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2009年6月22日 (月)

前提条件の秘密(全3回)~その1 プロジェクトの前提条件とは何か

◆前提条件はプロジェクトの臍

プロジェクトでは、予算や納期といった制約条件ばかりが注目されるが、ある意味で制約条件以上に重要なのは、「前提条件」である。前提条件をあいまいなままにしていて、失敗するプロジェクトは少なくない。

逆にいえば、プロジェクトマネジメントとは、前提条件を設定できないことで発生する問題を解決するための手段だと言ってもよい。たとえば、

・すべての人は放っておいても自発的に報告をする

という前提条件を設定してもよいし、

・メンバーはリスクを察知し、リスク回避行動を取る

という前提条件を設定しても一向にかまわない。しかし、現実にはそんな前提条件は多くの組織では非現実的であるので前提とはせず、その代わりにマネジメントでその前提が成り立たない場合の対処をする。マネジメントとは理想的な前提条件を獲得するための活動であり、プロジェクトマネジメントの組織習熟度はマネジメントを不要にする前提条件の多さを表す指標に他ならない。

ここで、改めて前提条件を定義しておこう。

前提条件とは、そのプロジェクトを実施する上での「仮定」である。上に述べたように、仮定がまったくなくなることはあり得ないし、かといって、非現実的な仮定をしても意味がない。

たとえば、「プロジェクトメンバーはプロジェクトの利益を考えて行動する」という前提がある。この前提の上に生産性、コミュニケーション計画、リスク計画などの計画をしてプロジェクトを進め、前提が間違っていて失敗したプロジェクトは多い。この例を一つとってみて、前提条件の大切さ・微妙さが分かるというものだ。

前提条件は、些細なことだが、プロジェクトに大きな影響を与える、いわばプロジェクトの臍のようなものである。

◆前提条件はプロジェクトの目標に大きな影響を与える

また、前提条件は、プロジェクトの目標にも大きな影響を与えている。たとえば、予算や納期という目標を決めるに際して、一般には見積もりを行う。見積もりをするに当たっては、「見積もり条件という前提条件」が必ず存在する。

見積もり条件というと「やることと、やらないこと」、つまり、スコープを中心に考えることが多い。特に、ITプロジェクトではその傾向が強いが、どんな分野でもこの傾向はある。まず、この理由を整理しておこう。

ビジネスとしてプロジェクトをやるのだから、プロジェクトにとってもっとも重要な要素は収益だと考えてられている。収益に大きな影響を与えるのは、スコープである。従って、見積もりの前提としてのスコープの明確化は、かなり、厳密に行われている。見積もり段階で、見積もり設計と称して成果物の設計が行われることすらある(PMBOK的にいえば、見積もりフェーズを設定するということ)。

逆に、収益はスコープを固めれば大きく変わることはない。為替とか、物価などの経済指標の変動なども含めて、リスクマネジメントでコントロール可能な範囲での変動に収まることが多い。

加えて、どの業界でも、納期遅れの影響はどんどん厳しくなっている。プラントや建築物、情報システムのような一品ものでは、納期遅延のペナルティは常識になっている。商品開発でも流通がメーカに対して供給遅延による違約金を請求するような事例も出てきているし、多くの商品のライフサイクルが短くなっているので発売遅延がその商品のリターンに大きく影響を与えるようになっている。まれに、開発プロジェクトの納期遅れによって、発売を見送った事例というのも耳にするようになってきた。

ここで注意しておきたいのは、納期についてはスコープ以外にもいろいろな変動要因がある。たとえばスケジュールにもっとも重大な影響を与えるのは、リソース確保と、ステークホルダの分担対応である。この2つは、スケジュールにそのまま影響が出てくる。にも関わらず、これらについては望ましい状況になることを前提に計画が作成されることが多い。たとえば、

・リソースはタイムリーに確保できる
・ステークホルダ(顧客)は自分の担当業務をプロジェクトの要請したスケジュールで実行する

という前提の元に計画が組まれることが多い。納期に関してはこの種の希望的観測ともいえる前提条件が多く存在する。

◆どんな計画にも前提がある

ここまで、納期(スケジュール)とコストに限定して議論してきたが、調達管理や人的資源管理、コミュニケーション管理などにおいても、このような前提条件は存在している。たとえば、調達でいえば、プロジェクト調達の場合

・調達先は誠実である

ということが前提になっていることが多い(組織による調達の場合は違う)。人的資源であれば、

・メンバーは手抜きをせずに仕事をする
・メンバーは決められたルールを守る

ということを前提にしていることが多い。コミュニケーションに関していえば、

・言葉で明記すれば意図が伝わる
・組織からの指示はプロジェクトマネジャーを介して行われる

といった前提条件が潜んでいることが多いように思う。

◆前提条件がほころびるとどうなるか

もし、このような前提条件にほころびがあると、上で議論してきたように、最終的には予算と納期とスコープ(品質も含む)、つまり、プロジェクトの制約条件にかなり、重大な影響が出てくる。極論すれば、前提条件が明確になっていない限り、プロジェクトの計画は作成する意味が無いといってもよい。

こんな例は枚挙にいとまがない。

・リソース確保が前提になっているスケジュール
・パフォーマンスの平準化が前提になっている予算計画
・作業者のプロジェクトのコミットを前提した品質管理計画

といった計画にどんな意味があるのだろうか?もっといえば、

・コミュニケーションの良さを前提にしたリスクマネジメント計画
・性善説を前提にしたコミュニケーション計画

などもそうだ。

◆前提条件の明確化こそが、プロジェクトマネジメント導入のハードル

実は、日本企業へのプロジェクトマネジメントの導入がもっともインパクトを持ったのは、言い換えると抵抗にあっているのは、責任の明確化と前提条件の明確化である。いろいろな企業のプロジェクトマネジメントの実態を見ても、この2点についてはあいまいになっているケースが多い。

特に、前提条件は、これまで「根回し」でアンダーテーブルで握るというやり方がされてきたものだ。それはそれで、一つのやり方であるが、そこにプロジェクトマネジメントという形式化された管理が入ってきて、非常に中途半端になって、時として大きなトラブルの原因になっているものである。

では、前提条件をプロジェクトマネジメントの中でどのように扱っていけばよいのだろうか?今回の議論でおわかり頂けたと思うが、まず、きちんと識別されないことには話にならないのだが、識別するだけでは、あまり意味がない。識別して、マネジメントの中に有効に活用するから意味がある。

次回はこの議論をする。

【次回以降の予定】

■第1回 プロジェクトの前提条件とは何か
□第2回 プロジェクトの前提条件とリスクマネジメント
□第3回 プロジェクトの前提条件とプロジェクトガバナンス

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好川哲人

技術経営のコンサルタントとして、数々の新規事業開発や商品開発プロジェクトを支援、イノベーティブリーダーのトレーニングを手掛ける。「自分に適したマネジメントスタイルの確立」をコンセプトにしたサービスブランド「PMstyle」を立上げ、「本質を学ぶ」を売りにしたトレーニングの提供をしている。