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2006年6月12日 (月)

【補助線】しい権限委譲

◆ガバナンスマネジメントは完璧なのか?

プロジェクトのガバナンスマネジメントとは、プロジェクトに対する各ステークホルダ(PMBOKで定義されている意味でのステークホルダ=プロジェクトマネジャー、プロジェクトメンバーも含むすべての関係者)の権限と責任を明確にし、その権限でプロジェクトにおける責任を果たしていくことである。

日本の組織にプロジェクトのガバナンスマネジメントの重要性を説いても、なかなか、理解してもらえないことが多い。例えば、プロジェクトガバナンスマネジメントの最も基本になるのはプロジェクトマネジャーにどのような権限を与えているかであるが、この点を聞いてみると、こういう答え方をする組織が多い。

 弊社ではプロジェクトマネジャーにプロジェクトマネジメントに関することは
 全面的に権限委譲している。プロジェクトマネジャーは全力を尽くして、
 プロダクトスコープを達成しなくてはならない

これには大きな前提がある。「制約条件を守る範囲において」という前提である。制約条件の中で共通の認識をしているケースが多いのは、利益(目標利益率)と納期である。プロジェクトマネジャーとしてはこれさえクリアすればあとは交渉ごとで基本的にそのイニシャティブはプロジェクトマネジャーにあると思いたい。

ところが、実は(プロジェクトの上位)組織はそうは思っていないケースが多い。一言で言えば、明確化されていないことはすべてガバナンスが組織側にあると思っていることが多い。

「権限委譲」をめぐるこの認識の違いはなぜ、起こるのだろうか?

◆プロジェクト憲章の位置づけ

一つはプロジェクト憲章の位置づけである。プロジェクトとはそもそも目的達成を第一義に、組織の規定(レギュレーション)を離れて実施するものである。ただし、まったく無法地帯では経営管理上の問題があるので、組織の規定に変わるルール(制約条件)をプロジェクト憲章で定め、それを以ってプロジェクトマネジャーを任命する。つまり、プロジェクトマネジャーを拝命するということは、プロジェクト憲章に書かれているレギュレーションを守ることを意味する。

例えば、組織の規定に「1社1000万円を超える取引は、口座を開設して行うこと」という規定があったとしよう。口座を開設するためには、なんやかんやで2ヶ月くらいの時間がかかる。これに対して、このプロジェクトでは「ひょっとすると」特殊な技術調達が必要になり、ベンチャー企業との取引が必要になる「かもしれない」とする。すると、プロジェクト憲章では、例えば、制約条件として「取引が1社3000万円以上になる場合には口座取引とする」という条件を決める。もちろん、最初の1社1000万円の規定は度返しである。しかし、プロジェクト憲章がこのように使われることはまずない。プロジェクト憲章は組織の規定より強く制約をした場合に使われることが多い。

組織の規定にしたがっていたのではうまく行かないからプロジェクトとして取り組む。しかし、プロジェクトには組織の規定を適用する。これでプロジェクトがうまく行くはずがない。

◆リスクの扱い

もう一つはリスクの扱いである。上の話も実はリスクの議論を含んでいるが、リスク対応策の実施の際に組織の規定が優先される。違う言い方をすると計画は承認するのだが、リスク計画は承認しない。実際にリスクが発生し、そのときに必要な対処の内容によって誰が意思決定するか考えようという取り決めにする。もっといえば、そんなことがあるとややこしいので、計画通りにやれという乱暴な議論をする。

今年度から開始した「プロジェクト計画書」セミナーで、プロジェクト計画書の段階的詳細化の話をすると以下のどちらかの反応が返ってくることが多い。

一つは、プロジェクトの計画段階で最後までの計画を策定して、承認を得ないと前に進めない仕組みになっているという話。もうひとつは、一旦、策定した計画はプロジェクト側に事情で変更できないという話。本質的には同じ話だが、なんとも考えさせられる話だ。

◆権限委譲の正しさをチェックする方法

Risk1 責任を全うするために必要な権限をといった議論をしだすと話は複雑になるが、実は権限委譲の適切さをチェックする方法はそんなに難しくない。

まず、プロジェクトのリスクに対して、プロジェクトで考えるべきリスクと、組織として考えるべきレベルのリスクに分ける。例えば、取引先の会社が倒産するといったリスクはこれはプロジェクトに大きな影響があってもプロジェクトで考えるべきリスクではない。このようなリスクというのは意外と多い。

その上で、プロジェクトレベルのリスクの対応策を検討する。そして、その対応策に必要な権限を分析する。すべての権限がプロジェクト憲章でプロジェクト(マネジャー)に与えられていれば、権限委譲は適切である。

実際にはプロジェクト憲章を発行する時点では、リスクが見えていないことも少なくない。そのような場合には、組織のレギュレーションで縛るのではなく、最低限、プロジェクトに課したい制約条件だけを決め、後は全面的に権限委譲する、つまり、組織のレギュレーションを無視する権限を与えることが望ましい。例えば、コスト関係でいえば

 ・目標とする収益率

だけを決めておき、組織のレギュレーションがどうなっていようと、決済なく支出できるようにする。これが権限委譲である。ここで組織のレギュレーションを生かしていると、例えば、調達でここが安いのでといった組織の不要な介入が入ることになる。これではプロジェクトマネジメントはうまく行かない。

◆ガバナンスマネジメントはPMOの役割

このようなガバナンスのマネジメントを行うには、組織がリスクに対して適切なマネジメントをしていることが不可欠である。組織が不必要にプロジェクトに介入しているのは、組織としてリスクが見えていない、扱いを決めていないといったリスクマネジメント不全が極めて多い。

組織側にたってこのようなリスクマネジメントとガバナンスマネジメントをするのはPMOの役割である。

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好川哲人

技術経営のコンサルタントとして、数々の新規事業開発や商品開発プロジェクトを支援、イノベーティブリーダーのトレーニングを手掛ける。「自分に適したマネジメントスタイルの確立」をコンセプトにしたサービスブランド「PMstyle」を立上げ、「本質を学ぶ」を売りにしたトレーニングの提供をしている。