失敗はなくならない
「失敗学会」の副会長を勤められている飯野謙治さんが最近ソフトバンク新書から
という本を出 された。大変、よい本だと思うので、ぜひ、読んでほしいのだが、この本のまえがきに、「失敗学」を活用するためのポイントを3つ書いている。
三つ目は
「失敗を繰り返さないための仕組みづくり」
という失敗学のメインストリームの主張なのだが、その前の2つが非常に興味深い。
一つ目は
「人は失敗をやらかすもの」だと意識すること
だという。そして、二つ目は
「失敗を隠そうとするのは自然の心理」だと素直に認めること
だという。この2つが組織の風土となって、最初に書いた三番目の仕組みづくりが可能になるという指摘をしている。
リスクマネジメントというのは、この
「失敗を繰り返さないための仕組みづくり」
に他ならない。リスクマネジメントの効果が出ないのは、飯野謙治さんが指摘する2つの風土に問題がある。
多くの企業、特に、大手企業でプロジェクトリスクマネジメントのコンサルティングをしているときにこれをひしひしと感じる。つまり、
自分たちは失敗はしない
という思い。この背景には当然、組織として失敗は許されないという風土がある。この意識がある限り、リスクマネジメントはできない。問題はあってもよいのだが、その問題によって失敗をすることは100%ないと考える。リスクというのはその問題における失敗行動を取る可能性であるので、当然、失敗しないという前提であれば、リスクはないことになる。
このように考えると、基本的にはプロジェクトを開始する前にすべてのリスクを回避できていなくてはならないということになる。これは、プロジェクトマネジャーと上司の間、また、プロジェクトメンバーとプロジェクトマネジャーの間の両方に言えることである。
ただ、プロジェクトであるのでデッドラインがある。そのため、事前にすべてのリスクを回避できないことがある。このような場合には、その問題は確実に解決できるという仮定の上にプロジェクトを進めることになる。「よきに計らえ」である。当然、失敗するとは思っていないので、その対応で問題が生じると責任問題になる。
この問題と関係するのが二番目である。失敗はないという前提であるが、当然、人間であるので失敗することもある。そこで、失敗した場合には隠すことになる。
リスクマネジメントの枠組みでいえば、リスクモニタリングを公正に行わないことになる。仮に、リスク識別をしていても、そのリスクは発生していないという報告をすることになるのだ。
リスクマネジメントを効果的に行うためには、失敗を隠すことが自然だという認識が重要だ。これはプロジェクトメンバーを信じるとか信じないという視点で捉えてはならない。隠すことは自然なことであり、特定のメンバーの固有の問題ではないと考える。そのような前提でリスクモニタリングをしていく必要がある。
プロジェクトマネジャーがプロジェクトリスクマネジメントを行う際には、一番目のポイントの
「人は失敗をやらかすもの」だと意識すること
を徹底的に意識付けする必要がある。このためには、原理を重視する。正しいことと正しくないことを明確にするのだ。それをしないと失敗を失敗だと認めない(リスクの発生を無視した)ままで前に進んでしまう危険がある。
これがクリアできれば、隠す必要性が小さくなる。つまり、リスクへの早期の対応が可能になる。そのとき初めてリスク対策が意味を持ってくる。
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