ビジネス Feed

2007年9月12日 (水)

ヒトデかクモか

4822246078 オリ・ブラフマン、ロッド・A・ベックストローム(糸井恵訳)「ヒトデはクモよりなぜ強い 21世紀はリーダーなき組織が勝つ」、日経BP社(2007)

お奨め度:★★★★

「本当に責任者のいない組織」が、どれだけ創造的で、従来の秩序を破壊し、経済的なインパクトを与えるのかについて述べた組織論。

著者は、このような組織をヒトデになぞらえ、その強さを事例としてeBayやSkypeなどのネット企業を通じて分析すると同時に、トヨタのマネジメントをその枠組みで分析し、日本型経営が目指す組織経営ではないかとしている。

日本型組織が責任のいない組織であり、ある意味でイノベーティブであるというのは経験的に正しいと思う。米国流の組織マネジメントのように、明確なガバナンスのもとに経営者から新入社員まで責任を分担するクモ的な組織運営は、実力のあるビジネスマンが集まる組織であれば合理性がある。それゆえに、自己責任による能力開発とセットになっている。

経営者は株主に対する短期のコミットメントが必要であり、社員も短期の業績評価が求められ、全ては経済的成果にベクトルが向けられる。しかし、これでは本当にイノベーティブなことはできない。もし、仮にこの本でいう「本当に責任者のいない組織」が存在可能であれば、イノベーションが生まれる可能性は多いだろう。一方で、この本で事例に書かれているトヨタを見ても、ガバナンスがないわけではない。どちらかというと、社員から見えない、あるいは意識しないようにされているだけだ。その意味で、この本に書かれているような単純な話でもないように思う。

その点も含めて示唆に富んだ一冊である。

続きを読む »

2007年8月15日 (水)

成功事例で学ぶ顧客視点に立った成長

4903241580 江口一海、矢野英二、木島研二、郷好文「顧客視点の成長シナリオ―モノづくりの原点」、ファーストプレス(2007)

お奨め度:★★★★1/2

顧客中心型経営手法を3つのコンセプトと事例を中心にしてまとめた一冊。

3つの活動コンセプトとは

・顧客価値の本質を実現する、顧客との接点を再編する活動
・顧客価値の本質にマッチする商品とサービスを提供する活動
・売り方と商品が実現する価値を顧客網上に構築する活動

の3つであり、序章では、この3つを、iPod、日亜LED発光ダイオード、キーエンス、デル、スターバックス、ユニクロ、アサヒビール、などのよく知られたベストプラクティスから導きだしている。

その後、第1部では、事例研究編として、コエンザイムQ10サプリメント、新幹線インバーター装置開発の2つのケーススタディでこの3つの活動コンセプトを分析している。

第2部は実践編ということで、この3つの活動コンセプトを実現するための事業モデル、成長シナリオについて提案している。

読みモノとしても面白いし、顧客価値の本質がどこにあるのか、自社のコンピタンスをその本質にあわせこんでいくにはどうすればよいのかについて多くの気付きを与えてくれるよい本である。

また、新幹線のインバーターの開発の事例はプロジェクトマネジメントの視点からも、顧客視点にたった場合に、トレードオフのマネジメントをどうするかといった重要な問題に対するたいへんよい答えになっているので、事業マネジャーだけではなく、プロジェクトマネジャーにとっても得るところの多い一冊である。

続きを読む »

2007年7月25日 (水)

女子高生の目からみた会社経営

483341855x 甲斐莊正晃「女子高生ちえの社長日記―これが、カイシャ!? 」、プレジデント社(2007)

お奨め度:★★★★1/2

TBSの日曜日のドラマで「パパとムスメの7日間」というのをやっている。父とムスメが電車事故で幽体離脱して入れ替わって、それぞれの立場で会社に行ったり、学校にいったりするというコメディドラマ。究極の世代間コミュニケーションだ。この中で、ムスメがパパとして仕事をして、常識にとらわれない発想をし、活躍する様子はなかなか興味深い。

知らないことの強さのようなものもあるが、どうも、余計なことを考えすぎている部分も少なくない。シンプルに考えると別の世界が見えてくるわけだ。問題に遭遇したときに、もし、自分が常識も組織に関する情報もまったく持っていなかったとすればどう判断するか?

これが求められるような時代になったきたように思う。

このビジネスノベルは17歳の女子高生が、父親の急死で、突然社長に―。主人公ちえにとっては、知らないことばかり、「これが、カイシャ!?」と、つぶやく「発見」の毎日といったストーリー。

この本は単に経営の入門書というだけではなく、商品開発、営業、工場での生産などを、女子高生という素人の目から見て、どう見えるかを示しているのがミソ。たいへん、わかりやすいので、入門書としてもよいが、ある程度、経験がある人も新たな発見があるのではないかと思う。

なかでも、日本組織の特徴である人間関係に関する部分が面白い。日本人は何にこだわっているのかという思いになるのではないかと思う。

続きを読む »

2007年6月25日 (月)

ISO思考

4334934110 有賀正彦「「不祥事」を止めるISO思考」、光文社(2007)

お奨め度:★★★★

このブログで、光文社ペーパーバックスの本を取り上げるのははじめてだが、主要キーワードに英語がつけてあるというこのシリーズはなかなか、よい。

ISOのドキュメントは、昔から、対訳本が必ず出ている。結局、日本語に翻訳したときに、ニュアンスが伝わらない部分があるからだろう。

この本はISOそのものの本ではなく、最近、世間を騒がせたいわゆる不祥事、不二家、関テレ、社会保険庁を取り上げ、なぜ、不祥事が起るのか、不祥事の発生を防ぐにはどうすればよいかを述べ、その対策を打っていくときに、ISOの考え方、あるいはシステムの導入が如何に有効であるかを述べた本である。

これらの不祥事はひと言でいえば、日本流の組織文化の悪い部分が原因になっている。そこに新しい組織文化を導入しなくてはならないが、その概念は、そもそも日本語にはない。そこで、ISOという話になる。

その中で著者がもっとも重要だと主張しているのは、顧客重視ということだ。これは、ISOの最もベースになっている発想である。著者の主張は、顧客を重視した仕事をすれば、そもそも、こんな不祥事は起らないだろうと述べている。

顧客重視というと、みなさんはどういうニュアンスで受け取られるだろうか?顧客にこびるとはいわないまでも、顧客の主張を受け入れると解釈される人が多いのではないだろうか?

この言葉のISOでの用語は、customer forcus である。つまり、商品やサービスを顧客が使うところにフォーカスして、品質を考えようという意味だ。結果として、顧客満足が生まれる。

書いていることはそんなに難しいことではないが、このように英語の意味を吟味しながら読んでみると、非常に奥のある一冊である。ISOの思想を知りたいと思うのであれば、ぜひ、読んでみてほしい。

続きを読む »

2007年6月11日 (月)

直感がビジネスを成功させる

4478000719 アンディ・ミリガン、 ショーン・スミス(酒井光雄監訳、西原徹朗、松田妹子訳)「できない人ほど、データに頼る」、ダイヤモンド社(2007)

お奨め度:★★★★1/2

ビジネスが複雑になってくる中で、データに依存してビジネスを進めていくことの危険性を指摘し、また、どのようにこの危険を回避していくかを解説した1冊。

この本では特に「感じる」ことを重視して、

 見て、感じて、考えて、実行する

というモデルを提唱し、そのモデルをベースにして主張をしている。ポイントはいかの通り。

見る:モカシンで歩く

 ・専門家の目

 ・ソフトフォーカス

 ・全体像を描けるか

感じる:あなたも人間です

 ・感情を素直に出そう

 ・顧客と接点を持とう

 ・共感を持とう

考える:くだらないアイディアなどない

 ・原因と結果

 ・理想的な世界

 ・なんでできないのか

実行する:実行あるのみ

 ・基本的なこと

 ・ちょっとしたマジック

 ・機能しているか

続きを読む »

2007年4月27日 (金)

企業から人に

4862761003_01__sclzzzzzzz_v23803313 ジェリー・ポラス、スチュワート・エメリー、マーク・トンプソン(宮本喜一訳)「ビジョナリー・ピープル」、英治出版(2007)

お奨め度:★★★★1/2

10年前にたいへん多くの人に読まれた

4822740315_09__sclzzzzzzz_v44479440 ジェームズ・コリンズ、ジェリー ・ポラス(山岡洋一訳)「ビジョナリー・カンパニー ― 時代を超える生存の原則」、日経BP出版センター(1995)

の著者の一人、ジェリー ・ポラスが、ビジョナリーカンパニーを支える人を描いた本。ジェリー ・ポラスとは

自分の道を追求しつづける人たちがいる。
ひたむきに、真っ直ぐに、生きていく人たちがいる。
自らのビジョンに向かって突き進み、
彼らは新しい時代を切り拓く。
彼らは、世界に変革を巻き起こす。

人々をビジョナリーピープルと呼んでいる。この本では多くの人を、ビジョナリーピープルの例にとりながら、

意義

行動スタイル

思考スタイル

について整理している。読むと元気になる本だ。

ビジョナリーピープルの基本的な発想は

長期間にわたって続く成功と密接な因果関係があるのは、個人にとって重要な何かを発見することであって、企業にとっての最高のアイデア、組織構造、ビジネスモデルではない、という原則だ。というのも、思考と感情が互いに情報を交換し合い、創造性が生まれ、いつまでも続く組織が生まれ出る潜在的な可能性があるのは、まさにこの個人的なレベルだからだ。

という発想にある。この発想は、最近、注目されている「クリエイティブ・クラス」に近いものである。併せて読んでみよう。

続きを読む »

2007年4月 7日 (土)

コンサルティングってなんだ?

4822245713_01__aa240_sclzzzzzzz_v4212086_1 デイヴィド・クレイグ(松田和也訳)「コンサルタントの危ない流儀 集金マシーンの赤裸々な内幕を語る」、日経BP社(2007)

お奨め度:★★★1/2

シニカルなコンサルタント論。

「御社の人と組織には無駄が多過ぎます。まさに瀕死の恐竜なのです」「この戦略パッケージなしには、もはや業界で生き残っていくことはできません」といった巧言を操り、企業に入り込んでいく。

一旦、入ってしまえば、「実際、この20年間、雀の涙ほどの魅力や機転を適当な経営用語で粉飾すれば、何百万ドルものカネが我々の懐に転がり込んできた」という程度の仕事しかしない。

その様子を「目の玉の飛び出るようなカネを払って、餓えた狼を雇い、大事な鶏小屋の管理を任せるようなもの」だという。

さらに、IT革命が彼らに、ITコンサルティングという新たな活躍の場を与えたと嘆く。

言いたい放題だが、おおむね、当たっているように思う。

しかし、それを企業も知っているのだ。その上で、コンサルティングを採用する。ここに何があるのか、これが問題である。

コンサルティングとは何かということを深く考えさせてくれる一冊だ。クライアント向けに書かれた本だが、クライアントより、コンサルタントに読んで欲しい一冊だ。

読みようによっては、コンサルタントのマーケティング論である。ひとつ、確実にいえることは、このぐらいの論理展開ができない人は、おそらく、この本に書いてあるようなおいしい果実にはありつけないということだ。

続きを読む »

2007年3月23日 (金)

サービスという活動を見直す

4903241424_01__aa240_sclzzzzzzz_v4254523 ジェームス・トゥボール(小山 順子、有賀 裕子訳)「サービス・ストラテジー」、ファーストプレス(2007)有賀 裕子

お奨め度:★★★★1/2

サービスマネジメントの専門家であるジェームス・トゥボール博士が、サービスとは何かという問題をきちんと定義し、今後へのソリューションを示した本。

この本に述べられているように、ものづくりとサービスの関係というのはこの20年くらい、ずっともやもやとしてきた問題である。特に、BTOが常識になり、マーケットインが当たり前のように行われるようになって以来、サービスとものづくりの境界が消え、サービス行も製造業も何らかの形での変革を迫られてる。

ところがあまり変わっていない。双方とも、自分の領域だけでビジネスをしようとしている。この現状に対して、この本は、

サービスミックス

サービストライアングル

サービスインテンシティマトリクス

価値創造サイクル

クオリティギャップ

などのツールを提示し、サービスマネジメントとして、サービスとものづくりの融合の方法を提案している。

この本に目を通して、真っ先に進めたいと思ったのはSI企業のマネジャーやシニアマネジャーである。非常に学ぶところの多い本だと思うので、ぜひ、読んでみていただきたい

続きを読む »

2007年3月13日 (火)

IT業界のすべてが分かる

4774129801_01__sclzzzzzzz_v45641975 克元 亮 (編集) 「IT業界がわかる」、技術評論社(2006)

お奨め度お奨め度:★★★1/2

ITエンジニアのためのIT業界ガイドブック。一冊、読めば、IT業界がどのような業界で、エンジニアとしてIT業界に入るとどのような仕事をすることになり、そのためにはどんなスキルが必要が必要で、それによりどのようなキャリアが開けるかが分かる構成になっている。

また、後半はプロジェクトマネジメント、ビジネストレンド、セキュリティ問題、法令などについても触れられており、お買い得感がある本。IT業界への就職を目指す人にお奨めした一冊である。

IT業界というキーワードでまとめているが、いくつかの視点が入っているので、細かく言えば、章によってお奨めしたい人が違う。2章や4章、8章はIT系企業の新入社員にぜひ、読んでもらいたい。6章、7章は、提案を担当する営業マンが読むと役に立つ内容だ。

全般的に、一般のビジネスマンがIT業界の企業と付き合うときに読んでおくと役立つだろう。これに最も適した本かもしれない。

続きを読む »

2007年1月12日 (金)

マーケティングにおけるギャップに悩む人必読

4820118455_01__aa240_sclzzzzzzz_v4983141 石川昭、辻本 篤編「新製品・新事業開発の創造的マーケティング―開発情報探索のマネジメント」、生産性出版(2006)

お奨め度:★★★★

編著であるが、研究開発から製品開発、事業開発までバランスよくまとめられており、初心者が読むにも適した製品開発、事業開発のテキスト。

第2章では、戦略実行のための研究開発のあり方について解説されている。特に、マーケティングのさまざまな活動と研究開発活動をどのように関係付けていくかを丁寧に解説している。

第3章では、研究開発における意思決定について解説されている。テーマの選定および、継続中止などの評価と判断をどのように行うかを解説している。

第4章では、マーケティングにおける情報活動について解説している。

第5章では、研究開発活動における情報活動について解説している。

6章以下は、これらの解説を事例によって解説している。「からだ巡礼(TM)」、Webリコメンデーションシステム「教えて!家電」、ロボットの開発などの特徴のある事例を取り上げて解説しているので、とても面白い。

最後に9章では最近注目されている、クレームベースの製品開発について解説している。

経営戦略と研究開発、研究開発と製品開発のギャップに悩んでいる人にはとても参考になる一冊である。

続きを読む »

PMstyle 2025年9月~12月Zoom公開セミナー(★:開催決定)

アクセスランキング

カテゴリ

Powered by Six Apart

Powered by Google

  • スポンサーリンク
  • サイト内検索
    Google