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2007年9月

2007年9月24日 (月)

組織の心理的側面

4478001898_3DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー編著「組織行動論の実学―心理学で経営課題を解明する」、ダイヤモンド社(2007)

お勧め度:★★★★

ハーバードビジネスレビューに掲載された組織行動論の論文の中で、実践的な論文を14編集めている。以下の14編である。

受動攻撃性:変化を拒む組織の病
信頼の敵
沈黙が組織を殺す
「不測の事態」の心理学
なぜ地位は人を堕落させるのか
楽観主義が意思決定を歪める
「意識の壁」が状況判断を曇らせる
リーダーシップの不条理
転移の力:フォロワーシップの心理学
卑屈な完全主義者の弊害
善意の会計士が不正監査を犯す理由
選択バイアスの罠
道徳家ほどおのれの偏見に気づかない
失敗に寛容な組織をつくる

それぞれ、著名な論文であり、経営学のテキストに取り入れられるようなものばかりである。このシリーズの中でも、すごい一冊である。

と同時に、組織行動論といえば、理屈ばかりだと思いがちであるが、心理的な側面に注目した論文(それも著名な論文)がこれだけあるというのは驚きである。

それだけ組織は深いということだろうか。

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日本組織の病巣「組織の<重さ>」

4532133378 沼上 幹、軽部 大、加藤 俊彦、田中一弘、島本実著「組織の〈重さ〉―日本的企業組織の再点検」、日本経済新聞社(2007)

お勧め度:★★★★1/2

日本企業の強さの源泉であると考えられてきた創発戦略の創出と実行が機能不全に陥っている。その原因は、「重い組織」にある。つまり、「重い組織」が経営政策を阻害し非合理的な戦略を創発していることにあるという。

この日本組織の病巣ともいえる仮説を沼上先生らしいフィールドスタディで徹底的に調査している価値のある一冊。

研究論文に基づいて書かれた本のようで、問題提起にとどまっているが、この本を読んで連想したのが、柴田昌治氏のこの本。

なぜ社員はやる気をなくしているのか~働きがいを生むスポンサーシップ」、日本経済新聞社(2007)

柴田氏がこの本で指摘していることを、膨大な調査で裏付けたような形になっている。ということは、この問題の解決策のひとつが柴田氏が必要だと指摘するスポンサーシップであることは間違いない。

日本組織がどのように変わってきているかということを考えてみたときに、はやり、スポンサーシップ(とは昔は言わなかったが)の欠如に行き着くように思う。その原因は柴田氏も指摘しているように業績主義にある。沼上先生の言われる重さは、業績主義と環境づくりのバランスの悪さゆえに出てきているように思う。

一方で、もう、おそらく昔に戻ることはできない。そう考えると、今すべきことは、重さの解消を仕組みとして実現していくことだ。そのひとつがスポンサーシップであることは間違いない。

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2007年9月22日 (土)

組織の失敗のプラクティス

4103054719 上杉隆「官邸崩壊 安倍政権迷走の一年」、新潮社(2007)

政治に詳しいわけではないが、2007年9月12日の、あのような職務放棄が簡単にできるのかに興味を持ってニュースを見ていると、本書の著者上杉隆氏がいろいろと本質的なことを言われていたので、読んでみた。

読んでみた感想は、9月12日は決して異常ではなかったということだ。事の重大さの違いはあれ、安部総理やチーム安部がこの1年間にとってきたスタンスと全く同じスタンスで今の局面打開を考えたときに、このような結論に行き着くのは、不自然でもないし、際立った無責任でもない。

参議院選挙の後で、好意的な論評をする評論家は、「政策的な実績はみるべきものがある、政策以外のところで足を引っ張られた」といっている人が何人かいた。

一般企業でいえば、経営戦略は適切、マーケティングも適切だったが、営業マンが一生懸命やらなかったから失敗した。といっているようなもので、ナンセンスだ。ただし、政治家は、組織人と異なり、一人ひとりが国民の代表という看板主であることを考えると、ある程度、安部首相は気の毒だという意見もわからなくはない。

ただ、この本を読んでみてはっきりわかったのは、安部首相が目指したのはチームによる政治の運営である。にもかかわらず、その点で決定的な失敗をし、数々の無様な結果を生み出したことはチームリーダーの責任以外の何もでもないだろう。

その失敗の本質は、日本型組織で、人心をかえることなく、欧米流の組織運営をしようとしたところにある。欧米の組織運営の特徴は明確なガバナンスにあり、日本の組織運営の特徴は自己責任と非公式組織による緩やかなガバナンスにある。その意味では、政界のあり方に近い。

ガバナンスというのは仕組みの問題だけではなく、それを受け入れる従業員側の問題でもある。つまり、一人ひとりの考え方を変えないと、ガバナンスの効いた組織はできない。

これを地で行って失敗したのが、チーム安部であるというのがこの本でよくわかる。

2007年9月21日 (金)

今、注目される「個を活かす組織」

4478001944 クリストファー・バートレット、スマントラ・ゴシャール(グロービス経営大学院訳)「【新装版】個を活かす企業」、ダイヤモンド社(2007)

お奨め度:★★★★1/2

クリストファー・バーレットとスマントラ・ゴシャールの「The Individualized Corporation」が新装版として出版された。ちょうど、原書が出版されて10年になる。

序文には今は亡き、スマントラ・ゴシャールへの追悼もこめて、現代的な「Individualized Corporation」の意味について述べている。また、今回、翻訳を担当したグロービス経営大学院の方があとがきで、組織変革をめぐる日本の状況の変化について述べられている。

旧版は組織行動論の名作「組織行動のマネジメント―入門から実践へ」と同じシリーズで出版されているが、この時期に改めてハードカバーの立派な本として出版した出版社の英断に拍手を送りたい。

内容的には上に述べた追加があるが、基本的に変わらない。訳はかなり、洗練されているように思う。

このブログを初めてから売れた本の中で、PMBOKとこのブログの家主である好川の本を除いて一番売れている本は、スマントラ・ゴシャールの、「意志力革命」である。意志力革命に至る思考プロセスを知る上でこの本の持つ意味は大きく、今回の企画は非常にうれしい。

なお、この後に旧版の書評(2005年8月2日)をつけているので、内容はそちらを参考にしてほしい。

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2007年9月19日 (水)

気の利いたほめ言葉を持とう

4569659233 本間正人、祐川 京子「ほめ言葉ハンドブック」、PHP研究所(2006)

お奨め度:★★★★

本屋さんで、たまたま、見つけた本だが、こんな本があるのかとびっくり。

ほめるというのがやさしいようで、さあ、やってみようといわれてもなかなかできるものではない。この本では、ほめ言葉の6原則と4つの心がけを述べた上で、それを実践するポイントと具体的なスキルとともに、「ほめ言葉」を例示いる。さらに、よい例だけではなく、「悪いほめ方」も例示しているので、参考になる。

[原則]
1.事実を細かく、具体的にほめる
2.相手にあわせてほめる
3.タイミングよくほめる
4.先手をとってほめる
5.こころをこめてほめる
6.おだてず、媚びずにほめる

[心がけ]
1.ほめる要素を探す
2.ほめ方のレパートリーを増やす
3.力加減をコントロールする
4.あらきらめずに実践する

具体的な言葉は本をお読みください!

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2007年9月14日 (金)

箱から脱出できましたか?

439665040x アービンジャー・インスティチュート(門田美鈴訳)「2日で人生が変わる「箱」の法則」、祥伝社(2007)

お奨め度:★★★★1/2

世界的ベストセラー「自分の小さな箱から脱出する方法」の第2弾。第1弾と4479791779 同じく物語形式で、読者に気付きを与えていく。

今回の話は、前作でカリスマ経営者として登場するルー・ハーバートの20年前にさかのぼる。20年前に「奇跡のセミナー」で家庭生活と職場を変えることができる考え方を学び、自分を変えることができれば、まわりの人も正しい方向へ導くことを実践していくという話。

前作もそうだが、この話は箱というメタファがシンプルであるがゆえに、非常にインパクトがある。箱からでるという例えであるが、このシリーズはどんどん、人間の内面に踏み込んで行き、それを開放していこうという話である。

前作を紹介したときに、実行は難しいという話を何人かの人から聞いた。その人たちに特に、何か含みがあるわけではないが、結局、開放ができるかどうかがリーダーとしての資質ということなのだろうか?また、自分は自分の本性とは違う模様の箱を持っていると言い切った人もいた。これもよくわかる。このあたりの議論になると、人間観に関わる問題であり、宗教的な問題なのかもしれない。

いずれにもても前作より、インパクトがあると思う。前作ではまった人は、必読!

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2007年9月12日 (水)

ヒトデかクモか

4822246078 オリ・ブラフマン、ロッド・A・ベックストローム(糸井恵訳)「ヒトデはクモよりなぜ強い 21世紀はリーダーなき組織が勝つ」、日経BP社(2007)

お奨め度:★★★★

「本当に責任者のいない組織」が、どれだけ創造的で、従来の秩序を破壊し、経済的なインパクトを与えるのかについて述べた組織論。

著者は、このような組織をヒトデになぞらえ、その強さを事例としてeBayやSkypeなどのネット企業を通じて分析すると同時に、トヨタのマネジメントをその枠組みで分析し、日本型経営が目指す組織経営ではないかとしている。

日本型組織が責任のいない組織であり、ある意味でイノベーティブであるというのは経験的に正しいと思う。米国流の組織マネジメントのように、明確なガバナンスのもとに経営者から新入社員まで責任を分担するクモ的な組織運営は、実力のあるビジネスマンが集まる組織であれば合理性がある。それゆえに、自己責任による能力開発とセットになっている。

経営者は株主に対する短期のコミットメントが必要であり、社員も短期の業績評価が求められ、全ては経済的成果にベクトルが向けられる。しかし、これでは本当にイノベーティブなことはできない。もし、仮にこの本でいう「本当に責任者のいない組織」が存在可能であれば、イノベーションが生まれる可能性は多いだろう。一方で、この本で事例に書かれているトヨタを見ても、ガバナンスがないわけではない。どちらかというと、社員から見えない、あるいは意識しないようにされているだけだ。その意味で、この本に書かれているような単純な話でもないように思う。

その点も含めて示唆に富んだ一冊である。

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2007年9月10日 (月)

そのドキュメント、本当に必要ですか?

4839924287 石黒 由紀「ドキュメントハックス-書かない技術~ムダな文書を作り方からカイゼンする」、毎日コミュニケーションズ(2007)

お奨め度:★★★★

GTD(Getting Things Done、デジタル時代のストレスフリーな仕事術)本として作られた本のようだが、ドキュメントを書きながら仕事を進めることに関して、常識の枠を超えた本質的な指摘が多く、たいへん、「ため」になる本。

著者が指摘しているように、ドキュメントは何が必要かという点から必要性の分析がされ、作成されている。しかし、その作成プロセスに注目すれば不要な(他のコミュニケーションで代替できる)ドキュメントは多く、そこをうまく組み立てていることにより、「ドキュメントによるコミュニケーション」として本当に必要なドキュメントだけを作成するようにできる。それによって、作成するドキュメントの質も上がるし、情報共有の質もあがるというのがこの本の主張。特に、2章で、品質を上げるためにゴール共有をするという視点から、ドキュメントの必要性を分析している部分は共感できる。

デジタル時代の特徴のひとつは間違いなく、ドキュメントの量である。バーチャル組織、多様な人間の共同作業などで、間違いなく、ドキュメントがストレスになっている。この本はそのようなスタイルの仕事をしている人の救世主ではないかと思う。

GTD本としてTips集的な書き方になっていると感じるが、ぜひ、続編としてコミュニケーション全体を睨んだ体系的な本を書いてほしい。

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2007年9月 7日 (金)

赤字プロジェクトを立て直すコツ

4883732452 香村求「IT赤字プロジェクトの立て直し・火消し対策」ソフトリサーチセンター(2007)

お奨め度:★★★

プロジェクトマネジャー、品質管理マネジャーとして多くの経験を持つ著者が、ITの赤字プロジェクトのリカバリーマネジメントについて解説した一冊。

独特のものの見方により、かなり、抽象的なレベルでリカバリーの方針決定、考え方、体制作り、管理などについて述べている。ただし、プロセス的な部分は具体的に書かれており、また、事例が相当に紹介されている。

よいことがたくさん書いてあるので、講演を聴くつもりで読むのであれば、お奨めだ。解説の抽象度が高いので、特に経験の浅いプロジェクトマネジャーは腑に落ちるまでに何度か繰り返して読む必要があると思われるが、書いてあることの質は極めて高い。

特に、比喩的な表現が随所に出てくるが、著者がなぜ、そのような比喩を使っているのかを考えながら読むとよいだろう。おそらく、もう少し、簡単に書こうと思えばかけるのだろうが、あえて書いていないところにインプリケーションがあると思われる。

頑張って読んでみよう!ただ、機会があれば、講演を聴かれることがよりお奨め。

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2007年9月 5日 (水)

デマルコの真髄

4798016993 吉平健治「トム・デマルコの「プロジェクト管理」がわかる本―ポケット図解」、秀和システム(2007)

お奨め度:★★★1/2

トム・デマルコというと、

4822280535デッドライン―ソフト開発を成功に導く101の法則」、日経BP社(1999)

4822281108ピープルウエア 第2版 - ヤル気こそプロジェクト成功の鍵」、日経BP社(2001)

4822281116ゆとりの法則 - 誰も書かなかったプロジェクト管理の誤解」、日経BP社(2001)

4822281868熊とワルツを - リスクを愉しむプロジェクト管理」、日経BP社(2003)

などの、人間に焦点を当てた、独自のソフトウエアプロジェクトマネジメント論を展開するプロジェクトマネジメントのグルの一人である。

そのデマルコのプロジェクトマネジメントを解説した本が本書。この本は2つの要素があり、前半は、著者がデマルコのプロジェクトマネジメント理論を解釈してどのように実践すべきかを述べている。後半はデマルコの理論のポイントになる部分を解説している。

デマルコのプロジェクトマネジメントは人間を中心においているため、PMBOKのように体系的ではない。著書も、すばらしいTipsが並んでいるし、また、大局的なものの見方が素晴らしい。

そのため、この本もどちらかというと体系的にまとめた本というよりは、数多くのTipsをまとめてあり、GTD本的な趣の本である。

その意味で、デマルコの主張を手っ取り早く読むにはよい本だ。ただし、デマルコの本は、行間に多くの情報があるので、この本を読んだ後で、やはり、一度は、オリジナルの本を読んで見られることをお奨めする。

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