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2009年10月13日 (火)

【補助線】リスクを制約条件として捉える意味

◆制約条件は6つ

PMBOKのプロジェクトマネジメントの対象となる制約条件が、従来の3つ(4つ)から6つに変わった。

・スコープ
・品質
・スケジュール
・予算
・資源
・リスク

説明としては、これらの要素は相互に影響を与えるため、そのバランスが重要であるという説明にとどまっているが、なかなか、興味深いのは5つのベースラインに加えて、リスクが入っていることである。

他の5要素が変わるとリスクも変わるので、リスクも併せてどうするかを考えなさいといえば一見当たり前のように思えるが、実はそうでもない。

◆「問題は存在しない」という意識の中のリスクマネジメント

これまではプロジェクトには「リスクは存在すべきではないが、結果としてリスクは存在する」、もっと端的にいえば、「計画に問題はない」というスタンスだった。これに対して、リスクに対するバランスを考えることは、「問題はある」ということを前提にしたマネジメントに変わっていくことになる。

これが何を意味しているか?

問題は存在すべきではないという立場は、例えば、スケジュールでいえば、

「スケジュール計画は適正なものである(問題はない)。しかし、諸般の事情でスケジュールが遅れることもある」

という前提で、マネジメントを行う。そこで、スケジュールが遅れるのはどんな状況が考えられるかと分析し、それをリスクとして監視していくというものだ。計画段階でリスクを識別し、対応するという意味では、プロアクティブなのだが、リスクに対する姿勢そのものはリアクティブである。そのために、例えば、計画段階で大幅に工程を組み替えるとか、生産性向上対策にコストをかけてスケジュールのリスクを回避するといった対応は「しにくい」。なぜ、そこまでということになる。

これに対して、

「スケジュール計画には問題がある」

ということを前提にマネジメントを行うことになる。この場合に、問題が解決できればそれだけの話だが、現実には問題はどうしようと完全には解決できないのが今のプロジェクトである。つまり、リスク対応をすることによって、問題を最小化することが求められる。これが6つの制約のバランスを考えるということだ。

◆リスクの制約化でリスクマインドが高まる

ここにこだわりたいのは意味がある。どうも、リスクマネジメントが形骸化している。というよりは、本当のところ、リスクがあると思わないで、形ばかりのリスク識別をしているケースが目立つ。そのため、リスクに上げていて、リスク対応計画まで決めておきながら、現実にそのリスクが発生するとあたふたとして、あげくの果てにはリスク計画はチャラにして、その場で、その場しのぎにリスク対応をしているケースが多い。

我々はリスクマインドの欠如と言っているが、リスクマインドの欠如をもたらしているのが、「問題はない」、「リスクはあるべきではない」という前提ではないかと思っている。その点で、今回のPMBOKのリスクに対する視座の変更は、リスクマインドを高めるのに一役買うことを期待できる。

また、このような意識は、ストレッチゴールのプロジェクトマネジメントを可能にするように組織を変えていく必要がある。

中嶋秀隆さんが、制約を6つにするとマネジメントが複雑になり、実務には向かないので、従来通り3制約でマネジメントをしていった方がよいと著書「PMプロジェクト・マネジメント改訂4版」に書かれている。このこと自体は賛成なのだが、ただ、リスクを制約にするという考えはぜひ、取り入れてほしいとも思う。

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好川哲人

技術経営のコンサルタントとして、数々の新規事業開発や商品開発プロジェクトを支援、イノベーティブリーダーのトレーニングを手掛ける。「自分に適したマネジメントスタイルの確立」をコンセプトにしたサービスブランド「PMstyle」を立上げ、「本質を学ぶ」を売りにしたトレーニングの提供をしている。