【補助線】孤立するプロジェクトマネジャー
◆プロジェクトマネジメントブームを紐解く
PMstyleの展開を本格的に始めて1年半になる。今年度から過去にPMstyleのセミナーに参加していただいたお客様を対象にプライベートセミナーを開催している。第1回はプロジェクトマネジメントにかかわる諸問題の整理と議論を行った。第2回のPMstyleプライベートセミナーは、プロジェクトマネジメントを成功させる組織のあり方の問題を扱うことになった。今回はこの背景認識を紹介したい。
もう5年くらい前になると思うが、日本でもプロジェクトマネジメントブームが起こった。
誤解のないようにしておきたいが、それ以前は何もしていなかったということではない。もう10年くらい前、つまり、PMBOKでいえば第1版(96年版)が出てきたあたりから、先進的な企業はPMBOKなどを参考にしながら、体系的なプロジェクトマネジメントの導入に取り組んでいたし、また、90年代にPMO(プロジェクトマネジメントオフィス)を作っていた企業も少なくない。日本プロジェクトマネジメント協会(当時の、日本プロジェクトマネジメントフォーラム=JPMF)もこの時期にはすでに活発に活動をしている。
ライフサイクルでいえば(近代)プロジェクトマネジメントの世界的な動きは
揺籃期 ~1990
成長期 ~2000
成熟期 2000~
衰退期
という感じだと思うが、日本の普及を見ていると、ユーザが
~1995 Innovator
~2000 Early Adopters
~2005 Early Majority
2005~ Late Majority
といった感じで出てきているのではないかと思う。具体的なユーザとしては
~1995 Innovator 外資系のIT企業、エンジニアリング業界の一部企業
~2000 Early Adopters 国内資本IT系企業、製薬業界の一部企業
といったところではないだろうか。
このような動きの中で、PMブームは、何人かのエバンジェリストが登場し、多くのEarly Majorityを生み出したことによって起こった。彼らは、メディアやコミュニティなどを通じて、プロジェクトマネジメントの必要性を説き、多くの企業にプロジェクトマネジメントの導入の契機を作った。
◆権限委譲は何をもたらしたか
このような普及の中で、ややもすると「プロジェクトマネジメントはプロジェクトマネジャーに権限委譲して、全面的に任せるものだ」というイメージが植えつけられた。むしろ、口出しをすべきではないという風潮ができたのも事実である。これが後に禍根を残している。
これは多分に受け止め側の問題でもあるので、エバンジェリストだけの責任とはいえないが、結果としてそのようなあまり適切とはいえないイメージができたことは事実だ。ただし、このイメージが急速に広まっていったのは、実はエバンジェリストの影響ではないと思う。受け止め側の問題と書いたが、むしろ、これが組織のミドルマネジャーやシニアマネジャーにとって好都合だったということが大きいと思われる。この図式の中では、自分たちはプロジェクトの実施責任をすべて放棄して、成果を求めるという構図ができるのだ。
これにより、プロジェクトマネジャーは「責任が大きくて報いがないあまりやりたくない仕事」という印象がついてしまった。当たり前である。これまでは、失敗も成功も上司の問題という立場から、「失敗すれば自分の責任、成功すれば上司の手柄」という仕事にかわってしまったからだ。もちろん、インセンティブ制度などを取り入れ、報いようとする動きはあるのもの、キャリアに結びつく評価というのはあまりされることがない。
◆孤立するプロジェクトマネジャー
また、もっと深刻な問題はプロジェクトマネジャーが孤立し始めていることだろう。プロジェクトマネジャー自身ではどうしようもないようなリソース関連の問題や、ビジネスの収益確保の問題まで一人で抱え込んでいるプロジェクトマネジャーが増えている。
これらは組織側からは失敗プロジェクトがなくならないという現象に見えた。そこで、やむなく「口出し」をするという施策をとり、うまくいっている企業もある。
◆権限委譲からエンパワーメントに
この議論は根本的な誤りがある。プロジェクトマネジャーにプロジェクトを任せることは「権限委譲」ではなく、「エンパワーメント」である。これが理解されていない。エンパワーメントとは業務の遂行に必要な権限を渡すと同時に、
・目的・目標の合意
・自由度の供与
・補完的な支援
を行うものである。権限は委譲しても、この3つのいずれか、あるいはすべてができていない組織が多いのだ。
コメント