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2008年3月 9日 (日)

【補助線】計画されないプロジェクト

◆計画の位置づけの違い

テレビの道路特定財源の議論を見ていたら、なるほどなと思ったことがある。

日本の道路のコストがなぜ高いのかという議論なのだが、欧州では道路は計画に時間をかけて実現性を持つように徹底的にやる。その代わり、計画が終われば、「計画通り」速やかに工事計画を作り、工事をするので、結果として、企画から供用までの時間は欧米の方がはるかに短いという。

ところが日本は、最初の計画は作るが、実現性は工事での調整任せ。着工すると、できるところから予算をつけてやることになる。ゆえに、とびとびに作り掛け道路が点在しているのだそうだ。

なるほどなあと思った。この問題で、以前、テレビで国道8号線の高架化工事のいきさつの特集をやっていた。一応、計画を作って、タウンミーティングをやる。何回かやっているのだが、住民のコンセンサスは得られていないどころか、報道を信じれば圧倒的に反対住民が多い。にも関わらず、今後もタウンミーティングを続けながらも、計画通りに着工手続きに入り、進めていくというのだ。

基本計画の調整ができていないままで、工事にバトンを渡している。

これでは、いくら、工事計画を精緻に作ろうとその通りに実行できるはずはない。実際に工事を始めると、現場では想定していなかった障害が飛び出してくる。

◆なぜ、コストが高くなるのか?

プロジェクトマネジャーのみなさんなら、まあ、これは最後まで計画通りにいかないと思うのではないだろうか?

では、プロジェクトオーナーは何をやろうとしているのか?とりあえず、キックオフする。そして、比較的、反対住民の少ない箇所から着工し、既成事実を作って、反対住民が多いところを切り崩していく。

ただし、この切り崩しが、当初予算どおりにできるはずがないのは、自明の理だ。既成事実化すれば、土地が上がるし、何らかの補償をするにしても、補償金を上げることが「合理性」を持ってくる。当然、当初計画よりはるかに大きなコストがかかる。役人がリスク管理をしていないはずはないので、おそらく、確信犯でやっているのだろう(リスクをとっているわけではない。リスクを識別して無視しているのだ)。

当然、工事コスト自体もよけいにかかるのも明らか。ところが、ここでも既成事実が意味を持つ。「今、止めてしまうと、今までの投資はすべて無駄になる」というロジックで押し切れるからだ。

◆SIプロジェクトのロジック

実は、このロジック、SIプロジェクトで行われていることに瓜二つ。ポイントは以下の3つだ。

・徹底的に基本計画をせず、大雑把な基本計画でとりあえずプロジェクトを始める
・問題がでてきたら、予算の積み増しを要求し、継続する
・今、やめたら、これまでの投資が無駄になると継続の合理性を主張する

この構図は、SIベンダーを非難しているように聞こえるかもしれないが、違う。3つとも、ユーザ側のプロジェクトマネジャーにとってもそうするメリットがあり、利害が一致するのだ。

計画を詳細化すればするほど、意志決定しにくくなるし、時間がかかる。また、変更がしにくくなる。変更をするのは、担当者にとってみれば一生懸命仕事をしていることのエビデンスだと言えなくもない。そして、中断しないのは一蓮托生である。

このような利害の一致があるがゆえに、止められない。そして、大けがをする。

◆ユーザ側の理性と計画

ただ、ユーザ側に「理性」があると、こんなことにはならない。先日の新聞にこんな記事が載っていた。

=====(抜粋開始)
静岡県を地盤とする地方銀行のスルガ銀行(本店・沼津市)は6日、銀行業務に関する基幹コンピューターシステムの開発を契約通りに行わなかったとして、開発委託先の日本IBM(本社・東京都港区)に約111億円の損害賠償を求める訴訟を東京地裁に起こした
 関係者によると、スルガ銀行は2004年9月、銀行業務全般にかかわる基幹システムを刷新するため日本IBMとシステムの開発契約を結び、開発費用の一部はすでに日本IBMに支払っている。ところが、新システムの稼働を予定していた08年1月を過ぎても稼働のめどは立っておらず、開発費用も当初の予定額より膨らんだため、支払った費用の返還などを裁判で争うことにしたという。
 スルガ銀行は日本IBMとの開発契約は破棄したと主張しているが、システム開発自体は引き続き進めるとしている。
 日本IBMの広報担当者は、「このような訴えを起こされるのは異例だ。訴状が届いていないので詳細は分からないが、スルガ銀行との契約上の義務は果たしたと認識している」と話している。
=====(抜粋終了)

たぶん、記事の内容からすれば、契約の方法などにも問題があるように感じるが、ここで区切りをつけようとしたのは、まさに「理」だとも感じる。

ちなみに、スルガ銀行は横並びしないことで有名な地銀だ。何よりも、スルガ銀行を有名にしたのは、バブルの時に踊らなかった数少ない銀行であったこと。同族経営の強みだと言われているが、まあ、経営や、戦略を感じる企業である。

この記事は、SIプロジェクトのプロジェクトマネジメントは日本で活動しているベンダーとしては頭一つ抜けているという評判のIBMであることがもう一つのポイントだろう。これ以上は憶測になるので控えるが、このような事態が発生するのも、道路の問題と同じく、「計画」という作業の「位置づけ」に問題があるのではないかと推測される。

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好川哲人

技術経営のコンサルタントとして、数々の新規事業開発や商品開発プロジェクトを支援、イノベーティブリーダーのトレーニングを手掛ける。「自分に適したマネジメントスタイルの確立」をコンセプトにしたサービスブランド「PMstyle」を立上げ、「本質を学ぶ」を売りにしたトレーニングの提供をしている。