エイミー・C・エドモンドソン(村瀬俊朗解説、野津智子訳)「恐れのない組織――「心理的安全性」が学習・イノベーション・成長をもたらす」、英治出版(2021)
(Kindle)https://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B08R8KBZKZ/opc-22/ref=nosim
(紙の本)https://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4862762883/opc-22/ref=nosim
◆概要
ハーバードビジネススクールのエイミー・エドモンドソン教授の「The Fearless Organization」の翻訳。最近、キーワードになりつつある、「心理的安全性」に関する一冊。加えて、早稲田大学の商学部の村瀬俊郎先生が興味深いのある解説を書かれている。
心理的安全性とは
「みんなが気兼ねなく意見を述べることができ、自分らしくいられる文化」
と説明した上で、自身の研究も含めた数多くの心理的安全性に関わる調査や研究の結果から、第1部「心理的安全性のパワー」、第2部「職場の心理的安全性」、第3部「フィアレスな組織をつくる」の3部から構成されている。
第1部では、心理的安全性の概念について説明し、過去にどのような研究がなされてきたかを紹介している。
第2部では、ケーススタディーを行った多くの組織において、心理的安全性がパフォーマンスと組織の健全性にどのような影響を与えているかを示している。
第3部では、リーダーがどんなことをすれば、誰もが率直に話して仕事をし、貢献・成長・成功し、チームを組んで、ずば抜けた成果を出す組織を創り出せるかを明確にしている。
本書の特徴の一つは、著者の20年に渡る研究結果を元に書かれており、非常にケーススタディーが豊富なことだ。
◆心理的安全性は深い!
まず、第一部では心理的安全性の重要性を示すシンボリックなケースとして、都会の病院で新生児集中治療を行う医療チームに心理的安全性が確立されていないために起こった問題を紹介している。
すなわち、ある看護師が治療中に医師の不適切な指示に気づいた。しかし、前週に指示に疑問を投げた別の看護師がその医師に人前で叱責されているのを思い出し、迷った挙句に意見を言わないことにした。叱責されるのが嫌だったし、医師の方が知識が豊富で意見を言っても受け入れられないと考えた。結果として、患者は生命を失いかねない状況に陥った。
このような職場で率直に発言できないことは重要であるにも関らず、見過ごされている傾向がある。このような傾向がイノベーションが阻害されたり、サービスの質が低下したり、生命が失われるといった組織を危険にさらす事態を引き起こしかねないが、現実には多くの組織にそういう傾向がある。これを変えるには、心理的安全性を高めていくことが望まれる。
本書では、まず、このような問題提起をしている。
その上で、第2章では、自身の研究を含めて、100本以上の論文を体系的に整理している。そのカテゴリーは
・心理的安全性が職場でどの程度欠けているかを明らかにする論文
・心理的安全性と学習の関係を研究する論文
・心理的安全性とパフォーマンスとの関係を論じる論文
・心理的安全性と従業員のエンゲージメントとの建設的な関係を示す論文
・心理的安全性がチームにどのような影響を与えるかを研究した論文
の5つであるであるが、本書では、第2部となる3章以降で、この5つのカテゴリーを中心にさまざまなケーススタディーをしている。
◆心理的安全性が低いと何が起こるか
第3章は、心理的安全性が構築されていれば回避できただろうという失敗について議論している。
ここでは、まず、フォルクスワーゲン・グループの欠陥ディーゼルエンジンの事件を取り上げ、もし、エンジニアが心理的に安全な環境で働いていて、クリーン・ディーゼルエンジンを完成させることが無理だと上司に告げることができれば、失敗せずに済んだのではないかとしている。
また、同様のシナリオで起こった、ウェールズ・ファーゴ銀行、ノキア、ニューヨーク連邦準備銀行のケースを紹介している。
第4章では、心理的安全性が低い職場において、職場で沈黙をすることがどのような結果をもたらすかを、いくつかのケースを使って述べている。一つは、NASAAのスペースシャトル・コロンビア号の地球帰還での事故。燃料タンクの落下位による異変を疑ったエンジニアがいたが、その確認のための映像がプロジェクトステークホルダーの階層で依頼できないままで、事故に至った。
NASA以外のケースとして、1977年に発生した滑走路でのボーイング747が衝突し、583名が死亡した事故、1994年にダナ・ファーバーがん研究所で行われたがんの臨床試験をめぐり、不適切だと思われる化学療法剤の投与で患者を死亡した出来事などをあげている。
本書ではこのような現象を沈黙の文化と呼び、心理的な安全性が低いと沈黙の文化がつくられ、率直な発言が軽んじられ、注意を促して無視される環境が生まれる可能性があると指摘している。
また、このような例の一つに、日本で東日本大震災の際に生じた原子力発電所の事故をかなり詳細に取り上げている。この事故は、まさに国全体の心理的安全性が低いために発生した事故だろう。
このような問題がある組織に対して、第5章、第6章では、成功を治めている組織を紹介し、心理的安全性がとのように作用しているかを示している。
◆心理的安全性を高めれば、何が可能になるのか
第5章では、本書のタイトルでもあるフィアレスな職場をテーマにし、これらの職場に共通する率直さを実現するために、リーダーシップがどのように心理的安全性を高めているかを示している。
まず、取り喘げているのはピクサー・アニメーション・スタジオだ。ピクサーでは、創造性と批判の両方が次々と生まれる状況をリーダーシップが生み出しているが、その一因になっているのが心理的安全性の考え方に通じる率直さだとしている。
このほかにも、徹底した真実と透明性によって有意義な仕事と有意義な関係を重視する文化を実現しているブリッジウォーター・アソシエイツ社、無知であることを心得ることをパワーにして、成長したアパレルアイリーン・フィッシャー社、賢い失敗をできるリーダーを育てて、アジャイルな経営を実現しているグーグルX社などを紹介しているが、いずれもこのような特徴をつくるために、心理的安全性を制度化、組織化している。
第6章では、職場の安全性における心理的安全性の議論をしている。ケースとしてまず取り上げられているのは、日本でも有名なバードストライクによりエンジン停止の緊急事態に見舞われ、ハドソン川に奇跡的な不時着をし、死者を出さなかった飛行機事故。この事故において、2人の操縦士が何を考え、どのような判断をしたかを克明に示し、心理的安全性が職場の安全性の基礎となっていることを示している。
さらに、この操縦士と同じマインドセットで、腎臓透析のリーディングカンパニーのオペレーション、世界有数の鉱業・資源会社であるアングロ・アメリカン社の事業展開などを通して、職場の安全の実現における心理的安全性の役割を議論している。
これらのケースを通じて分かることは、心理的に安全な職場を作るには、率直に話す、賢くリスクを取る、さまざまな意見を受け入れる、チャレンジングな問題を解決するといった、当たり前ではできない行為を、人と組織が真摯に取り組めるようにするリーダーシップが必要である。
◆組織やチームの心理的安全性を高めるためにリーダーは何ができるか
このために、第3部ではリーダーとしてできることを示している。
まず第7章では、リーダーのツールキットについて、カテゴリーに分け、以下のよううなものがあるとしている。
・土台をつくる
‐仕事をフレーミングする
‐目的を際立たせる
・参加を求める
‐状況的謙虚さを示す
‐探究的な質問をする
‐仕組みをプロセスを確立する
・生産的に対応する
‐感謝を表す
‐失敗を恥ずかしものではないとする
‐明らかな違反に対する制裁を取る
このようなツールを、これまに紹介したケースや、新しいケースを使って分かりやすく説明している。また、このようなツールキットがどのように機能するかを、問題ケースを使って説明している。本書の中ではこの部分が非常に役に立つ。
もう一つの視点は学習である。組織学習には心理的安全性が不可欠であり、心理的安全性によって絶え間ない学習と迅速が実行が可能になる。第7章では、心理的安全性を前提にする組織学習の具体的な方法について示されている。ここでもはやり、事例によって示されているので、非常に説得力がある。
本書の最後に、心理的安全性に関するQAを掲載されている。講演やコンサルティングのクライアントが発する疑問に応える形になっているが、質問のテーマも興味深いものばかりだ。
◆本書を読んでみて感じたこと
本書全体で著者が強く言っているのは、心理的安全性は「あったほうがいいもの」ではなく、才能を引き出し、価値を創造するために「なくてはならないもの」だということを主張している。特に、専門的な知識を統合する必要がある組織においては、優秀な人材を雇うだけではもはや十分ではなく、ナレッジと協力をあてにしているならば、心理的安全性の構築に投資すべきであるとしている。この点は、本書を読めば十分に納得できる。
次に、本書で印象に残ったことの一つは、再三にわたり、VUCA時代には「心理的安全性」が重要であると述べられていることである。著者は、VUCAに直面しているあらゆる企業は、従業員の指摘、アイデア、懸念は、市場と組織で起こることについて重要な情報をもたらすため、心理的安全性は最終的な収益に直結していると指摘している。
そして、
・ダイバーシティ(多様性)
・インクルージョン(包摂)
・ビロンギング(自分らしさを発揮しながら組織に関われる心地世さ)
が職場で重視されることを加味すれば、心理的安全性の構築はリーダーのきわめて重要な責務であると断言している。心理的安全性が従業員の貢献、成長、学習、協力の実現を左右するからである。
また、信頼との関係も興味深い。心理的安全性の問題は、信頼の問題と混乱されがちであるが、異なるものだ。
信頼じは個人が特定の対象者に抱く認知的・感情的な態度であり、心理的安全性はチームの大多数が共有すると生まれる職場に対する態度だとしている。この点について、解説にて村瀬先生が適切な例をあげている。「会議の出席者の大多数が周りと違う意見を言っても嫌な顔をされない」と感じられればそこには倫理的安全性がある。しかし、AさんがBさんに対して、「Bさんの意見に同意せずとに違う考えを手宇治しても大丈夫」と思えるなら、それは信頼であるというものだ。
これから分かるように、心理的安全性はチームに存在するものであり、信頼は個人的なものである。そもそも、チームとは何かという議論もあるが、これについてはエドモンドソン教授の考えは深いものがあるので、前著
エイミー・C・エドモンドソン(野津智子訳)「チームが機能するとはどういうことか ― 「学習力」と「実行力」を高める実践アプローチ」、英治出版(2014)
https://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4862761828/opc-22/ref=nosim
を読んでみて頂きたい。この本を併せて読むと一層、チームにおける心理的安全性と、その向上のためにリーダーがすべき役割に対する理解が深まるだろう。
]]>デイビッド・エプスタイン(中室 牧子解説、東方 雅美訳)「RANGE(レンジ)知識の「幅」が最強の武器になる」、日経BP(2020)
(Kindle)https://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B0868DR36/opc-22/ref=nosim
(紙の本)https://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4822288773/opc-22/ref=nosim
お薦め度:★★★★★
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本書はアメリカの科学ジャーナリストであるデイビッド・エプスタイン氏の著書で、知識の幅について議論した本である。簡単に言えば、ジスペシャリストが活躍するにはどういう態度が望ましいかという議論だ。
世界的にこの10年くらいのトレンドとして、「早期教育」、「1万時間の法則」、「グリット」といった概念が広まっているように、専門特化の必要性がさまざまな分野でよく言われている。本書はこのトレンドに意義を唱えるものである。特に、グリッドの批判には1章割いているのが、注目される。
本書の冒頭でタイガー・ウッズとロジャー・フェデラーの両者がスターになった道のりが詳しく述べられている。
簡単にいえば早くからメジャーの制覇を目指してトレーニングをしてきたのがタイガー・ウッズであり、いろいろな分野に興味を持って手を出し、結果としてテニスで成功したのがロジャー・フェデラーである。
そして、本書は、専門特化以外の人材の育て方もあるという提唱をするもので、そのポイントとして「知識の幅を武器にする」ことを挙げている。
実際に専門特化への流れは強くなっている。特に最近単なる個人レベルの細分化にとどまらず、システム全体の細分化が目立つ。専門に特化したグループを作り、小さな部分に目を向けていくというやり方だ。この背景には専門の高度化があるとされるからだが、これが非常に大きな問題を引き起こすようになってきた。本書では金融や医療の例が紹介されている。
例えば、2008年の世界金融危機の分析で明らかになったのは、大手銀行組織の細分化である。全体の中でごく小さな専門に特化した多くのグループが、自分のグループのためにリスクを最低化していたため、大惨事が起こった。2009年に連邦政府のプログラムが立ち上がり、苦労しながら部分的に借り入れの返済ができる人たちに対して、月々の返済額を引き下げるように銀行を支援しようとした。これに対して、銀行の住宅ローン貸し付け部門は住宅所有者の返済額を下げたが、差し押さえ部門は、住宅所有者の返済額の減額に気づき、債務不履行を宣言し、住宅を差し押さえた。
もう一つの例として挙げられているのが、医療で、医療分野では高度に専門化された医療関係者が「金槌を持っているとすべてが釘に見える」症候群が起こっていると指摘している。その例として取り上げられているのが心臓の医療の例で、カテーテルによる治療を専門とする専門医は、胸の痛みをステントで治療することに慣れており、ステントを用いることが不適切な場合にもステントを利用するという。その証拠として、学会で心臓専門医が全国で何千人レベルで病院を留守にした期間に、入院した心臓病の患者の死亡確率が小さくなっているという現象を取り上げている。
この問題に対して、ある国際的に著名な科学者は専門特化の傾向が進むにつれて、「平行溝のシステム」ができていると指摘している。つまり、誰もが自分の溝を深く掘り続けることに専念しており、隣の溝に自分が抱えている問題の答えがあるかもしれないのに、立ち上がってみようとしないというのだ。
そして、未来の科学者の教育を「非専門化」しようとしている。これは彼自身が専門に特化するように求めらたにも関わらず、幅を広げたことで莫大な効果を得てきたためだ。まさに、タイガー・ウッズ方式ではない道を歩ませようとしているのだ。
これらの例から学べることは、世界がVUCAになり、複雑さや複雑さは増し、テクノロジーでつながってることにより、どんどん大きくなっていき、個人やチームが見える部分はごく小さくなっている。その中で、タイガー・ウッズのような早熟さや、明確な目的意識が求められることはある。しかし、幅広く始めて、成長する中でさまざまな経験をし、多様な視点を持つ「レンジ」のある人たち、つまり、ロジャー・フェデラーの必要性も高まっている。
本書はこのような問題を指摘し、かつ、
・少なく、幅広く練習する効果
・速く学ぶか、ゆっくり学ぶか
・未経験のことについて考える方法
・「いろいろな自分」を試してみる
・時代遅れの技術を水平思考で生かす
といった基本行動の解説を踏まえて、解決するための方向性として
・慣れ親しんだ「ツール」を捨てる
・意識してアマチュアrになる
という2つを示している。このような形でレンジを広げていけばよいという助言をしているわけだが、興味深いのはなぜレンジを広げるのは難しいのかを示した上で、「後れを取ったと思わない」という指摘をしている。これはその通りである。
日本では事務職と専門職という区分がある。そして、実務も事務もオペレーションはどんどん専門化し、さらにどんどん細分化している。このような専門職については、レンジを広げた方がいい。
ただし、漠然といろいろな経験をしたジェネラリストになるとキャリアは行き詰る。マネジメントも含めて専門性が必要だ。そのためには、応用力などのコンセプチュアルスキルを身につけ、隣でやっていることを自分の専門に活かしていくことが不可欠である。
このように考える人は、ぜひ、この本を読んでみて欲しい。考えない人は、一度、第10章の「スペシャリストがはまる罠」を読んでみられるといいだろう。
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ロルフ・ドベリ(中村 智子訳)「Think right 誤った先入観を捨て、よりよい選択をするための思考法」、サンマーク出版(2020)
(Kindle)https://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B089LQ12NK/opc-22/ref=nosim
(紙の本)https://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4763138030/opc-22/ref=nosim
お薦め度:★★★★★
2013年に出版され、愛読しているロルフ・ドベリのコラム集「なぜ、間違えたのか?」が、同じ出版社からタイトルを変更して、復刊された。新しいタイトルは「Think right 誤った先入観を捨て、よりよい選択をするための思考法」で、これでThinkシリーズは
「Think clearly 最新の学術研究から導いた、よりよい人生を送るための思考法」
「Think Smart 間違った思い込みを避けて、賢く生き抜くための思考法」
「Think right 誤った先入観を捨て、よりよい選択をするための思考法」
と3冊が揃ったことになる。ロルフ・ドベリこれらの本を思考の道具箱と呼んでいるが、各書には52の道具が紹介されている。この記事ではこの3冊すべて紹介されている156個の道具のタイトルと副題を紹介しておく。改めてこうやってみると印象に残っていて、行動を変えているものが非常に多い(これに気づいたことが愛読しはじめた理由だ)。リストにで◎をつけているのがそうだ。
Kindleのサンプルで第1話は読めるので、ぜひ、読んでみて頂きたい。そして、相性が合えば購入し、手元において、何か困ったことに出会ったら、読んでみることをぜひ、お勧めしたい。
◆「Think right」
◎フレーミングのワナ:なぜ、言い方を変えただけで、結果が大きく変わるのか?
・確証のワナ その1:なぜ、「特殊なケース」には気をつけるべきなのか?
・確証のワナ その2:なぜ、「あいまいな予想」に惑わされてしまうのか?
◎権威のワナ:なぜ、エラい人には遠慮しないほうがいいのか?
・希少性の錯覚のワナ:なぜ、少ししかないクッキーはおいしく感じるのか?
・選択のパラドックスのワナ:なぜ、「選択肢」が多ければ多いほど、いいものを選べないのか?
・「あなたが好き」のワナ:なぜ、自分に似ていれば似ているほど相手を好きになるのか?
・お返しの法則のワナ:なぜ、お酒をおごってもらわないほうがいいのか?
・生き残りのワナ:なぜ、「自分だけはうまくいく」と思ってしまうのか?
・サンクコストのワナ:なぜ、「もったいない」が命取りになるのか?
・コントラストのワナ:なぜ、モデルの友人は連れていかないほうがいいのか?
◎イメージのワナ:なぜm「違う街の地図」でもないよりはまし、と考えてしうのか
・「いったん悪化してからよくなる」のワナ:なぜ、「その人」を信じてしまったのか?
・スイマーズボディ幻想のワナ:なぜ、水泳をすれば水泳選手のような体形になれると考えるのか?
・自信過剰のワナ:なぜ、自分の知識や能力を過信してしまうのか?
◎社会的証明のワナ:なぜ、他人と同じように行動していれば正しいと思ってしまうのか・ストーリーのワナ:なぜ、歴史的事件の意味は、あとからでっちあげられるのか
◎回想のワナ:なぜ、起こった出来事に対して「あれは必然だった」と思い込むのか?
・お抱え運転手の知識のワナ:なぜ、「わからない」と正直に言えないのか?
・報酬という刺激のワナ:なぜ、弁護士費用は「日当」で計算してはいけないのか?
・平均への回帰のワナ:なぜ、「医者に行ったら元気になった」は間違いなのか
・共有地の悲劇のワナ:なぜ、みんなが利用する場所では問題が発生するのか?
◎結果による錯覚のワナ:なぜ、「結果」だけで評価を下してしまうのか?
◎集団思考のワナ:なぜ、「意見が一致したら要注意」なのか?
・確率の無視のワナ:なぜ、宝くじの当選金額はどんどん高くなるのか?
◎基準比率の無視のワナ:なぜ、直感だけで判断すると間違えるのか?
・ギャンブラーの錯覚のワナ:なぜ、「プラスマイナスゼロに調整する力」を信じてしますのんか?
・アンカリングのワナ:なぜ、商談のときにはなるべく高い価格から始めるべきなのか?
・帰納的推理のワナ:なぜ、ちょっと株価が上がっただけで大金をつぎこんでしまうのか?
・マイナスの過大評価のワナ:なぜ、「悪いこと」は「いいこと」より目につきやすいのか?
◎社会的手抜きのワナ:なぜ、個人だと頑張るのに、チームになると怠けるのか?
・倍々ゲームのワナ:なぜ、50回折りたたんだ紙の厚さを瞬時に予想できないのか?
・勝者の呪いのワナ:なぜ、オークションで落札しても少しも儲からないのか?
・人物本位のワナ:なぜ、コンサートのあとでは識者やソリストの話しかないのか?
・誤った因果関係のワナ:なぜ、コウノトリが増えると赤ちゃんも増えると考えるのか?
・ハロー効果のワナ:なぜ、恋に落ちた相手は完璧に見えるのか?
◎別の選択肢のワナ:なぜ、成功の裏にあるリスクに気がつかないのか?
・予測の幻想のワナ:なぜ、予測が外れてばかりのエセ専門家が増殖するのか?
・別の選択肢のワナ:なぜ、もっともらしい話に惑わされてしまうのか?
・過剰行動のワナ:なぜ、ゴールキーパーはじっとしていないのか?
・不作為のワナ:なぜ、ダメージが同じなら何もしない方がよいのか?
・自己奉仕のワナ:なぜ、「成功は自分のおかげ」「失敗は他人のせい」と考えるのか?
・選択のワナ:なぜ、社内にはいつも自分と同じ同性が多いのか?
・連想のワナ:なぜ、悪い知らせだけを伝えるべきなのか?
・ビギナーズラックのワナ:なぜ、「はじめから順調」のときが危ないのか?
・ビギナーズラックのワナ:なぜ、自分への嘘でつじつま合わせをしようとするのか?◎◎共時性の奇跡のワナ:なぜ、「ありえないようなこと」でも、いつか起こるのか?
・目先の利益のワナ:なぜ、「今この瞬間を楽しむ」のは日曜日だけにすべきなのか?
・所有のワナ:なぜ、「自分のもの」になったとたんに価値は上がるのか?
・満足の踏み車のワナ:なぜ、幸福は3か月しか続かないのか?
・コントロール幻想のワナ:なぜ、自分の人生をすべて自分でコントロールしていると信じるのか?
◎ゼロリスクのワナ:なぜ、危険を徹底的になくそうとすると痛い目にあうのか?
◆「Think clearly」
ロルフ・ドベリ(安原実津訳)「Think clearly 最新の学術研究から導いた、よりよい人生を送るための思考法」、サンマーク出版(2019)
https://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4763137247/opc-22/ref=nosim
◎考えるより、行動しよう──「思考の飽和点」に達する前に始める
◎なんでも柔軟に修正しよう──完璧な条件設定が存在しないわけ
◎大事な決断をするときは、十分な選択肢を検討しよう──最初に「全体図」を把握する
・支払いを先にしよう──わざと「心の錯覚」を起こす
・簡単に頼みごとに応じるのはやめよう──小さな親切に潜む大きな罠
・戦略的に「頑固」になろう──「宣誓」することの強さを知る
◎望ましくない現実こそ受け入れよう──失敗から学習する
・必要なテクノロジー以外は持たない──それは時間の短縮か? 浪費か?
・幸せを台無しにするような要因を取り除こう──問題を避けて手に入れる豊かさ
・謙虚さを心がけよう──あなたの成功は自ら手に入れたものではない
◎自分の感情に従うのはやめよう──自分の気持ちから距離を置く方法
・本音を出し過ぎないようにしよう──あなたにも「外交官」が必要なわけ
◎ものごとを全体的にとらえよう──特定の要素だけを過大評価しない
・買い物は控えめにしよう──「モノ」より「経験」にお金を使ったほうがいい理由
・貯蓄をしよう──経済的な自立を維持する
◎自分の向き不向きの境目をはっきりさせよう──「能力の輪」をつくる
・静かな生活を大事にしよう──冒険好きな人より、退屈な人のほうが成功する
・天職を追い求めるのはやめよう──できることを仕事にする
・SNSの評価から離れよう──自分の中にある基準を見つける
◎自分と波長の合う相手を選ぼう──自分は変えられても、他人は変えられない
・目標を立てよう──人生には「大きな意義」と「小さな意義」がある
・思い出づくりよりも、いまを大切にしよう──人生はアルバムとは違うわけ
◎「現在」を楽しもう──「経験」は「記憶」よりも価値がある
・本当の自分を知ろう──あなたの「自分像」が間違っている理由
・死よりも、人生について考えよう──人生最後のときに思いをめぐらせても意味がない理由
・楽しさとやりがいの両方を目指そう──快楽の要素と意義の要素
◎自分のポリシーをつらぬこう──「尊厳の輪」をつくる その1
◎自分を守ろう──「尊厳の輪」をつくる その2
◎そそられるオファーが来たときの判断を誤らない──「尊厳の輪」をつくる その3
・不要な心配ごとを避けよう──不安のスイッチをオフにする方法
・性急に意見を述べるのはやめよう──意見がないほうが人生がよくなる理由
・「精神的な砦」を持とう──運命の女神の輪
・嫉妬を上手にコントロールしよう──自分を他人と比較しない
・解決よりも、予防をしよう──賢明さとは「予防措置」をほどこすこと
・世界で起きている出来事に責任を感じるのはやめよう──世の中の惨事を自分なりに処理する方法
◎注意の向け方を考えよう──もっとも重要な資源との付き合い方
・読書の仕方を変えてみよう──読書効果を最大限に引き出す方法
◎自分の頭で考えよう──イデオロギーを避けた方がいい理由
・「心の引き算」をしよう──自分の幸せに気づくための戦略
・相手の立場になってみよう──「役割交換」することのメリット
・自己憐憫に浸るのはやめよう──過去をほじくり返すことが無意味なわけ
・世界の不公正さを受け入れよう──自分の日常生活に意識を集中する
・形だけを模倣するのはやめよう──カーゴ・カルトの犠牲にならない
・専門分野を持とう──g「多才な人」より「スペシャリスト」を目指す
◎軍事競争に気をつけよう──競争が激しいところにわざわざ飛び込まない
・組織に属さない人たちと交流を持とう──組織外の友人がもたらしてくれるもの
・期待を管理しよう──期待は少ないほうが幸せになれる
◎本当に価値のあるものを見きわめよう──あらゆるものの90パーセントは無駄である
・自分を重要視しすぎないようにしよう──謙虚であることの利点
◎世界を変えるという幻想を捨てよう──世界に「偉人」は存在しない理由
・自分の人生に集中しよう──誰かを「偉人」に仕立てあげるべきではない理由
◎内なる成功を目指そう──物質的な成功より内面の充実のほうが大事なわけ
◆「Think Smart」
ロルフ・ドベ(安原実津訳)Think Smart 間違った思い込みを避けて、賢く生き抜くための思考法」、サンマーク出版(2020)
https://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4763138022/opc-22/ref=nosim
・新年の抱負が達成できないわけ【先延ばし】
・「理由」がないといらいらしてしまうわけ【カチッサー効果】
◎比較しすぎると、いい決断ができなくなってしまうわけ【決断疲れ】
・「自分は大丈夫」と錯覚してしまうわけ【注意の錯覚】
・自分でつくった料理のほうがおいしく感じるわけ【NIH症候群】
・労力をかけたものが、大事に思えるわか【努力の正当化】
◎第一印象が当てにならないわけ【初頭効果と親近効果】
・ボーナスがモチベーションを低下させるわけ【モチベーションのクラウディング・アウト】
・「ありえないこと」を想像したほうがいいわけ【ブラック・スワン】
◎現状維持を選んでしまうわけ【デフォルト効果】
・ほかの人も自分と同じ考えているように思えるわけ【偽の合意効果】
・自分より優秀な人を採用したほうがいいわけ【社会的比較バイアス】
・地元のサッカーチームを応援したくなるわけ【内集団・外集団バイアス】
◎予定を詰め込みすぎてしまうわけ【計画錯誤】
・ほらで相手を納得させられるわけ【戦略的ごまかし】
◎計画を立てると心が安定するわけ【ゼイガルニク効果】
・反射的に思いついた答えは疑ったほうがいいわけ【認知反射】
・あなたが自分の感情の操り人形なわけ【感情ヒューリスティック】
・自分の考えに批判的になった方がいいわけ【内観の錯覚】
・最適なものを見逃す場合が多いわけ【選択肢の見逃し】
◎「知らずにいる」ということに対する感情が存在しないわけ【瀉血効果】
・数字は机上で改善できてしまうわけ【ウィル・ロジャース効果】
・小さな店舗が突出して見えるわけ【少数の法則】
・「スピード狂」の運転の方が安全に見えるわけ【治療意図の錯誤】
◎平均的な戦争が存在しないわけ【平均値の問題点】
・「拾ったお金」と「貯めたお金」で扱い方が変わるわけ【ハウスマネー効果】
・統計の数字よりも、小説のほうが心を動かすわけ【心の理論】
◎私たちが「新しいもの」を手に入れようとするわけ【最新性愛症】
・目立つものが重要なものだと思ってしまうわけ【突出効果】
・占いが当たっていると感じるわけ【フォアラー効果】
・満月のなかに顔が見えるわけ【クラスター錯覚】
・「期待」とは慎重に付き合ったほうがいいわけ【ローゼンタール効果】
・誰もヒトラーのセーターを着たくないわけ【伝播バイアス】
・あなたが常に正しいわけ【歴史の改ざん】
◎下手に何か言うくらいなら、何も言わないほうがいいわけ【無駄話をする傾向】
・「王者」になったほうがいいわけ【ねたみ】
・都合よく並べたてられたものには注意したほうがいいわけ【チェリー・ピッキング】
・プロパガンダが効果を発揮するわけ【スリーパー効果】
・ハンマーを手にすると、何もかもが釘に見えるわけ【職業による視点の偏り】
◎成功の決定的な要因が「運」であるわけ【スキルの錯覚】
◎知識が転用できないわか【領域依存性】
・お金を寄付したほうがいいわけ【ボランティアの浅はかな考え】
・行き当たりばったりで物事を進めたがらないわけ【曖昧さ回避】
◎敵には情報を与えたほうがいいわけ【情報バイアス】
・ニュースを読むのをやめたほうがいいわけ【ニュースの錯覚】
・危機が好機になることがめったにないわけ【起死回生の誤謬】
◎頭のスイッチを切ったほうがいいわけ【考えすぎの危険】
◎チェックリストに頼りすぎてはいけないわけ【特徴肯定性効果】
・「いけにえ探し」はやめたほうがいいわけ【単一原因の誤謬】
・「最後のチャンス」と聞くと判断が狂うわけ【後悔への恐怖】
・あなたの船を燃やしたほうがいいわけ【退路を断つことの効果】
◎学問だけで得た知識では不十分なわけ【知識のもうひとつの側面】
ボブ・バーグ、ジョン・デイビッド・マン(山内 あゆ子訳)「あたえる人があたえられる」、海と月社(2014)
お奨め度:★★★★★
ギバー(与える人)をテーマにしたビジネス小説で、2007年の刊行以来、20か国以上で出版されているベストセラー。
いわゆる成功本ではなく、自分自身や人間関係のあり方、生き方そのものを見直す機会を与えてくれる本である。
ギブ&テイクという考え方は古くからある。たまたま、この本と同時期にこれも名著の評判が高いアダム・グラントの「GIVE&TAKE」という本 も邦訳が出版された。
この本は、GIVE & TAKEの中でギバー(人に惜しみなく与える人)、テイカー(真っ先に自分の利益を優先させる人)、マッチャー(損得のバランスを考える人)のいずれが大 きな成功を納めることができるかを調査・分析をした本だ。詳しい内容はこちらの書評を読んで欲しい。
アダム グラント(楠木 建訳)「GIVE & TAKE 「与える人」こそ成功する時代」、三笠書房(2014)
ボ ブ・バーグの本の原題は「THE GO-GIVER」であり、日本語のタイトルのとおり、「与える人が与えられる」、つまり、TAKEが出てこない。GIVE&TAKEではなく、 GIVE&GIVENなのだ。
この本は、そのように関係性を捉えることよにって、相手や社会に価値を与えらることで、自らも与えられ、さらに与える喜びを感じることができる。そして、その先に成功があると述べている。
この本では、GIVE&GIVENの関係を作り出すためには5つの法則があるといっている。
第一の法則(価値の法則)
あなたの本当の価値は、どれだけ多く、受け取るものをあたえるかによって決まる
第二の法則(収入の法則)
あなたの収入は、あなたがどれだけ多くの人に、どれだけ奉仕するかによって決まる
第三の法則(影響力の法則)
あなたの影響力は、あなたがどれだけ相手の利益を優先するかによって決まる
第四の法則(本物の法則)
あなたが人に与えることのできるもっとも価値のある贈り物は、あなた自身である
第五の法則(受容の法則)
効果的に与える秘訣は、心を開いて受け取ることにある
こ の本の物語は、やり手のジョーという主人公が決算期をまじかにして大口の案件を失注し、予算達成に苦慮する。そして、人脈を求めて謎の上司に頼んでピン ダーという大物にコンタクトをとる。そこで、1週間、一つずつ法則を教えられ、実行していく。その旅の中で、一つ一つの法則の意味するところをジョーは理 解していく。
そして、予算達成はもちろん、ピンダーの秘書が出してくれた「レーチェルのコーヒー」をビジネスにし、大成功を収めるというものだ。
日本には情けは人のためならずという言葉があるが、GIVE&GIVENこそ、そのような世界観である。GIVE&TAKEのギバーと、こ の本の言っているギバーは似ているようにみえるが、回ってきたものをTAKE(GET)と考えるのか、GIVENと考えるかは大きな違いがあるように思える。
その辺を考えながら読んでみると面白いだろう。
ロバート・キーガン、リサ・ラスコウ・レイヒー(池村千秋訳)「なぜ人と組織は変われないのか――ハーバード流 自己変革の理論と実践」、英治出版(2013)
お奨め度:★★★★★
ハーバード大学で、成人学習、職業発達論を研究するロバート・キーガン教授の『Immunity to Change』の翻訳書。2009年の刊行以来、免疫システムという変わった概念による変革アプローチの本として評価されている。
変化が必要だと思っても、85%の人が行動すら起こさないとされるが、この本のアプローチによると多くの人や組織は変革できると主張している注目の一冊。変革の必要性を感じている人はぜひ、読んでみよう!
この本では、成長課題には、技術的な課題と、適応を要する課題があり、いま、直面している課題は技術的な成長(スキルアップ)だけでは対応できず、知性のレベルを向上させ、思考様式を変容させる必要があるという前提がある。
ちょっと長くなるが、重要なポイントなので知性のレベルについて説明しておく。著者がいう知性レベルには以下の3つのレベルがある。
(1)環境順応型知性
(2)自己主導型知性
(3)自己変容型知性
第 1レベルの環境順応型知性は、周囲からどのようにみられ、何を期待されるかによって自己が形成されるレベルである。第2レベルの自己主導型知性は周囲の環 境を客観的に見ることにより自分自身の価値基準を確立し、それに基づいて周りの期待について判断し、選択を行う。第3レベルの自己変容型知性では自分自身 の価値基準を客観的にみて限界を検討する。そして、一つのシステムをすべての場面に適用しようとせずに矛盾や反対を受け入れ、複数のシステムを保持しよう とする。
さて、上に述べた技術的な成長だけでは対応できない一つの例を挙げよう。自己変革を決意するには問題があり、その問題に対して改善目標を設定する。たとえば、組織としてイノベーションが求められているが、なかなか、新しい考えを受け入れらないとする。そこで、
「新しい考え方をもっと受け入れられるようになる」
という改善目標を立てたとしよう。次に、自分の現状を振返り、改善目標を阻害する行動は何かと考え、その行動を変えれば目標が達成できるのではないかと考える。そして
「新しい考え方に素っ気ない態度をとりがちだ。問答無用に却下したり、相手の発言を封じることが多い」
ことに気がついた。そこで、相手のいうことをよく聞くことを心がけようとし、コーチングのスキルアップをしようとする。
ところが、コーチングのスキルが身についてもこの問題は解決しないことが多い。その理由として、人は改善目標を持つと同時に、「裏の目標」を持つからだというのがこの本のアプローチの味噌。裏の目標とはどのようなものかというと、たとえば
「私のやり方でやりたい」
と いうようなものだ。この裏の目標がある限り、いくらスキルが身についても阻害行動が変わることはない。この裏の目標は必ずしも真正面から否定されるものだ とは限らない。ここが厄介なところだ。こういう裏の目標があるので、意思決定が早いというよい点があるかもしれないのだ。免疫というのは「変革をはばむ免 疫機能」という意味なのだ。もう少し、一般的にいえば
改善目標、阻害行動、裏の目標の間の力の均衡
が免疫システムである。
この本のアプローチは、免疫マップとしてこの3つの要素を明確にし、本質的な課題解決を図ろうとするものである。ポイントは阻害行動は裏の目標によって動機づけられている点であり、本当に阻害行動を解消しようとすると、思考様式を変え、裏の目標の消していくところにある。
さらに、裏の目標には、もっと厄介な要因が隠れており、それは固定観念である。たとえば、上の例でいえば、「私のやり方でやりたい」と思う背景には
「やり方を示さないと信頼されない」
という固定観念があるかもしれない。この本のアプローチのポイントは、この固定観念から以下に解き放たれるための方法論にある。
こ の本のアプローチは、免疫マップ以外にも、多くのツール(エキスサイズ)を紹介している。そして、変革のためのロードマップやツールの適用ガイドラインか らなるフレームワーク、および、それらを使った取り組みのケースが紹介されているので、詳しくは本を手にとってみてほしい。
この本のアプローチには
・変革を起こすためのやる気
・思考と感情の両方に働きかける
・思考と行動を同時に変える
の3つの必要な要素があるが、これらのツールを使うことで、実現できるようになっている。
ケースは適応を要する課題の代表だともいえる
・権限委譲
・感情コントロール
の2つの個人課題以外に、コミュニケーションの問題を扱ったケースが紹介されている。これは組織と個人を並行して変革する課題である。
組織組織、学習には個人の視点と組織の視点が必要である。これは、ピーター・センゲの学習する組織の5つのディシプリンからも分かるが、要するに環境が変わらなくては個人は変わられないし、個人が変われなければ組織は変わらないという相互関係があるからだ。
免疫マップのアプローチのもっとも興味深いところは、同じフレームワークで個人と組織の両方の変革を進めて行ける点にある。これは非常に有効だと思われる。よく考えられたアプローチである。
書籍としてみれば、フレームワークやケースだけでなく、組織変革、自己変革、発達心理学などの知見に富んでおり、啓蒙書と読んでも十分に面白い良書である。
伊賀 泰代「採用基準」、ダイヤモンド社(2012)
お奨め度:★★★★★
マッキンゼーで12年間採用マネジャーを務めた著者が、問題解決を行うには、地頭や論理的思考力よりリーダーシップが大切だといい、リーダーシップのあり方について論じた一冊。
マッキンゼー流のリーダーと日本企業にありがちなリーダーの比較を行い、日本のリーダーという概念の問題点を指摘している。
僕がMBAコースに入ったのは1995年だが、この時代には「リーダーシップ」って何という時代だった。ゼミの担当教授だったのは今や日本のリーダーシッ プ論のグルともいえる金井壽宏先生だったが、「リーダーシップ」はお化け概念(実態がなんだかよく分からないの意味)だとよく言われていた。
それから20年近く経つが、リーダーシップやリーダーという言葉は普通に使われているが、欧米とは少し違うイメージで使われるようになってきたようにも思える。この本は何が違うかを明確にしている。
こ の本によると、日本人はリーダーシップをネガティブに捉えているという。仕事や研修でリーダーをやってくれる人というと手は上がらない。リーダーになった からには自分の意見を言い、引っ張って行かなくてはならないと考えているから躊躇する。もっと極端にいえば、自分の意見で人を動かし、自分は手を動かさな いというイメージを持つ人すらいると指摘する。これは日本人の価値感からすると好ましいとは言えない人材像である。
著者はこの背景には、「成果を最優先しない」からだという。成果が重要であることを分かっていないわけではない。しかし、ビジネスにおいてすら、成果より重要なものがあると考えることがあり、それをリーダーになると一手に背負う必要があると考える。
マッ キンゼーが考えているリーダーシップは誰か一人のリーダーがいて、引っ張っていくというようなものではないというのがこの本のもっともこだわっているとこ ろ。つまり、チームは何よりも成果を上げることが求められる。そのためには、チームの全員がリーダーであり、局面局面でリーダーシップを発揮しなくては チームのパフォーマンスが上がらないと考える。
著者はこれをリーダーシップ・キャパシティ(総量)と呼び、成果はカリスマリーダーがいることより、リーダーシップ・キャパシティで決まると主張している。リーダーシップキャパシティを上げるためにはそのチームのメンバーのリーダー経験が問題になる。
こ の本の重要な指摘の一つは、問題解決にはリーダーシップが不可欠で、頭がいいだけではダメだと言う指摘。これは言われてみればその通りで、いくら卓越した 問題解決策を考えることができても、実行できなければ問題は解決しない。変革のビジョンを作っても実行しなければ何も変わらない。実行するにはあらゆるス テークホルダーを動かすリーダーシップが不可欠であるというもの。そのためには問題解決に巻き込んでいくリーダーシップも必要だ。
二つ目の指摘はリーダーになるということは決めるということであり、決めたくないのでリーダーになりたがらないという心理を持つという指摘。
三つ目の重要な指摘は、日本人は大きなプロジェクトをやるとか、危機時とかには強力なリーダーが必要だと考えるが、そんな虫のいい話はあり得ないという指摘。リーダーシップは日常的に発揮していてはじめて本当に成果に重要な影響があるときに発揮できる。
マッ キンゼーでは社内のチーム活動とクライアント向けのチーム活動を分けていて、社内のチーム活動がリーダーシップの育成の場になっている。元をただせばこの 議論は会社に入る前にリーダー活動をしているかという話であり、日常生活の中で意識して開発できるものだと言っている。
この本では、マッ キンゼーのチームの考え方にあまり触れないでリーダーシップの議論をしている。しかし、この議論の本質はリーダーシップの議論なのだろうか?確かに人材マ ネジメントの視点からいえば、この本に書いてあるようなリーダーシップのあり方は合理的であり、納得性もあるが、それはあくまでも組織やチームのあり方を 前提にした話だ。
ここで言っているリーダーシップのあり方は、マッキンゼー流のチーム(プロジェクト)に求められるリーダーシップのあり 方である。そこはよく考えておく必要がある。彼らのいうワーキンググループでこの本にあるようなリーダーやリーダーシップのあり方は必要ない。そして、 チームが必要か、ワーキンググループが効率的かは課題の性質による。
もちろん、今、直面している課題はチームによる解決が必要なものばかりだから、組織はこの本のようなリーダーシップを必要とするわけだが、そこを混乱しないようしなくてはならない。そのあたりをきちんと整理するには、これ もマッキンゼーのOBである瀧本哲夫さんの書いたチームの本が参考になる。
瀧本 哲史「君に友だちはいらない」、講談社(2013)
ロバート・B・チャルディーニ(岩田 佳代子訳)「影響力の正体 説得のカラクリを心理学があばく」、SBクリエイティブ(2013)
お奨め度:★★★★1/2
ロバート・B・チャルディーニがセールスマンや広告主の世界に入り込み、人がどのような心理的メカニズムで動かされるのか解明した「影響力の武器」。世界的な大ベストセラーであるが、その後、世界各地の読者から寄せられたレポートを追加した、第2版、六つの原理を実社会で活用した50余りの事例をユーモアを交えて描き、人や組織から同意と承諾を得る方法を、社会の場面にあわせて個別具体的に解説した実践編、そして、理論を実証した本書に行きつく。
この本では、多くの影響力は恩義、整合性、社会的な証拠、好意、権威、希少性の6つのルールが支配しており、いずれのカテゴリーも基本的な心理学のルール にのっとっていて、そのルールが絶大な力で人を簡単に説得する。この6つのルールを1章に一つずつ取り上げ、人が“承諾”する心理を解き明かし、その活用法を解説している。
恩義(返報性)という概念は「お返し」をせねばならないという意識から承諾してしまう性質を指し、拒否したあとには譲歩するというドア・イン・ザ・フェイス・テクニックにも代表される。
整合性(一貫性)という概念は自分の言葉、信念、態度、行為を一貫したものにしようとする性質で、承諾の決定に対して一貫性への圧力が過度に影響することを明らかにする。
社会的な証拠(社会的証明)という概念は不確かさと類似性の二つの状況において最も強く働くもので、状況があいまいな時人は他の人々の行動に注意を向けそれを正しいものとして受け入れようとする性質と、人は自分と似た他者のリードに従う性質を持つということである。
好意では人は自身が好意を感じている知人に対してイエスという傾向があることを示し、身体的魅力がハロー効果を生じさせるため魅力的な人の方が影響力が強いことを述べる。
権威では権威からの要求に服従させるような強い圧力が社会に存在することを示している。
希少性では、人は機会を失いかけるとその機会をより価値あるものとみなすことを示し、希少性の原理が商品の価値の問題だけではなく、情報の評価のされ方にも適用できることを示している。
こ の本は影響力の武器と異なることが書かれているわけではないが、影響力の武器より読みやすい。ただ、6つのルールの訳語を微妙に変えているし、説明の表現 も変わっている。とりあえず、上に6つのルールだけは対応する言葉を書いておいたので、この本を読まれることがあれば、参考にしてほしい。