティという責任を求められる、人を使って成果を上げる、など。

◆捨てなければ新しいものは身につかない

しかし、これらをうまくやろうとすると、エンジニアの発想・考えを捨てることが重要である。エンジニアであったことを過去とする。これができない限り、新しいものを見つけることはできない。

・すべてを自分の手の内に入れるという発想を捨てる
・ものごとは計算通りに行くという発想を捨てる
・問題を技術的に解決するという選択肢を捨てる
・時間と成果は比例するという発想を捨てる
・品質がすべてに優先するという考え方を捨てる

・顧客がすべてに優先するという考え方を捨てる
・100%やらないと意味がないという考え方を捨てる

などなど。ぜひ、あなたのエンジニアとしての本質は何かを考え、それを捨ててみてほしい。捨てることは、学ぶことに比べると遙かに勇気がいる。ただ、マネジャーを見ていると捨てていることが成果に結びついていることは明らかだ。

捨てない限り、新しいものは見つからない。そして、もっと重要なことは、新しいことをやるためにエンジニアとして身につけたものが活きてくるということ。

優秀なエンジニアは優秀なマネジャーになれると言うが、ここには「捨てることができれば」という条件がつく。

足し算のキャリアデザインから引き算のキャリアデザインへ発想を変えよう!

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好川哲人

技術経営のコンサルタントとして、数々の新規事業開発や商品開発プロジェクトを支援、イノベーティブリーダーのトレーニングを手掛ける。「自分に適したマネジメントスタイルの確立」をコンセプトにしたサービスブランド「PMstyle」を立上げ、「本質を学ぶ」を売りにしたトレーニングの提供をしている。