ヒューマンソフトマネジメントスキル Feed

2008年2月25日 (月)

職場の機嫌を直そう!

4062879263 河合 太介、高橋 克徳、永田 稔「不機嫌な職場~なぜ社員同士で協力できないのか」、講談社新書(2008)

お薦め度:★★★★1/2

・直接対話しようとしない
・関心を持てくれない、協力してくれない
・調整がうまくできない、連携できない
・かかわってくれない、放任されているだけ
・仲間になれない、仲間にしてもらえない

といったことが職場で頻繁に起こるようになり、職場がおかしくなり、人が壊れつつある。
そんな問題意識から「協力関係」を考えるフレームを定義し、職場が不機嫌になった理由を説明している。

この本で提案している協力のフレームワークとは

・役割構造
・インセンティブ
・評判情報

の3つであり、職場が不機嫌になった理由をこのフレームワークを使って

・組織のタコツボ化
・評判情報の流通と情報共有の低下
・インセンティブ構造の変化

を上げ、それらを解消する工夫をすることによって、協力関係の構築ができるとしている。さらに協力をうまくやっている組織として、、グーグル、サイバーエージェントやヨリタ歯科クリニックという3つの事例を使って、協力関係の構築がいかに業績に寄与しているかを説明するとともに、工夫のベストプラクティスの抽出をしている。

今、本当に多くの人が困っている問題に対して、シンプルなフレームワークを示すとともに、事例により対応方法のプラクティスを教えてくれる大変よい書籍である。最近、多く見られるEES(従業員満足)をあつかった書籍の中でもよい本である。

ただ、プラクティスはいずれもカリスマ的な経営者が存在する企業であり、一般的な企業で適用できるプラクティスかどうかは若干気になるところだ。この点は割り引いて読んだ方がよいかもしれないが、

・一方的な指示を出してきて、こちらの対応が遅いとキレる。
・隣の席にいる人とも、やりとりはメールのみ。
・「おはよう」等の挨拶がない。
・派遣社員、パート社員を名前で呼ばない。
・誰もきちんと対応してくれない。

こんなことの起っている職場のリーダーは一読をお勧めする。

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2008年2月20日 (水)

ドラッカーを実践する

4478003343 ピーター・ドラッカー (著)、ジョゼフ・マチャレロ(上田惇生訳)「プロフェッショナルの原点」、ダイヤモンド社(2008)

紙版><Kindle版

お薦め度:★★★★★

原題:The Effective Exective in Action

ドラッカーの最大の理解者であり、ドラッカーの教えを30年に渡り、教えてきたジョゼフ・マチャレロ教授がドラッカーの言葉を原題のテーマで、95のアドバイスに再構成した本。

この本を理解するためには、この本で最初の項目に取り上げられているドラッカーの言葉を知っておくとよい。

「経営者の条件」に書かれている言葉で

今日の組織では、自らの知識あるいは地位ゆえに組織の活動や業績に実質的な貢献をなすべき知識労働者は、すべてエグゼクティブである

という一節である。エグゼクティブという言葉は、通常、組織上の役職を示す言葉として使われるが、ドラッカーは上の抜粋の通り、別の意味で使っており、そこにこの本全体を貫くスタンスがある。このような前提で読むべき本である。

さて、本書は成果を上げる人のバイブルとしてまとめられたもので、

(1)時間をマネジメントする
(2)貢献に焦点を合わせる
(3)強みを生かす
(4)重要なことに集中する
(5)効果的な意思決定を行う

という5つの習慣を身につけるために書かれている。ゆえにこれまで、何冊かある、ドラッカー語録のような本とは多少違った趣がある。

それは上の5つについていくつかのポイントが示されている中で

 ・とるべき行動
 ・身につけるべき姿勢

の2つの視点から、コンピテンシーの強化についての記述があり、これを意識することによって習慣化できるようなつくりになっている点だ。これこそ、マチャレロ教授がドラッカー学を教えてきたノウハウだといえよう。

ひとつ例をあげておく。上にのべたようにこの本の第1章の1項目目は

「なされるべきことをなす」

というエグゼクティブであれというアドバイスなのだが、ここでの行動と姿勢は

【とるべき行動】
 自らの組織においてなされるべきことは何か?自らがなすべきことは何か?
【身につけるべき姿勢】
 常になされるべきことから考えることを癖にする。手本となる人はいるか?

といったもの。

ドラッカーの膨大な著作は秀逸なものばかりだが、実践ということでいえば、この一冊に勝る本はないだろう。購入し、擦り切れるまで使いこんでほしい!

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2008年2月14日 (木)

女性化しているビジネスマン

4478731209 エイドリアン・メンデル(坂野尚子訳)「女性(あなた)の知らない7つのルール―男たちのビジネス社会で賢く生きる法」、ダイヤモンド社(1997)

お薦め度:★★★★1/2

原書:How Men Think: The Seven Essential Rules for Making It in a Man's World

珍しく、10年以上前に出版された本を紹介したい。今、企画中のセミナーのために読みなおして、意外な感想をもったからだ。

内容は、ビジネスは男中心のゲームであり、女性はそれを理解しないためにずいぶんと損をしているというもの。あまり記憶が確かではないが、この本を最初に読んだのは1999年だと思うが、米国でもそうなんだと、結構、新鮮な衝撃を受けた覚えがある。

改めて何を感じたかというと、米国の状況はよくわからないが、日本ではビジネスでの女性の活躍は当り前のことになってきた。おそらく、最初にこの本を読んだ頃には、活躍する女性は目立っていた。しかし、今は目立たない。たとえば、仕事がら、大手の企業の部長クラスとお会いすることが多いが、女性は珍しくない。

そして、その人たちは女性独特の世界を作り上げているかというとそうではない。もちろん、女性ならではのものの見方、考え方はあると場面場面である思うが、大きな流れは男性が作ったビジネスのルールに従って堂々と自らの地位を築き上げている。これは、この本が啓蒙していることでもある。

この本ではビジネスというゲームには7つのルールがあるとしている。

ルール1:できるふりをする
ルール2:自分を強く見せる
ルール3:つらくても継続する
ルール4:感情的にならない
ルール5:アグレッシブになる
ルール6:戦う!
ルール7:真のプレイヤーになる

という7つだ。そして、このビジネスゲームを楽しむには、女性には3つの欠点があるというのがこの本の指摘。その3つとは

欠点1:失敗を恐れすぎる
欠点2:消極的すぎる
欠点3:優先順位をつけられない

の3つ。

さて、なぜ、この本を紹介したか。上に述べたように女性がこのビジネスゲームのルールに適応してきたのに対して、キャリアの浅い年代を中心に、ビジネスマンが女性化してきたのではないかと思う。

この本の中に男女の行動特性の違いを説明するためにこんな実験が紹介されている。

ハインズ夫人は病気で特別な薬を飲まないと死んでしまうかもしれない。しかし、その薬はとても高い。夫にハインズ氏には薬を買うお金がなく、薬屋さんも安くは売ってくれない。

この状況で「ハインズ氏は薬を盗んでもよいでしょうか?」という質問を男の子と女の子に別々にこの質問をした。

多くの男の子は「大切なものは何か」という問題に置き換え、命よりも大切なものはない以上、ハインズ氏は薬を盗んでもよいという結論を導ける人が多いそうだ。したがって、問題解決ができる。

ところが女の子は、薬を盗んだら、人との関係にどう影響するかを考える。そして、財産と命を比較するのではなく、薬を盗まずにハインズ夫人を助ける方法はないかと考え始める。当然、そんな方法はなかなか、見つからない。銀行でお金を借りてこのジレンマを解消しようとする。

つまり、男の子はものを盗んではならないというルールは受け入れた上で、ルールの抜け道を探す。この場合だと、捕まったとしても裁判官が理由をつけて無罪にする方法はないかと考える。

女の子はルールをそのまま受け止め、場合によっては使えないと判断し、ルールを無視してしまう。このケースだと銀行は返済能力のある人にのみお金を貸すというルールを無視する。

このエクスサイズを読んでいると、男女をとわず、ビジネスマンが女性かしているのではいかとつくづく思うのだ。

ルールがあるからビジネスである。男女とも、本書を読んでもう一度、原点に戻ってはどうだろうか?

ただし、ビジネスのルールそのものが変わってきたと指摘する人もいる。たとえば、週刊東洋経済2008年2月9日号では、「働きウーマン~世界は女性を中心に回りはじめた! 」という特集を組んでいる。これを読んでいると、男性の作ってきたビジネスゲームのルールが変わってきたので、それに対するしがらみのない女性が台頭してきたと感じなくもない。

その意味でこの本でメンデルが示しているルールそのものが変わってきているような気がしないでもない。あるいは、近い将来変わるような気もする。

4063289990 この特集号で表紙に使っている「働きマン」の主人公・松方弘子は思いっきり男キャラで、それに時々女性目線が入って活躍するという話なので、今、求められているのは、まさに、そんな人材なのかもしれない。

その点も含めて、ルールがあるからビジネスなのだというこの本の指摘そのものは普遍性のあるもので、ゆえにゲリラはゲリラで、ゲリラがビジネスを支配することはないだろう。そして、そのルールに対して適合できるものが生き残るという指摘も、またただしいと思う。その意味でも、読んでみる価値のある一冊だ。

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2008年2月 7日 (木)

Win-Winの関係づくりのバイブル

4426104432 鈴木有香「コンフリクト・マネジメント入門-人と協調し創造的に解決する交渉術」、自由国民社(2008)

お薦め度:★★★★★

最近、ネゴシエーションがマネジメントの一つの要素として、意見の対立があると、以下に勝つかということに関心が高まってきている。確かに、Win-Winといった概念があり、それを目指そうとするのだが、多くの人はできればそうそこに落としたい。しかし、時間がないなどの理由で一方的に相手をやっつけようとしたり、あるいは、痛み分けのような結論を求める。

特に、エンジニアというのは好戦的な人が多い。特に、仕事に熱心な人ほど、好戦的な傾向があるように思う。この本を読んでみると、そのようになる理由がわかってくる。白黒をはっきりとさせる、短期的な決着や成果を求めるという技術者魂(?)がなせる技かもしれない。

この本は最初から最後まで、独特の考えも基づいたコンフリクトマネジメントスキルが展開されている。

第1章では、まず、コンフリクトにはネガティブな面だけではなく、肯定的な面なあるというところから始まる。これが全体のコンテクストになっている。なかなか、こうは思えないものだ。

そして、コンフリクトの解消には協調的アプローチと競合的アプローチがあり、協調的なアプローチの方が将来的な好結果を生むことを指摘し、そのためのスキルについての解説に入る。

最初はコンフリクト分析のポイントで、
・ぶつかり合う立脚点
・見えていないニーズ
・絶対譲れない世界観
・双方で解決に取り組み問題を再焦点化する
・よりよい解決策をつくるための建設的提案
・破壊的提案は人間関係を終わらせる
の6つを上げ、細かく説明している。納得!

次に、協調型交渉のプロセスを具体的に説明している。さらに、次の章では、コミュニケーションの取り方と感情の関係について整理して解説されている。

これらの準備の後に、実践のためには、どのようなトレーニングをすればよいかを提案している。これも納得性が高く、また、ポイントが絞られているので個々のトレーニングは容易に、反復的に取り組むことができる。

最後に、ハードスキルとして、
・目標設定と行動計画
・フィードバック
・怒りへの対処とクレーム処理
・コーチング
・ミディエーション
の6つを取り上げ、解説している。

全般的に結構難しい話をしているようにも思うのだが、解説は平易で、わかりやすく、さらに、ふんだんにケースを使って説明されているので応用もききやすいように思う。素晴らしい本である。

Win-Winの関係づくりのバイブルといっても過言ではないだろう!

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2008年1月29日 (火)

20+1の悪癖を修正するコーチを受けよう!

4532313562 マーシャル・ゴールドスミス、マーク・ライター(斎藤 聖美訳)「コーチングの神様が教える「できる人」の法則」、日本経済新聞社(2007)

お薦め度:★★★★★

1 極度の負けず嫌い。
2 何かひとこと価値をつけ加えようとする
3 善し悪しの判断をくだす
4 人を傷つける破壊的コメントをする
5 「いや」「しかし」「でも」で文章を始める
6 自分がいかに賢いかを話す
7 腹を立てているときに話す
8 否定、もしくは「うまくいくわけないよ。その理由はね」と言う
9 情報を教えない
10 きちんと他人を認めない
11 他人の手柄を横取りする
12 言い訳をする
13 過去にしがみつく
14 えこひいきする
15 すまなかったという気持ちを表さない
16 人の話を聞かない
17 感謝の気持ちを表さない
18 八つ当たりする
19 責任回避する
20 「私はこうなんだ」と言いすぎる。

これはエグゼクティブ・コーチとして全米ナンバーワンといわれ、ジャック・ウェルチのコーチもしたマーシャル・ゴールドスミスが指摘する、リーダーとしての能力を発揮できなくする対人関係に関する20の悪癖である。

さらに、ゴールドスミスは21番目の悪癖で、

21 目標に執着し過ぎる

という悪癖も指摘する。

この21のうち、ひとつでも当てはまっていれば、ぜひ、この本を読んでほしい。自らのコーチングで、これらの悪癖を修正し、リーダーとして能力を発揮するための方法を極めて具体的に書いている。

その方法とは

・フィードバック
・謝罪する
・公表する。宣伝する
・聞く
・「ありがとう」と言う
・フォローアップ
・フィードフォワードを練習する

の7つである。

これを見てよくあるコーチングの話だと思った人は、4、6、10、11はきっと該当していると思われる(笑)。確かに、コンセプト自体はコーチングでよくある話なのだが、その深さが違う。すごいものだと思った。

さらに、この本のすごさはそのあと。自分を変えるときのルールということで、コーチング効果の持続について述べている。そして、最後は、悪癖を修正した上で、部下にどのように接するかという問題で終わっている。

この本を読み、実践できた人は確実に、B級管理職から、A級マネジャーに変身できるだろう!

<独り言>
最近、5つ星を連発しているなあ、、、まだ、書評を書いていないものも1冊ある。まあ、よい本にあたっているということか、ポジティブに考えよう!

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2008年1月21日 (月)

ステークホルダマネジメントのバイブル

4760826149 星野欣生「職場の人間関係づくりトレーニング」、金子書房(2007)

お薦め度:★★★★★

以前、星野欣生先生の

人間関係づくりトレーニング

を紹介したが、続編で、職場に焦点を当てた本が出た。それがこの本。

自分探し
関係的成長
きき方とかかわり
言葉の使い方(1)
言葉の使い方(2)
フィードバックは成長の鏡
コンセンサスと人間関係づくり
リーダーシップはあなたのもの
リーダーはファシリテーター
チームワークを考える
成熟したグループづくりのために
体験学習と日常生活

といった内容。前書と同じく、最初にコンセプトを説明し、エクスサイズ、そしてエクスサイズの結果を踏まえた理論の説明という流れで楽しみながら自己啓発としてトレーニングを進めていけるような構造になっている。

言葉の使い方あたりまでの内容は、若干、前本と被るが(解説やエクスサイズは書き下ろしであるが、内容が似ている)、フィードバック以降は純粋にビジネスの場面を想定したものとなっている。前にも書いたが、この本はハウツー本ではなく、エクスサイズを通して体験学習をすることを狙った本である。合意形成、リーダーシップ、ファシリテーション、チームワームなど個々の分野ではそのような本を見かけるが、まとめてこのようなトレーニングを念頭に置いた本はないと思う。

これらの専門のテーマの本を読むと、関連が出てきて混乱したり、あるいは不自然に無視したりしているケースが多く、全体が見えにくい。その点、この本は「人間関係」という切り口で全体を見ながらトレーニングを進めていけるので、バイブルといってもよいような本である。

また、ヒューマンスキルトレーニングや新入社員研修を担当している人材開発の方にもぜひ、目を通して戴きたい。特にエクスサイズが練れていて、非常に参考になる。

余談になるが、星野先生はプロフィールを見ると80歳近い方だ。この年齢になってこの内容の本が書けるというのは本当にすばらしいと思う。

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2007年12月17日 (月)

右脳プロジェクトマネジメント

1567262066_2 B. Michael Aucoin「Right-Brain Project Management: A Complementary Approach」、Management Concepts(2007)

お薦め度:★★★★1/2

久しぶりの原書。これは英語に苦労しても損はない!(たぶん、この出版社の本は翻訳されない)

合理的な判断、論理的思考、分析的思考、数学的分析、事実に基づく思考や判断などはいずれも、左脳によるものであるといわれる。このような思考法だけでは、対応が難しいプロジェクトがある。スコープがあいまい、スコープが変化する、プロジェクト目標が大きくストレッチされているといったプロジェクトである。

この本は、このようなプロジェクトに対して、左脳プロジェクトマネジメントに加えて、右脳プロジェクトマネジメントの有用性を説き、ツールを解説した本である。

この本では、7つのツールを提唱している。

1. 人を引き付ける目的を見つける
2. プロジェクトを理解する
3. スコープや開発方法など、さまざまなことを試し、採用していく
4. 新たな現実を生み出す
5. 行動し、信用を作り上げていく
6. スイートスポットにヒットする
7. 実施したプロジェクトを「遺産」として残す

この考え方が面白いのは、最初にステークホルダがもつ動機(感覚)を探ることによって、プロジェクトを始めていくという考え方だ。左脳のプロジェクトマネジメントは、プロジェクトを実施することとありきで、ステークホルダの動機ではなく、ニーズを探し、目的とする。そのようなやり方は、曖昧性が少ない場合は有効だが、曖昧性があると、その対処が難しい。

これに対して、右脳プロジェクトマネジメントは、計画を立てる前に、感覚を意識的に扱うため、早めにプロジェクトのあいまいさを受け入れ、プロジェクトの早期の時間を計画を作ることに費やすのではなく、動機を高めたり、意味づけをすることに費やす。これにより、プロジェクトの後期において、画期的な成果とパフォーマンスを生み出すことを可能にするという考え方である。

これは、トム・ピーターズが提唱しているWOW!プロジェクトマネジメントに通じるものがある。WOW!もはやり、右脳プロジェクトマネジメントなのだ。

エンジニアリングプロジェクト、IT系のプロジェクトなど、管理対象の大きなプロジェクトにはこのような手法は向かないとされている。この本を読んでみるとこれは誤解であることがわかる。右脳か左脳かという議論であれば、確かに、左脳が重要である。しかし、そのようなプロジェクトにおいても、右脳プロジェクトマネジメントによって、左脳プロジェクトマネジメントで得られる成果を大きくするというのが基本的な発想である。

その意味で、特にPMBOKのプロジェクトマネジメントを実施しているプロジェクトマネジャーやPMOに読んでみてほしい一冊だ。

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2007年12月10日 (月)

権威を使わずに人を動かす原理―レシプロシティ

4419050500 アラン・コーエン、デビッド・ブラッドフォード(高嶋薫、高嶋成豪訳)「影響力の法則―現代組織を生き抜くバイブル」、税務経理協会(2007)

お薦め度:★★★★★

原題:Influnence without Autohrity

原書はいろいろな本や論文で取り上げられてるコミュニケーションの名著である。僕も買って読もうとしたが、組織論やマネジメントの本では見かけない単語が並んでいて、諦めた経緯がある。

この本では「reciprocity」が影響力の源泉であるというのが基本コンセプトになっている。安部前首相が首相になってすぐに中国を訪問し、その際に「戦略的互恵関係」の構築をうたってきた。米国的な言い方をすれば、ギブアンドテイクだとこの本にも書いている。ただし、単なるギブアンドテイクではなく、良好な人間関係に立脚したギブアンドテイクである。このようなギブアンドテイクを「影響力の法則 コーエン&ブレッドフォードモデル」としてフレームワーク化している。

これは影響力を及ぼすための6つの法則から構成されるフレームワークだ。

法則1:味方になると考える
法則2:目標を明確にする
法則3:相手の世界を理解する
法則4:カレンシーを見つける
法則5:関係に配慮する
法則6:目的を見失わない

この本では、この6つの法則について、具体的な実現方法を体系的に示すとともに、ケースを多用して、その意味を直感的にわかるようにしている。体系的な説明のところでは、例が非常に多く、有用である。たとえば、カレンシー(通貨:価値交換の道具)だと
・気持ちの高揚や意欲を喚起するカレンシー
・仕事そのものに役立つカレンシー
・立場に対するカレンシー
・人間関係に関するカレンシー
・個人的なカレンシー
という分類をし、たとえば、最初の気持ちの高揚や意欲を喚起するカレンシーであれば、
・ビジョン
・卓越性
・道徳的/倫理的な正しさ
というのを上げている。このようにひとつひとつの例に非常に深い意味と、気付きをこめて作られた本である。

また、最後の2章は、それぞれに、「影響力の法則 コーエン&ブレッドフォードモデル」を使って、上司と部下にどのように影響を与えるかという説明になっていて、この部分は極めて実践的である。

この手の本は決して少なくない。しかし、ハウツーものはほとんど役に立たないと思う。ハウツーにできるような単純な問題ではないからだ。自分の行動を内省しながら、考えながら読まないと、行動に移せない。一方で、ハウツーものを欲しがる人も多い。

この本はそのような読者に対しても、一定の満足を与えながら、はやり、基本は考えさせることに置いているように思う。つまり、かなり、具体的な行動イメージが持てるまで、「例示」をし、そこでとどめてある。そこからは自分で考えましょうという書き方になっている。その点でも非常に参考になったし、よくできている。

組織で働くすべての人に一度は読んでほしい本だ。

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2007年12月 7日 (金)

機能不全に陥った上司・部下関係を救う

4492532374 豊田 義博「「上司」不要論。」、東洋経済新報社(2007)

お薦め度:★★★★

良い上司になるには、上司を使うには、といった「上司・部下」本は八重洲ブックセンターにいけば100冊はくだらないだろう。本屋にこの本が平積みされているのを発見したときに、東洋経済新報もついにこの種の本に出したかと、意外感を持って、手に取った。

手にとって、納得。僕は初めての著者の名前のときには、中身ではなく、奥付にある著者のプロフィールをまず見る。この本の著者の豊田義博さんは日本でも有数の人材マネジメントのシンクタンク「リクルートワークス研究所」の主任研究員なのだ。ご本人もまえがきで書かれているが、主任研究員なので、当然部下はいる。

このあたりで、俄然、興味が高まり、とりあえず、買ってホテルに戻り、一気に読んだ。

面白い!

というより、痛く共感。

リクルート ワークス研究所による職場意識調査の成果をもとに、今までの「上司・部下」本では触れられてこなかった視点から、今日の上司・部下問題を書き起こした一冊。この本に書かれていることを簡単にいえば、職業意識が変わっている中で、当然、上司と部下の心理的な関係も変わる。にも関わらず、新しい関係構築がされていない。これでは、上司と部下の関係は機能不全に陥って当たり前。この問題を解決する方法は関係のリストラクチャリング以外にない。

書き方も工夫されている。ステレオタイプの上司のキャラクタとその行動をマンガで描き、そのキャラクタを使って分析結果を説明するという書き方をしているので、内容そのものは固いのだが、結構、気軽に読める。

ただ、この本、パレートの法則でいうところの20%しか、見ていないような気がする。調査の詳細が書かれていないので、推測にすぎないが、たとえば、僕が最近、はまった本、
田北百樹子「シュガー社員が会社を溶かす」、ブックマン社(2007)4893086715

といった80%の現実に、どのように答えるのだろうか?という疑問は残った。まあ、パレートの法則だから20%に対処すればよいという気もするが、、、

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2007年11月20日 (火)

プロジェクトマネジャーの人間術

4872686721 Steven W. Flannes、Ginger Levin(PMI東京支部/吉沢 正文監訳)「プロジェクト・マネジャーの人間術」、アイテック(2007)

2005年に米国で発刊された「Essentail People Skills for Project Management」の翻訳。PMI東京支部の有志が翻訳している。

プロジェクトマネジャーの役割を
 ・リーダー
 ・マネジャー
 ・ファシリテータ
 ・メンター
の4つとし、これらの役割を果たすのに必要なピープルスキル(人間術と訳している)を
 ・対人コミュニケーション
 ・動機付け
 ・コンフリクトマネジメント
 ・ストレスマネジメント
 ・トラブル
の視点から、ツールとして解説している。また、最後にキャリアとそれに伴う人間観という視点でどういう心構えでキャリア形成していくべきかを論じている。
本書の特徴は
(1)プロジェクトマネジメントプロセスに人間術を対応させている
(2)キャリアステージを強く意識した手法を提案している
の2つだろう。書かれている内容は、簡潔ではあるが、独自性が強く、非常に本質をついているように思える。その意味で、ハウツーものというよりも、教科書としてプロジェクトマネジャーが内省のインプットとして使うとか、あるいは、組織でプロジェクトマネジャーの教育やワークショップの教材として使うといった使い方が適しているように思える。

また、明確に書かれていないが、この本に書かれていることはプロジェクトマネジメントのスキルがあることを前提にしているように見える。その点でも、初心者がハウツーものとして読む本ではないように思う。典型的な対象読者を一つ上げると、「PMPを取って、実践しようとしてもなかなかうまくいかなくて困っている人」だ。日本ではPMPホルダーのマジョリティだと言われてるが、米国でこのような本が出版されていることは興味深い。

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