【補助線】プロジェクトの神とレバレッジ
◆Der liebe Gott steckt im Detail
神は細部に宿る(Der liebe Gott steckt im Detail)という言葉がある。誰の言葉か不明だが、ドイツの建築家L. M van der Roheが世の中に広めたというのが定説になっている。
もともと、建築について言及した言葉だが、いろいろな使われ方をしている。問題は意味(解釈)だが、これまた、さまざま。細部の細かなところまでこだわるといった使い方をしているケースもあるし、逆に、細部が全体に統合されなくてはならないという意味に解釈している人もいる。結局のところ、この2つは同じことなのかもしれない(であるべきということ)。
◆経営の神も細部に宿る
ユニークな戦略論で知られるテキサス大学の清水勝彦先生がこんな本を出された。
清水 勝彦「経営の神は細部に宿る」、PHP研究所(2009)
事業や経営の成功・失敗の分かれ道になるのは、戦略のような大きな方針だけではなく、意外と小さいことが多いものだというのがこの本の指摘。いろいろな例が上げられていて、そうかもと思う。清水先生の指摘の本質は、経営の中で小さいこととか、大きいことというのは結局、「誰にとって」というところが問題で、経営の場合には結局、その時点での勝者の価値であり、絶対的なものではないというところだ。
◆プロジェクトの神は?
「プロジェクトの神」も同じだ。プロジェクト計画書をきちんと作って、レビューを受け、計画に従って進捗を管理しながら進めているのだが、うまく行かなかったプロジェクトをみていると、「ちょっとした連絡を怠った」といった些細な理由であることが少なくない。
もっとも些細というのは、傍観者的なものの言い方であって、プロジェクトにとっては些細ではないのでそんな事態が起こってしまったわけだが。
なぜ、こういうことになるか?
現場をみないからだ。現場にいるのに、現場をみていないプロジェクトマネジャーが実に多い。とくにIT系は多い。もっといえば、現場をみるというのはどういうことかわかっていないプロジェクトマネジャーも多い。
プロジェクトマネジメントの基本原理は、権限委譲と成果物管理である。経営の基本原理が戦略と組織管理であるのと同じような意味で。傍観者からみれば、これが「大事」で、これ以外は「小事」である。
ところが、実際にはコミュニケーションだとか、リーダーシップがなければ、権限委譲も機能しないし、意味のある成果物管理もできない。
◆現場にいて、細部を見ないプロジェクトマネジャー
こんなプロジェクトマネジャーをあなたはどう思うだろうか?
コミュニケーションは大切ですし、メンバーに動機を与えることも大切だと思います。だから、私は、時間の許す限り、メンバーとのコミュニケーションに時間を割いています。
彼のいう時間の許す限りという意味は、組織への対応、顧客への対応をし、余った時間でということだ。
清水先生の本に、目の前の問題の対処に忙殺され、大切なことができない。だから、問題が繰り返され、目の前の問題が減ることはない。実は、上の話も同じ。上位組織や顧客への対応に忙殺され、メンバーとのコミュニケーションに十分な時間が割けない。そのため、上位組織や顧客への対応が必要な状況をメンバーがどんどん作り出していく。
◆細部とはレバレッジポイントである
もうおわかりだろう。
現場をみるというのは、現場をみてものごとの優先順位を判断することである。この優先順位というのは現場としての優先順位である。たとえば、顧客満足を高めるために、経営がすべきことと現場がすべきことは違う。多くのプロジェクトマネジャーは、現場にいながら経営がすべきことをしている。この責任はプロジェクトマネジャーよりはむしろ上位組織にあると思われるが、結果としては現場がきちんと機能しないという状況が生まれている。
この議論は結局のところ、プロジェクトのレバレッジの議論である。レバレッジポイントを探せという話である。たとえば、顧客満足のための現場のレバレッジで、メンバーとの密度の濃いコミュニケーション以上のものは考えにくい。
そう考えると、小さければ小さいほどレバレッジとしては筋がよい。最小の努力で、最大の成果を出すことに近づけるからだ。
つまり、プロジェクトの神とはレバレッジに他ならない。
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