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2008年5月26日 (月)

仕事のオキテ?!

4887596308パット・ハイム、スーザン・ゴラン(坂東智子訳)「会社のルール 男は「野球」で、女は「ままごと」で仕事のオキテを学んだ」、ディスカヴァー・トゥエンティワン(2008)

お薦め度:★★★★1/2

以前、

エイドリアン・メンデル(坂野尚子訳)「女性(あなた)の知らない7つのルール―男たちのビジネス社会で賢く生きる法」、ダイヤモンド社(1997)

を紹介したが、この本よりインパクトのある本だ。

発想は同じ。まず、男性と女性は、その経験から異なったルールを持っている。ビジネスの世界は男性社会なので、女性は自分たちのルールでいくら成果を上げても、決して認められることはない。

この本が面白いのは、だから、男性に合わせるのではなく、男性のルールを観察し、熟知することによって、最低限、併せるところを決めればよいと指摘している点。それを7つのルールとしてまとめている。

7つのルールを紹介する前に、どう違うのかを紹介しておこう。男性が経験してきたのは、野球(ゲーム)で、女性が経験してきたのはままごと(遊び)だという。そのルールの違いは、以下のようなものだという。

【野球のルール】
・一番大事なのは勝つこと
・作戦をたてなければゲームには勝てない
・勝つことがすべて。だからズルも大目に見られる
・会話を通して、問題を解決する
・内心はどうあれ、とにかく強気にふるまう
・権力があれば、自分の考えを押し通すことができる

【ままごとのルール】
・究極のゴールはみんなを満足させること
・ベストを尽くせば、うまくいく
・フェアなのが一番。だからルールは守るべき
・会話を通して、友情を築く
・笑みをたやさず、感じよくふるまう
・相手を動かすには交渉が必要

この違いを克服し、ビジネスで認められるには

ルール1 トップの言うことには逆らわない
ルール2 対立を恐れない
ルール3 チームプレイに徹する
ルール4 リーダーらしくふるまう
ルール5 自分を有利に見せる
ルール6 批判されてもめげない
ルール7 ゴールをめざす

の7つのルールを守ればよいというのが、この本の主張だ。この中の、3つ~4つはエイドリアン・メンデルのルールと同じだ。

この本を読んでも、はやり、日本は女性社会だと思ってしまった。日本は女性の価値観で、子供たちにゲームを教えている。社会が女性社会なら、それを生かしていくというのが道理というものだ。つまり、グローバルな活動の中で最小限必要な考え方だけ取り入れていけばよい。そんな使い方もある本ではないかと思う。

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2008年5月24日 (土)

ジョン・ネスビッツは、何をみて、どう考えているか?

447876106xジョン・ネスビッツ(本田 直之監修、門田 美鈴訳)「マインドセット ものを考える力」、ダイヤモンド社(2008)

お薦め度:★★★★★

マインドセットは

経験、教育、先入観などから形成される思考様式、心理状態

という意味でつかわれる言葉である。人間の思考様式や、心理状態というのは一面的に捉えることはできず、多面的にとらえるために、「セット(集合)」として認識される。

まず、このマインドセットの言葉の意味を念頭において欲しい。

さて、本書は世界の未来像を描き、社会に大きなインパクトを与えた「メガトレンド」の著者、未来学者ジョン・ネスビッツが書いた未来を読み解くためのマインドセットを書いた本である。

序文の中で、ネスビッツは、私には未来が予測でき、多くの人には予測できない理由はマインドセットの違いにあると指摘し、このマインドセットを身につければ、ジョン・ネスビッツのごとく、未来を予測できると説く。

さて、そのマインドセットとは以下の11である。

マインドセット1 変わらないもののほうが多い
マインドセット2 未来は現在に組み込まれている
マインドセット3 ゲームのスコアに注目せよ
マインドセット4 正しくある必要はないことを理解せよ
マインドセット5 未来はジグソーパズルだ
マインドセット6 パレードの先を行きすぎるな
マインドセット7 変わるか否かは利益次第である
マインドセット8 物事は、常に予想より遅く起きる
マインドセット9 結果を得るには、問題解決よりもチャンスを生かすべし
マインドセット10 足し算は引き算の後で
マインドセット11 テクノロジーの生態を考える

社会的な問題だけではない。たとえば、自分の会社の将来の姿を見たいとき、自分の事業の先を考えてみたいとき、この11の視点から考えることによって、適切な未来像が見えてくるだろう。

第2部では、この11のマインドセットを用いて、実際にジョン・ネスビッツが未来図を描いてみせている。メガトレンドと似ているものもあるが、この本のマインドセットの解説を読んでから読んでみると、また、別の面白さがある。

ついでだが、この本、「レバレッジ・リーディング」の著者、本田直之氏の監訳で、コメントを寄せている。このメッセージを読むと、レバレッジ・リーディングってこういうことかって分かる(笑)。

最後にもう一つ、おまけ。本書に併せたわけでもないだろうが、未来のリーダーシップ論として、ピーター・センゲの「出現する未来」とともに注目されているハワード・ガードナーの「Five Minds for the future」が翻訳された。

4270003308ハワード・ガードナー(中瀬 英樹)「知的な未来をつくる「五つの心」」、ランダムハウス講談社(2008)

この本もいずれ書評しようと思うが、この本は、未来のリーダーは

・熟練した心
・統合する心
・想像する心
・尊敬する心
・倫理的な心

の5つのマインドセットが必要だと説いている。未来リーダーを目指す人は併せて読んでみてほしい。

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2008年4月10日 (木)

「経営の神様」松下幸之助の物語

4478003122 ジョン.コッター(金井 壽宏監修、高橋 啓訳)「幸之助論―「経営の神様」松下幸之助の物語」、ダイヤモンド社(2008)

原書:MATSUSHITA LEADERSHIP(1997)
邦訳版:「限りなき魂の成長―人間・松下幸之助の研究」、飛鳥新社(1998、絶版)

お薦め度:★★★★

4870313456 リーダーシップの世界的な権威であるジョン・コッターが10年前に松下幸之助のリーダーシップについて書いた本の翻訳。監修者の解説によると、コッターが書いた唯一の分析的伝記だそうだ。リーダーシップのケースドキュメントとして、秀逸の一冊。

この本では、松下幸之助のリーダーシップを、松下幸之助自身、および、松下電器の成長段階に応じて

起業以前:故郷を失い、新興産業へ入って、活躍するまで
起業時期:夢を持ち、独特の経営戦略を持ち、成長する
成長:カリスマ性を発揮し、組織が発展し、BU制度を作るも、戦争が起こる
発展:世界の松下になっていく時期の総合的リーダーシップ
成熟:理想的なリーダーシップを求め、後継の育成をする

という段階で、松下幸之助がどうかわり、それによって松下電器がどのようになっていったかが述べられている。キーワードは「素直な心」。

経営の神様トム・ピーターズが提唱したビジネス慣習を戦後すぐに実践しているのは経営の神様たるゆえんだろう。

松下幸之助の経営リーダーとしての

 利益をあげているということは、社会に奉仕、貢献できている証である

という独自の哲学は、米国では過去のものになりつつある。80年代からの金融工学を応用し、実態経営と利益がかけ離れてきたためである。それが定着してきた90年代にこの本が出版されたのは興味深い。また、5年くらい前から日本でもこのような経営が普及の兆しが見られ、企業から松下の名前も消えようとしている。この時期にこの本が翻訳されるのも大変意義があると思う(1997年に一度出版されて、絶版されているらしい)。

もう一度、幸之助が唱えた企業活動の原点に戻るようなリーダーとリーダーシップの再生を願っている人は多いのではないだろうか?そのためには、「素直」な心が重要だということだろう。素直な心を失うと、利益を上げることが自社の利益にしからないことを教えてくれる一冊である。

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2008年1月21日 (月)

ステークホルダマネジメントのバイブル

4760826149 星野欣生「職場の人間関係づくりトレーニング」、金子書房(2007)

お薦め度:★★★★★

以前、星野欣生先生の

人間関係づくりトレーニング

を紹介したが、続編で、職場に焦点を当てた本が出た。それがこの本。

自分探し
関係的成長
きき方とかかわり
言葉の使い方(1)
言葉の使い方(2)
フィードバックは成長の鏡
コンセンサスと人間関係づくり
リーダーシップはあなたのもの
リーダーはファシリテーター
チームワークを考える
成熟したグループづくりのために
体験学習と日常生活

といった内容。前書と同じく、最初にコンセプトを説明し、エクスサイズ、そしてエクスサイズの結果を踏まえた理論の説明という流れで楽しみながら自己啓発としてトレーニングを進めていけるような構造になっている。

言葉の使い方あたりまでの内容は、若干、前本と被るが(解説やエクスサイズは書き下ろしであるが、内容が似ている)、フィードバック以降は純粋にビジネスの場面を想定したものとなっている。前にも書いたが、この本はハウツー本ではなく、エクスサイズを通して体験学習をすることを狙った本である。合意形成、リーダーシップ、ファシリテーション、チームワームなど個々の分野ではそのような本を見かけるが、まとめてこのようなトレーニングを念頭に置いた本はないと思う。

これらの専門のテーマの本を読むと、関連が出てきて混乱したり、あるいは不自然に無視したりしているケースが多く、全体が見えにくい。その点、この本は「人間関係」という切り口で全体を見ながらトレーニングを進めていけるので、バイブルといってもよいような本である。

また、ヒューマンスキルトレーニングや新入社員研修を担当している人材開発の方にもぜひ、目を通して戴きたい。特にエクスサイズが練れていて、非常に参考になる。

余談になるが、星野先生はプロフィールを見ると80歳近い方だ。この年齢になってこの内容の本が書けるというのは本当にすばらしいと思う。

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2008年1月 1日 (火)

「主客一体」がビジネスの基本

2008年第1号です。本年もよろしくお願いいたします。 今年のスタートはこの本から。

リクルートワークス編集部「おもてなしの源流 日本の伝統にサービスの本質を探る」、英治出版(2007)

お薦め度:★★★★1/2

リクルートワークスが「おもてなし」とは何かを考えるために、旅館、茶道、花4862760333街、祭など「おもてなしの場」を調査し、その道の第一人者の話を聴いた連載「おもてなしの源流」を書籍化したもの。ワークスの連載のときから興味深く読んでいたが、改めて、書籍化され、まとめて読んでみると本質がはっきりしてくる。

欧米流のサービスは主と客が分離され、その関係構築に主眼を置く。これに対して、この本があぶりだしている日本のもてなしは、主客の立場が入れ替わることさえ許容し、主と客が共にその場をつくる「共創」の関係を持つことを基本としている。

これは旅館、茶道、花街、祭など、いずれにおいてもその傾向がはっきり見られる。そして、このスタイルを評価し、それを求めて欧米の人々がやってくるという。

非常に興味深い話である。

本書はサービスマネジメントの本として位置づけられているのだと思うが、これらはおそらく、すべてのビジネスにおける主客関係の基盤になっていると思われる。

たとえば、メーカに頼んでものをつくることを考えてみてほしい。メーカとユーザが協力することは比較的あたりまえだととらえられてきた。そうして初めて、ユーザは自分たちが役立つものを手に入れることができると考えらてきたのだ。

これに対して、欧米では、まず、契約ありき。契約で主客と明確にし、それぞれの領分をきちんと守ることによって、メーカは良いものを作ることができ、ユーザは役立つものを作ることができると考えられてきた。

この根底には、専門性に対して社会的な敬意を払い、たとえスポンサーといえどもその専門領域に手を突っ込むべきではないというプロフェッショナリズムがある。

今、日本もまさにこの方向に向かっている。

職人というと、自分の技術に自信を持ち、顧客はそれを対価として受け入れてくれるようなイメージがある。しかし、これは誤ったイメージではないかと思う。鮨屋で「おれの握ったすしが食えねえのか」の世界があるというが、京都のある(有名)鮨屋の店主にそんなのは職人ではないという話を聞いた。職人とは、「相手に悟られないように相手のニーズを聞き出し、そこに洞察を加えて客を満足させることができる」ものだという。ゆえに、無愛想な客と愛想のよい客で、出す鮨の品質が違うのもやむなしだそうだ。だから、客も作法をわきまえている必要があるし、品質を維持するためにわきまえない客は断る。だから、一見さんは断るのだという。これは花街にも通じる話だ。

少なくとも日本流のプロフェッショナルとはこれ、つまり、客と一緒に場を作れる人ではないのか?

そんなことを考えさせてくれる一冊である。

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2007年12月 5日 (水)

プロジェクトXの経営学

462304873x 佐々木 利廣「チャレンジ精神の源流―プロジェクトXの経営学」、ミネルヴャ書房(2007)

お薦め度:★★★★1/2

プロジェクトXにはまっています。なぜから、こういう連載を始めたからです。

プロジェクトXにみるスポンサーシップ

プロジェクトXというと、そのネーミングからか、プロジェクトマネジメントの視点から取り上げられることが多い。しかし、プロジェクトXというのはプロジェクトマネジメントについて問われるべきものではなく、「プロジェクトのマネジメント」について問われるべきものである。つまり、経営組織がプロジェクトをどのように行っていったかをテーマにしているものは極めて多い(もちろん、純粋なプロジェクトものもあるが)。

ということで、八重洲ブックセンターにいきプロジェクトXの本を探していたら、面白い本があった。これがこれ。

まとめ方も面白く、NHKのプロジェクトXはなぜ、面白いかという視点からまとめている。まとめたのは、京都産業大学の先生たち。分析視点は
・新規事業創造
・製品開発と企業間協調
・イノベーションと産業発展
・新市場の開拓とマーケティング戦略
・経営の国際化と組織学習
・組織間の異種協働
・リーダーシップとリーダー・フォロワーの関係
の関係。この視点の設定はたいへん、面白いし、参考になった。NHKのストーリーがプロジェクトにフォーカスしているので、その背後や環境をうまく抽出する視点だからだ。

ただし、分析は、教科書のような分析なので、経営学の教科書かと突っ込みたくなるような内容。もう少し、突っ込んでほしかった(実際に教科書として使っているようなので、そのためかもしれない)。

ということで、試みは評価したいし、この本を読んでプロジェクトXを見ると、見方が変わると思う(実際にやってみたらそうだった)。その意味でも意味があると思う。本当は★3つ半くらいにしたいのだが、★1個はその点でのおまけ。

また、プロジェクトマネジャーが、自分の置かれている立場を確認するためにも読んでほしい1冊である。

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2007年11月30日 (金)

イノベーションをマネジメントする

4270002719 ジェームズ・アンドリュー、ハロルド・サーキン(重竹尚基、遠藤真美、小池仁訳)「BCG流 成長へのイノベーション戦略」、ランダムハウス講談社(2007)

お薦め度:★★★★

この本が指摘し、かつ、答えを準備している問題は非常に重要な部分である。

日本ではイノベーションはマネジメントするものではなく、言い方は悪いが、「アイディア」と「運」だと思っている人が多い。この議論でよく引き合いに出されるのが、20年前にウォークマンを作ったソニーはなぜ、iPodを作り得なかったかという話だ。実は、本書にもこの話は触れられているので、興味ある人は読んでみてほしい。

日本ではと書いたが、この傾向は欧米でも同じような傾向があった。あまりにも、説明できない(不確実な)ことが多く、体系的にマネジメントできるものではないと考えられてきた。

この傾向が変わる契機になったのが「クリステンセンのイノベーションのジレンマ」ではないかと思う。このあたりから、日本でも著名なものでも、クリステンセンの「破壊的イノベーション」、ムーアの「キャズム」、キム氏&モボルニュは「ブルーオーシャン」など、ロジャースが提示したイノベーションモデルでは説明できないような現象を説明するモデルが多くでてきた。

そのような中で、この本はボスコンの体系的なイノベーションマネジメントの手法を紹介するものである。投資マネジメントをキャッシュカーブというフレームワークで合理的に行っていくことによって、不確実性に対処し、最適なゴールを見つけ出し、到達することができるというものだ。

商品開発を担当している人にはぜひ読んでほしいと思うが、この本は単にイノベーションにとどまらず、「マネジメントの価値」を考えさせられる本である。その意味で、すべてのマネジャーにお薦めしたい1冊である。

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2007年11月 9日 (金)

トヨタの闇

4828413995 渡邉 正裕、林 克明「トヨタの闇」、ビジネス社(2007)

お薦め度:★★★1/2

このブログで取り上げた本は500冊を超えるが、企業もので圧倒的に多いのはトヨタである(というよりも、出版点数が多いので、ある意味、当たり前だが)。

トヨタの分析はベストプラクティスとして行われることが多い。理由は2つあり、90年代は主に、日本流のエクセレントな現場であったが、2000年以降、業績の飛躍的な向上により、経営的なベストプラクティスとして取り上げられることが多くなった。

ただ、光があれば、影がある。影の部分に焦点を当てた本はあまりなかったが、珍しくそんな本が出てきた。いわゆる暴露本、スキャンダル本の類ではない。著者たちが、自社Webで展開している「企業ミシュラン」の作成の際の取材に基づきかかれた本のようである。ちなみに、著者の一人の渡辺さんは以前から企業ミシュランの活動をされており、書籍になっているものもある。

4344010949 渡邉 正裕「企業ミシュラン〈06年版〉IT・サービス業編―これが働きたい会社だ」、幻冬舎(2005)

タイトルや帯は過激というか、スキャンダル本の匂いがぷんぷんだが、内容を読んでみると、確かにトヨタのやり方だとそれはあるなと思える内容が多いし、また、取材インタビューなどがそのまま掲載されているので、信憑性もある。

ということで、トヨタ信者であれば、一度、読んでみてほしい本である。

ただし、この本の作られているスタンスには賛同できない。上に書いたように光があれば、影がある。問題は影をいかに少なくしようと努力しているかだ。実は、この本の中に書かれている1項目をトヨタに勤める友人から聞いたことがあり、会社はずいぶん、努力をしているようだ。

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2007年10月15日 (月)

トヨタの奇跡

4478000794 高木 晴夫「トヨタはどうやってレクサスを創ったのか―“日本発世界へ”を実現したトヨタの組織能力」、ダイヤモンド社(2007)

お奨め度:★★★★1/2

トヨタものは多いが、この高木先生の一冊は分析の切り口(仮説)が見事で、非常に読み応えのある一冊である。

この本では、レクサスの成功要因を分析している。レクサスについては、これまでのトヨタスタイルで本当にできるのだろうかと懐疑的だった人が多い。現に、LSが出てくるまでに出たレクサスに関する本は、どうして失敗したのかとか、挫折とかそんなテーマだった。

この背景にいくつかの理由があるようだが、何よりも、トヨタとブランド確立、それも、高級ブランドの確立というのはイメージが分からないという人が多いのではないだろうか?

この一冊はトヨタの成功をいずれも人がベースになる5つの組織能力に整理している。以下の5つである。

(1)人のつながりによって仕事を成し遂げる能力
(2)創造の革新を人々のつながりを行き来させる活動の中から形成する能力
(3)リーダーの洞察を情熱で人々のつながりのエネルギーレベルを上げる能力
(4)誰と誰がつながると仕事が成し遂げられるかを誰もが考える能力
(5)誰がつながっても仕事が成し遂げられるような問題解決の共通基盤を持つ能力

この本はこの5つをケースストーリーで説明されており、最後に、それぞれの論理的な分析を解説するという形態をとっている。そのケースストーリーを読めば分かるのだが、当事者もやはりためらっていた。ところが、カローラをどんどん進化させるのと同じ流儀でやり遂げてしまうのだ。

その背景にあるのが、上の5つの組織能力というわけだが、何よりも人の持つ可能性を強く感じさせる。それはトヨタマン独特のものかもしれないし、日本人全般に通じるものかもしれない。

トヨタというのは成功要因が非常に分かりにくい企業である。ホンダなどと比べると、なぜ、成功しているのかまったく分からないといってもよい。しいてあげるのであれば、「やれることはすべてしている」といえよう。日産やホンダの特色のある部分と比べても、決して遜色を取らない。ある意味で、マネジメントとはこうやるという鏡だともいえる。

その中で、人と組織能力に注目して見事に成功要因を整理した本書は一読の価値があろう。

もちろん、高木先生の専門分野の組織行動論のテキストとしても一級品である。

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2007年10月 5日 (金)

対話

4862760171 デヴィッド・ボーム(金井真弓訳)「ダイアローグ 対立から共生へ、議論から対話へ」、英治出版(2007)

お奨め度:★★★★★

日本語で「話せば分かる」という言い方がある。この場合の「話す」とはどういう意味であろうか?

北朝鮮拉致問題で「対話と圧力」ということが言われている。世界中の紛争のあるところで、政策対話というのが行われている。この場合の「対話」とはどんなものだろうか?

この問題に対して深い洞察をしたコミュニケーション論の名著、「On Dialogue」という本がある。著者は物理学者にして20世紀の偉大な思想家の一人だとも言われるデヴィッド・ボームである。1996年に出版されたこの本は、2004年に第二版が出版されたが、第2版の邦訳が今回、英治出版より出版された。

419860309x ダイアローグというと真っ先に思いつくのが、この本の前書きを書いているピーター・センゲの学習する組織である。ピーター・センゲは学習する組織には、「パーソナル・マスタリー」「メンタルモデル」「システム思考」「共有ビジョン」とともに、ダイアログが必要だといっている。少し、センゲの組織学習論を書いた「最強組織の法則」から抜粋する。

=====
ダイアログの目的は、探求のための「器」もしくは「場」を確立することによって新しい土台を築くことである。その中で参加者たちは、自分たちの経験の背景や、経験を生み出した「思考と感情のプロセス」をもっとよく知ることができるようになる。
=====

この本を読んだことのない人は、ちょっとよく分からないと思うだろう。ダイアログというのは、いわゆる「話し合い」ではないのだ。コミュニケーションそのものである。「On Dialogue」によると、

対話の目的は、物事の分析ではなく、議論に勝つことでも意見を交換することでもない。いわば、あなたの意見を目の前に掲げて、それを見ることなのである

となる。もっと分からないかもしれない。対話ではWin-Winの関係を作ることが目的ではなく、不毛な競争をしないこと、共生することが目的なのだ。

そんな発想がビジネスに必要かと思った人も多いだろう。日本のビジネス慣行というのはもともと、ダイアローグを礎にしている。ただし、価値観の変わってくる中でダイアローグが行われてこなかった。このため、談合だとか、おかしな問題が出てきている。そこをもう一度、再構築するためには、文字通り、ダイアローグが必要だ。

そんなことには興味がないという人。あなたのお客様や上司と「話せば分かる」関係になりたいと思いませんか?思うのであれば、この本を読んでみましょう!

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