2007年4月 4日 (水)

日本のプロマネの最大の問題に対する処方箋

4820118587 峯本展夫「プロジェクトマネジメント・プロフェッショナル―論理と知覚を磨く5つの極意」、社会経済生産性本部(2007)

お奨め度:★★★★1/2

日本でもPMPの数が2万人に近づき、この5年くらいの間に日本企業のプロジェクトマネジメントは格段に進歩し、欧米に近づいたという「説」がある。

しかし、実は、プロジェクトマネジメントについては、処方箋を間違っていたのでないかという思いもある。多くの日本企業は、プロジェクトマネジメントをプロセスとコンピテンシー(スキル)の問題として捉えてきた。そして、そのための薬を飲んできた。この薬がまったく、効かなかったわけではない。ある程度効いた。だから、冒頭に紹介したような見解がある。

ただ、症状を軽減するための薬であって、病巣を根治するための薬ではなかった。そんな印象が強い。この本は、病巣を根治するための処方箋である。

キーワードはプロフェッショナル、そして、プロフェッショナル責任である。この本ではまず、第1部でプロフェッショナルが持つべき責任について、PMIの提示した5つのプロフェッショナル責任をベースにして説いている。特に、インテグリティーについて正面から取り上げているプロジェクトマネジメントの本はたぶん最初だし、日本人になじみの薄い2つの責任概念(アカウンタビリティとレスポンシビリティ)を取り上げ、違いを明確にしている点は評価できる。ちなみに、メルマガでもこの議論をしているので、併せてお読みください(笑)。

アカウンタビリティとレスポンシビリティ

http://www.pmos.jp/honpo/note/note131.htm

次に第2部では、プロフェッショナル責任を果たすために、プロフェッショナルに必要な「近くのものを遠くからみる」というものの見方を説いている。その極意として、全体をとらえる、変化をとらえる、待つ、見えないものに挑む、前提を疑うの5つ。まさに、プロフェッショナルマネジメントの極意だといえる。この5つはぜひ、マスターしたい。

5つの極意のテーマのまとめ方はたいへん、「美しい」し、それ自体に価値があるといってもよいだろう。最近、プロジェクトマネジメントにおいても、ビジネスキャッチフレーズ的なものが目立つようになってきたが、峯本さんの言葉は、これらとは一線を隠した奥深さがある。峯本さん自身が、これらのテーマに挑戦しつづけていらっしゃるようだが、その表れだろう。

また、内容的にも、「リバース・スケジュール」、「前提条件のマネジメント」などは優れたアイディアだ。

第3部はPMBOKとPMBOKガイドという内包と外延を考え、PMBOKをどのように理解し、どのように適用していけばよいかを議論している。この議論もなかなか、面白い。プロジェクトマネジメントをプロセスとコンピテンシーだと思わせる一因になったのはいうまもなくPMBOKである。しかし、第3部の議論を読んでいると、知覚的に解説されていることで、そうではないことがよくわかり、PMBOKプロジェクトマネジメントの本質が見えてくるように思う。

全体的な感想としては、日本でもこういう本が出てくるようになったことは感慨深い。プロフェッショナルを自認するプロジェクトマネジャーの方は、ぜひ、峯本さんがこの本で展開している議論を真摯に受け止め、責任のあいまいさという日本組織の壁に挑戦してほしいと思う。

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2007年4月 2日 (月)

あなたのプロジェクトにペルソナを作ろう!

4478000417_01__aa240_sclzzzzzzz_v2435867 ジョン・プルーイット、タマラ・アドリン(秋本芳伸)「ペルソナ戦略―マーケティング、製品開発、デザインを顧客志向にする」、ダイヤモンド社(2007)

お奨め度:★★★★1/2

ペルソナとは、「仮想ユーザ」のこと。ソフトウエア開発の分野では、比較的、その存在を知られているが、マネジメントの分野ではあまり耳にしない概念である。この本は、「Persona Lifesycle」というタイトルで出版されたペルソナのバイブル的な本で、製品開発を顧客指向にすることを目的に、ペルソナを活用したマーケティング、デザインなどの進め方を書いた本である。

ひと言でいえば、顧客視点でものごとを見るという話なのだが、概念的に思考するにはあまりにも難しい。そこで、実際のデータに基づいて、仮想的なユーザ像を創り上げ、それを使ってシミュレーションを行うことにより、顧客理解をし、顧客満足を得られる商品の製品の骨格作りをする。

アジャイル開発で顧客を現場に取り込むというプラクティス(オンサイトの顧客)があるが、実際には顧客は人間であり、不安定だし、理不尽な面があり、困難を引き起こすことが多い。その点、ペルソナという考え方は、あくまでも仮想として顧客を現場に取り込むため、オンサイトの顧客で狙ったような効果を得ることができる。

この本では、ペルソナライフサイクルを

フェーズ1:「準備と計画」期

フェーズ2:「受胎と妊娠」期

フェーズ3:「誕生と成長」期

フェーズ4:「成人」期

フェーズ5:「功績、再使用、引退」期

で定義して、順番にどのように進めていくかを解説するというスタイルをとっている。

そして、この中で、特に、ペルソナを作っていくフェーズ2を受胎期3ステップ、妊娠期3ステップに分けて非常に具体的に、また、さまざまなノウハウを満載して書かれている。この部分は非常に有益である。また、使い方についても、いろいろな状況を想定して、ペルソナを使って意思決定をしていくかを具体的に説明してあり、この本、1冊あれば、ペルソナを使った製品開発ができるのではないかと思うような本である。

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2007年3月31日 (土)

組織コミットメントの構造

4820118536_01__aa240_sclzzzzzzz_v2508852_4 鈴木 竜太「自律する組織人―組織コミットメントとキャリア論からの展望」、生産性出版(2007)

お奨め度:★★★★1/2

新進気鋭の組織論の研究者が、一般の人に向けて書いた組織コミットメント論。組織論の専門家でなくてもわかる言葉で、非常に研究者らしい視点からかかれており、一般的な啓蒙書に比べると考えさせられる部分が多い。

帯に以下のような質問がある。

・希望に溢れた新入社員のコミットメントが2~3年で低下し、その後、持ち直すのはなぜか

・いやな会社でも長く居れば居るほど、転職しづらく感じるのはなぜだろうか

・チームで勝利するためには、スタメンのやる気ではなく、補欠選手のモチベーションを上げるのが有効なのはなぜか

・成果主義を徹底すると、職場の生産性が落ちてしまうのはなぜだろうか?

といった興味半分で知りたいことは、深刻な問題まで解く鍵がコミットメントにあるというのがこの本で紹介されるさまざまな研究からわかる。特にキャリア論から、コミットメントについて考察している。

人事担当者だけではなく、マネジャーやプロジェクトマネジャーならぜひ、読んでおきたい一冊だ。

2007年3月30日 (金)

プロジェクトチーム崩壊を防ぐ極意

4822283135_01__aa240_sclzzzzzzz_v4254531 伊藤健太郎「プロマネはなぜチームを壊すのか 知っておきたいプロジェクトのヒューマンスキル」、日経BP社(2007)

お奨め度:★★★★

PM書籍のベストセラー「プロジェクトはなぜ失敗するのか」の伊藤健太郎さんの待望の新作。

本の内容とは直接関係のない話題から入る。前作でも感じたのだが、伊藤さんの本はこの日経BPのシリーズが本当によく似合う。このシリーズには

デマルコの一連のシリーズ https://mat.lekumo.biz/books/2005/07/post_0be1.html

ジム・ハイスミスのアジャイルPM https://mat.lekumo.biz/books/2005/06/post_8e2b.html

ヨードンのデスマーチ https://mat.lekumo.biz/books/2006/06/post_7e70.html

など、日本のプロジェクトマネジメントに影響を与えた本がずらっと並ぶ。伊藤さんの本も間違いなく、その一冊だ。このシリーズの特徴は、深いことを、簡潔・平易に書いてあり、非常に考えさせることだ。

さて、今回のテーマは、チームマネジメント、リーダーシップ、ヒューマンスキルという伊藤健太郎さんの得意分野である。結構、深い持論がやさしく簡潔に書かれていて、納得しながら読める。かなり、ポイントが絞られているので、セミナーを受講しているような感じで、すっと頭に入ってきて、かつ、残る。

同時期に峯本さんもプロジェクトマネジャーのプロフェッショナル責任に関する書籍「プロジェクトマネジメント・プロフェッショナル」を出版されたが、伊藤さんの本もまず、「責任」から話が始まる。非常に現実的で、現場ベースでの責任論が展開されている。納得。

次にチームマネジメントの話が続く。ベースは行動規範と動機付けの話だが、両者の関係の説明が薄いので、なにがいいたいのか、少し、わかりにくい部分がある。でも、個々に書いてあることは納得性が高い

そのあと、組織のサポートのあり方の章があり、最後にプロジェクトマネジャー像が述べられている。硬い話だけではなく、問題形式で説明されているので、楽しく読める。

この本、ぜひ、PMPの人に読んでほしい。PMBOKの形式的な知識に魂が入るだろ。

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2007年3月26日 (月)

評価、教育、動機づけ

4478000409_01__aa240_sclzzzzzzz_v4228607 DIAMONDハーバード・ビジネスレビュー編集部「人材育成の戦略―評価、教育、動機づけのサイクルを回す」、ダイヤモンド社(2007)

お奨め度:★★★★

ハーバードビジネスレビューに掲載された人材育成に対する優秀な論文を選定して一冊の本にまとめている。内容は目次を見ていただきたい。

過去に読んだもの、読んでいないものの両方があったがどちらもよみごたえがあった。15本の中から3本だけ上げるとすれば、1本目は「行動するマネジャーの心得」。ケースに基づき、

・自分の仕事は自分で管理する(マッキンゼー:ジェシカ・スパンジン) 
・必要な資源はみずから調達してくる(ルフトハンザ航空:トーマス・サッテルバーガー) 
・代替案の存在を認識・活用する(コノコフィリップス:ダン・アンダーソン)

が重要だと述べられてる。

二番目は「リーダーシップR&D」。

常人には不可解な優れたリーダーの意思決定
複雑系の科学こそマネジメント研究の新たな方向性
「認識科学」と「設計科学」の融合
リーダーシップR&Dの「R」
リーダーシップR&Dの「D」
知識教育ではリーダーシップを開発できない

といった項目について述べられている。

三番目は「リーダーシップ開発は一人ひとり異なる」。

リーダー教育の多くが個性を無視していることを主張した上で、マネジャーの四つのタイプにわけ、それぞれに適したリーダー能力の開発方法について述べてる。

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2007年3月25日 (日)

ITスキル標準はITエンジニアを幸せにするか?

4798111821_01__aa240_sclzzzzzzz_ 高橋秀典「ITエンジニアのための【ITSS V2】がわかる本」、翔泳社(2006)

お奨め度:★★★1/2

ITスキル標準について日本でもっともよく知っているスキルスタンダード研究所の高橋代表の著書。

ITスキル標準自体はその名のとおり標準であり、どのように活かすかは顧客側に任されており、さまざまな活用方法が考えられる。製品開発のグルである東京大学の藤本隆宏先生の言葉を借りると、非常に多義性の高い標準である。多義性の話に興味がある方は、ぜひ、こちらの本を読んでみてほしい。

453231139x_09__aa240_sclzzzzzzz_ 藤本隆宏「日本のもの造り哲学」、日本経済新聞社(2004)

ITスキル標準のひとつの顧客であるIT系の企業や、情報システムオーナー企業はこの多義性を背景に、自社に如何に適用するかを一生懸命考えている。相応なリソースを使って研究し、構築をしている。

ところがITスキル標準には、もうひとつの重要な顧客がある。IT業界で働くエンジニア、コンサルタント、インストラクター、営業マンなどである。こちらの顧客に対しては、派遣業などが若干、自社の事業の枠組みの中で支援をしているが、それ以外には、あまり、手当てがされていないのが現状である。

そのような状況の中で、企業にとっての活用だけではなく、個人にとっての活用方法お、本という個人にとって利用しやすい形で、非常に見識のある人が書いた本としてこの本は評価できる。どうすれば、ITスキル標準を有益に使えるかという視点から書かれた唯一の本だといってもよいだろう。

ただ、残念ながら、本書では、組織の議論と個人の議論の接点や統合があまり明確になっていない。藤本先生のいわれる多義性の解消ができない限り、個人も幸せにならないし、とくにSIのような知識労働集約型のビジネスをやっている企業の業績はよくならないだろう。

IT業界というのはCSとESがばらばらの施策として行われている企業が多く、そのため、キャリアにおける組織の利益と個人の利益の現実的な統合がなかなか、見えてこないのだと思うが、ぜひ、この点をぜひ明確にしてほしいと思う。

さらには、3番目の顧客である顧客のビジネスオーナーに対する考察もほしい。この2点が加われば、さらに意義深い本になるだろう。

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2007年3月23日 (金)

サービスという活動を見直す

4903241424_01__aa240_sclzzzzzzz_v4254523 ジェームス・トゥボール(小山 順子、有賀 裕子訳)「サービス・ストラテジー」、ファーストプレス(2007)有賀 裕子

お奨め度:★★★★1/2

サービスマネジメントの専門家であるジェームス・トゥボール博士が、サービスとは何かという問題をきちんと定義し、今後へのソリューションを示した本。

この本に述べられているように、ものづくりとサービスの関係というのはこの20年くらい、ずっともやもやとしてきた問題である。特に、BTOが常識になり、マーケットインが当たり前のように行われるようになって以来、サービスとものづくりの境界が消え、サービス行も製造業も何らかの形での変革を迫られてる。

ところがあまり変わっていない。双方とも、自分の領域だけでビジネスをしようとしている。この現状に対して、この本は、

サービスミックス

サービストライアングル

サービスインテンシティマトリクス

価値創造サイクル

クオリティギャップ

などのツールを提示し、サービスマネジメントとして、サービスとものづくりの融合の方法を提案している。

この本に目を通して、真っ先に進めたいと思ったのはSI企業のマネジャーやシニアマネジャーである。非常に学ぶところの多い本だと思うので、ぜひ、読んでみていただきたい

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2007年3月21日 (水)

トヨタの秘密

4822245705_01__aa240_sclzzzzzzz_v4431317
ジェームズ・モーガン (著), ジェフリー・ライカー(稲垣公夫訳)「トヨタ製品開発システム」、日経BP社(2007)

お奨め度:★★★★1/2

トヨタウエイの著者 ジェフリー・ライカーによるトヨタの製品開発システムのエスノグラフィ。日米の研究開発拠点12箇所で40人の開発担当者から延べ1000時間に及ぶ聞き取り調査を実施して書き上げた本。

トヨタウエイについてはこちらの記事を参照。

トヨタウエイの実践

トヨタといえば現場とよい意味で泥臭い改善活動の印象がつよい。しかし、マネジメントの研究者のレベルでは、むしろ、製品開発システムに関心が高かった。東京大学の藤本先生、神戸大学の延岡先生をはじめとし、多くの経営学の研究者がトヨタのシステムを研究し、論文を書いている。実際のところ、初代イプサムに代表されるリードタイムの大幅な短縮など、興味深い点は多い。

それらの本と比べるとこのライカーの本は実務者にとって参考になる。あまり、大きな仮説を設定せずに、エスノグラフィーとして淡々と調査、観察したことが書かれており、本当のところの実態がよくわかる。

チーフエンジニア制度、セットベースのコンカレント・エンジニアリング、平準化プロセスなど、トヨタ独自のシステムが丁寧に解説されているので、読んでいて、上記の論文ではわからないことがわかる部分がずいぶんある。特に興味深いのはこれらの制度の背景にあるルールを以下のような原則としてまとめていることである。

 プロセスのサブシステム:リーン製品開発システム原則の1~4
   原則1 付加価値とムダを分離できるように、顧客定義価値を設定する
   原則2 選択肢を十分に検討するため、製品開発プロセスを設計上の自由度が一番高い初期段階にフロントローディングする
   原則3 平準化された製品開発プロセスの流れをつくる
   原則4 厳格な標準化を使ってばらつきを減らし、フレキシビリティーと予測通りの結果を生む

 人のサブシステム:リーン製品開発原則の5~10
   原則5 開発を最初から最後までまとめるチーフエンジニア制度をつくる
   原則6 機能別専門能力と機能間統合をバランスさせる組織を採用する
   原則7 すべての技術者が突出した技術能力を持つようにする
   原則8 部品メーカーを完全に製品開発システムに組み込む
   原則9 学習と継続的改善を組み込む
   原則10 卓越性とあくなき改善を支援するカルチャーを醸成する

 ツールと技術のサブシステム:リーン製品開発システム原則の11~13
   原則11 技術を人やプロセスに適合させる
   原則12 組織全体の意識をシンプルで視覚的なコミュニケーションで合わせる
   原則13 標準化と組織的学習に強力なツールを使う

ただし、このようなトヨタ方式が有効かどうかを判断するのは読者である。これが有効であるという証拠、論拠はない。唯一あるのは、もうすぐ、世界一の自動車メーカになるだろうということだけだ。

逆にいえば、別の業界の人(たとえば、製薬)がベストプラクティスとして読んでも訳に立つ内容ではないかと思う。

それから、いくつかの開発ケースが採録されている。これらは読み物としても面白い。

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2007年3月19日 (月)

イノベーションを成功させる組織

4901234986_01__aa240_sclzzzzzzz_v4414069 トニー・ダビラ、マーク・エプスタイン、ロバート・シェルトン(スカイライトコンサルティング訳)「イノベーション・マネジメント 成功を持続させる組織の構築」、英治出版(2007)

お奨め度:★★★★1/2

イノベーションのマネジメントを組織の視点から書いた本。イノベーションは偶発するものではなく、管理するものであるいうスタンスに立ち、具体的な方法を述べている。

その中心になるのが経営陣の「7つのルール」。

(1)イノベーションの戦略とポートフォリオを決定する際に、強力なリーダーシップを発揮する

(2)イノベーションを階差の基本精神に組み込む

(3)イノベーションの規模とタイプを経営戦略に合わせる

(4)創造性と価値獲得のバランスをうまくコントロールする

(5)組織内の抵抗勢力を抑える

(6)社内外にイノベーションのネットワークを構築する

(7)イノベーションに適切な評価指標と報奨制度を設ける

の7つである。

この本では、この7つのルールを実行していくための具体的な方策について解説している。経営者や組織マネジャーはもちろんであるが、現場のマネジャーにも読んでいただきたい一冊である。

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2007年3月16日 (金)

マネジャーの教科書

482074299x_01__aa240_sclzzzzzzz_ 日本能率協会管理者教育プロジェクト「実務入門 管理者必携 マネジャーの教科書」、日本能率協会マネジメントセンター(2005)

お奨め度:★★★★

ありそうで無かった本。マネジャーの仕事を行動レベルで具体的に解説し、チェックリストやフォーマットなどのツールも紹介している。

一人の著者が書いた本ではなく、JMAMの5人の研修講師が作る管理者教育プロジェクトが書いているので、分担はあるが、全体としては非常にバランスの取れた内容になっている。このバランスがこの本の最大の特徴だといえる。

内容的には

・目標達成のために全員でプラニングする

・組織の運営方法を設計する

・メンバー一人ひとりの能力を発揮させる

・メンバーと積極的にかかわる

・プロセスマネジメントを強化する

・目標達成を阻害する問題を解決する

・メンバーが納得する評価を行う

といったものになっている。また、最初にマネジャーの仕事を鳥瞰した章が設けられており、これで全体がわかった上で、各論に入っていくようになっている。

まとめ方は1項目見開き1ページにまとめられており、簡潔で実践的である。新任のマネジャーはもちろんだが、ベテランのマネジャーにも自分のすべき活動の全体像を体系的に確認するために一読をお勧めしたい。

なにより、専門職系のマネジャー(人事マネジャー、マーケティングマネジャー、プロジェクトマネジャーなど)が読むと非常に役立つ内容である。

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2007年3月13日 (火)

フランクリン・コビー流プロジェクトマネジメント

4906638619_01__aa240_sclzzzzzzz_v4196786_1 リン・スニード、ジョイス・ワイコフ(フランクリン・コヴィー・ジャパン訳)「PQプロジェクト・マネジメントの探究」、キングベアー出版(2007)

お奨め度:★★★★1/2

7つの習慣で有名なフランクリン・コビー社のプロジェクトマネジメントスキルPQ(Planning Quest)の解説書。

PQには3つのポイントがある。

一つ目は時間管理であり、この部分には、同じくフランクリン・コビーの「TQ(Time Quest)」を取り入れている。TQについては、目標の設定、計画的行動、そして安心領域からの脱出を主軸にした時間管理で、効率だけではなく、「心の安らぎ、すなわち充足や幸福が最高潮に達した感覚」に到達することを目的としている。

4906638058_09__aa240_sclzzzzzzz_ハイラム・スミス(黄木信、ジェームス・スキナー訳)「TQ―心の安らぎを発見する時間管理の探究」、キングベアー出版(1999)

この中から、価値観の明確化が時間管理のベースであるとする生産性のピラミッドの考え方を取り入れている。

その上で、2つ目のポイントとして、プロジェクトのビジュアル化こそがプロジェクトマネジメントの成功要因だとしている。

これらの考え方に併せて3つ目のポイントは、マインドマップ使って思考の幅を広げることを提案している。

PMBOKのような分析的、体系的なプロジェクトマネジメントが必要な分野もあるが、多くのビジネスプロジェクトでは、多少、重い感じがある。そのようなプロジェクトに対するプロジェクトマネジメント手法として注目に値する方法である。

プロジェクトのビジュアル化こそがではこの方法をセミナーとして提供しているが、その前に、この本を読んでみて、自分の仕事に使えるかどうかの評価をしてみてはどうかと思う。ただし、実際に使おうとすると、ツールも含めて本だけでは不十分だと思われるので、セミナーを受けるべきだろう。

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IT業界のすべてが分かる

4774129801_01__sclzzzzzzz_v45641975 克元 亮 (編集) 「IT業界がわかる」、技術評論社(2006)

お奨め度お奨め度:★★★1/2

ITエンジニアのためのIT業界ガイドブック。一冊、読めば、IT業界がどのような業界で、エンジニアとしてIT業界に入るとどのような仕事をすることになり、そのためにはどんなスキルが必要が必要で、それによりどのようなキャリアが開けるかが分かる構成になっている。

また、後半はプロジェクトマネジメント、ビジネストレンド、セキュリティ問題、法令などについても触れられており、お買い得感がある本。IT業界への就職を目指す人にお奨めした一冊である。

IT業界というキーワードでまとめているが、いくつかの視点が入っているので、細かく言えば、章によってお奨めしたい人が違う。2章や4章、8章はIT系企業の新入社員にぜひ、読んでもらいたい。6章、7章は、提案を担当する営業マンが読むと役に立つ内容だ。

全般的に、一般のビジネスマンがIT業界の企業と付き合うときに読んでおくと役立つだろう。これに最も適した本かもしれない。

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2007年3月12日 (月)

コンサルタントの秘密の道具箱

4822281728_01__aa240_sclzzzzzzz_ ジェラルド・ワインバー(木村泉訳)「コンサルタントの道具箱」、日経BP社(2003)

お奨め度:★★★★
 

コンサルタントとしてのものの見方、行動の仕方を解説した本で、分野を限らず、コンサルティングのバイブルだといってもよい一冊である。

この本では、思考法や、行動法を道具に見立てて、コンサルタントはそれを道具箱に収め、必要に応じて取り出して、問題を解決するというメタファーを作っている。

それぞれのツールについても

イチゴジャムの法則
知恵の箱
金の鍵
勇気の棒
願いの杖
探偵帽と虫めがね
イエス・ノーのメダル
ハート

望遠鏡
魚眼レンズ
ジャイロスコープ
卵、カラビナ、羽根
砂時計
酸素マスク

といったメタファーで書かれたウィット満載の一冊である。コンサルタントやその志望者であれば読んでおいて損のない一冊だろう。

なお、この本にはシリーズが存在する。20年ほど前に出版された本だ。

4320025377_09__aa240_sclzzzzzzz_ ジェラルド・ワインバー(木村泉訳)「コンサルタントの秘密―技術アドバイスの人間学」、共立出版(1990)

今、読んでみると、荒削りな感じがするが、コンサルタントの道具箱の原点であるので、こちらもとてもよい本であるので、併せて読んでみるとよいだろう。
 

2007年3月 6日 (火)

「燃えるやつら」の育て方

4492521666_01__aa240_sclzzzzzzz_v4395198 ジーン・リップマンブルーメン、ハロルド・レヴィット(上田惇生編訳)「最強集団ホットグループ奇跡の法則―成果を挙げる「燃えるやつら」の育て方」、東洋経済新報社(2007)

お奨め度:★★★★★

ホットグループというチームコンセプトをテーマに書かれたチームマネジメント論。2001年に出版され、21世紀のチームマネジメントのあり方と話題になった本だ。

米国ではドラッカースクール(クレアモンド大学院)でテキストとして使われている本で、広く読まれているチームマネジメントの本だ。

ホットグループの提案者である著者のハロルド・レヴィット

ホットグループとはチームのメンバーに共有されるミッション中心の心のあり方

だと定義している。イノベーションなど、大きな変革を必要とする組織は、従来の組織はそのまま残し、その上に、無数のホットグループを必要とするというのがハロルド・レヴィットの主張だ。

といっても、抽象論ではない。第1部は熱いチームの実態の分析や解説であるが、第2部は「熱いやつら」の育て方、第3部は「破壊的な成果を生む秘訣」とノウハウが網羅されている。

90年代を代表するチームマネジメントの理論は、ジョン・カッツェンバックの

4478430098_09__aa140_scmzzzzzzz_ ジョン・カッツェンバック、ダグラス・スミス(吉良直人、横山禎徳訳)「「高業績チーム」の知恵―企業を革新する自己実現型組織」、ダイヤモンド社(1994)

である。この内容は非常に奥深いものがあるが、読みようによっては、ほっとチームの理論はジョン・カッツェンバックの理論の上に構築されているようにも思える。

ただ、プロジェクトチームという前提で考えた場合、ジョン・カッツェンバックよりは、ほっとチームの概念の方が重要だと思う。

前書きでトム・ピータースが絶賛しているが、やはり、21世紀を代表するチーム理論になる可能性が大きい。

プロジェクトマネジャー、リーダーは、ぜひ、読んでおきたい一冊である。

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2007年2月27日 (火)

リーダーシップの旅

433403389x_01__aa240_sclzzzzzzz_v4457439_1 野田 智義、金井 壽宏「リーダーシップの旅 見えないものを見る」、光文社(2007)

お奨め度:★★★★1/2

ILSというNPOを立上げ、次世代のリーダーの輩出に取り組んでいらっしゃる野田智義先生と、日本のリーダーシップ論の第一人者である神戸大学の金井先生のコラボレーションによるリーダーシップ論。

野田先生のリーダーシップ観はサーバントリーダーシップの色合いが濃いが、そこに金井先生もいろいろな視点から意見を述べ、全体としては非常にダイバシティーの強いリーダーシップ論の本になっている。

この本の評価というか、サーバントリーダーシップへの評価は分かれると思う。ちょっと気になってアマゾンの書評を見たが、期待を裏切らず、全面否定派と全面肯定派が登場していた。僕はもちろん、全面肯定派である。

リーダーシップの獲得過程を「旅」というメタファーにしているのは、非常に興味深い。リーダーシップ研修などいろいろなリーダーシップ開発の方法はある。効果も出ている。しかし、この本で野田先生と金井先生が訴えているリーダーシップは、誰かに教わるものではなく、自分自身が選択をし、生きていく中で初めて身につくものだ。そのプロセスを旅に例えているが、まさに、旅であり、この本は旅のガイド本でもある。この本の最終章は「返礼の旅」と名づけられている。この中に野田先生の印象的なコメントがあるので、抜粋しておく。

心からの熱い思いがあり、何かを実現したいと夢や志を真剣に語る人に、周囲の人は喜んで手助けをしてくれる。リーダーシップの旅を歩む私たちは、人に助けられ、支えられる中で、自分が人を活かしているのではなく、人に自分が活かされている、そしてそのことによって、自分はさらに行動できるのだという意識を持つ。
利己と他利が渾然一体とはり、「自分のため」が「人のため」、「人のため」が「自分のため」と同一化する中、リーダーは自分の夢をみんなの夢に昇華させる。

何度読んで素敵な言葉である。さらに、こう続く。

リーダーはリーダーシップの旅の中で、大いなる力というギフトを授かる。旅を続けられること、それ自体がギフトでもある。私たちはもらったギフトを他人と社会に返す責務を負う。(中略)。ギフトを社会に返す中で、私たちはさらに真の意味での社会のリーダーへと成長する。

この本を読むときには、野田先生の訳されたスマトラ・ゴシャールの名著

意志力革命

を併せて読まれることをお奨めしたい。

2007年2月26日 (月)

プロジェクトマネジメントの道具箱

4306011461_01__aa240_sclzzzzzzz_v4572111 ドラガン・ミロセビッチ(PMI東京支部訳)「プロジェクトマネジメント・ツールボックス」、鹿島出版会(2007)

お奨め度:★★★★

2004年にPMIの優良図書に選らば得た書籍の翻訳。翻訳はPMI東京の有志による。

戦略プロジェクトマネジメントという視点でPMツールを捉えなおし、ツールの紹介をするとともに、どのような特性のプロジェクトに適しているかを整理している。また、PMBOKガイドとの関係付けもされている。

ツールは非常に万遍なく取り上げられている。その数は約60。

その部、個々のツールの説明の分量が少ないように思うので、初心者がPMBOKを勉強する際に、参考図書として使うのは多少つらいような気がする。

一度、セミナーなどで勉強した人が、辞書代わりに使うには非常に便利な本である。

また、PMBOKでは取り上げられていないツールが結構取り上げられていて、これがPMBOKのプロセスでどこで使えるかが示されているのは本書の魅力である。

それから、本書の本筋とはあまり関係がないが、上に述べたようにツールの適切の説明のためにプロジェクトカテゴリーを設定しているが、このカテゴリーが非常に参考になる。このカテゴリーがあってこの本の価値が生み出されている。

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2007年2月13日 (火)

気まぐれコンセプト

4093590028_01__aa240_sclzzzzzzz__3 ホイチョイ・プロダクションズ「気まぐれコンセプト クロニクル 」、小学館(2007)

お奨め度:★★★★1/2

広告業界に生きているわけではないが、「気まぐれコンセプト」は僕の仕事術のバイブルのひとつ。25年間の集大成が本書。

「気まぐれコンセプト」を読み出した頃には、コンセプトの意味がよく分からなかったがだんだんわかってきて、仕事はこうするといった刺激を受けている。面白いことにこういう発想は、製造業行っても結構通用するんですね。

それにしても、ホイチョイ・プロダクションズは最近派手に活動しているなあ、、、

この本と連動している映画はこちら。

4043841019_01__aa240_sclzzzzzzz_v4643446 君塚良一、泡江剛「バブルへGO!!―タイムマシンはドラム式」、角川文庫(2007)

2007年2月12日 (月)

神の交渉術

4766783891_01__aa240_sclzzzzzzz_v4686911 竹内一正「スティーブ・ジョブズ神の交渉術―独裁者、裏切り者、傍若無人…と言われ、なぜ全米最強CEOになれたのか」、経済界(2007)

お奨め度:★★★★

松下、アップルなどに在籍した著者が、客観的な目でジョブスの交渉術を分析した一冊。この手の本にしてはジョブス信仰はあまりないようで、どちらかというと日本人の視点からジョブスの行動を評価しているのが非常に興味深い。

日本人は交渉について論理性を求めている。これはたぶん、農耕民族独特の発想だと思う。最初は折り合わなくても、何とかして論理性が生まれる条件の設定を行う。それでも論理性が構築できない場合には、「三方一文の損」という和を重視した裁きになる。

ところが、少なくともジョブスの交渉術は異なる。論理性など最初から求めない。ある意味で、強行的な交渉である。面白いのは、自分の立場が弱くても、そのような交渉をすることだ。例えば、中小企業が大企業を相手に自分たちの主張をすべて飲ませようとするなど、ほとんどありえないだろう(ぱっと思い浮かぶのが、岡野工業だが)。

狩猟民族の交渉とは本質的にこのようなものだと思う。問題は弱い立場で如何にそれをひっくり返す交渉を行うかだ。ここではやはり、カリスマ性とか、プレゼン力などが効いてくる。ジョブスの素晴らしさはここだろう。

いずれにしても、アップル社でビートルズを手玉にとり、ピクサー社でディズニーを手玉にとり、iTuneで大手レーベルを纏め上げた交渉術は一読に値する。

ぜひ、読んでみよう!

2007年2月 7日 (水)

見える化ではなく「視える化」しよう!

4479791884_01__aa240_sclzzzzzzz__1 若松義人「トヨタ流「視える化」成功ノート―「人と現場が変わる」しくみ」、大和書房(2007)

お奨め度:★★★★1/2

昨年あたりから「みえるか」が大ブームになって、たくさんの本が出版されている。その中で、トヨタイズムの伝道師のカルマン若松社長だけが、「見える」という言葉を使わず、「視える」という言葉を使われている。これもトヨタ流とのことだが、トヨタでは、「みえるか」というのは、「見つける」、「気づく」だけでは意味がなく、改善して初めて意味があるとの考えからこの言葉を使っているとのこと。

この本では、そのような視座で

 ・能力の視える化

 ・問題点の視える化

 ・ノウハウの視える化

 ・市場の声の視える化

 ・失敗の教訓の視える化

 ・現場の空気の視える化

 ・仕事の大局の視える化

の7つの視える化について、42のヒントを提供している。

ヒントの内容は極めて濃く、みえるかの「元祖」はトヨタだといわんばかりのできである。また、書籍としても、事例をふんだんに使って説明してあるので、ピンとくる。

現場のマネジャーなら、一読して損はない。若松さんの本の中でも最もよいできの本ではないかと思う。一読の価値アリ。

2007年2月 5日 (月)

英語でプロジェクトマネジメントを勉強しよう

0071259627_01__aa240_sclzzzzzzz_ Gary B. Heerkens「Project Management -24 LESSONS TO HELP YOU MASTER ANY PROJECT」、McGraw-Hill (2007)

お奨め度:★★★1/2

マネジメント論は英語圏の生まれのものが多い。そのため、日本語にするとニュアンスが伝わらないものが多い。要するに文化を理解し、考え方や慣行を理解しない限り、うまく使えないのが欧米のマネジメント論である。

そんな困難さに多少なりとも便宜を提供してくれるのがこのシリーズだ。非常に基本的な範囲に限られるが、英語と日本語の対訳形式で書かれている本。訳が非常によいので、丁寧に英語と日本語を読んでいけば、かなり、ニュアンスが分かる。

ということで、プロジェクトマネジメント編を待っていたのだが、やっと出た!

期待通りである。タスクとアクティビティと違いがきちんと分っている人はそんなに多くないだろう。PMBOK(TM)第3版では、ニュアンスのある言葉はほぼ例外なく、カタカナにしてしまって、分かった気になったようで分からないことがたくさん分かる。

内容的には(欧米的なクセはあるが)、半日くらいのセミナーを受講したことのある人なら、十分、知っている内容であるので、言葉に絞って、プロジェクトマネジメントの本質を考えたいと思う人にはお奨めだ。

この本を読んで英語が分かったら、次にぜひ、お奨めしたいのが、この本。

1592575986_01__aa240_sclzzzzzzz_ G. Michael Campbell、Sunny. Baker「The Complete Idiot's Guide to Project Management (Complete Idiot's Guide to) 」、Alpha Books(2007)

お奨め度:★★★★1/2

Complete Idiot's Guide(日本では「世界一分かりやすい」シリーズ)のプロジェクトマネジメントの第4版。日本では第3版をプラネットの中嶋さんたちが翻訳をされ、非常によいできの本。翻訳のできもあって、よく売れているし、プロジェクトマネジメントのコンサルタントや講師からの評価も高い一冊である。

第4版の訳本がでるとしてもしばらく時間がかかると思うので、この際、ぜひ、英語版でチャレンジしてみよう。PMBOK3版を反映し、第3版にかなり多くの項目が加わっており、一層充実している。

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