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2007年12月15日 (土)

【補助線】角を矯めて牛を殺す

◆最近のプロジェクトの特徴

最近のプロジェクトによく見られる課題がある。

・スケジュールにチャレンジ要素がある
・リソースにチャレンジ要素がある
・仕様があいまいである
・新しい技術へのチャレンジにより、技術的不確実性がある
・今まで全く知らない人とチームを作って取り組む
・チームが分散している
・プロジェクトの中間的なスコープが変化する
・・・

などだ。このような課題がまったくないプロジェクトは珍しいだろう。

米国では、こういった課題のプロジェクトに対して、PMBOKに代表されるような「確定的な」プロジェクトに対して有効なマネジメントが本当に有効なのだろうか?という議論がある。アジャイルプロジェクトマネジメントやライドブレーンプロジェクトマネジメントといった手法が登場してきている。

◆手法ありきの傾向が強い日本

ところが、日本の企業をみていると、このような要素を含むプロジェクトに対して、PMBOKを適用するには何をすればよいかを考えている組織が多い。もちろん、手法を導入するというのはそういうことだから、頭ごなしにそれが悪いということではない。

問題はバランスである。

PMBOKは基本的には上位組織がプロジェクトを「管理」するには、プロジェクトはどのようにマネジメントされていればよいかという発想で作られている。しかし、すべてを管理しようとしても定型業務ではないのだから難しい。そこで、与える権限を明確にして、権限委譲をするようになっている。これに使われるツールがたとえば、プロジェクト憲章である。

ただ、権限委譲というのはそんなに簡単にできることではない。任せるだけであれば「丸投げ」ということで簡単だが、多くのプロジェクトはプロジェクトマネジャーやプロジェクトのエンパワーメントをしなくてはうまくいかない。

結果として、プロジェクトマネジメントを導入してもうまくいかなかった。その分析をしてみると、明らかになったのが冒頭に述べたようなプロジェクトではうまくいっていないという現実だった。

◆2つのアプローチ

ここで多くの組織は2つのアプローチをとることにした。ひとつはこのようなプロジェクトに対応できるようなプロジェクトマネジャーの育成である。一言でいえば、コンピテンシーやヒューマンスキルを持ったプロジェクトを育成しようとした。これは、今でも盛んに行われているが、そんなに短時間でできるものではない。

そこで現実策として出てきたのが、組織のマネジメントによりプロジェクトの性格を変えてしまうことだった。まず、リスクマネジメントと称して、チャレンジ要素を最小限に抑えてしまう。これがもっとも多い。また、不確実性の回避として、ゲート(レビュー)を設けたフェージングを導入した組織も多い。さらにはスコープマネジメントとして、変更管理を中心に行うのではなく、変えないということを前提にした運営を始めている組織も少なくない。

つまり、プロジェクトを定型業務化する方向に走っている。この効果は大きい。プロジェクトの失敗が減ってきた。

◆弊害と対策

これだけであれば、ハッピーエンドなのだが、弊害も見られるようになってきた。競争力の低下だ。商品の機能を落としてみたり、SIサービスの顧客満足を低下させるということがかなり、目につくようになってきた。もちろん、クオリティとチャレンジのどちらが組織の競争力になるかは事業の性格や組織文化によって異なるので、チャレンジをあきらめたすべての組織がそうなっているというわけではないが、競争力を落とすというのが特殊ケースという状況でもない。

この問題の根底にあるのがスポンサーシップである。スポンサーが管理主義に陥ってきて、市場や顧客のニーズに十分な対応するものができない組織が増えてきた。結果として、そんな仕事に対してやりがいを見失っている人も少なくない。

こうなってくると、PMBOKの適用だという話ではなくなってくる。明らかにバランスを失い、手法に合わせて業務を変えるという状況になってくる。

このままでいくと、角を矯めて牛を殺すことになりかねないことをよく認識しておく必要がある。

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好川哲人

技術経営のコンサルタントとして、数々の新規事業開発や商品開発プロジェクトを支援、イノベーティブリーダーのトレーニングを手掛ける。「自分に適したマネジメントスタイルの確立」をコンセプトにしたサービスブランド「PMstyle」を立上げ、「本質を学ぶ」を売りにしたトレーニングの提供をしている。