【補助線】顧客満足とは何か?
◆顧客満足の定義
ISO9000の2000年版から品質マネジメント活動の一環として顧客満足の把握が要求されるようになり、製造業やITにも顧客満足という考え方は一挙に浸透してきた。ISO9000がうたっている顧客満足とは、
顧客の要求事項が満たされている程度に関する顧客の受けとめ方
と定義されており、かなり、狭い意味でつかわれている。もう一つ、多くの企業に顧客満足という方向づけをしている活動にボルドリッジ賞を手本にして作られたといわれる日本経営品質賞があるが、この活動では「顧客満足の明確化」が求められ、顧客満足を
顧客に期待以上の価値が提供されたときの、顧客の心理状況
と広い意味で捉えている。経営管理と品質管理という違いがあるので、このような違いが出てきているものと思われる。
◆顧客満足の評価
顧客満足の評価としては、リチャード・オリバー(Richard L.Oliver)が提唱している「期待不確認モデル(expectation - disconfirmation model)」がもっともよくつかわれている。このモデルでは、期待(E)と実績(P)に注目し、その大きさで顧客満足を評価している。
すなわち、
E<P 満足
E>P 不満足
と定義し、顧客満足度の把握(顧客満足度調査)においては、この関係を調査することに主眼を置いている。
このモデルを使うと、定義のところで述べた品質における顧客満足と、経営(製品やサービス)に対する顧客満足が異なることがよく分かる。ISO2000における顧客満足(ISO9000の顧客満足)というのは、E<Pの状態ではなく、E=Pである。E<Pだといわゆる過剰品質ということになる。これに対して、日本経営品質賞では
E≦P
の状態を顧客満足だと言っていることになる。
◆顧客満足の背景
さて、品質マネジメントにおける顧客満足にしろ、経営活動における顧客満足にしろ、その背景にあるのは、顧客が不満を持っているという前提である。ある意味で、これらの活動は顧客を満足させるための活動というよりは、顧客の不満を解消するための活動だといった方が適切である。
ところが、最近の傾向として、顧客満足を不満足の解消ではなく、満足を高めるととらえる考え方が普及してきつつある。これは従来の顧客満足と区別するために、カスタマーディライトと呼ばれる。カスタマディライトはオリバーのモデルでいえばE<Pを言っているわけだが、単なるE<Pではない。顧客が期待する以上の品質やレベルの製品やサービスを提供することで、顧客に「歓びや感動」を与えることだと定義される。
つまり、顧客満足におけるE<Pとディライトは似て非なるものだと考えた方がよい。そのポイントはEのレベルにある。
◆顧客の期待
オリバーモデルでE<Pを作る方法の一つは顧客に高い期待を抱かせないことである。特に日本においては競争が規制されていたため、実際にいまでもそのようなマーケティング戦略を取る企業は多い。また、品質の面から顧客満足をとらえていく場合には期待を大きくすること自体が好ましくないと考える。これでは、仮にE<Pが実現できても顧客の不満足心理は残る。
顧客はPに対する理想(あるべき姿)を持っているからだ。
これに対してディライトというときの期待Eは、文字通り、顧客自身の体験を通じて想像しうる目一杯の期待である。そのような期待に対して、E<Pのパフォーマンスを実現するのがディライトである。
違う言い方をすれば、よい意味で顧客の予想外のサービスや製品を提供することである。予想外であるゆえに感動するのだ。このように期待を位置づけるときの最大のポイントは、人間は「二度目は感動が薄くなる」ということである。つまり、一度、体験をすることにより、目一杯の期待値は高まる。
この関係をよく理解した上で、プロジェクトマネジメントやプロジェクト品質における顧客満足とは何かという問題を考えてみる。
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