リーダーシップ Feed

2008年2月20日 (水)

ドラッカーを実践する

4478003343 ピーター・ドラッカー (著)、ジョゼフ・マチャレロ(上田惇生訳)「プロフェッショナルの原点」、ダイヤモンド社(2008)

紙版><Kindle版

お薦め度:★★★★★

原題:The Effective Exective in Action

ドラッカーの最大の理解者であり、ドラッカーの教えを30年に渡り、教えてきたジョゼフ・マチャレロ教授がドラッカーの言葉を原題のテーマで、95のアドバイスに再構成した本。

この本を理解するためには、この本で最初の項目に取り上げられているドラッカーの言葉を知っておくとよい。

「経営者の条件」に書かれている言葉で

今日の組織では、自らの知識あるいは地位ゆえに組織の活動や業績に実質的な貢献をなすべき知識労働者は、すべてエグゼクティブである

という一節である。エグゼクティブという言葉は、通常、組織上の役職を示す言葉として使われるが、ドラッカーは上の抜粋の通り、別の意味で使っており、そこにこの本全体を貫くスタンスがある。このような前提で読むべき本である。

さて、本書は成果を上げる人のバイブルとしてまとめられたもので、

(1)時間をマネジメントする
(2)貢献に焦点を合わせる
(3)強みを生かす
(4)重要なことに集中する
(5)効果的な意思決定を行う

という5つの習慣を身につけるために書かれている。ゆえにこれまで、何冊かある、ドラッカー語録のような本とは多少違った趣がある。

それは上の5つについていくつかのポイントが示されている中で

 ・とるべき行動
 ・身につけるべき姿勢

の2つの視点から、コンピテンシーの強化についての記述があり、これを意識することによって習慣化できるようなつくりになっている点だ。これこそ、マチャレロ教授がドラッカー学を教えてきたノウハウだといえよう。

ひとつ例をあげておく。上にのべたようにこの本の第1章の1項目目は

「なされるべきことをなす」

というエグゼクティブであれというアドバイスなのだが、ここでの行動と姿勢は

【とるべき行動】
 自らの組織においてなされるべきことは何か?自らがなすべきことは何か?
【身につけるべき姿勢】
 常になされるべきことから考えることを癖にする。手本となる人はいるか?

といったもの。

ドラッカーの膨大な著作は秀逸なものばかりだが、実践ということでいえば、この一冊に勝る本はないだろう。購入し、擦り切れるまで使いこんでほしい!

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2008年2月11日 (月)

メンタルヘルスと経営学の統合

4478003378 佐藤隆(グロービス経営研究所監修)「ビジネススクールで教える メンタルヘルスマネジメント入門―適応アプローチで個人と組織の活力を引き出す」、ダイヤモンド社(2007)

お薦め度:★★★★

メンタルヘルスマネジメントは検定試験もでき、社会的に関心が高まってきている。書籍出版も増えてきたが、この本はちょっと変わっている。

まず、構成が
・基礎編
・状況把握編
・ソリューション編
の3つにわかれている。

基礎編では、メンタルヘルスの基礎知識ということで、今、世の中で起こっていること、メンタルヘルスとはどのようなものか、この本のスタンスである適応アプローチとは何かといったことが解説されている。また、ストレスとは何かということについても説明されている。どんな本にも書かれているような内容だが、マネジャーやリーダーが何をすべきか、何を知っておくべきかという点にも言及されており、ちょっと一味違っている。

次は状況把握編で、自己のストレス特性や状況の把握、組織のストレス状況の把握方法について説明されている。

この本のメインは次のソリューション編である。この本のスタンスは上に書いたように適応型アプローチで、これは、世の中の変化についていけずストレスが発生している状態を、変化に適応するように変えてやるというアプローチだ。

この変化への適応に関して、

・セルフケア
・リーダーシップ
・人的資源管理

の3つの視点から、マネジメントとしてどのようなことができるか、どのようなことをすべきかについて体系的に述べられている。また、そのための施策についてもオリエンタルランドやTISなどの事例を紹介している。

最初はもっとプロアクティブなアプローチが書かれていると期待しながら読んだのだが、結局は組織による定期的なチェック、および、その結果からの全体的な傾向の把握、そして、個人も組織もコーピング(ストレス対処行動)というところを中心に対処をしていくという受け身のマネジメントという印象がぬぐえない。問題の性格上仕方ないかもしれないが、マネジメントとしては、まだまだ、大きな課題があるようにも思う。

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2008年1月29日 (火)

20+1の悪癖を修正するコーチを受けよう!

4532313562 マーシャル・ゴールドスミス、マーク・ライター(斎藤 聖美訳)「コーチングの神様が教える「できる人」の法則」、日本経済新聞社(2007)

お薦め度:★★★★★

1 極度の負けず嫌い。
2 何かひとこと価値をつけ加えようとする
3 善し悪しの判断をくだす
4 人を傷つける破壊的コメントをする
5 「いや」「しかし」「でも」で文章を始める
6 自分がいかに賢いかを話す
7 腹を立てているときに話す
8 否定、もしくは「うまくいくわけないよ。その理由はね」と言う
9 情報を教えない
10 きちんと他人を認めない
11 他人の手柄を横取りする
12 言い訳をする
13 過去にしがみつく
14 えこひいきする
15 すまなかったという気持ちを表さない
16 人の話を聞かない
17 感謝の気持ちを表さない
18 八つ当たりする
19 責任回避する
20 「私はこうなんだ」と言いすぎる。

これはエグゼクティブ・コーチとして全米ナンバーワンといわれ、ジャック・ウェルチのコーチもしたマーシャル・ゴールドスミスが指摘する、リーダーとしての能力を発揮できなくする対人関係に関する20の悪癖である。

さらに、ゴールドスミスは21番目の悪癖で、

21 目標に執着し過ぎる

という悪癖も指摘する。

この21のうち、ひとつでも当てはまっていれば、ぜひ、この本を読んでほしい。自らのコーチングで、これらの悪癖を修正し、リーダーとして能力を発揮するための方法を極めて具体的に書いている。

その方法とは

・フィードバック
・謝罪する
・公表する。宣伝する
・聞く
・「ありがとう」と言う
・フォローアップ
・フィードフォワードを練習する

の7つである。

これを見てよくあるコーチングの話だと思った人は、4、6、10、11はきっと該当していると思われる(笑)。確かに、コンセプト自体はコーチングでよくある話なのだが、その深さが違う。すごいものだと思った。

さらに、この本のすごさはそのあと。自分を変えるときのルールということで、コーチング効果の持続について述べている。そして、最後は、悪癖を修正した上で、部下にどのように接するかという問題で終わっている。

この本を読み、実践できた人は確実に、B級管理職から、A級マネジャーに変身できるだろう!

<独り言>
最近、5つ星を連発しているなあ、、、まだ、書評を書いていないものも1冊ある。まあ、よい本にあたっているということか、ポジティブに考えよう!

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2008年1月26日 (土)

スターバックスの44のベストプラクティス

4887595743 ジョン・ムーア(花塚恵訳)「マジマネSPECIAL スターバックスに学べ」、ディスカヴァー・トゥエンティワン(2007)

お薦め度:★★★★

2年半前に、このブログでスターバックスの人材育成について書いた本を紹介した。

当時は、スターバックスの事業展開については数冊の書籍があったが、マネジメントについて書かれた書籍が少なかったのだが、この1年くらいの間は、結構、本屋で新刊書を目にするようになった。

その中で、お勧めなのが本ブログでも何冊か紹介した「マジマネ」シリーズのスペシャルとして出されたこの1冊。

スターバックスの中で語り継がれている独自の成功のノウハウ(ベストプラクティス)を44個、公開している。ベストプラクティスは

・ブランディングとマーケティング
・サービスマネジメント
・人材育成

の3つに分けて整理している。ブランディングとマーケティングでは、
【ノウハウ1】事業を築く過程からブランドは生まれる
【ノウハウ4】真摯な姿勢が人々から信頼を生む
【ノウハウ14】言葉よりも行動!
など15個。サービスマネジメントでは、
【ノウハウ16】注目に値することが注目される
【ノウハウ18】顧客が笑顔になるサービスを心掛ける
【ノウハウ25】旅行者は土産を持ち帰り、探検家は土産話を持ち帰る
など14個。人材育成では
【ノウハウ30】強い企業は、従業員との間に信頼がある
【ノウハウ35】ブランドは人の情熱によってつくられる
【ノウハウ36】リスクをとり、謙虚さを忘れず、新しいことに挑戦する
など13個。これ以外にプラスアルファとして
【ノウハウ43】利益は副産物である
【ノウハウ44】高い志と情熱を持つことが、競争社会で勝ち抜く唯一の方法
の2つで全部で44だ。
読んでいて、ひとつひとつの項目から、スターバックでの店頭での対応やメニューが目に浮かぶ。つまり、実行されているのだ。なんと素晴らしいことだろう!

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2008年1月21日 (月)

ステークホルダマネジメントのバイブル

4760826149 星野欣生「職場の人間関係づくりトレーニング」、金子書房(2007)

お薦め度:★★★★★

以前、星野欣生先生の

人間関係づくりトレーニング

を紹介したが、続編で、職場に焦点を当てた本が出た。それがこの本。

自分探し
関係的成長
きき方とかかわり
言葉の使い方(1)
言葉の使い方(2)
フィードバックは成長の鏡
コンセンサスと人間関係づくり
リーダーシップはあなたのもの
リーダーはファシリテーター
チームワークを考える
成熟したグループづくりのために
体験学習と日常生活

といった内容。前書と同じく、最初にコンセプトを説明し、エクスサイズ、そしてエクスサイズの結果を踏まえた理論の説明という流れで楽しみながら自己啓発としてトレーニングを進めていけるような構造になっている。

言葉の使い方あたりまでの内容は、若干、前本と被るが(解説やエクスサイズは書き下ろしであるが、内容が似ている)、フィードバック以降は純粋にビジネスの場面を想定したものとなっている。前にも書いたが、この本はハウツー本ではなく、エクスサイズを通して体験学習をすることを狙った本である。合意形成、リーダーシップ、ファシリテーション、チームワームなど個々の分野ではそのような本を見かけるが、まとめてこのようなトレーニングを念頭に置いた本はないと思う。

これらの専門のテーマの本を読むと、関連が出てきて混乱したり、あるいは不自然に無視したりしているケースが多く、全体が見えにくい。その点、この本は「人間関係」という切り口で全体を見ながらトレーニングを進めていけるので、バイブルといってもよいような本である。

また、ヒューマンスキルトレーニングや新入社員研修を担当している人材開発の方にもぜひ、目を通して戴きたい。特にエクスサイズが練れていて、非常に参考になる。

余談になるが、星野先生はプロフィールを見ると80歳近い方だ。この年齢になってこの内容の本が書けるというのは本当にすばらしいと思う。

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2007年12月27日 (木)

リーダーとしての真価は困難に直面したときにこそ証明される

4270002875 ジェフリー・ソネンフェルド、アンドリュー・ウォード(久野郁子訳)「逆境を乗り越える者 リーダーたちは失意のどん底からいかにして立ち直ったか」、ランダムハウス講談社(2007)

今年読んだ本の中でもっとも感動した本。

経営や専門家として上りつめた人々が何らかの事情でその名声を失うような苦境に立つ。そのときに、苦境を乗り越える人、そのまま消えてしまう人の差は何かを調査している。調査の人数は100名以上。論理的な主張を、この100人以上のエピソードをちりばめて固めている。

ひとつひとつのエピソードは短いが、その一つひとつのエピソードに教訓が凝縮されている。読んでいると感動を覚えるものが多い。

分析は結構、難解。行動科学や心理学の知識がないと本当のところは理解できないのではないかと思う。ただ、それを乗り越えて、訴えてくるエピソードが面白く、引き込まれてしまう。その意味で、理屈はよくわからない部分もあるが、言っていることへの納得性は高い。

また、これらのエピソードを読むだけで、この本が言おうとしている

リーダーとしての真価は困難に直面したときにこそ証明される

という主張は十分に理解できる。

論理的な分析の中では、キャリアシステムを4種類(野球チーム、アカデミー、要塞、クラブ)に分けて、それぞれの場合に、復活の要件を分析しているのは興味深い。日本で考えてみた場合に、挫折したものが復活する際のポイントというのはここにあるのではないかと思うからだ。

挫折したときに冷静に読める本ではないと思うので、挫折など無縁だと思っている人こそ、ぜひ、読んでみてほしい。

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2007年12月17日 (月)

右脳プロジェクトマネジメント

1567262066_2 B. Michael Aucoin「Right-Brain Project Management: A Complementary Approach」、Management Concepts(2007)

お薦め度:★★★★1/2

久しぶりの原書。これは英語に苦労しても損はない!(たぶん、この出版社の本は翻訳されない)

合理的な判断、論理的思考、分析的思考、数学的分析、事実に基づく思考や判断などはいずれも、左脳によるものであるといわれる。このような思考法だけでは、対応が難しいプロジェクトがある。スコープがあいまい、スコープが変化する、プロジェクト目標が大きくストレッチされているといったプロジェクトである。

この本は、このようなプロジェクトに対して、左脳プロジェクトマネジメントに加えて、右脳プロジェクトマネジメントの有用性を説き、ツールを解説した本である。

この本では、7つのツールを提唱している。

1. 人を引き付ける目的を見つける
2. プロジェクトを理解する
3. スコープや開発方法など、さまざまなことを試し、採用していく
4. 新たな現実を生み出す
5. 行動し、信用を作り上げていく
6. スイートスポットにヒットする
7. 実施したプロジェクトを「遺産」として残す

この考え方が面白いのは、最初にステークホルダがもつ動機(感覚)を探ることによって、プロジェクトを始めていくという考え方だ。左脳のプロジェクトマネジメントは、プロジェクトを実施することとありきで、ステークホルダの動機ではなく、ニーズを探し、目的とする。そのようなやり方は、曖昧性が少ない場合は有効だが、曖昧性があると、その対処が難しい。

これに対して、右脳プロジェクトマネジメントは、計画を立てる前に、感覚を意識的に扱うため、早めにプロジェクトのあいまいさを受け入れ、プロジェクトの早期の時間を計画を作ることに費やすのではなく、動機を高めたり、意味づけをすることに費やす。これにより、プロジェクトの後期において、画期的な成果とパフォーマンスを生み出すことを可能にするという考え方である。

これは、トム・ピーターズが提唱しているWOW!プロジェクトマネジメントに通じるものがある。WOW!もはやり、右脳プロジェクトマネジメントなのだ。

エンジニアリングプロジェクト、IT系のプロジェクトなど、管理対象の大きなプロジェクトにはこのような手法は向かないとされている。この本を読んでみるとこれは誤解であることがわかる。右脳か左脳かという議論であれば、確かに、左脳が重要である。しかし、そのようなプロジェクトにおいても、右脳プロジェクトマネジメントによって、左脳プロジェクトマネジメントで得られる成果を大きくするというのが基本的な発想である。

その意味で、特にPMBOKのプロジェクトマネジメントを実施しているプロジェクトマネジャーやPMOに読んでみてほしい一冊だ。

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2007年12月14日 (金)

あなたはマネジャーに向いているか!?

4534043236 津田 陽一「あなたはマネジャーに向いていない」、日本実業出版社(2007)

お奨め度:★★★1/2

経営コンサルタントである著者が、だめなマネジャーを10タイプに類型化して、その症状を説明し、さらに、タイプごとにだめマネジャー脱出方法を示唆した一冊。

とにかく面白い。10タイプというのは以下の10タイプだ。ネーミングを見ても笑えるし、特徴の中でも特に「よく口にするセリフ」というのを読んでいると、いるいるという感じ。

参考までに5タイプはよく口にするセリフを抜粋しておく。残りが、もっと詳細な特徴、あるいは、脱出策を知りたい人は本を読もう!

ちなみに、面白かったので、本屋で立ち読みでほぼ読み終わってしまった(その後で書評を書くのに買ってきたけど)。そのくらい面白い!

【以下、一部抜粋】

得意技はモグラ叩き「発生主義型」トラブルシューター
「まったく、俺がいないと現場は回らないだからな!困ったもんだよ。世話がかかるなぁ。おちおと休暇もそれやしない。まぁ、しかたないか、俺じゃないと解決できないんだからな!」

机上の空論芸術家「理想主義型」プランナー
「どうだ、このプラン凄いだろう!美しいだろう!問題はすべてカバーしているし、この通りに関係者が動けばすべてうまくいくはず。俺ってやっぱり頭イイだろう!」

能力賞味期限切れ「悲劇の主人公型」ナルシスト
「俺の黄金時代は凄かったんだぞ!あの頃はよかった。俺は運河ないんだ。あのことさえなかったら、あいつさえいなかったら、今頃は・・・。本当は俺は、こんなくだらないところにいる人材じゃない!このままでは俺があまりにもかわいそうだ・・・」

いつも一過性「熱烈感動型」ドリーマー
「面白い! いやぁ、感動した! すごいね。夢があるね。熱いね! ワクワクしてきたよ!彼のためなら、この企画のためなら、あの会社のためなら、オレも役に立ちたいね!」
段取りベタすぎ「抱え込み型」カーペンター
「部下に振っても、どうせ手直しが発生する。経験がなかったり、使えないやつに教える
もの面倒だ。どうせ言ってもわからないし、できないだろう。だったら自分がやるほうが
早い!これは俺の責任だ!休日出勤でも徹夜でもすれば何とかなる!とにかく私が何とか
する!」

流血勝負師「完全主義型」デザイナー
人間不信「性悪説型」レギュレーター
永遠の傍観者「予言者型」コメンテーター
横道愛好会主宰「果てしない物語型」エクスプローラー
適当こそ美徳「やり過ごし型」サバイバー

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2007年12月10日 (月)

権威を使わずに人を動かす原理―レシプロシティ

4419050500 アラン・コーエン、デビッド・ブラッドフォード(高嶋薫、高嶋成豪訳)「影響力の法則―現代組織を生き抜くバイブル」、税務経理協会(2007)

お薦め度:★★★★★

原題:Influnence without Autohrity

原書はいろいろな本や論文で取り上げられてるコミュニケーションの名著である。僕も買って読もうとしたが、組織論やマネジメントの本では見かけない単語が並んでいて、諦めた経緯がある。

この本では「reciprocity」が影響力の源泉であるというのが基本コンセプトになっている。安部前首相が首相になってすぐに中国を訪問し、その際に「戦略的互恵関係」の構築をうたってきた。米国的な言い方をすれば、ギブアンドテイクだとこの本にも書いている。ただし、単なるギブアンドテイクではなく、良好な人間関係に立脚したギブアンドテイクである。このようなギブアンドテイクを「影響力の法則 コーエン&ブレッドフォードモデル」としてフレームワーク化している。

これは影響力を及ぼすための6つの法則から構成されるフレームワークだ。

法則1:味方になると考える
法則2:目標を明確にする
法則3:相手の世界を理解する
法則4:カレンシーを見つける
法則5:関係に配慮する
法則6:目的を見失わない

この本では、この6つの法則について、具体的な実現方法を体系的に示すとともに、ケースを多用して、その意味を直感的にわかるようにしている。体系的な説明のところでは、例が非常に多く、有用である。たとえば、カレンシー(通貨:価値交換の道具)だと
・気持ちの高揚や意欲を喚起するカレンシー
・仕事そのものに役立つカレンシー
・立場に対するカレンシー
・人間関係に関するカレンシー
・個人的なカレンシー
という分類をし、たとえば、最初の気持ちの高揚や意欲を喚起するカレンシーであれば、
・ビジョン
・卓越性
・道徳的/倫理的な正しさ
というのを上げている。このようにひとつひとつの例に非常に深い意味と、気付きをこめて作られた本である。

また、最後の2章は、それぞれに、「影響力の法則 コーエン&ブレッドフォードモデル」を使って、上司と部下にどのように影響を与えるかという説明になっていて、この部分は極めて実践的である。

この手の本は決して少なくない。しかし、ハウツーものはほとんど役に立たないと思う。ハウツーにできるような単純な問題ではないからだ。自分の行動を内省しながら、考えながら読まないと、行動に移せない。一方で、ハウツーものを欲しがる人も多い。

この本はそのような読者に対しても、一定の満足を与えながら、はやり、基本は考えさせることに置いているように思う。つまり、かなり、具体的な行動イメージが持てるまで、「例示」をし、そこでとどめてある。そこからは自分で考えましょうという書き方になっている。その点でも非常に参考になったし、よくできている。

組織で働くすべての人に一度は読んでほしい本だ。

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2007年12月 5日 (水)

プロジェクトXの経営学

462304873x 佐々木 利廣「チャレンジ精神の源流―プロジェクトXの経営学」、ミネルヴャ書房(2007)

お薦め度:★★★★1/2

プロジェクトXにはまっています。なぜから、こういう連載を始めたからです。

プロジェクトXにみるスポンサーシップ

プロジェクトXというと、そのネーミングからか、プロジェクトマネジメントの視点から取り上げられることが多い。しかし、プロジェクトXというのはプロジェクトマネジメントについて問われるべきものではなく、「プロジェクトのマネジメント」について問われるべきものである。つまり、経営組織がプロジェクトをどのように行っていったかをテーマにしているものは極めて多い(もちろん、純粋なプロジェクトものもあるが)。

ということで、八重洲ブックセンターにいきプロジェクトXの本を探していたら、面白い本があった。これがこれ。

まとめ方も面白く、NHKのプロジェクトXはなぜ、面白いかという視点からまとめている。まとめたのは、京都産業大学の先生たち。分析視点は
・新規事業創造
・製品開発と企業間協調
・イノベーションと産業発展
・新市場の開拓とマーケティング戦略
・経営の国際化と組織学習
・組織間の異種協働
・リーダーシップとリーダー・フォロワーの関係
の関係。この視点の設定はたいへん、面白いし、参考になった。NHKのストーリーがプロジェクトにフォーカスしているので、その背後や環境をうまく抽出する視点だからだ。

ただし、分析は、教科書のような分析なので、経営学の教科書かと突っ込みたくなるような内容。もう少し、突っ込んでほしかった(実際に教科書として使っているようなので、そのためかもしれない)。

ということで、試みは評価したいし、この本を読んでプロジェクトXを見ると、見方が変わると思う(実際にやってみたらそうだった)。その意味でも意味があると思う。本当は★3つ半くらいにしたいのだが、★1個はその点でのおまけ。

また、プロジェクトマネジャーが、自分の置かれている立場を確認するためにも読んでほしい1冊である。

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